強くてニューゲーム~エンディング~
 作:無名


”2周目の人生”
40代後半の男は、1歳の明日香に憑依して
2周目の人生を送った。

”強くてニューゲーム”状態の明日香は、
天才少女としてもてはやされたー。

しかしー…

”強くてニューゲーム”の後日談デス!

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”人生2周目が出来たらいいのに”

そんな風に考えていた40代後半男性・勝夫ー。

ある日、彼は”闇・net”と呼ばれる謎のサイトとの出会いをきっかけに、
1歳の平本 明日香という子に憑依したー。

自分の身体を捨てて、2周目の人生を開始することに成功した
勝夫はー、

”天才少女・明日香”として、
周囲からチヤホヤされる夢のような日々を送ったー。

美男美女の娘に憑依したことで、
美少女としてー
見た目も、何もかもを手に入れた勝夫ー。

しかしー
彼には誤算があったー。

自分は、あくまでも”レベルの高い状態”から人生をやり直したに過ぎないー

自分を高めることを全くしなかった明日香は、
中学生になり、早くも周囲に学力が追い付かれてしまい、
天才少女から転落、次第に成績不振に陥るー。

やがてー
明日香は、路を踏み外し、自分の”女としての美貌”を武器に
欲望の日々を送り始めるー。

しかしー、
そんな”美貌”も、不規則な生活からー
失われて、明日香は全てを失ったー

”強くてニューゲーム”の状態で2度目の人生をはじめてもー
例え”レベル40”からはじめたとしてもー
自分が努力をしなければ、自分のレベルは40のままー
あがっても、41や、42になるだけだー。

だから、最初は明日香になった勝夫だけがレベル40で周囲が5だったとしてもー
周囲はみるみるレベルがあがりー
やがて、明日香は置き去りにされてしまったー…

勝夫に、待ち受けていたのは、そんな結末だったー。

そしてー…
気付けば、明日香の両親は既に亡くなり、
勝夫は、”アパート暮らしのフリーター女性”になっていたー。

肥満体形で、美貌も見る影もなくなりー、
”天才少女”と呼ばれた明日香はもういないー

結局ー
彼は”前と同じ人生”を歩むことになってしまっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・

明日香は、フリーターとしてコンビニで働き、
帰宅してはネットを見つめながら、
だらだらと過ごす堕落した日々を送っていたー

”天才少女”と呼ばれたあの日はー
もう、遠い過去ー

「ーーーーーー」
コンビニで購入した缶ビールを飲みながら、
賞味期限が近づいていたハンバーグ弁当を口に運び、
ネットを見つめる明日香ー。

「ーーは~~~こういうやつうぜぇ」
明日香はいつしか、幸せそうな人を、
無条件で憎むようになっていたー。

ーと、言っても何か行動を実行に移すわけではなかったが、
連日、他人が幸せそうな様子をネットなどで見つめては
不満を口にしていたー。

ツイッターを開き、他人に文句ばかりを言う明日香ー。

精神的に余裕もなく、
体重はさらに増えて、
完全な肥満体形になってしまった明日香はー
やがて、コンビニのバイト中に
客のおじさんと喧嘩をしてしまいー、
そのままバイトをクビになってしまったー。

