最後の聖夜②~2度目の別れ~(完)
 作:無名


未来からやってきた彼女の由美が告げた事実ー。

このあと、由美はー。

その事実を知って、彼氏の雄吾が下した決断はー?
クリスマスと憑依と悲劇の物語の結末は…?

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”なんで!?止めてよ!わたしを止めて!”

未来から来た由美の幽霊が叫ぶ。

「---」
雄吾は、何も言わず、幽霊の方を見つめて
首を振った。

「--ごめんね。
 まだ飛行機あるみたいだから、今から行かなきゃ」
由美が慌てた様子で言う。

北海道に居る入院中の祖父の容体が
急変したという連絡があったのだ。

家族思いの由美には、放っておくことなどできなかった。

「--送るよ」
由美を駅まで送ると申し出た雄吾。

”ふざけないでよ!わたしが死んじゃうよ!雄吾!”

雄吾にしか見えない
”未来の由美の幽霊”が必死になって叫んでいる。

雄吾は、そんな未来の由美の方を見て
首を振った。

”--いやだ!わたしは雄吾とずっと一緒にいたかったの!”

幽霊が叫ぶ。

既にその力は残されていないはずだったのに、
再び由美に無理やり憑依した。

「--雄吾!わたしとエッチして!」
目に涙を浮かべていた由美が鞄を放り投げて
雄吾の方に向かってきた。

「な…だ、だめだよ!」
雄吾が叫ぶ。

「--だめ!わたし…死ぬ前に雄吾とエッチしたかったの!」

由美が上着を脱ぎ捨てて雄吾の方を見つめる。

「---だめだって!
 き、君が未来から来た由美だってことは分かったけど…!」
雄吾が必死に叫ぶ。

未来の自分に憑依された由美は、
その意思を奪われて、スカートを脱ごうとしているー。

「---ねぇ!僕の話も聞いてよ!」

そう叫ぶ雄吾。

しかし、由美は”どうにかしないと”の思いから
その言葉を聞いていなかった。

雄吾を無理やり押し倒す由美。

「ねぇ!」
雄吾の言葉も聞かず、
由美は雄吾にキスをした。

「んふっ…♡ ゆうごぉ!わたし…雄吾のこと大好き…♡」

由美が甘い声を出す。

雄吾は、初めて聞く由美の甘い声に
興奮してしまう。

「--ほら…わたしを抱いて…♡
 乱して・・・!ほら…ゆうご!」

由美がはぁ、はぁと言いながら
顔を赤らめて雄吾の方を見るー。

もしもー

もしも、
今、由美と自分がエッチして、
由美を祖父の元に行かせなければー
由美は助かるのだろうか。

由美が助かれば、この未来の由美も
助かるのだろうかー。

それだったらー。

でもー。

雄吾は、未来から来た由美の幽霊の姿とー
目の前に居る”いまの由美”を思い浮かべる。

「はぁ♡ はぁ♡ ゆうご♡ ゆうごぉ♡」
由美が下着姿になろうとしている。

「だめだ…!」
雄吾が叫ぶ。

しかし、由美は聞いていない。
完全に欲情しているようだ。

「だめだーーーー!!!」
雄吾が大声で叫んだ。

「---!!」
やっと、由美に言葉が届いたのだろうか。
由美がはっとした様子で雄吾の方を見る。

「---だめだ…だめなんだよ…。」
雄吾が目に涙を浮かべている。

由美が雄吾から離れると、
雄吾は呟いた。

「きみが本当に未来から来た由美なら、
 分かるはずだよ…」

雄吾が言う。

「ボクが何を言っても、君は、
 おじいさんの元に行く。ーーだろ?」

雄吾の言葉に、由美は口を閉ざした。

「”飛行機が墜ちるから行くな”なんて言っても、
 由美は、おじいさんの元に絶対に行くー。」

雄吾が、未来の由美の願いを聞かず、
由美を北海道に行かせようとしているのはー
由美に死んでほしいからではない。

理由は3つあった。

1つは、
由美は、一度決めたことは曲げない性格だった。
ましてや、祖父が危篤となれば、雄吾が何を言っても、
由美は、飛行機に乗るのだ。

2つめは、
力づくで由美を止めることはできる。
けれども、もしもそれで飛行機が堕ちなかったら?

