過去のお前に憑依する①~過去の改変~
 作:無名


結婚してー、子供も授かり、
幸せに暮らしていた20代中盤の女性ー。

しかし、そこに元カレが現れるー。

戸惑う彼女に対し、元カレはこう告げたー

”過去のお前に憑依して、お前を滅茶苦茶にしてやるー”

ーとー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

20代中盤の琴美(ことみ)は、
高校時代に出会った彼氏と大学に在籍中に結婚、
現在は、夫となった駿介(しゅんすけ)と、娘の円香(まどか)と共に
幸せな生活を送っているー。

「ー今日は、1時間ぐらい残業があるかもしれないなー」
夫の駿介が苦笑いしながら言うー。

「終わったら、連絡するよ」
駿介のそんな言葉に、「うん」と返事をすると、
「いってらっしゃい」と琴美が手を振るー。

琴美の仕事は今日はお休みー。
休みの日に、やっておきたい家のことを
色々と思い浮かべながら、
まだ3歳の娘・円香のほうを見つめて微笑むー。

夫の駿介も娘の円香のことをとても大切にしてくれていてー
当然、琴美のことも今でもとても大切にしてくれているー。

”駿介と結婚して本当によかった”と
幸せを噛みしめつつー、
これからもその幸せは続いていくはずだったー

だがーーー

”そいつ”は、やってきたー

♪~~~
お昼を過ぎた頃、昼ご飯を終えた琴美が
インターホンが鳴ったことに気付き、「はい」と返事をするー。

相手の顔も映っていたものの、
最初、琴美はその相手が”誰”なのか、気づかなかったー

”ーー俺だよー”

その言葉に、琴美は「はい?…ど、どちら様でしょうか?」と
返事を返すー。

しかしー
相手の男はすぐに言葉を続けたー

”ーーおいおい忘れたのかー?
 俺だよー 小野寺 秀雄(おのでら ひでお)だよー”

その名前を聞いて、琴美はすぐにその相手のことを思い出すー

「ーひ、秀雄ー…!?
 き、急に…どうしたの?」

琴美はそう返事をしながらも、
困惑していたー

”小野寺 秀雄”は、
小さい頃、近所に住んでいた幼馴染だー。

幼稚園ではとても仲良しで、
”将来結婚する~!”なんてお互いに言っていたぐらいだったー。

だが、小さい頃にそういうことを言うことはよくあることだし、
その通りに結婚する人間は、少ないー。
それを本気でプロポーズと受け取る人間は少ないだろうー。

”お父さんと将来結婚する~!”みたいなものと同じようなものだー。

そんな秀雄とは
小学生、中学生、高校生と一緒だったー。

そして、高校1年生の時に告白されて、付き合い始めたもののー
秀雄は”自分の思い通りにならないとすぐにキレる”性格で、
付き合い始めた途端、琴美のことを激しく束縛ー、
ついに耐え切れずに琴美から別れを切り出して、振ったー…

そんな過去を持つ相手だー。

”ーー秀雄に今の住所は教えてないはずだしー
 結婚のことも知らせてないはずだけどー…”

そんなことを心の中で思いながら琴美が困惑していると

”結婚したんだってなー 俺以外のやつとさ”
と、秀雄が笑うー。

「ーー…な、何の用ー?」
琴美が警戒しながらそう言うと、
秀雄は”おめでとう、って言いに来たんだよ”と、笑うー。

「あ、ありがとうー…」
一瞬、少しだけ警戒を緩めてしまう琴美ー。

だが、秀雄は言葉を続けたー

”俺は今、どうしてると思うー?”
秀雄のそんな言葉に、
「ど、どうってー…?高校卒業後、連絡も取ってなかったしー…
 分からないけどー…さ、サラリーマンとか?」と、
琴美が返事をするー。

背後から娘の円香が「ママ~」と、声を上げたため、
琴美は「ちょっと待っててね~ごめんね~!」と背後を
振り返ってそう返事をするー

”ククク…残念!
 正解は未だに彼女もできないフリーター生活でしたぁ!”