「ーーくそっ!!!くそっ!!!くそ!!!!
 なんでいつもいつも上手く行かないんだ!」
明日香は、家の中で暴れまわるー。

鬼のような形相で、怒りの言葉を口にする明日香ー。

「ーこの女がいけないんだ!
 こいつが、こいつが、いけないんだ!」
明日香は、自分の”身体”に向かって文句を口にし始めるー。

美男美女の両親の間に生まれながら
こんなに醜い姿になってー
勉強も中学時代からロクにできなくなったー

そうだー
全ては”こいつ”のせいなんだー。

明日香に憑依している勝夫はそう思ったー

「ーとんだハズレを引いたってことだな!
 このハズレ女が!」

1歳の明日香の身体も、人生も奪っておきながら、
あり得ない言い草で、
責任を明日香に押し付ける勝夫ー。

やがて、金銭的にも追い詰められた明日香はー、
スーパーで刺身とビールを万引きしてー
そのまま、逮捕されたー。

「ーーーー…」
警察に問い詰められる中、明日香は
不貞腐れた態度で「黙秘します」を繰り返すー。

激しい怒りを感じるー
何に怒っているのかも、自分で分からないままー。

明日香はついに、逮捕・連行されてー
かつての天才少女は、万引きで逮捕された犯罪者に成り下がったー。

明日香は刑務所内でも不貞腐れた態度を続けてー
自暴自棄な態度を過ごすー。

やがて、釈放された明日香は、もう引き返せぬところまで
やってきていたー。

”強くてニューゲーム”だったはずの人生は、
どうして、こんなことになってしまったのだろうー。

そう、思いながらー。

人生のどん底ー。
明日香は、身も心も醜くなった状態でー
堕落的な生活を続けていたー

そしてー
コンビニでビールを買って、それを飲みながら裏路地に
座り込んでいた明日香の前にーーー

「ーーお前…」
明日香は表情を歪めたー

「ーーお久しぶりです」
そこにいたのはー
”闇・net”の男ー
勝夫に、”明日香への憑依”を案内した
中性的な容姿の美男子だー。

既に”何十年も前”の話だが、
美男子は、あの時と何も変わらない容姿だったー。

「どうやら”強くてニューゲーム”にも失敗したようですねー」

雨の降る中ー
傘を差した男は、そう呟いたー

「ーーこ、この女がクソだっただけだ!
 3周目…!!3周目はできないのか!?」
明日香が叫ぶと、
男は「できますよ」と答えるー

「ーつ、次はもっと、もっと金持ちの娘がいいー!
 こいつみたいな、顔だけの女はダメだ!」

明日香は自分を指さしながら言うと、
男は少しだけ笑ったー

「ーあなたは、何度繰り返しても、同じことになると思いますが?」
とー。

「ーふざけるな!俺は、俺は次は失敗しない!」
明日香がそう叫ぶと、男は少し考えてから
「ま…いいでしょう」と頷くー。

ずぶ濡れの明日香をつれて、男は”闇・net”の事務所にやってくるとー
再び”明日香に憑依した勝夫”に特殊な手術を行おうとするー

「この女は、どうなる?」
明日香が言うと、
「1歳の時点で憑依されて、何十年も支配されていた以上ー
 もう、自我は消えている可能性が高いですねー。
 あるいはー…良くて廃人です」
と、男は答えるー。

「ーー…お、、俺が次の身体に憑依したら、この子をどうする気なんだ?」
明日香が言うと、
「ー人の人生を奪ったあなたが、心配することではないはずですが」
と、男は答えるー

明日香は「まぁ…そうだな」と、呟きながらー

”3回目の人生”をスタートさせるのだったー。

今度は同じ失敗をしないー。
そう、思いながら”金持ちの0歳の娘に憑依”したー。

”天才令嬢”として、もてはやされる日々ー。

だがーーー
結果は、変わらなかったー。

中学頃から勉強が追い付かなくなりー
転落していくー。
美貌も、不規則な生活で失われていくー。

勝夫自身が”勉強”して、中学以上の学力を身に着けようとしない限り、
何度繰り返そうと、
小学校時代だけ”周囲より優秀”を繰り返す、だけー。

勝夫は、4回目ー
5回目ー
6回目ー
7回目ー
と、何度も何度も”ニューゲーム”を繰り返したー。

だがー
”何回繰り返しても”
結果は同じだったー。

生まれた直後はー
”天才少女”としてもてはやされてー、
小学校では、”天才”として、チヤホヤされながら
生活を送るー。

だがー
決まって中学ぐらいから成績が落ち始めて、
やがて、堕落した生活を送るようになり、
最後にはいつも”元々の勝夫のような生活”になってしまっているー。

”8回目”の現在もそうー。

「ーーーー…ふざけんな…ふざけんな!」
アパートで悪臭を放ちながら、歯ぎしりをしている女ー

勝夫の”8回目の人生”の身体だー。

彼女も、小さいころは”天才少女”だったー。

だがー
何度繰り返しても、結果は同じなのだー

勝夫自身が、”自分を変える”ことをしないからー
何度何度繰り返しても、結局は同じになるー

勝夫自身の学力が”中学1年生レベル”である以上ー、
”最初から中1レベル”でスタートすれば、
幼少期、そして小学生時代は、誰だって”天才”になれるのだー。

しかしー
中学に入れば”周囲と同じレベル”になり、
勝夫は、自分自身を変えるつもりも、
真剣に勉強するつもりもないためー
”中1レベル”のまま、置き去りにされるー。