由美は祖父の最後をみとることもできず、
永遠に後悔することになるー。

そして、雄吾の元から由美は離れていくだろうー。
そんな恐怖もあった。

そして、
最後の理由はーーー

「---…そうね…わたしは、飛行機に乗ると思う」
由美が呟く。

そして、時計を見つめた。

「わたし…このあと20:00の便に乗るの」
由美が呟いた。

「そして、その飛行機は、墜ちるー」
由美が悲しそうに言う。

「-わたし…死にたくなかった…
 雄吾と、ずっと一緒にいたかった…」
由美が目からボタボタと涙を流す。

そんな由美を見て、雄吾が
何も言わず、由美を抱きしめた。

「--ありがとう」
雄吾がお礼の言葉を呟く。

未来の由美に対するお礼。

「わざわざ、教えに来てくれてありがとう」
雄吾が言うと、
由美は首を振った。

「--大好きな雄吾と一緒にいるためじゃない…
 当然よ…」

目から大粒の涙をこぼすと、
由美は、服を再び整えて、
未来から来た由美は、そのまま由美の身体から
抜け出し、光のしずくとなって消えて行った。

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イルミネーション輝く広場で、2人は談笑していたー

「---綺麗だね…」
由美が呟く。

”由美の方がきれいだよ”
などと恥ずかしいセリフが雄吾の中に浮かんできたが
雄吾は、それを抑えて呟いた。

「--そうだね」

と。

付き合い始めたのが今年の1月。

これが、二人にとって、初めてのクリスマスー。

けれどー
これが、最後のクリスマスになることを
雄吾は知っていた。

未来から来た、由美から教えられたからー。

けれどー
未来を捻じ曲げることは許されないー。
何より、おじいさんの危篤に、由美を行かせないわけにもいかないー

そしてー

雄吾はもう一度、由美の目元を見たー。

もしかしたら…。

目を輝かせながら由美は
イルミネーションを見つめる。

イルミネーションを見つめる由美の目元に
涙が浮かぶ。

目元で輝く涙を見て
雄吾は言う。

「--そろそろ行ってあげなよ」

と。

泣きだしそうになりながら雄吾はそれを堪えた。
ここで泣けば、由美を心配させてしまう。

「---うん。ごめんね」
由美が涙を流しながら笑う。

「--大丈夫。僕たちには来年もあるだろ?
 おじいちゃんと由美の時間の方が、大事だよ」

雄吾が優しく言うと、
由美はうなずいた。

「--ほら、早く行ってあげなよ」
雄吾が言うと、由美はうなずいた。

雪が降り出してきた。

由美は、少し歩くと、雄吾の方を振り返ったー。

「--また来年も、一緒にクリスマス、楽しもうねー」

とーー

「あぁ、絶対に!」
雄吾が言う。

由美は微笑んで駅の方に向かっていく。

「---由美…」
雄吾はその場に泣き崩れた。

行かせたくないー

けれどー

”未来から来た由美が、
 この後の飛行機が墜落すると言ってた”

なんて言っても、君は、信じないだろうー?

雄吾は、複雑な感情を抱きながら、
雪の降る中、一人で泣きつづけたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

12月25日ー

飛行機はーー墜ちた。

未来の由美の言った通りだったー。

自宅でテレビのニュースを見つめながら、
雄吾は、悲しそうな表情を浮かべていたー。

墜ちた飛行機の映像が流れている。
犠牲者の名前が読み上げられている。

”どうしてー”

消えたはずの、未来から来た幽霊の由美が
背後から姿を現した。

「---」
雄吾は答えない。

”どうして、わたしを止めなかったの?
 力づくで止めることもできたはずでしょ?”

未来の由美は言う。

「ボクが何を言っても、君は、
 おじいさんの元に行く。…って言ったよね」

雄吾が悲しそうにつぶやく。

確かにそう聞いた。
だが、雄吾が力づくで止めることもできたはずだ。

”わたしを、力づくで止めることもできたはずよ”

未来の由美はそう返事をした。

「---僕は、信じたから」

”でも、どうしてー?”

未来の由美が尋ねる。

”どうして、分かったの?”

その言葉に、雄吾はテレビから目を背けて、
未来の由美の方を見た。

「---」
雄吾は、黙って由美の目元を指さした。

未来から来た由美の目元には、
ほくろがあった。

「---僕の知る由美には、
 目元にほくろはないー」

雄吾にそう言われて、未来から来た由美の霊は、
目元のほくろに触れる。

「---だから思ったんだ。
 君のいた未来と
 僕のいるこの世界ー
 ”ほんの少しだけ”だけど、何かが違うんじゃないかって。

 だから、飛行機も落ちないんじゃないかってー」

雄吾が言うー。

そして、続けた。

「君の世界は、僕のいる世界の未来じゃなくて、
 異なる世界なんじゃないかって。
 ほら、映画とかであるパラレルワールドとか
 並行世界とかそういうやつ。
 
 僕の世界がAだとしたら、
 君はAの未来ではなく、
 Bの世界の未来からやってきた…
 って感じかな?

