心の密室②~出口~(完)
 作:無名


不気味な遊園地に幽閉されてしまった少女。

彼氏に助けを求めて、出口に辿り着くも…?

明かされる衝撃の真実とは…?

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「---ふ~♡ はぁ~♡」
樹奈は興奮しきった様子で、
ベットに座って足を組むと、
甘い息を吐きながら鏡の方を見た。

「ふふふふふ…♡」
うっとりとした表情で自分の足を触る樹奈。

そんな樹奈に”ノイズ”が聞こえる。

まだ”残っている”

「もう、お前に用はないんだよ」
樹奈は不気味な笑みを浮かべた。

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誰も居ない遊園地ー

そこからの脱出を目指す樹奈と彼氏の清二は、
”出口”に辿り着いていた。

出口を前にして、樹奈は清二の方を見る。

「もう…~~~~~…」
清二が何かを呟いたが
最初の言葉以外は聞き取れなかった。

「……だいじょうぶかなぁ…」
樹奈が不安そうに呟く。

紫色の渦。
飛び込んだら、二度と帰って来れない気がする。

「---…大丈夫だよ。
 俺だってこうして遊園地に入って来れたんだし、
 潜り抜ければ、遊園地の外に出られるはずさ」

清二が言う。

「--う、うん」
樹奈は不安そうに、遊園地の出口へと近づく。

地面はそこで途切れ、
その先に広がるのは紫色の世界ー

そもそも、この先を歩くことはできるのかー。
地面が途切れている場所より先に
足を進めたら
そのまま、紫の渦巻いている世界に吸い込まれて
2度と戻って来れないのではないかー

そんな不安が樹奈を襲う。

「--…いったい、何が起きてるの?」
樹奈は呟いた。

遊園地には誰もいない。
遊園地の外の空間は、まるで存在しておらず
ここだけ切り取られているかのように、周囲は紫の渦しか存在しないー。
時間が進まないー。
外部に連絡が取れないー。

どう考えても、ふつうじゃない。

「--…さぁ」
清二はそう答えた。

「でも、ひとつだけ分かることがある」
清二は優しく微笑んだ

「いつまでもここにいちゃいけない」

確かにその通りだ。
この遊園地では何かが起きている。
まるで、外界から隔離されているようなー。

早く、出なくてはいけない。

樹奈は意を決して、
”世界が途切れているかのような”
遊園地の出口の方に歩きはじめる。

入場ゲートの向こうはー
何も、ない。

地面はそこで千切れていて、
紫色の異空間のような渦が、
広がっているだけー。

樹奈は一歩一歩、歩いていくー。

「-----…!」

ふと、樹奈の頭に疑問が浮かび上がってきた。

パニックになっていて
そんなことを考える余裕もなかったが、
”どうして、清二にだけ連絡がついたのか”
そしてー
ここに到着してから、清二は対して
この状況を不思議に思う素振りを見せていないー

樹奈は足を止めたー

「どうした?」
清二が口を開く。

清二は、動こうとしない。

”一緒に逃げる”目的なら
清二も一緒に来てくれるはずー。

それなのに、
清二はまるで、樹奈が、この紫の渦に
足を踏み入れるのを待っているかのようだー。

自分は、入ることを避けるかのようだー。

「-----!」

樹奈は”ある大事なこと”を思い出したー

”そういえば、さっきー”

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お昼にパフェを食べ終えた
樹奈と友人の茉鈴・佐子の三人。

