戦国憑依物語④~終焉~(完)
 作:無名


憑依薬を完成させた直後に
戦国時代にタイムスリップしてしまった男ー。

戦国時代を生き抜き、その果てに待つ運命は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そう驚くことではないー
 そなたと同じように、憑依しただけだー」

か弱そうな雰囲気の女が笑みを浮かべるー。

今川義元は、
自分に逆らう大名の妹に憑依して、こうして
乗っ取ってやったのだと、豪語したー。

「ーー逆らえば、大事なものをこうして奪われるー。
 見せしめにはちょうど良い」

女に憑依した義元はそう言うと、
そのまま修が憑依しているゆきのほうを見つめたー

「ーそなたの憑依をこれまで何度も見ていて、
 儂は気づいたのだー。
 そなたがいつも”憑依をする前”にしている行為は
 必要ないのではないか、とー。」

笑みを浮かべる女ー。

「ーーそ、それはー」
ゆきは、表情を歪めるー。

”憑依薬さえ飲めば、誰でも憑依の力を使うことができるー”
そう悟られてしまえば、今川義元にとって
”修は必要のない存在”になるー。

この時代の人間からしてみれば、修が”得体の知れない存在”であることは
紛れもない事実だし、
”憑依の力”があるからこそ、利用価値があるとして、
生かされているのだー。

”憑依薬”があれば憑依できるなら
”憑依薬”だけあればいいー。
修は、いらないー。

だからこそー
修はこの時代に来てから”憑依をする前”に、
わざと”必要のない呪文のようなものを唱えたり”して、
”修にしか使えない力”のように見せかけてきたのだー

「ーーそこで”影”に命じて、そなたの持つ憑依薬の一部を回収させた」

今川義元が憑依している女が笑いながら
”回収した憑依薬”を見せつけるー。

「ーー儂の読みは正しかったー
 やはり、桶狭間でそなたが飲んだこれを飲めば、
 ”誰でも”憑依能力を身につけることができるようだな」

だがー
その場には義元の身体が倒れたままー。
修は憑依薬を飲んで、霊体になったため”自分の身体”の抜け殻は
存在しない状態ー。

「ーー”憑依薬を飲む分量”の問題かー…」
修は心の中でそんな風に考えるー。

か弱そうな雰囲気なのに、憑依されたことで、
高圧的な雰囲気を見せる女に、ゆきは気圧されて、
必死に言い訳を考えるー

「ーも、申し訳ありませんー。
 この薬はまだ完成したばかりで、飲んだ際の
 ”健康被害”がある可能性もありましてー…
 それでー
 い、今川様や、他の者に飲ませて万が一ということがあれば、とー
 他の者には勧めないようにしていましたー」

ゆきは、必死に土下座しながら叫ぶー。

「ーーーー構わぬー。
 だが、こうして儂も他人の身体に入ることが
 できると分かったー」

そう呟くと、義元は女の姿のまま、
ゆきに近付いてきて、
囁くようにして呟いたー。

「ー今まで、ご苦労であったー。」

不気味にそう囁くと、
義元に憑依されている女は、笑みを浮かべながら
ゆきから離れていくー。

「ー下がってよいー。」
その言葉に、ゆきは頭を下げると、
ただちに自分の屋敷へと戻ったー

「ーくそっ…!くそっ!くそっ!くそくそくそっ!」
乱暴に自分の調合中の薬品に関係するモノや資料をまとめ始めるゆきー。

「ーー早く…早く元の時代に戻るためのコレを完成させないとー」

ゆきは苛立ちながら、”開発中の薬品”を見つめるー。

この時代の素材だけで、
あんな常軌を逸するような薬が作れるだろうかー。

この時代にタイムスリップする”事故”を起こしてしまった薬の
作り方は、修の頭の中にあるー。
だが、この時代では、使えるものが限られていて、
なかなか”全く同じもの”を再現することはできないー。

「ーなんとか、元の時代に帰れるように
 化学反応を起こしてー…」

ゆきは、気づけば爪をガリガリとかじっていたー。

”「ー今まで、ご苦労であったー。」”

今川義元の言葉を思い出すー。

あの言葉はー
”今川義元にとって修はもう用済みになった”ことを
意味しているー

それはそうだー。
義元自身が憑依能力を手に入れた今、
もはや修は必要ないのだろうー。

”やられる前にやるかー?”
先手を打ち、今川義元を仕留める手もあるー。

だが、それでも、この屋敷をこのまま
利用することは難しくなるー。

”くそっ…あと少しで元の時代に戻る化学反応を起こせそうなのにー”
そう思いながら、ゆきは”時間を稼ぐんだ”と
心の中で考えるー。

あの場で殺されなかったということは、
”まだ”
今川義元の中で何か狙いがあるのだろうー。

だが、いずれにせよ
時間の問題で処理されてしまうー。
そう感付いたゆきは、慌てていたー。

”とりあえず、義元は俺のように身体ごと霊体に変化した状態ではなくて
 自分の身体から幽体離脱するような状態になってるー。
 あれは多分、憑依薬を飲む分量に関係してるー…
 それをネタにすれば、まだしばらくはいけるはずだー”