 同じようだけど少し違う世界」

雄吾がそこまで言うと、
未来の由美は微笑んだ。

「確かに、そうかもね…
 わたしのいた世界の過去じゃないのかもね、ここは…」

由美はそこまで言うと、
笑いながら続けたー。

「だって、わたしの世界の雄吾、
 パラレルワールドだとか、そんな難しいこと
 言えなかったもん」

未来の由美がそう言うと、
雄吾は微笑んだ。

「でも、ありがとうー。
 どうして、運命が変わったのかは分からない。

 僕の考えている通り
 君のいた未来とは異なる世界なのかもしれないし、
 君がこうして来てくれたから、何かのはずみで
 運命が変わったのかもしれないー。

 だから…ありがとう」

雄吾がそう言うー。

テレビのニュースが判明している犠牲者の名前を読み上げ終えた。

そこにー
由美の名前はなかった。

飛行機は墜ちたー

けれどー
墜ちたのはー
由美が乗った次の便ー

21:00出発の便だったー。

”わたしのいた未来では20:00の便が墜ちたー
 そう…わたしの乗ってた便が…”

未来の由美が居た世界とー
少しだけ違う世界なのかもしれないー

”…わたし、もう行かなくちゃ”

幽霊の由美が言う。

「--そっか」
雄吾が呟く。

この世界の由美が助かったのに、
未来から来た由美はそのままということは、
やはり、雄吾の考えが正しいのかもしれない。

「--ごめんね。助けられなくて」
雄吾が言うと、由美は首を振った。

”ううん、この世界の雄吾と、この世界のわたしが
 助かっただけでも、わたしは満足”

由美が言うと、
雄吾は涙ぐみながら微笑んだ。

クリスマスツリーが静かに点滅しているー

”わたしを、大事にしてねー”

未来の由美が、消えながらそう呟いたー。

「---うん…約束する」

その言葉を聞くと、未来から来た由美は
微笑みながらーー
消えて行ったー。

「-----ありがとう」
雄吾は、”未来から来た由美”との別れを惜しみながらそう呟いた。

そしてー
テレビの方を向いて雄吾は黙とうをささげたー

由美は乗ってなかったけどー
多くの人が犠牲になったことには違いないからだー。

スマホが鳴るー。

「あ、もしもし、雄吾?」

由美の声だー

由美の乗る飛行機は墜ちなかったー

この世界の由美は、無事だった。

「--おじいちゃんの最後…ちゃんと見届けられたよ…
 ありがとう」

由美がお礼の言葉を言う

「ーーあ、なんか…わたしの乗ってた便の後ろの便…
 墜落事故を起こして・・・」

由美の言葉を聞きながら、
雄吾は涙を流していたー。

「---え?ど、どうしたの?泣いてるの?」
電話の向こうの由美が言う。

「---あ、ううん、なんでもないよ」
雄吾は涙を拭きながら返事をした。
未来から来た由美はどんな思いだったのだろうか?
色々なことを考えて、雄吾は涙を抑えられなかった。

「その飛行機が墜ちて…わたしは…!
 それで…雄吾…ずっとわたしのことで
 悲しんで…ずっとずっと、雄吾、泣いてるの…」

未来から来た由美の言葉を思いだす。

「……」
雄吾はスマホを握りしめて、泣くのをやめた。

未来から来た由美の心配が2倍になってしまう。

そう思いながら雄吾は決意するー
彼女の分も、由美と幸せに過ごそうー

と。

「---来年こそは、一緒にクリスマス、楽しもうね」
電話の向こうの由美の言葉に、雄吾は

「うん、約束するよ」
と、力強く、優しく答えたー。

おわり

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少し変わった展開のお話でした~!☆
毎年、この時期になると
1作品はクリスマスモノを書きたくなる(?)ので、
毎年のように1つ書いています~!!

この先も5年、10年と執筆を続けていくと、
クリスマスモノだらけになりますネ~笑

この年は憑依、別の年は入れ替わり…と、
色々ジャンルを変えたり、内容をガラリと変えたり、
同じクリスマスモノでも、色々なお話が作れるので
毎年楽しく考えています~!

今回の最後の聖夜は、その中でも異色(?)な
感じの作品でした!

…解体新書様で作品が掲載されるのは、
今年はこれで最後の作品になります~!

次にお会いするときには、すっかり
お正月な雰囲気も過ぎ去っている頃になると思いますが、
元気で過ごしてくださいネ~

それでは、少しフライングですが、良いお年を~!
今年も1年間、ありがとうございました!