戦国憑依物語①~桶狭間~
 作:無名


ある男が”憑依薬”を手に、
戦国時代へとタイムスリップしてしまったー…!

”たった一つの薬”が、
歴史を大きく動かしていくー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ククク…できた!ついにできたぞ!」

とある薬の研究を行っていた男・魚沼 修(うおぬま おさむ)は、
狂気の笑みを浮かべながら叫んだー

”憑依薬”ー

他人の身体を乗っ取るー
そんな力を持つ、夢のような薬だー

それを、彼はついに完成させたのだー。

修は小さいころから、馬鹿にされてばかりの人生だったー。
生まれてすぐに両親は交通事故で死亡、
親族に引き取られるも、そこでは”面倒な子供だけを押し付けやがって”と
陰口を叩かれー、
小さいころから実験が好きだった彼は
”マッドサイエンティスト”なんてあだ名をつけられて
いじめられー
就職後は、理不尽なパワハラを受けて、そのまま退職させられたー

散々な人生ー。

そんな彼は、世の中に復讐するためー
小さいころから好きだった化学分野の知識を生かし、
世界中からあらゆる素材を入手しー
”憑依薬”の研究を行っていたー。

そして、何年もかけて、
ようやく”他人に憑依することができる薬”を完成させたのだー。

「ーーーー」
まずは近所に住む女子大生・須美(すみ)を乗っ取って
男どもを破滅させてやるー

そんな風に思っていたその時だったー

「ーーん???」
あまりに浮かれていてー
他の化学物質を混ぜる実験をしている最中だったことを忘れていたー。

「ーーあっ!?!?!?」
見たこともない化学反応を起こし始めているのを見て、
慌てて修は、煙が出ている方に向かって走り始めるー。

完成したばかりの憑依薬を握りしめたまま、
「あっ!あっ!あっ!あっ!」と、
充満した煙を振り払おうとしているとーーー

「ーーーーあっ…!えっ…!?」
煙が晴れたころにはーー…
見知らぬ場所にいたー

「ーーえ…?」
周囲を見渡す修ー。

ボロボロな白衣を着たまま、困惑の表情を浮かべるー

木々と、土だけの何もない道ー。
雨が降っているのに気づき、修は
「ーあれ…さっきまで晴れていたはずではー…?」と
首を傾げるー。

だがー
その時だったー

「んっ…?」
憑依薬を握りしめたまま、何か物音が聞こえてきていることに気付く修ー。

地面に振動が伝わるような音ー。

「なんだなんだ…?」
修がそんな風に思っているとー
鎧を着た人間たちが、馬に乗ってこちらに向かってきたー

「ーな…な、なんだ!?!?!?」
修は思わず困惑してしまうー

そして、その馬に乗った人物たちは
修の目の前までやってくると、
「ーーー何者だ?」と、鋭い目つきで
修のほうを睨んだー。

「ーな…な…な、何者って…
 えっ…?」
修は困惑しながら、挙動不審な反応をしていると、
鎧を身に着けた男の一人が、馬から降りて刀を抜いたー

「貴様…怪しいやつめ…さては密偵か?」
その言葉に、修は「か…か…刀!?」と唖然としながらー
「じ、銃刀法違反だぞ!」と叫ぶー

「じゅうとうほう…いはん?」
首を傾げる鎧の男ー

「貴様!何を言っている!名を名乗れ!」
鎧の男の言葉に、
修は困惑しながらも、
「お…お、俺は、魚沼 修ですけどー…」
と、言葉を口にしたー

「ーー魚沼ー…
 では、もう一つ問うー。
 こんな戦場の真っただ中で何をしていた?」

その言葉に「せ、戦場ー?」と、修は困惑するー

「い、い、いつからここが戦場になったんだ!?」
修の言葉に、鎧の武者たちは逆に困惑したような
表情を浮かべるー。

「何を言うておるー…?」
鎧の武者の言葉に、
「ーーっていうか、あんたたち誰だ!?」
と、修が叫ぶと、
一人の武者は「無礼者!」と声を上げるー

だが、指揮官らしき武者が手を上げると
「ーーー我らは今川(いまがわ)の者ぞー」
と叫んだー。

「ーーい、い、今川?」
修が困惑すると、
「ー貴様は、織田(おだ)の密偵であろう?」
と、険しい表情で武者が修を睨みつけたー

「お、お、織田…!?だ、誰のことだ?」
修に織田なんて知り合いはいないー。
そんな風に思いながら混乱していると、
修はハッとしたー

”今川と織田ーこれってー”