そしてー
7回も同じ失敗を繰り返したのにも関わらず、
勝夫は、”自分の身体を維持する努力”もしないためにー
太り、容姿は醜くなってしまうー

”美人は、何の努力もせずとも美人”
そんな、勝夫の考え方が変わらない限りー
勝夫は、何度繰り返しても、同じことを繰り返すだけー。

「ーーーーー」
家賃が払えず、家も追い出された女は、ゴミ置き場で
ビールを飲みながら、眠っていたー。

「ーーーーーー……おや」
”闇・net”の美男子が姿を現すー

「ーーー…あんたは、何者なんだー?」
勝夫が憑依している女は呟くー。

毎回、勝夫は、何だかんだで20~40代ぐらいまでは
その身体で生きているー。

既に8回目の人生ー
100年以上は経過しているのにー
この男は、全く以前と変わらないー

「ーーーそんなことは、あなたが知る必要はありません」
闇・netの男はそう呟くと、言葉を続けたー

”どうしますか?”
とー。

”9回目の人生”…
”強くてニューゲーム”をするかどうか、勝夫に提案してきているのだー。

「ーーーーー…何が、目的だー?」
女は呟くー。

「ーー俺に…こんなことさせて、お前にー…お前たちに、
 何か、メリットはあるのかー?」

勝夫の言葉に、
“闇・net”の男は静かに微笑んだー。

「ーーーーええ もちろん」
とー。

「ーーーーーー」
肥満体形になった自分の身体を見つめながら、
勝夫は呟くー。

「ーー…俺は、何で、何度繰り返してもー
 こうなるー?」

女の声で、そう呟く勝夫に向かって、
”闇・net”の男は静かに答えたー

「ーあなた自身が、変わろうとしないからですー。
 あなたはこれまで、1度でも”綺麗でいるための努力”を
 しましたか?
 あなたはこれまで、1度でも”ちゃんと勉強”を
 しましたか?

 いいやー
 していないはずですー。
 その結果が、コレなのですよ。

 断言しましょうー。
 10回、100回、1000回と繰り返そうとー
 あなたは同じ結果になる、とー」

その言葉を聞いて、
ボロボロの女の身体で、勝夫は呟いたー。

「ーーーーーーーーーつれぇな…」

目を手で覆いながら涙を流す女ー。

「ーーどうしますか?」
”闇・net”の男はそう呟くー。
今までと、同じようにー。

ここで「もう一度ニューゲームだ!」と叫べばー
勝夫はまた、”誰かの身体”を奪うことができるー。

明日香から始まりー
今の、この身体までー
勝夫は、様々な人間の身体を奪い、
そして、人生を送ってきたー。

だがー
これまでに勝夫が奪った7人の身体ー

そして、”自分の娘が奪われた”とも知らずに
騙されたそれぞれの両親たちー

多くの人間の人生を壊し、狂わせてきたー

勝夫は、ようやくそのことに気付いたー。
そして、自分の醜さに気付いたー。

4回目ー
ぐらいまでだろうかー。
そのぐらいまでは”この女が使えねぇからだ”などと、
乗っ取った身体のせいにしていたー

でもー
これだけ何度も繰り返せば、さすがに気づくー

”これが、俺の限界なんだー”
とー。

「ーーーーーー…もうさー」
女は呟くー。

「ーーー」
”闇・net”の美男子は、無言で女に憑依している勝夫を見つめるー

「ーーーもう…周回プレイ、終わりにしていいかー?
 そろそろ俺も”エンディング”見たくなったー…
 もう、疲れたー」

女がそう呟くと、
闇・netの男は、静かに頷き「今までお疲れ様でしたー」と呟くー。

そして、
そのままー
男は闇の中へと姿を消したー

虚ろな目で、座り込んだままの女は、空を見上げるー。

「ーーーーーーもう…疲れたー」
こんなことの繰り返しにー
男は、もう、疲れていたー

”ゲームの周回プレイ”もいつかは、飽きるー。
いつかは、終わりが来るー

勝夫の”人生周回”も、もう、終わりだー。

よろよろと立ち上がる女ー

「ーーこれが、俺にふさわしい人生ってーーことだよなー」
そう呟くと、勝夫は”これで、最後にしようー”と、
そう呟きながらー
今回の人生を、最後まであがいてーー…
”終わり”にすることを決意するのだったー。

”こんな生活でもー
 もしかしたら、何か楽しいことぐらいはー
 あるかもしれないからなー”

自虐的にそう呟くと、缶ビールを手に、
女の身体で、勝夫は自分の運命を悟ったかのような、自虐的な笑みを浮かべたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日談でした~!☆
結局、何度繰り返しても同じ結果に…!

今回、解体新書様に掲載されるにあたって
私も読み返して見ましたが、
この主人公の彼は、ラストで
”努力しないから”と言われたのに、
”じゃあ次は努力してやる!”じゃなくて
”もう疲れた”になっちゃってるので、
やっぱり、ダメダメなのデス…笑

この物語の主人公とは違って、
開き直って若いうちだけ楽しんだり、
努力して人生を変えようとしたり、
上手く”強くてニューゲーム”できる人なら、
とっても素敵な人生を楽しめそうデス…!

私も(あと何十年かしたら)
また若いところからスタートしたいと思っちゃったり…★笑

後日談も含めて長くなりましたが、
ここまでお読み下さりありがとうございました~!

あ…!
いつも夏に言う大事なことを言っていませんでした!

あつあつあつ…
(暑さが苦手な私には辛い季節デス…笑)

皆様も、熱中症に気を付けて下さいネ~