1年後の美貌②~堕落~
 作:無名


憧れの子に憑依してから1年ー。

千奈津として、輝ける人生を
送るはずだった隼吾はー…?

--------------------

部屋でポテトチップスを食べながら
ぶつぶつと呟いている女がいたー。

部屋は散らかり、
女は、だらしのない格好で
コーラを口にする。

髪はぼさぼさで
その表情は、暗い。
生活リズムの乱れから
彼女の体重は増え、
今や”太っている”と誰もが口にするぐらいに
太ってしまっていた。

「---」

彼女の名は
影野 千奈津ー
大学1年生。

高校生の頃までは、
その可愛らしさと明るい性格で
クラスの憧れの存在として
注目を集めるような存在だった。
本人はそのことを気取ることもなく、
優しい性格で、友達も多く、
先生からも信頼されていたー。

だがー
それはもはや”過去の栄光”だ。

可愛らしい容姿は、見る影もない。
度重なる夜更かしや不健康な生活から
肌は荒れ果てて、体重は大幅に増加した。

可愛らしさも、スタイルの良さも
何もかもが失われた。

毎日整えられていた髪も傷み、
今ではまったく手入れがされていない。

服装も、簡単な格好ばかりになった。
”おしゃれ”ということを
理解できなかったのだー。
最初は楽しかった
けれど、だんだん外出するたびにおしゃれを
するのが面倒臭くなって
今に至る。

今は、家の中ではランニングシャツ1枚だったり
誰も見ていないからとトランクスしか履かなかったり
することもあるー。

「---こんなはずじゃ…こんなはずじゃ…」
友達は、いなくなったー。

成績は、がた落ちして、
大学にもついていけなくなったー

輝かしい人生が、待っていたはずなのにー

千奈津が豹変した理由を、
他の人間は知らない。
周囲は、精神的に何か悩んでしまったことにより、
おかしくなってしまった、と考えている人が
多かったが、実際は違うー

千奈津は、1年前、憑依されたのだー
同級生の隼吾によってー。

隼吾の暗い性格が、千奈津を暗くしー
隼吾のいい加減で飽きっぽい性格は
千奈津の美貌を保つことはできなかったー
不規則な生活が、千奈津の体型を壊し、
そして、隼吾の自分勝手な性格が
千奈津の友人関係を壊したー。
そして、千奈津の頭の回転をもってしても、
隼吾の性格では、成績を維持することもできずー
瞬く間に千奈津という人間の理想像は崩れたー。

「---くそっ!僕の…僕の何がいけなかったんだ!」
千奈津は怒り狂った形相で叫ぶー。

千奈津は大学にも行かなくなったー

憧れの人生を奪いー
上京して、一人暮らしを始めてー

なのに…
なのにー。

千奈津は部屋の隅にあるメイド服を見つめるー

一人暮らしを始めたばかりのころー
まだ、千奈津が美貌を保っていたころに
おたのしみをしていた服ー。

散々太りきってしまった今はもうー。
そのメイド服を着ることもできないー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

1年前ー

千奈津に憑依した隼吾は、
千奈津として学校に向かった。

友達に囲まれて楽しい時間を過ごす千奈津。

「最高だ!」

そう思ったー

存在すら無視されているような自分とは違うー

学校では楽しい時間を過ごし、
帰宅してからは、千奈津の身体を存分に楽しんだー

親に内緒で
過激な服を買って、部屋でそれを着ては
エッチなポーズを決めて見せる。

「あぁぁぁ…千奈津ちゃん♡」
鏡の前で、メイド服を着てポーズを決める千奈津。

自分が千奈津にこんなことをさせているなんてー

いろいろなポーズを決めてー
自分の身体を撫でまわして
ゾクゾクしてー

最高の人生だー。

隼吾自身の身体は、死んでしまったようだー。
学校で、隼吾の死が、先生から伝えられた。

予想通り、クラスメイトたちは
ほとんど気にしていない様子だったが、
もう隼吾にとっても、そんなことは
どうでもいい。
自分は、千奈津なのだからー。

高校卒業を目前に控えたタイミングでの憑依ー

だが、隼吾はすぐに厳しい現実を知ることになる。

「--う…」
千奈津は、体重が1キロ増えたことに気づく。

「やっぱ、好きなように食べるのはダメかなぁ…」
千奈津はそう呟きながら
部屋に戻ると、高校の制服を着たまま、ポップコーンの袋を開けて
メロンソーダを飲みながら部屋でゴロゴロしていたー

