気付いたときには牢屋の中②~偽りの罪~(完) 作:無名 自分が、知らない間に大量の罪を犯していたー。 そんなことを知らされた彼女は、 只々、戸惑うことしかできずにいたー…。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ”ーあははははははっ!あはははははっ!” 男性刑務官から見せられた ”瑠奈が逮捕されて連行されるときの映像”を 思い出す瑠奈ー。 「ーーどうして…」 瑠奈は牢屋の中で頭を抱えるー。 今が、2029年だというのも、どうやら本当のようだー。 けれど、瑠奈自身からしてみれば、今は2024年ー。 この牢屋で目を覚ます前、瑠奈は確かに 自宅にいたし、確かに2024年だったはずー。 「5年も記憶が飛んでる…どうして?」 瑠奈は、自問自答を繰り返すー。 しかし、その答えは見つからないー。 当時のニュースの映像だとして見せられた ”瑠奈”の映像は、恐ろしいものだったー。 確かに”わたし”の姿だったし、確かに”わたし”の声ではあったー。 けれど、その振る舞いは異様な振る舞いで、 瑠奈自身、絶対にするような振る舞いではなかったー。 「ーーー…記憶喪失のフリをして、助かろうって言う魂胆か?」 ふと、そんな声がして瑠奈が顔を上げると、 男性刑務官の姿があったー。 「ーー…ち、違います…!わ、わたしは本当にー」 瑠奈のその言葉に、表情を歪める男性刑務官ー。 「ーー……ついこの間まで、反抗的な態度を取り続けていたお前が、 今更そんな猿芝居をしても意味はないぞ? 大方、記憶喪失のフリでもして 死刑を免れようとしているのだろうがー。 ククー…夜月 瑠奈ー。 死刑の時が近づいてくることに、おじけづいたのか?」 男性刑務官はそう言うと、 瑠奈は「わたしは…絶対にあんなことしてないです!」と、声を上げるー。 「ーそう言い切れるのか? 自分でそう思い込んでいるだけじゃないのか?」 男性刑務官はそう言い放つと、 瑠奈は困惑の表情を浮かべるー。 そこまで強い口調で言われると自信がなくなるー。 ”わたしは、本当に罪を犯して、死刑が近付くにつれて怖くなって、 記憶喪失になったと自分で思い込んでいるだけなんじゃー?”と、 そんなことまで思い始めてしまうー。 「ーーーお前のこれまでの振る舞いをよ~く、思い出させてやる」 男性刑務官はそう言うと、 瑠奈を特別な部屋へと移動し、再び”映像”を見せ付けて来たー。 パソコン上で再生され始めたのは 取り調べ中と思われる映像ー。 警察官の前で足を組んで、態度の悪い感じの瑠奈が笑うー。 ”ーわたしは、死刑もぜ~んぜん怖くないからー むしろ、やれるもんならやってみろって感じー” 瑠奈が挑発的な笑みを浮かべながら言うー。 ”お前…!なんだその態度は!” 取り調べ中の警察官が怒りを露わにするー。 しかし、映像の中の瑠奈はその警察官に唾を吐き捨てると、 警察官が感情的になって瑠奈の腕を掴むー ”ー女に乱暴なことするの?ふふー” 瑠奈が挑発的に笑うー。 自分が女であることを悪用して、警察を挑発しているー。 そんな映像を見て、”今の瑠奈”は、 震えながら「こんなの、わたしじゃないですー」と、涙を浮かべるー。 「ーーお前だよー。お前じゃなきゃ誰だって言うんだ? 双子か?それともドッペルゲンガーか?」 男性刑務官がうんざりした様子でそう言葉を口にするー。 「ーーー………ーーー」 瑠奈は、答えられないー。 一体、どうしてこいんなことにー。 そう思っていると、さらに男性刑務官は録画された映像を 再生して、それを瑠奈に見せつけたー。 ”ーー瑠奈、どうしちゃったの?何でこんなこと!” 涙目で瑠奈にそう話しかける子はー、 瑠奈の高校時代からの親友・明美(あけみ)ー。 どうやら、逮捕された瑠奈の面会に来ているようだー。 しかし、瑠奈は悪態をつきながら笑うー。 ”だって、楽しいんだもんー。 俊一を殺した時のあの驚いた顔ー ふふふふー ホント、最高だったー” 映像の中の瑠奈は、親友の明美に対して 自分の彼氏の命を奪った時のことを 心底楽しそうに語るー。 ”ーー瑠奈…!何でそんなこと言うの!?ねぇっ!” 明美が怒りの形相で瑠奈にそう言い放つー。 しかし、瑠奈は笑いながら ”あんたのことも、殺せばよかったなぁ~”と、 ニヤニヤしながら呟くー。 その映像を見ながら「ひどいー…」と、 瑠奈は”自分のこと”を、そう呟くー。 