「そろそろ空いてきたんじゃない?
 ジェットコースター」

茉鈴が言う。

さっきは行列が出来ていたので
後回しにした
ジェットコースター。
それをもう一度見に行くことにした三人。

そのときだったー

「--樹奈!」
背後から、声がした。

「--え?」
樹奈と茉鈴、佐子が振り返ると、
そこには樹奈の彼氏・清二がいた。

2か月前に告白されて
付き合い始めた彼氏。

「あれ?清二?どうしてこんなところにいるの?」

今日はデートの約束もしていないし
偶然とは言え、遊園地で清二と会うなんて。

「--ん?いやぁ、俺も友達と一緒に遊びに来ててさ。
 茂木と唐川も一緒だよ」

清二が笑った。
茂木、唐川は、樹奈たちと同じクラスの男子生徒の名前だ。

「--あ、邪魔しちゃ悪いよね!
 樹奈、わたしたち、先にジェットコースターの前に
 行ってるから!」

佐子が気を利かせてそう言うと、
茉鈴と共に先にジェットコースターの方に向かった。

「---ふふ」
清二が笑う。

「-?」
樹奈が不思議そうな顔をすると
清二は答える。

「--茂木と唐川はいないよ」

とー。

樹奈はその言葉の意味が分からず首をかしげる。

「--俺一人で遊園地に来たんだ。
 本当は、月曜日に学校で、って思ったんだけど
 ”アレ”が届いたから我慢できなくてさ」

「--アレ?」
樹奈が不思議そうに言うと、
清二は微笑んだ。

そして、突然清二が抱き着いてきて
樹奈にキスをしたー

意識が突然遠のいていくー

遠のいていく意識ー

”憑依薬ー”
清二が耳元でそう囁いたー

10分後ー
ジェットコースターの前で
茉鈴と佐子は、
樹奈と合流したー。

樹奈はなんだかとても嬉しそうだった。

「--清二くんとのお話は済んだ~?」
彼氏との関係を茶化す茉鈴。

その言葉を聞いて樹奈は微笑んだ。

「--うん。もう”用”は済んだよ。」

”この身体は、俺のものだー”

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遊園地の出口に向かって
歩いていた樹奈は、足を止めて呟いた。

「-----…ここ、本当に、出口なの?」

樹奈の言葉に
清二は表情を歪める。

「--わたし…思い出したの…
 清二…わたしに、何をしたの…?」

樹奈は、意識を失う直前の曖昧な記憶を
ようやく思い出して
清二の方を見た。

清二は遊園地にいたー。
清二に急に抱き着かれてキスをされて
それで意識が遠のいて、
目を覚ましたら、”不気味な世界”にいたー。

「--憑依薬…って、そう言ってたよね?」
樹奈が言うと、
清二はにっこり微笑んだ。

「なんだ…最後の最後まで面倒くせぇやつだな」
笑いながらそう呟く清二。

「…樹奈、俺がお前に告白した理由は
 何だか知ってるか?」

樹奈が不思議そうな顔をしていると
清二は樹奈を指さして微笑んだ

「そのエロくて可愛い身体が欲しかったからだよ」

「え…」
樹奈は彼氏からの言葉にショックを受ける。

「俺はお前のエロい身体を手に入れるために
 お前に告白したー

 お前の身体を奪いたくてさ、
 ”憑依薬”ってのを買ったんだけどさ、
 ”相手が心を許している状態”じゃないと
 相手の身体を乗っ取る過程で拒絶反応が起きて
 俺が逆に消えてしまうー

 そう、説明書に書かれていたからさ、
 面倒くせぇけどお前に告白して
 お前に心を許してもらえるまで我慢したんだよ」

清二はニヤニヤしながら言ったー
告白したのは、樹奈の身体を奪うためー
2か月間付き合ってきたのは、憑依の条件である
”相手に心を許してもらう”を達成するためー

「--も、もしかして…
 清二…わ、、わたしに…その、、、
 ひ、憑依したの…?」

樹奈が震えながら言うと、
清二は拍手しながら「正解~!」と大声で叫んだ。

「--ここ何だと思う?」
清二が両手を広げながら不気味な
遊園地を見回す。

「ここはお前の精神世界だよ!
 なんで遊園地なのかは知らないけど
 小さい頃からの思い出の場所なのと
 乗っ取られた時にいた場所が遊園地だから…ってとこかな?