隼吾は大食いで、
スナック菓子や炭酸飲料が大好きだった。
千奈津に憑依したあとも
その生活を続けていたことで、
スグに体重に変化が現れたのだ。

「--ま、まだ全然大丈夫でしょ!
 もうちょっと太ってきちゃったら
 考えればいいし、1キロぐらいじゃ見た目に変化ないし」

千奈津は、ゴロゴロしながら
スマホゲームに夢中になるー。

友達とのLINEは面倒臭いので
適当に済ませるー

少しすると、いつものメイド服を着て
胸を揉んだり、ポーズを決めたり、
千奈津に卑猥な言葉を言わせたりして
ゾクゾクを楽しんだー

「はぁぁ…さいこー!」
メイド服のまま、ベットに横たわり、
また、ポップコーンを口にする千奈津ー。

乗っ取られた千奈津は、元の生活とはかけ離れた
”堕落した”生活を送り始めていたー

・・・・・・・・・・・・・

「--大丈夫?」

卒業式の4日前ー
千奈津は髪が乱れていることを
クラスメイトに指摘された。

ポニーテールで登校することが
多かった千奈津。
だが、最近は面倒臭いから、という理由で
髪の手入れもしなくなっていたー

「え?あ、うん!大丈夫大丈夫~
 髪とか面倒くさいだけでしょ!」
千奈津は笑う。

「そ、そっか」
友達が苦笑いする。

友達が、彼氏の話を千奈津にし始める。
よく、彼氏のことを千奈津に相談していた友達。

しかしー

「--え~?あいつきもいだけじゃん~!
 よくあんなやつと付き合ってられるよね~」

千奈津に憑依した隼吾は
千奈津の口調やそぶりを真似は
していたもののー
性格の悪さやデリカシーの無さを
隠すことはできなかった。

「---…ちょ、ちょっと!そこまで言わなくても」
別の友達が言う

「--え?だってきもいのは事実だし」
千奈津は笑いながら言う。

「---そういう言い方されると不愉快なんだけど!」
友達が声を荒げる。

「--え?何怒ってんの?
 本当のこと言っただけじゃん!」
口論になるー

千奈津は、次第に孤立していくー
憑依してから、わずか数週間で、
千奈津から離れる友達もできるぐらいだったー

だが、
そうこうしているうちに卒業式を迎えー
千奈津は”孤立する前に”卒業することができたー

友達と卒業後の打ち上げに参加する千奈津ー

千奈津があまりにも大食いするものだから、
周囲の友達は唖然としていたー

「♪~」

そして、千奈津は、憑依される前に
千奈津が予定していた通り
都内の大学に進学するため
一人暮らしをスタートする。

この点は、隼吾にとっては
好都合だったー。
一人暮らしを始めれば
今までのように隠れてエッチなことを
する必要がなくなるー。

千奈津がバイトで貯めたお金を
散財して、一人暮らしの空間に
自分の好きなものを集めて
あらゆる服を購入した。

「あはははははっ!
 夢の女子大生生活~♡」

千奈津はメイド服を着たまま
嬉しそうに呟いたー

けれどー

「--洗濯物…明日でいっか」
「食器洗い面倒くさいからコンビニ~!」
「ごみ捨ては来週でいいや~」
「トイレ掃除面倒くせぇ~」

大学に入学してから半月ー

千奈津は鼻をほじりながら
ポテトチップスを食べていたー

最初は、家でもある程度
おしゃれな格好をしていたが、
最近は面倒臭くなって
ランニングシャツやパンツ一丁で
過ごすことも多くなった。

鏡にだらしのない千奈津の姿が写る

「--はは…どうせ誰も見てないし」

ポテトチップスの袋を放り投げる。

「あ~~~」
部屋に寝ころびながら、
漫画を読み始める千奈津ー。

千奈津の体重は、憑依してから既に
5キロ以上も増えていたー
けれどー
まだ、外見上はそこまで変化はない。

「--ま、もうちょっと太ったら考えるし」

千奈津は、げっぷをしながら
コーラのペットボトルをごみ置き場に
放り投げるー。

”ごみ置き場”とは自分の部屋の中で
ごみを捨てる場所のことだー。

千奈津として一人暮らしを始めた当初は、
女の子っぽい部屋を作って
一人で女の子していたのだが、
最近はそれもしなくなった。
部屋は次第に薄汚れて
半分ごみ屋敷のような、そんな状態に
なりつつあったのだった。

