過去のお前に憑依する~改変ノ後~
 作:無名

ある日、現れた”元カレ”は
彼女に対する一方的な恨みから
”過去の彼女”に憑依して、
彼女の人生を次々と”改変する”と言う凶行に走ったー。

これは、その”改変後”の物語ー…

※過去のお前に憑依する の後日談デス!
先に本編を読んでくださいネ~!

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高校時代の同級生・駿介(しゅんすけ)と
大学での交際を経て、結婚、
娘の円香(まどか)と共に幸せに暮らしていた琴美(ことみ)ー

しかし、そんな琴美の前に幼馴染の小野寺 秀雄(おのでら ひでお)が
ある日突然姿を現したー

秀雄は駿介と付き合い始める前に付き合っていた”幼馴染”

だが、思い通りにならないとすぐに切れる性格の秀雄は、
琴美のことを束縛し始めて
琴美から別れを切り出し、短期間のうちに別れることになったー。

その後、琴美は駿介と付き合い始めて、今に至るー。

がー、秀雄はずっとずっと、琴美を恨み続けて来たー。

久しぶりに琴美の前に姿を現した秀雄は
過去に戻るための水晶玉と憑依薬を使いー
”過去の琴美に憑依”
歴史を改変するという暴挙に出たー

存在したはずの娘の円香がいつの間にかいなくなりー

いつの間にか駿介と結婚していないことになり、
琴美はキャリアウーマンとして仕事に熱中していることになりー

さらには実家暮らしー
夜の仕事ー、と、どんどんその歴史は買えられていくー。

過去の自分が憑依されて歴史が改変されているなどと
知る由もない琴美は、
徐々にネガティブな雰囲気も見られるようになっていき、
秀雄は、そんな琴美の変貌ぶりを見て、悦に浸ったー。

最後には”自分が琴美の夫になる”ように過去を改変ー
勝ち誇った表情でそれを宣言したものの、
それが全ての失敗だったー

琴美に水晶玉と憑依薬を奪われてしまいー
”過去の秀雄”が殺されてしまったのだー。

秀雄は一瞬にして消滅しー、
歴史は再び”改変”されたー。

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「ーーーおかえり」
夫の京太郎(きょうたろう)が微笑むー

「お母さん、おかえり~!」
娘の紗友里(さゆり)も、
今では小学生になり、幸せな時が流れているー。

「ーただいま」
にっこりと微笑む琴美ー。

”秀雄”は高校時代に死んだことになり、
琴美は、”幼馴染の秀雄によって過去の自分が憑依されて
散々な目に遭った”ということも既に認知しておらずー
”幼馴染の秀雄は、高校時代に何者かに殺された”という
”今の歴史上のこと”しか認識できていない。

何不自由のない幸せな生活ー。

けれどー
時々”何か”を思い出しそうになることがあるー。

とっても大切な”何か”をー、
秀雄に奪われてしまった”異なる未来”をー。

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ある日ー
高校時代の同窓会が行われたー。

当初、琴美は
娘の紗友里もいるし、”今回は欠席”と、考えていたところ、
夫の京太郎が、
”せっかくだし、行って来なよ”と、言ってくれたため、
琴美は一人、同窓会の会場に向かったー

久しぶりに高校時代の友達と再会し、
会話を交わすー。

仲良しだった女子たちと、近況を報告し合って
楽しそうに話をする琴美ー。

そんな琴美の視界に、ふとある”同級生”の姿が目に入ったー。

それがー
”駿介”だったー。

駿介は元々ー…
元カレである秀雄が”何も過去をいじらなかった”場合は、
琴美と結婚していた相手だー。

琴美はその駿介との間に、円香という娘がいた。

しかし、秀雄が”過去の琴美に憑依を繰り返した”ことで、
その運命は変わりー、
秀雄が過去の琴美に憑依して、琴美の人生を狂わせるという
暴挙を止めるため、琴美が過去に戻り、秀雄を殺したー。

その結果、歴史に矛盾点が生まれ、
タイムパラドックスが発生ー、
結果的に歴史の修正能力により、
”秀雄は高校時代に何者かに殺され、琴美は時間移動に関わらずに生きる”
と、いう歴史の流れに修正されたー。

”最初の時の流れ”と違うのは
”秀雄が高校時代に何者かに刺殺されて死んだこと”
ぐらいに、最終的には落ち着いた。

それは一見、琴美と駿介の”結婚”には直接的には影響のない変化に思えたー。

だがー、
”秀雄の死”という変化が
結果的には琴美と駿介が結ばれる未来も変えてしまいー、
琴美と駿介は結婚することなく、円香も生まれなかったー。

代わりに琴美は京太郎と結婚し、紗友里という娘が生まれているー。

”秀雄の死”で修正された歴史では、
琴美はもう”かつて自分には別の家族がいたこと”も、
”元カレの秀雄がタイムスリップで自分の人生を狂わせようとしたこと”も
思い出すことはできないー。