ふとそう思った修は、雨に打たれながら
「ーい、今は何年だ!?」と、叫ぶー。

「ー何?」
武者は困惑の表情を浮かべてから
「永禄3年ー」と答えたー。

「えい…えい… な…」
修は唖然としながら
「令和 …令和4年ではないのか?」
と、聞き返すー

「ーれいわ?」
武者たちは逆に困惑しながら
「ー貴様!先ほどから何を言っている!
 それにその珍妙な格好はなんだ!?」
と、叫ぶー。

「ーーち、珍妙って…これは白衣だぞ!」
修がそう叫ぶと、
「怪しい奴め!ひっとらえろー」
と、悲鳴を上げる修を強引にとらえて、
そのままいずこかへと連行していったー。

”ど…どうなっているんだー永禄ったら
 戦国時代だぞ”

修はそんなことを思いながら
ハッとするー

”そういえばー”

先程、憑依薬完成時に、並行して作業していた実験ー
あれは”未来を見るための薬”を作っていたものだったが、
”時間の流れに干渉すること”に先日初めて成功していたー。

先程ー
その実験に使っている特殊な薬が化学反応を起こして
煙が出ていたことを思い出すー

そして、その煙に包まれた修は、ここにいたー。

「ーまさか…俺はタイムスリップしてしまったのか?」
そんなことを呟いていると、
修は武者たちに座らされて、
立派な鎧を身に着けた男の前に立たされたー。

「ーー何者だ?」
その男が問うと、先ほどまで修を連行していた武者が、
「はっ…陣営の近くをうろついていた怪しい男にございます」
と、頭を下げながら答えたー。

「ー織田のものか?」
男がそう問いかけて来るー。

修は「い…いえ」と、恐怖を感じながら返事をするー

先程まで余裕の態度を取っていた修ー
だが、自分が戦国時代に来てしまったとなれば
話は変わってくるー。

何故ならー
”怪しい男”認定されてしまえば、
そのまま斬り捨てられてしまうからだー。

「ーーではそちは何者か。答えよ」
威圧感のある男の言葉に、修は「えっ…え…えっとー」と、
震えながらやっとの思いで言葉を絞り出したー

「ー答えぬか よかろう」
そう呟くと、男は背後にあった刀を手にして、
修のほうを見つめたー。

「ーーーーひっ!?」
修は情けない悲鳴を上げながら、
なんとか自分が助かる方法を考えたー

”こいつは誰だー?
 いや、待て、考えろー
 冷静に考えるんだー”

必死に頭を回転させる修ー

”さっきからこいつらは俺を”織田の者”だと言っているー”

”永禄3年と言えば、確か桶狭間の戦いが行われていた時代だなー”