 ここは現実じゃない。
 俺に憑依されて、心の奥底に封じ込められた
 お前が作り出した精神世界さ!」

清二はそこまで言うと、
ニヤリと笑みを浮かべて囁いた。

「樹奈ーお前の身体は俺のものだ。
 今日から俺が樹奈として生きて行くー」

清二だけがここにやってこれたのはー
樹奈の身体を奪った張本人だからー

樹奈に憑依して、樹奈を乗っ取ったあと、
清二は、”まだ心の奥底に樹奈が残っている”ことに気付いた。

そして、こうして精神世界に入り込んで
樹奈のところにやってきたのだった。

「--せ、、清二…冗談やめてよ…」
樹奈は泣きそうになりながら言う。

「冗談じゃない。お前はもういらない。
 俺が欲しかったのはお前の身体だけだ。
 中身は、いらない」

清二は冷たく言い放った。

そしてー
清二の姿が変形していきー、
樹奈の姿になる。

「くくく…今日から、俺が樹奈だ!」
可愛らしい声で叫ぶ清二。

「--う、、嘘…わ、、わたしの身体を返して!」
泣き叫ぶ樹奈。

「--うるせぇ!中身はいらねぇってんだろ!
 さっさと消えやがれ!」
樹奈の姿をした清二はそう言うと、
樹奈を乱暴に押し飛ばした。

「きゃあ…!」
樹奈は紫の渦の方に飛ばされて、
転落しそうになるー

必死に途切れた地面を掴んで、
宙にぶら下がる樹奈。

上から、清二が樹奈を覗く。

「そこは、出口だよ」

清二がニヤニヤしながら言う。

紫の空間に落っこちそうになる樹奈が
必死に叫ぶ。

「た…たすけて…」

そんな樹奈を見て
樹奈の姿になった清二は笑った。

「そこに落っこちれば、もう何も分からなくなる。
 ジャマなお前は消えて
 お前の身体は完全に俺のものになる」
樹奈の姿をした清二がケラケラと笑う。

「--大人しくしてればよかったのにさぁ
 お前、邪魔なんだよ。
 せっかくお前の身体を奪ったのに
 頭の中にピーピーお前が叫ぶ声が
 聞こえるからさ。」

清二はそこまで言うと、
樹奈に手を差し出した。

樹奈は目に涙を浮かべながら清二の方を見た。

清二は、樹奈の姿ではなく
元の自分の姿に戻っていた。

「ほら、樹奈、俺の手を掴んで」
優しい彼氏の姿ー。

「--せ、清二…」
樹奈は泣きながら呟いた。

普通に考えれば清二が樹奈を
助けるつもりがないことは分かるー。

だがー
樹奈はもうそれすら考えられないほどに追いつめられていた。

憑依されて身体を奪われた樹奈の心は、
”心の密室”とも言える、この遊園地の中に
閉じ込められてしまっているー
ここから出るにはー
清二にすがるしかなかった。

そうでなければ、樹奈は
出口もなく、人もいない
遊園地に永遠に閉じ込めらることになってしまう。
身体を好き放題使われながらー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自宅ー。

樹奈はニヤニヤしながら
ネットショップでエッチな服や
大人のおもちゃを購入していたー

樹奈は、俺のものだー。

これからは、
女として、存分に快感を味あわせてもらうー

「---ふふふ」
樹奈は興奮しながらネットショップでの注文を
終えると、目をつぶった。

「さてー」
樹奈は椅子に腰かけて足を組むと、微笑んだ。

”そろそろ、消すかー”

目をつぶった樹奈は、
”心の中の世界”の光景を見たー。

そして、呟いたー

「---解放してやるよ、恐怖からー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---解放してやるよ、恐怖からー」

遊園地ー。

樹奈の手を掴んでいた清二は
笑みを浮かべた。

「--え…」
樹奈は泣きながら清二の方を見た。

「---言っただろ。中身はいらないって。
 俺がお前に告白したのは
 お前が欲しかったんじゃなくて
 お前の可愛くてエロい身体が欲しかっただけだよ。

 そうだな…
 梅干しを食べる時、タネは捨てるだろ?
 それと、同じさ」

そう言うと、清二は、樹奈の手を離した。

樹奈が紫色の渦の中に落ちて行く。

「いやああああああっ!!!」
樹奈は叫ぶー

樹奈の心はー
完全に、”消えた”

清二が笑う。

樹奈の精神世界ー
遊園地が、崩れて行くー。

「ふふふふふふふ…
 あははははははははは~~~♡」

自分の部屋で足を組みながら
ゲラゲラと笑う樹奈。

樹奈の心は消したー

これで、身も心も、完全に俺のものだー

「---今日から俺が、、
 いいや、わたしが樹奈だ…
 くくく、あははは、ひゃははははははは~♡」

完全に樹奈を乗っ取った清二。

樹奈は自分の身体を狂ったように抱きしめて
嬉しそうに笑い続けたー

おわり


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コメント

今回は2話完結のお話なので、
これで完結になります~!

私は毎日のように新作を作っているので、
時々こういう「憑依された側」の意識が
どうなっているのか、みたいな作品も
書きたくなって、何個か今までにも書いています~!

この作品はその中でも、特に不気味な部類で
私の中でも嫌な感じの印象が残っているので
今回、この作品を選んでみました!

元々書いたのはいつだったっけ…?なんて思いながら
確認してみたら「2019年」…!

時間が経つのはやっぱり早いですネ…!

次に解体新書様をご覧いただいている皆様に
お会いできる日も、またあっという間にやってきそうデス…

お読み下さり、ありがとうございました~!