がー…
何度も何度も、秀雄に強引に過去を変えられたからだろうかー。

”時折”言葉に言い表すことのできない違和感を感じることもあったー。

「ーーー何だよ~!金貸してくれたっていいだろ~?」
”元々は夫だった”駿介が他の同級生に絡んでいるー。

その容姿は、小汚い感じでー
”琴美と結婚していた場合の駿介”とはまるで別人だー。

”琴美と結婚しなかった”歴史の駿介は、
大学卒業後に、友人と飲食店を始めようと意気投合、
必死に勉強して、開業したー。

努力家で、気配りもできる駿介らしい”別の未来”と言えるー。

だがー、駿介はその友人に裏切られて、
店も財産も奪われ、しかもそのことを知った母親が
ショックから病に倒れて、数年前に死亡ー、
その結果、駿介は人間不信に陥り、自暴自棄になってしまったー

挙句の果てにギャンブルに溺れて、借金まみれー
それが、今の駿介だー。

”歴史”がほんの少し変わってしまうだけでもー、
”幸せになる人間”もいれば”転落する人間”もいるー。

「ーーー」
琴美はそんな駿介を見てー
”本当は駿介が夫だった”などということはもう、覚えていないけれどー
何故か妙に悲しい気持ちになったー。

”琴美と付き合っていた”ほうの歴史では、
駿介は”琴美のために安定した仕事を”と、考え
開業など夢にも考えていなかったし、実際にそうはしなかったー。

だが、今の”琴美と付き合っていない”歴史では、
”支えるべき人”がいなかったため、開業という選択をし、
その結果、友人に裏切られて転落してしまったー。

「ーーーねぇ…」
琴美は、友達との会話を中断して、駿介に近付くー

「ーーー…な、なんだよ?」
戸惑いながら琴美のほうを見つめる駿介ー。

”今の歴史”では、駿介と琴美は特別な関係ではなかった
”元同級生”でしかないー。

元々、駿介と琴美が親しくなった”きっかけ”が
元カレ・秀雄の件で悩んでいた琴美に声をかけたことだったー。

そのため、秀雄が死んだ”今の歴史”では、
それが無くなり、琴美と結ばれることはなくなったのだー。

”前とはまるで違うー”
もちろん、そんなこと知る由もない琴美ー
けれど、何故か今の”堕落した駿介”を見て
琴美は強く心を痛めていたー。

「ーーー…そんな風にならないでー」
琴美が悲しそうに言うー。

何故、そんなことを言うのか、自分でも分からないー

「ーお、お前に何が分かるんだよ」
駿介が不満そうに言うー。

けれどー
琴美はそれに答えず、涙を流しながら
駿介の手を握りしめたー

「ーーーーあなたが辛そうにしてるのを見るとー
何でか分からないけど、わたしも辛いのー」
とー。

「ーーーーー……」
駿介が少し驚いた表情で琴美のほうを見つめながらー
やがて、口を開くー

「ーわ、分かったよー。そ、そんな泣くなよー
な、なんで俺なんかのためにー…泣いてるんだよ?」

駿介がそれだけ言うと、
琴美は、”自分でもよく分からない”と、思いながらもー
「同級生が辛そうにしているのを見るのが、辛いー…
…それだけじゃ、ダメ?」
と、悲しそうに呟いたー

駿介は間を置いてからー
「ーーーーー…俺なりにやれることはやってみるよ。
だからーもう、泣くなってー
みんなが見てるだろ!」と、うんざりした様子で言葉を口にしたー

結局ー

駿介とは、その同窓会の時以降、接点はないままー

けれど、友達によれば、駿介はその後、
ギャンブルを卒業、借金を返済し、今は大学時代の頼れる先輩から
支援を受けて、その人物と同じ会社に就職、
立ち直ったーー、と、
そう、聞かされたー。

それを聞いた琴美は、”どうしてこんなに嬉しいのかなー?”と
思いつつも、安堵の笑みを浮かべながら「よかったー」と呟いたー。

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時々、夢を見るー。

”わたし”が、今のわたしとは異なる未来を歩んでいる
不思議な夢ー。

ある時は
”知らない夫”と”知らない娘”に囲まれて幸せそうにしているわたしの夢ー

ある時は
仕事に打ち込み、それはそれで充実した人生を送る夢ー

実家で両親と暮らしながらパートとして働く夢ー

夜の街で働きながら、身体を使って金を稼ごうとする夢ー

自分の身体を勝手に使われて、自暴自棄な生活を送る夢ー

色々な夢を”時々”見るー。

もちろん、夢を見ることはよくあるし、
不思議なことじゃないけれどー
何故か、これらの夢だけ”毎回ほぼ同じような内容で”
何度も見るし、何故か妙にリアルなー
そんな感じがあるー。