「ーー…」 男性刑務官は、瑠奈の方を見つめながら 表情を歪めると、 「まだあるぞ」と、そう呟きながら、 今度は裁判中と思われる映像を見せ付けたー どうやら、瑠奈の裁判の判決が出るときの映像のようだー。 主文が後回しにされー、 裁判長からの話のあと、瑠奈に死刑判決が下るー。 瑠奈は”テメェ!絶対ぶっ殺したやるからな!”などと、 裁判長に向かって暴言を吐き、そのまま引きずられていくー。 そんな状況でも、瑠奈は笑いながらー、 まさに”何の反省もしてません”という態度を 溢れさせていたー。 「ーーー…これで分かっただろう? お前は、世間を騒がせた大悪党ー」 男性刑務官は、そう言いながら 週刊誌を開くと、それを瑠奈に見せつけたー。 ”極悪非道の悪女・夜月 瑠奈ー”と、書かれた 瑠奈の記事が載っているー。 「ーーわたし…わたし、本当にー…何もー」 瑠奈は泣きながらそう言うと、 男性刑務官は、顔を覆うように泣き崩れた瑠奈を見てー、 少しだけ笑みを浮かべたー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 瑠奈は、精神的にすっかりと参ってしまい、 刑務所での日々を、無気力のまま過ごしていたー。 5年も経過しー、 彼氏も、両親も既にこの世にいないー。 しかも、自分は極悪非道の凶悪犯になっていて、 既に死刑判決も受けているー。 瑠奈からすれば、”憑依”されていたなどということは 夢にも思わずー、 ”何でこうなったのか”も、全く分からない状態ー。 ”意味不明”とも言うべき、この状況に どうすることもできず、只々絶望していたー。 だがーーー ある日のことだったー。 「ーー釈放だー」 男性刑務官は、そんな言葉を口にしたー。 「ーーし、釈放ー…?」 瑠奈が表情を歪めるー。 「ーあぁ、そうだー。釈放だ」 男性刑務官が、そう言葉を言い放つと、 瑠奈は「い、いったい…ど、どういうことですかー?」と、 戸惑いながら言葉を口にするー。 「わ、わたしの疑いが晴れたってことですか?」 絶望から希望ー そんな表情を浮かべながら、瑠奈がそう言うと、 男性刑務官は少しだけ笑みを浮かべたー。 「ーー”憑依”って知ってるかー?」 その言葉に、瑠奈は「ひ…憑依……ですか?」と、 表情を曇らせるー。 「あぁ、例えば幽霊とかが、他人の身体に入り込んで、 その身体を乗っ取ったりするやつだー」 男性刑務官の言葉に、瑠奈は 「そ…それは…言葉は知ってますけどー」と、戸惑いながら言うと、 男性刑務官は、不気味な笑みを浮かべたー。 「ーーお前は”憑依”されていたー。 5年間、ずっとー。 身体を乗っ取られて、自分の意識とは関係なく、 凶悪犯罪に手を染めさせられていたー」 男性刑務官の言葉に、 瑠奈は「え……」と、戸惑うー。 だがー、 5年も記憶が飛んでいて、勝手に”知らない自分”が 悪さを繰り返していた…という状況の説明は”憑依”ならつくー。 瑠奈は戸惑いながら 「…ひ、憑依なんて現実にー…?」と、そう言葉を口にするー。 「ーーあぁ、あるんだー。 だから、お前は釈放されることになったー。 ”憑依されて”凶悪犯罪者に仕立て上げられてしまった 哀れな被害者ー それが、お前だー」 男性刑務官はそれだけ言うと、 瑠奈は落ち込んだ表情を浮かべたまま 「ーーで…でも、それだとー…”わたしがやった”ってことですよねー?」 と、悲しそうに呟くー。 例え、身体を乗っ取られていたのだとしても、 ”自分の身体”が罪を犯したことには変わりはないー。 瑠奈は自分の手を見つめながら ”この手で”彼氏や親の命を奪ってしまったことを改めて 突きつけられて、涙を流すー。 「ーーーー…どうすることもできないことだー あまり気にするなー」 男性刑務官はそう言葉を口にすると、 瑠奈は「でもーー…」と悲しそうに呟くー。 「ーー…少なくとも、お前の罪は晴れたー。 もう、ここにいる必要はないし、 死刑になる心配もないー。 まだ、お前は若いー 生きていればここから先、色々なことがあるだろうー。 死んでいった大事な人のためにも、 しっかり生きろ」 男性刑務官のその言葉に、 瑠奈は涙を流しながら頷くと、 「ーーそれで……その…わたしに憑依していたっていうのはー 誰なんですか?」と、 そう言葉を口にするー。 男性刑務官は、 「ー既にそいつはこの刑務所にいるー。 