そう考えた修は、翌日、ゆきの身体で再び
今川義元に対面したー。

”義元がまだ幽体離脱状態”であることを伝え、
それを解消するための方法がある、と伝えると、
義元は嬉しそうに笑みを浮かべたー

「ーー…よし…これで」

ゆきは、その日から急いで、”元の時代に戻るための化学反応を起こすべく”
薬品の調合を急いだー

必要な素材の一つは、
”憑依される前のゆき”が暮らしていた村にあることを知ったゆきは、
ただちにその村へ向かうー。

「ーゆき!」
村に入ると同時に、村のおばさんらしき人物が
ゆきの方に向かってきたー。

どうやら、憑依される前のゆきが必死に支えていた
”ゆきの祖父”が、先日病気で死亡したらしいー。

おばさんがゆきに対して恨み言を口にするー

「ー邪魔だ。どけ」
冷たい口調で、ゆきは脅すようにそう言うと、
そのまま目的の薬草があると言われている場所に向かうー。

「ーこの女の祖父なんか知ったことかー…
 俺にはもう時間がないんだー」

乱暴な手つきで、この地域にのみ存在している
薬草を回収すると、ゆきはそのまま村から外に出ようとするー

「ー大吉(だいきち)さんを殺したのは、あんただよ!
 急に家族を見捨てて、どこかに行っちまうなんてひどいじゃないか!」

おばさんが、村から立ち去ろうとするゆきに向かって叫ぶー。
大吉とは、ゆきの祖父のことだろうー。

「ーーー(やべぇ…俺のせいでこの子が罵倒されてるの、興奮する…)」
ゆきは、ゾクゾクと興奮しながら、そのままおばさんを無視して
村の外へと出て行くー

やっぱりー
早く元の時代に戻って、近所に住む女子大生・須美に憑依したいー。
須美として、欲望を楽しみながら、
須美の人生もメチャクチャにして、快感を味わいたいー

ゆきはペロリと唇を舐めると
「ーーそうだ…誰にも俺の邪魔はさせないー」と、
屋敷に戻ると、その日から調合に没頭したー。

あらゆる素材を調合して、
化学反応を起こそうとするー。

「ーこれは、俺でなければできないことだー」
常軌を逸するほどの知識と応用力で
現実離れした化学反応を生み出す修ー。

ゆきの手は、修の手よりもさらに器用で、
色々な作業がやりやすかったー。

今川義元の元で、適度に任務をこなすー。

勢力を大幅に拡大した今川義元は
地方の有力大名・毛利(もうり)や、長曾我部(ちょうそかべ)の
付近にまで勢力を伸ばしつつあったー

”こりゃ、今川義元が天下統一だなー”

織田家も既に崩壊しており、
今川義元の敵はいない状態になりつつあるー。

「ーーー…」
そんなことを考えながら、ゆきは
”確実に元の時代に戻るため”の、準備をあと一歩のところまで終えていたー

その時だったー。

「ーー!」
ゆきは表情を歪めたー

外が、騒がしいー。

屋敷の隙間から外を覗くとー
今川義元直属の”闇”と呼ばれる忍が、
屋敷を取り囲んでいたー。

「ーーー」
ゆきは表情を歪めてから
「ーなんのつもりです?」と、屋敷の外に顔を出すと
”闇”は、答えたー。

「ー主の命令だー。
 貴様を処分するー」

”闇”がそう言うと同時に、待ち伏せしていた部下が
ゆきに弓矢を放つー

「がっ…!?」
弓矢が肩に直撃したゆきは、慌てて屋敷の奥に逃げ込むー

血を流し、はぁはぁ言いながら
廊下を走るゆきー

「く、くそっ…!俺が時間稼ぎしてるのに気づいたかー!」
苦しそうにしているゆきー。
ゆきはどうでもいいー
この身体を捨てれば、修は助かるー。

だがー

「くそっ…こうなったらー」
研究に使っている部屋に駆け込もうとするゆきー。

身体を動かすべきではないぐらいの
ダメージを受けているにも関わらず、
修にとって、ゆきの身体など、どうでもいいものだったー

「ーーーはぁ…使えない身体だな…!もっと動けよ!」
ゆきは、自分の身体に対してそう怒鳴り声を上げると、
身体を引きずって、倒れ込むようにしながら
自分の研究している部屋へとたどり着いたー。

本当は、自分を襲撃した忍の一人にでも憑依して、
その身体で駆け込めばよかったのかもしれないが、
急に攻撃を受けて、ゆきに憑依している修自身、
動揺していたことから、そこまで頭が回らなかったー