学力だけはある修は、そんなことを考えながら
目の前にいる人物のことを推測したー

「い、い、い、い、今川様ー!」
修は叫ぶー

戦国時代ー
有力な勢力として名を馳せていたものの、
織田信長の軍勢と桶狭間で対峙ー、
圧倒的軍勢にも関わらず
織田軍の奇襲攻撃を受けて
滅び去った今川軍ー

それを支配する今川義元(いまがわよしもと)であると、
修はそう考えて頭を下げたー

「ーーーー命乞いなら聞かぬぞ?」
義元の言葉に、修は震えながら跪いて言葉を口にするー

想像以上に、遥かに威厳のある人物だー

後の歴史には”桶狭間の戦いで負けた”というイメージばかりが
先行して、そうなっているのかもしれないー。
だが、仮にも彼は当時、大勢力を支配していた人物ー

修などより、威厳があるのは事実だったー。

「ーー雨ー…」
修は周囲を見渡すー

桶狭間の戦いー
最後には雨の中、奇襲を受けて今川軍は壊滅したと、
修は聞いているー。

「ーーーお、俺は、今川様にー
 重大な情報をお伝えに参りましたー」

修は叫ぶー。
”助かりたい”その一心でー

「ほうー。それは何か」
義元の言葉に、修は叫んだー

「ー織田信長が間もなく、奇襲を仕掛けてきます!
 その攻撃で、あなたたち今川軍は壊滅するー」

「なんだと!?」
周囲の武者が怒りの形相で叫ぶー。

「ーたわ事を申すな!」
周囲の罵声を浴びながら、修は叫んだー

「嘘じゃない!俺は…俺は今川様を助けるためにここに来たんだ!」
適当な言葉を威勢よく叫ぶ修ー。

「ーーそのための”力”がここにあるー!」
修は必死にそう叫ぶとー
手に握ったままだった完成させたばかりの憑依薬が入った容器を見せつけるー。

刀に手を掛ける周囲の武士たちー

”くそっ…なんで俺が戦国時代なんかにー”
そう思いながらも、修は
”助かるためにはどうすれば良いか”で頭がいっぱいだったー。

せっかく念願の憑依薬を完成させたんだー
とにかく、とにかくこの場を潜り抜けなくてはー

「ーこれは、他人の身体を乗っ取ることができる薬だー!」
修が叫ぶー。

「ー貴様!何を申しておる!?」
武士たちが叫ぶー。

「ーーー戯言を申すな!」
様々な方向から罵声を浴びせられる修ー。

だが、修がそれでも怯まなかったー。

「嘘じゃない!!!これは人を支配できる薬だ!
 その使い方は、俺にしか分からない!」

修は”その言葉”を忘れなかったー
人を支配できる薬、という部分を信じてもらうことが
できたとしても、”誰でも使える”と知られてしまったら
修は速攻で斬り捨てられる可能性があるー。

だからこそ、”使い方は自分にしか分からない”という部分を
熱烈に、アピールしたのだー。

周囲の武士たちが刀を持って今にも襲い掛かって来そうな雰囲気の中ー
修は、身体の震えに気付かれないように、
必死にー周囲を見つめたー

その時だったー

「ーーはははははははははははは!」
今川義元が高らかに笑うと、
周囲の武士たちに合図を送り、
修の方に近付いてきたー

「ーー他人を支配する薬ー。
 面白いー。
 戯言ではないと申すなら、見せてみよ」

義元の言葉に、威厳を感じながらも
修は「ーお望みであれば」と、返すー。

歴史においてー
”織田信長にあっけなく敗北した”彼だがー
こうして実際に対面してみると、
威厳を感じるー。

”これが戦国大名の威圧感ー”と思わずには
いられない状況の中、
彼は”呪文のようなもの”を適当に唱えて
”本当は飲むだけでいいのに”誰にでも使えると
悟られないよう、憑依薬を飲んでみせたー。

”効果は一口だけで出るー”

修は、その場で突然霊体となりー
そしてー
武将の一人に憑依してみせたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうしてー

どうして、こんなことにー

「ーーー……」

どうしてー。

修は、何度も何度もそう思いながら、
屋敷の中を歩いていたー。

「どうしてー……」
修はそう思いながら、
自分の手を見つめたー

綺麗な手ー
華奢な身体ー
自分にあるはずのない胸ー。

そして、長めの髪ー。

「ーーどうして…
 どうして、俺がー
 こんなことにー!?」

修は、可愛らしい声で叫んだー

あれから数週間ー
修は”女”の身体で
表向きはくノ一として今川家に仕えていたー

桶狭間の戦いで”憑依”を今川義元の前で披露した修は、
無事に命は助かったー。

だが、色々とあって、今、修は女の身体に憑依しているー。

「ーーくそっ…どうして!?どうしてこんなことにー…?」

憑依薬を手に、戦国時代にやってきた修の、
過酷な物語は今、始まったばかりだったー。

②へ続く

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皆様こんばんは~(こんにちは???)
最近はようやく少しずつ涼しくなってきましたネ~!

まだまだ暑い日もありますが、
暑さが苦手な私にもようやくゴールが見えてきました…☆

今回の作品は、憑依薬を持ったまま
戦国時代にタイムスリップしてしまうという
とんでもない設定のお話デス~!

戦国時代にすごく詳しいわけではないので、
「こんなのないよ…」というのはあるかもしれませんが、
私なりに、雰囲気が出るようには作ったつもりデス…!

今回は、憑依するところまでが中心
(タイムスリップさせて、戸惑う描写を書いてたら
 ①があっという間に…!)でしたが、
次回以降は憑依要素もたくさんあるので、
ぜひ楽しんでくださいネ~!