そしてー
大学生活にも異変が起き始めたー

最初でこそ、その容姿や
高校時代から付き合いのある友達繋がりで
友達がいたものの、次第に”孤立”していった。

「わたし、かわいいでしょ?」のような
傲慢な態度や、
協調性のない態度、
そして、みるみる劣化していく美貌ー。

元々の性格が災いして、
どことなく暗い感じになってしまい、
それも周囲を遠ざける要因となった。

成績も、伸びない。

「くそっ!」
千奈津は悪態をつくー。

「どうして?」

使っている脳は千奈津のもののはず。
千奈津は成績優秀だった。
それなのにー
どうして?

周囲についていけないー
大学のノリについていけないー

2か月もしたころにはー
友達はほぼいなくなり、
大学内でも成績はボロボロの部類に
入るようになってしまったー

そしてーーー

「--くそっ!!!
 なんだこの身体!」
家で怒鳴り声をあげる千奈津。

体重は、既に10キロ以上も増えて
小太りな部類になってきていたー

「くそっ!くそっ!くそっ!」
ぼさぼさの髪で部屋に戻ると
千奈津はイライラしながらコーラをがぶ飲みする。

そして、ストレス発散に、と
Hな動画を見始めると、その動画と同じことを
し始めた。

最近の千奈津の趣味はエッチな動画を見て
千奈津の身体で同じことをすることー

縛られる系のHな動画を見て
千奈津はできるだけ動画を真似て
自分の身体を縛って
気持ちよさそうに喘ぎ始めた。

「ひっひひひひ♡
 大学なんてクソ喰らえだ!」

千奈津は顔を赤らめながら叫ぶー

既にー
”かわいい”感じや
”綺麗”な感じは失われつつあるー。

狂ったように喘ぎながら
千奈津は「僕は僕の好きなように生きるんだ!
僕は、、わたしは可愛い可愛い千奈津よ!!」と
叫んだー

・・・・・・・・・・・・・・

夏ー。

千奈津は、汗だくになっていたー

スタイルの良さは失われてー
太ってしまった千奈津ー

「もうちょっと太ったら、やせればいいし」
言い訳して、
”やせる”ことを先延ばしにするー

元々千奈津が持っていた服は
着られなくなったー

自分で服を買ったことのない隼吾は、
何を買っていいのかもわからず
適当な服を購入した。

おしゃれからはかけ離れているー

チェック柄のシャツに、
サイズがあまり合わないスカートという
格好で大学にやってくる。

「--ねぇ…千奈津…」
高校時代からの友達が
心配そうに言う。

もう、声をかけてくれる人も
限られている。

「--…ほんとうに、、大丈夫?」

千奈津があまりにも急に変わったために
この友人は、千奈津のことを心配していた。

「---大丈夫っていってるでしょ!」
千奈津は、常にイライラした様子だったー

そんな態度を続けていた結果ー
千奈津は、完全に孤立したー

・・・・・・・・・・・

部屋で暴れまわる千奈津。

「くそっ!!くそっ!!!!くそっ!!!!」
肉を揺らしながら
ドシドシと歩き回り、
怒鳴り声をあげるー

ご近所からも”迷惑”と言われ始めた千奈津ー

美貌もー
人望もー
健康もー

何もかも失った千奈津は、
自暴自棄になり始めていたー

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


サブタイトルからネタバレしてましたが(笑)
憧れの子の憧れの人生は、
憧れたような人生ではなくなってしまいました…!

その場の欲望を満たすためだけの憑依と違って、
その子の人生をそのまま完全に奪ってしまうような憑依だと
色々気づく部分も、苦労する部分もありそうですネ~!

次回が最終回デス!
どのような結末を迎えるのか、ぜひ見届けてみてください~!