秀雄がそう言い放つー。

その言葉に、琴美はやはり警戒心を強めるー

「ーご、ごめんー
 わたし今、お昼ご飯作ってる最中でー」

昼食は終わっているが、話を切り上げるために
それだけ言う琴美ー。

”いいよなぁ~俺を振って、他の男と幸せになってるー
 ……滅茶苦茶にしてやりたい気分だ”

露骨に敵意を見せる秀雄ー

「ひ、秀雄ー…い、いい加減にしてー…!
 わ、わたし、何か悪いことした?」

琴美がそう声を出すと、
秀雄は”俺の心を傷つけたー”と、淡々と返事をしてきたー

部屋にいる娘の円香を見つめる琴美ー

”身の危険”すら覚えながら
「ーーき、傷つけたならその時のことはごめんなさいー。
 でも、もうそれ以上何もすることはできないの。

 これ以上ー…何か言ってくるならー」
と、冷静に対応を続けると、
秀雄は笑ったー

”大丈夫大丈夫ー 別に何もしないよー
 元カノにしつこく絡めば犯罪だってことは
 分かってるし、
 俺だってそんなことはしたくないー。

 だから、何もしない。”

秀雄はそれだけ言うと、
琴美は「そ、それならー」と、戸惑いながら呟くー

”あぁ、そうそうー
 昼ごはん作ってるんだったっけな
 
 悪かったな邪魔してー。
 もう、ここには来ないから、安心してくれよ。 じゃ”

そう言うと秀雄はそのまま、アパートから立ち去りー、
そのまま帰って行ったー。

不安に思い、ベランダからさりげなく
秀雄を確認するとー
秀雄は振り返ることなく、
そのまま大通りに抜けて、そのまま帰って行ったー。

安堵の表情を浮かべる琴美ー。

その夜、帰宅した夫の駿介に相談する琴美ー。
”高校時代に知り合った”駿介は
当然、”高校時代まで一緒だった幼馴染の秀雄”のことも知っているー。

同じ学校だったからだー。

「ーーあ~小野寺か…琴美の元カレだったやつだよなー」
駿介は戸惑いながらも
「俺も注意しとくよー。 それとー…何かあったら、すぐに言うんだぞ?」
と、優しく琴美に語り掛けたー。

琴美は「ごめんねー迷惑をかけて」と、申し訳なさそうに言うー。

「いやいや、迷惑なんてことないさ。
 琴美と、円香を守るのが、俺の使命だからな」
と、駿介は笑いながら言うと、
「なんてーかっこいいこと、たまには言って見たかったし」と、
恥ずかしそうに笑ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「ーーーーおはよ~」

琴美が目を覚ますと、
駿介が既にリビングでのんびりと過ごしていたー

「あ、おはよう」
駿介が穏やかに笑うー。

ふと、琴美がキョロキョロと周囲を見渡すー

娘の円香の姿が見当たらないからだー。

「ーーーあれーーー…円香は?」
琴美が聞くと、駿介は「まどか?」と、首を傾げたー

「うーうん…ま、円香ー どこ?」
と、琴美が再び聞き返すー。

しかし、駿介は笑いながら
「ははは~寝ぼけてるのか琴美~?」と、琴美のほうを見つめるー

「え…わたしたちの娘のー」
琴美がそう言いかけると、
駿介は「ははははー…琴美が子供は欲しくないって言ったんだしー」と、
苦笑いすると、
「ーまぁ、俺は琴美に合わせるから、気が変わったらー」と、
キッチンの方に視線をずらすー

「ーーーーあ…そ、そっかー…
 あれーーー…
 う~ん…」

琴美は疑問に思いながらも、
”確かにそうだった気がする”と、納得して
そのまま仕事へと向かったー。

職場でも、暗い表情の琴美ー

”わたしたちに、娘はいない”
確かにそうだー

でも、”円香”という子の顔が浮かぶしー
娘がいたような気がするー

そんな風に思いながら1日を終えるとー
帰宅の途中ー

再びー小野寺 秀雄が姿を現したー

「ー!!!」
琴美がビクッとすると、
秀雄は「昨日はどうも」と、笑みを浮かべたー

「ーーははは、安心しろって。俺はここでお前に何かしたりしないからさ」
秀雄がそう言うと、
琴美は「ーーそ、そうー」と、戸惑いながらそのまま立ち去ろうとするー

「ーそういやー、昨日、”娘さんの声”聞こえたけどー
 可愛いかったなぁー」

秀雄がそう呟くー

「ーーー!!!!!」
琴美が驚いて振り返ると「今…なんて?」と言葉を続けたー

「ーむ・す・めー。
 可愛い声だったよなぁ」

秀雄が笑うー。

しかし、琴美はすぐに反論したー

「ーわたしたち、子供はいないけど」
とー。

「ーーーははぁー…
 まぁ、そうだよなぁ
 ”歴史”変わっちゃったもんなぁ」

秀雄のその言葉に、琴美は「ど、どういうことー?」と、
言葉を続けたー

「ーーー”過去のお前に憑依して”
 過去を変えて来たー」

とー。

「ーーー!?!?!?!?!?」
混乱する琴美ー。

「ーー新婚ホヤホヤのお前に憑依してー
 ”わたし、子供は欲しくない”って、夫に言ったんだー

 そしたらー
 へへ…
 円香ちゃんが生まれない未来に変わっちまった!」

笑う秀雄ー。

「ーえ……な…何を…言ってるの…?」
琴美が困惑しながら言うと、
秀雄はニヤニヤしながら呟くー

「ーーどうしてそんなモンがあるのか
 俺も知らねぇけどよー、
 祖父の蔵から見つけたんだよー
 時空を超えることができる水晶玉と
 他人に憑依できる憑依薬ってやつをー」