「ーーあははははははははっ♡」
突然大学内で暴れ始める”わたし”ー

自分の身体なのに、自分の意志で動かないー

「ー琴美!何してるの!?琴美!」
周囲の友達が、呆然としているー。

「わたしの未来を壊してるの~♡」
でも、わたしは嬉しそうにしながらー
”自分の顔”にナイフで傷をつけ始めてー

「ーークククク…ひはははははははっ♡」
狂ったように笑うー

そこでーー
目を覚ましたー

「ーーーまた…あの夢ー」
今日も、目を覚ました琴美はため息をつくー

”よく見る生々しい夢”にはいくつか種類があってー
その中でも”一番恐ろしい”夢ー。
自分が誰かに憑依されてー…
自分で笑いながら、自分の未来を壊していくー
そんな悪夢ー。

「ふぅー」
琴美がため息をつきながら、部屋から出ると、
夫の京太郎が「あ、おはようー」と、笑顔で微笑んだー。

娘の紗友里も嬉しそうに飛びついてくるー。

”夢は夢だしー…
わたしには、今、大切なモノがあるからー
気にすることなんて、ないよねー”

琴美はそう思いながら微笑むー。
何度も何度も過去の自分が憑依されて歴史が改変されたことを
今の琴美は認識できていないー。

最終的にその結果、秀雄が過去で死亡したことになり、
琴美が憑依された歴史や、それ以前の歴史はなかったことになって、
人々の記憶も、立ち位置も今の形で固定されたー。

また、秀雄のような人間が現れない限り、
歴史は今のまま流れ続けるしー、
また、秀雄のような人間が現れれば、
歴史は異なる道を進み始めー、最後には無難な形に修正されるー。

「ーーあ、ごめんね、先に起きて色々やらせちゃったみたいで」
琴美がそう言うと、
京太郎は「今日は休みだしいいさー。」と穏やかに笑うー。

「琴美こそ、睡眠時間はしっかり確保しないと」
京太郎はそう言いながら、遊びたがっている紗友里の方に見て、
「よ~し、じゃあ何して遊ぶか~」と、笑いながら
リビングの方に向かっていくー。

琴美は知らないー。
この先も、永遠に気づくことはないー。

”別の未来”があったことをー。

娘の紗友里は、”本来なら”産まれていなかった命ー。
逆に”娘だった”円香は産まれることがなくなり、この世から消えたー。

夫だった駿介は、琴美の夫になる未来はなくなり、
今の歴史では、一度はどん底に転落し、地獄を見たー。

”前の歴史”より、駿介は不幸になっているー。

がー、今の夫・京太郎は”逆”だー。

かつての歴史ー
琴美が駿介と結婚していた場合の歴史では
琴美と親しくなることのないまま大学を卒業、
卒業後に暴走車による交通事故に巻き込まれて
あっけなく命を落としているー。

しかし、琴美と結婚した”今”は、
その事故が起きた時、京太郎は琴美と一緒に家にいたため、
その事故に巻き込まれることはなく
こうして今、幸せな家庭を築いているー

”ほんの少しー”
ほんの少し、何かが変わるだけで、
人生は変わる。

不幸になる人間もいれば、
幸せになる人間も、いるー。

けれど人は”もしも”の未来を認識することはできない。
例え、”以前は別の運命”を経験していたのだとしても、
それは記憶の彼方へと消え去ってしまうー。

「ーーー」

しかしー、
”直接”過去をいじられた被害者であるからだろうかー

琴美は、今でも時折”何とも言えない違和感”を感じることがあるー。

それでもー

”今ある幸せを、大事にしなくちゃね”

琴美は、久しぶりに”以前”の夢を見てモヤモヤしていた気持ちを
振り払って、幸せそうな夫・京太郎と、娘・紗友里の元に
向かって歩き出したー。

おわり

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コメント

私は時々、過去に書いた作品の後日談を書くことがあって、
この作品も、そんな流れで書いた作品でした~!☆

完結してしまった物語の世界も、
きっと、私の手を離れて、その世界では時が進んでいるハズなので、
時々、一度閉じた世界の時間を動かしてみたくなってしまう…
というのが後日談を時々書く理由ですネ~笑

解体新書様では、続けての掲載なので、
時の流れは感じないと思いますが
実際にこの後日談を書いたのは、本編完結後の
半年後だったので、私も久しぶりに懐かしい気持ちになりながら
書いた作品でした~!

最後はそのままハッピーエンドで終えるか迷ったのですが、
ちょっとだけ、味付けをしてみました!

味付けが失敗だったか、成功だったかは、
今でも悩んでます~笑

…コメントを書き終えて、ほっと一息な私ですが
もしかしたら、数秒前と歴史が変わっているかもしれないと思うと、
ちょっと怖いですネ~!

今回もお読み下さりありがとうございました~~!


・・・・・・・・・・・・・・

???

”今ある幸せを大事に生きていこうー”

そんな風に思いながら、
琴美は、夫と娘の前にやってくると、
二人の顔を見て微笑んだー。

夫の”厳吾(げんご)”と、娘の”優愛(ゆあ)の顔を見ながらー。

またーーー
ーーー”何かが”過去で、起きたー。

人は”過去”が変えられても認識できないー。

今、自分の置かれている状況が、1分前と”同じ”なのかー。
それは、誰にも分からないー。

あなたの”今”も、数分前には違う”今”だったのかもしれないー。

fin