「ーーははっ…へへへっ」
ゆきはニヤニヤしながら、化学反応を起こすための
薬品を研究していた部屋に駆け込むー

「今の時点だと成功率85パーセントってとこだがー…
 多分、元の時代に戻れるだろ…」
ゆきはそう呟くー。

本当は、”ほぼ確実に未来に戻れる”ぐらいの状況にまで
したかったが、どうやら、そこまでする時間は
もはやないようだー。

そう思いながら、ゆきは自分の頭の中で描いていた通り、
薬品による化学反応を起こし始めるー

「ーへへへっ…憑依も、時空の移動もー
 俺に不可能なんてねぇ…!」

ゆきはそう呟くと、
煙が充満し始めた部屋を見て、笑い始めたー

そこにー
今川義元配下の”闇”が姿を現すー

ゆきは指を突き立てながら笑ったー

この建物に火をつけたゆきは叫ぶー

「ーーーお前らには何も残しやしない!
 俺は元の時代に帰るぞ!
 ははははっ!
 あとは自分たちでどうにかするんだな!
 ははははははっ!」

その言葉と同時に、ゆきは糸が切れたかのように
その場に倒れ込んで、
修は、”元の時代”へと戻って行ったー。

「チッ…撤収だ!」
”闇”は、配下の忍たちに指示を出し、そのまま撤退していくー

ゆきは、意識を取り戻す前に、そのままその場所で
散ることになってしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー!」

修が意識を取り戻すとー、
そこは、”現代”だったー。

「ーはぁ…はぁ、戻ってこれたー」
修は早速、憑依薬を手にしようとするー。

しかし、その時だったー

「ー貴様!何者だ!」
スーツを着たチョンマゲの男が姿を現すー

「ーはっ!?」
修は唖然としながら、壁にあったカレンダーを確認すると、
確かにそこには”2022年”とあるー。

「ーこ、ここは俺の家だぞ!」
修が言い返すと、スーツ姿の侍みたいな男は、
修に対して「何を言うか!俺の家だ!」と叫び返したー

訳が分からないまま追い出される修ー

そしてー
修は街を見て、唖然としたー。

街の風景が、まるで変わってしまっているー。
修が、見たこともないような、街にー。

「な…な…なんだこれは…?」
呆然と見つめる修ー。

”戦国時代”と”現代”が混じったような世界ー

やがてー
サイレンを鳴らしながら、
機械の馬に乗ってやってきた”侍サラリーマン”のような男に捕まり、
訳が分からないまま、修は巨大な城に連れていかれてしまうー

”まさかー
 戦国時代で俺が色々やったせいで、
 歴史が変わっちゃったのか!?”

タイムスリップモノで良く見る光景ー
”過去を変えたことで、未来も変わってしまったー”

そんなことを、自分がしてしまったのかと思っていると、
”この国の王”の前に引き立てられたー。

「ーーー」
姫のような姿をした女ー
この女が、今のこの世界の女王なのだと言うー。

「ーーーひっ…」
修が、怯えた様子でその女を見つめると、その女は微笑んだー

「久しぶりだなー。
 未来へ逃げたと報告を聞いたからー
 いつかまた会えるだろうと思っていたがー」

女の言葉に、修はハッとして、その女の顔を見るー

「あれから何百年ー
 儂は身体を乗り換え続けて、こうしてずっとこの世を支配してきたー」

「ーーーー!!!」

修は唖然としながら、その女の顔を見て呟いたー

「ーい…今川…義元ー」

修が戦国時代から消えたあとー
今川義元は憑依の力を完全に手に入れ、自分の身体を捨てて
何十、何百もの身体を乗り換えて、
2022年まで、生きながらえていたー

「ーー儂の元から逃げた罪ー
 今、ここで償ってもらおうかー」

義元に憑依されている姫のような姿の女がそう呟くー

修は、あまりの出来事に恐怖して、
身体を震わせることしかできなかったー。

おわり

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最終回でした~!☆
案の定、大変なことになってしまいましたネ…笑

主人公の修が、最後の変わり果てた世界でも存在できていたのは、
過去にタイムスリップした時点で、時間の流れから外れた
特別な存在になっていたので、消えずに済んだ…という設定デス~!

歴史が変わっちゃって、修は生まれなくなってしまいましたが、
過去に行った時点で、過去を変えたことによって未来で受ける影響から
逃れるようになっていて、その結果修は消えずに済んだ…
みたいなイメージデス~!

タイムスリップ系を真剣に考えすぎると
頭がプシュ…と☆

解体新書様に掲載されるにあたり、改めて読み返してみましたが
この「戦国と現代が融合したみたいな現代」のお話を
いつか描いてみるのも楽しそうですネ~!
(やるかどうかは未定デス)

今回もお読み下さりありがとうございました~!

来月はきっと、もう暑さも感じることがないぐらい、
涼しくなっていると思うので、
残り少ない暑さとの戦い(?)も頑張ります~!