秀雄の言葉に、
琴美は「そ…そんなことー…あるわけが!」と、言い放つー

「あるんだなぁ…
 実際にー円香ちゃん、”いないこと”になっちゃったもんなァ?」

秀雄がニヤッと笑うー。

「ーーーーそ、そうやってわたしを怖がらせようとしてー
 わたしに、娘はいないから!」

琴美がそう叫ぶー。

「ーでも、違和感感じてるみたいじゃないかー。
 過去を変えても、未来に影響が出るまでに少し”時間差”が
 あるみたいだからー

 まぁ、じきに何も気にならなくなるんだろうけどなー」

秀雄のそんな言葉に、琴美は表情を歪めるー

確かに、自分が朝ー、
”娘がいるような気がした”のは事実ー。

だが、今は”朝のわたしは寝ぼけていた”と、思い始めているー。

「ーーーう…嘘…!嘘に決まってる!
 そんなこと、できるわけがないー」

琴美が首を振りながらそう言うと、
「へへ…別にそう思ってもらってもいいぜー?

 人妻さんよ」

と、秀雄が挑発的な口調で言ったー。

「ーそうだなー
 次はー”夫と結婚してた事実”を変えて来るかー」

秀雄が笑みを浮かべながら言うー。

「ーそ…そんなこと、できるわけないでしょ!
 いい加減にしてくれないと、警察、呼ぶから!」

琴美の言葉に

「おぉ、怖い怖いー」と、笑う秀雄ー

「あぁ、でもさー
 昨日、俺がお前の家に行ったときー
 お前の家に、”円香ちゃん”いたよなー?

 よ~く考えてみろー」

秀雄のそんな言葉に、険しい表情を浮かべながら
琴美は思い出すー。

「ーーーーーーー」

確かにー
家の中に”誰か”いたようなーーー

「ーー…!!!!!!!!!!!!」
琴美は表情を歪めたー

”ママ~~~”

いたーーー
娘の円香の顔が一瞬浮かんでーーー

「ーーう…嘘ー…まさか本当にー…」
震えながら琴美が言うと、
秀雄は「おっと!”まだ”思い出せたのかー母親の愛情ってのはすごいなぁ」
と、馬鹿にしたようにして笑うー

「嘘…!嘘!? 円香を返して!ねぇ!!ちょっと!」

琴美が必死に叫ぶー。

しかし、秀雄はニヤニヤしながら首を横に振ったー

「ー”お前が”夫に子供はいらないって言ったからー
 円香ちゃんはこの世に生まれてないことになったんだー

 へへへー
 約束通り、俺はこの時代でお前に何もしてないー
 
 ”過去を変えちゃいけない”なんて法律はねぇ。
 サツにでも俺を訴えるか?

 俺はな~んにもしてねぇ
 ただの無罪の男だけどな?」

ニヤッと笑う秀雄ー

「そ、そんな…返して!まーーー……  …か、、返して!」

”円香”の名前が再び急速に記憶から消えていくー

何を返して欲しいと思っているのかも、分からなくなっていくー

「ーーへへ…そろそろ完全に記憶から消えるかー。」
秀雄はそんな様子を見つめるとー

「これは”挨拶”代わりー」と、
笑みを浮かべるー

「ーー過去のお前に憑依してー
 これからどんどん、お前を滅茶苦茶にしてやるよー

 明日にはー
 お前はー
 どうなっているかなぁ…???

 クククーーーー」

秀雄はそれだけ言うと、立ち去っていくー。

「ちょっと待って!ねぇ!ちょっと!」
焦りきった表情を浮かべながら叫ぶ琴美ー。

だが、秀雄は立ち止まることはなく、
そのまま雑踏の中に、姿を消したー。

②へ続く

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前回は、解体新書様の20周年企画だったので、
通常の更新で掲載されるのは
久しぶりですネ~!

皆様お久しぶり(?)デス~!

今回は”憑依”と”タイムスリップ”の要素を
組み合わせた作品で、
普通の憑依ですら抵抗できないのに、
”過去の自分が憑依されてしまって、歴史がどんどん変えられたら…?”
を描いていく作品ですネ~!

①は、世界観を描くために直接的な憑依描写は
まだ出て来ていませんが、
②以降、とっても恐ろしい(?)展開が待っているので、
ぜひ次回も見てみてくださいネ~!