だからこそ、お前の疑いは晴れたんだー」 と、それだけ言葉を口にすると、 瑠奈は不安そうな表情を浮かべながらも、 静かに頷くー。 「ーーー夜月 瑠奈ー。 きつく当たって、すまなかったー。 これからの人生、強く生きるんだぞ」 男性刑務官の言葉に、 瑠奈は戸惑いつつも、頷くー。 一体、わたしはこの先どうすればー? そんな、漠然とした不安を抱きながらも、 前に進むしかないー。 瑠奈は、違和感を感じながらも 刑務所内で手続きを終えて、そのまま外へと歩み出したー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ”「ー既にそいつはこの刑務所にいるー。 だからこそ、お前の疑いは晴れたんだー」” 男性刑務官は、その言葉を思い出しながら笑うー。 「ーー”そいつ”とは”俺”だけどなー」 既に”刑務所にいる” そうー、刑務官としてー。 瑠奈の疑いが急に晴れたのは、 ”憑依”のことが分かったからではないー。 男性刑務官が、”関係者”に次々と憑依し、 思考を塗り替える行為も行いながら、 瑠奈を”強引に無罪”にしたのだー。 憑依は、乗っ取った相手の思考を塗り替えることもできるー。 それを利用すれば、瑠奈の罪を無くすことも可能なのだー。 だが、しかしーーー 世間では”あの死刑囚が突然釈放されることになった” と、既に大騒ぎになっているー。 「ーくくくくくくー」 男性刑務官は、笑うー。 彼は、”瑠奈”に憑依ー、他人の身体で好き放題暴れて、 凶悪犯罪者に仕立て上げたー。 ”そんなことしそうにない可愛い子”に憑依して、 世間を騒がせることで、この上ない快感を味わったー。 そして、 逮捕後も、判決が確定するまで不敵な態度を繰り返しー、 死刑判決が下ったらその身体を解放ー、 今度は、正気を取り戻す瑠奈を ”間近”で見て、興奮していたー。 そして、それだけではないー。 さらに”次”のステップー。 死刑判決を受けて戸惑う瑠奈を十分に観察し、楽しんだあとは ”あえて”釈放されるように仕組みー、 ”生き地獄”を味合わせることを目論んでいたー。 釈放された瑠奈に希望の未来などないー。 世間では、瑠奈は極悪非道の犯罪者ー。 世間にでれば、恐ろしいほどに叩かれー、 最悪の場合、”憑依された瑠奈”が引き起こした事件の 被害者遺族から復讐されるかもしれないー。 そんな、瑠奈の様子を見て、これからもたっぷり楽しむつもりだー。 「ーークククーーー ”この身体”はもう必要ないなー」 男性刑務官は笑みを浮かべると、突然意識を失い、その場に倒れ込むー。 男性刑務官もまた”男”に憑依されていた身体に過ぎないー。 瑠奈から男が抜け出した時に、”瑠奈の様子を間近で観察するため” 男が憑依したのだー。 「ーー次は、あの女の親友に憑依して、 あの女を追いつめるかー」 男は、瑠奈に恨みはないー。 面識もないー。 だが、キラキラしている女子大生を徹底的に踏みにじって見たかったー。 ただ、それだけー。 恐ろしく自分勝手な理由で、瑠奈の人生は壊されたー。 そしてーーー 「ーーーククー こいつもいい身体だぜ」 瑠奈の親友・明美に憑依した男は、明美の身体で 釈放された瑠奈に電話をかけたー 「ーねぇ、瑠奈ー どのツラ下げて、出て来たの?」 冷たい口調で囁く明美ー。 ”ーーーあ…明美ーー…き、聞いてー…わたしーー” 戸惑う瑠奈の声が聞こえるー。 もっと、もっと、もっとー 地獄の果てまで楽しませてもらうー。 明美は、瑠奈の困った声に興奮した様子で 笑みを浮かべると、 電話の向こうの瑠奈に向かって冷たい口調で言い放ったー 「この、人殺しー」 とー。 おわり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ とっても悪趣味な憑依人に 憑依されてしまって、こんなことになってしまう お話でした~…★! 外に出ることができたとは言え、 この先もとっても大変なことになりそうですネ~…! 想像しただけで、恐ろしいデス…! 今年も(きっと)解体新書様では、 あと1回の掲載になると思うので、 次が今年最後の作品ですネ~! どの作品を皆様にお届けするのか、 今からのんびり考えながら、 過ごします~!☆ この先はもっと寒くなってくると思うので、 皆様も体調を崩さないように気を付けて下さいネ~! お読み下さりありがとうございました~~! |