デス・マンション③~脱出~(完)
 作:無名


最終日―。

幽閉されてしまった豪邸からの脱出を目指す3人の少女。
残る3人のうち、誰かに館のマスターが憑依しているー。

憑依されている子を見つけ出し、
脱出することは出来るのだろうか…。

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増本 悠子(ますもと ゆうこ)
ショートヘアーの活発系女子

藤井 早紀(ふじい さき)
気弱な、大人しい女子生徒。

乃木 瑞帆(のぎ みずほ)
協調性に欠ける、自分勝手なお嬢様


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12:00

最終日。
今日、憑依されている子を見つけ出し、
その命を奪わなければ、
”敗北”なのだと言う。

この屋敷の”マスター”は、
タイムリミットを迎えたとき、どうなるのかについては
言わなかった。

けれどー。
既に命を奪われた
生徒会長の真登香、
そして天然女子の幸代の二人を見る限り、
無事に生きて返してくれるとは思えない。

恐らくはー

「--大丈夫?」
悠子が、青ざめている顔色の早紀に話しかけた。

「--え?あ、う、うん…」
早紀は不安そうに返事をした。

最後の食糧であるパンを、3人で分け合いながら食べる。

パニックを起こしていた真登香が死んだことで、
3人は一応の平穏を取り戻した。

けれどー
この中の一人が憑依されているなんて…。

3人とも、残り二人の様子を伺いながら、
”疑いたくない”という気持ちと、
”もしかして”という気持ちが交錯しているー。

「・・・・」
早紀はパンを食べながら、
悠子と、瑞帆の表情をさりげなく見つける。
二人とも、複雑な表情をしている。
その心中を、早紀にはかり知ることはできなかった。

「ーーーー」
活発女子の悠子も、二人のことを密かに観察していた。
早紀かー、それとも瑞帆か。
いや、そもそも憑依されている子なんて居るのだろうか。
緊急事態だったとは言え、昨夜、真登香を槍で殺した
瑞帆のことを、悠子は疑っていた。
けれどー、早紀が憑依されていないとも限らない。
悠子は、答えを出せずにいたー。

「とにかく、ギリギリまで助けを待つべきね」
瑞帆はそう言いながらも、二人の観察を欠かさない。
自分が憑依する立場の人間だったらー?
恐らくは、本人のフリをするだろう。
早紀か。悠子か。いや、もしかするとー
”無意識のうちに”自分が憑依されているのかもしれない。
瑞帆はそんな風にも思い始めていた。

18:00

マスターは沈黙を続けている。

今日が終われば”ゲームセット”
一体どうなるのだろう?

少女は、モニターが並んだ部屋で
足を組みながら微笑んでいた。

「---くふふっ♡」
イヤらしい笑みを浮かべて、
”残りの二人”の恐怖に歪んだ表情を見つめる。

”不安”や”絶望”
何とも言えない二人の表情をモニター越しに見つめて、
少女はゾクゾクとしたー。

「ふふふ…
 イイ顔じゃない」

少女は、写真を見つめるー。

自分は、裕福な家庭に生まれた一人息子だった。
母親と、父親に、囲まれて。

けれどー。
ある日、強盗がやってきた。
金目当ての強盗だ。
幸せな家庭は壊されたー。

強盗に襲われた時、父と母は
”自分の身を守ること”を優先した。
息子である”ボク”を見捨てた。

人は、極限状況下に置かれると、パニックを起こす。

ーー母は、息子である”ボク”を、
強盗の方に押し飛ばした。

ボクは、そのまま強盗に刺されてー死んだ。

結局、母と父も、その強盗の手によってー。

そして、この屋敷は朽ち果てた。
でも、”ボク”の残留思念は消えなかった。

人は汚いものー。
この屋敷にやってくる人間を、幽閉しては、ボクは
人間たちに恐怖を味あわせて、始末した。

けどー
今回はー。

”初めて女子高生がやってきた”

可愛いー。
こんな子たちになって、ボクはもう一度人生をやり直したい。

そう思った。

「---くくく…ボクはこの女として、生きる」

館の”マスター”は、鏡に映る可愛い顔を見ながら
表情をゆがめた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、早紀…。悠子が見当たらないんだけど?」
瑞帆が訪ねると、早紀は首をかしげた。

「…わ、私も見てない…」
早紀が戸惑いの表情を浮かべる。

20:00-

あと4時間しかない。

このタイミングで、悠子が姿を消した?

「--」
瑞帆は早紀を見つめながら思う。

「---」
そして、早紀も瑞帆を見つめる。

今、”ふたり”になっているこの状況が正しいのか。

それともー。

”目の前に居る友達”こそが、
悪魔なのか。

「---とりあえず、悠子を探しましょう」
瑞帆は言った。

ワガママな彼女は、冷静だった。

残る3人の中でも、一番冷静だったかもしれない。
ワガママ、それは”一人で生きる”ということー。
他人に属さない生き方をしている彼女は、
メンタル面において、強かった。

こういう環境においては、一番適していたのかもしれない。

23:00ー
あと、1時間しかない。

「あ、、、」
悠子は、目を覚ました。

屋敷の中の隠し扉を見つけて、
その中に入った悠子は、古びた日記帳を見つけた。

それを読んでいるうちに、ロクに眠らず行動していた
悠子は、眠ってしまった。

時計を慌ててみる悠子。
23:00ー
もう1時間しかない。

それは、
この屋敷の”マスター”とされる人物のものだった。

「---マスターって…」
悠子は呟く。

マスターは、死んでいるー
そう、30年も前にーーーー。

「いやああああああああっ!」

外から、早紀の叫び声が聞こえた。

「早紀ー?」
悠子は慌ててその部屋から飛び出す。

そこにはーーー
血まみれになって倒れた瑞帆の姿があった。

「--瑞帆!?
 ど、どういうこと…」

早紀が真っ赤にそまったナイフを手に、
泣き崩れている。

「--早紀…?」
悠子が早紀に声をかける。
早紀は、涙ぐんだまま悠子の方を見た。

「--の、、、乃木さんが、急に…襲ってきて…」
早紀が泣きながら言う。

「--み、瑞帆が」
瑞帆の身体を確認する。

既に、息は無い。

「わ…わたし…乃木さんを…
 刺しちゃった…どうしよう…どうしよう」

泣きじゃくる早紀。

悠子は立ち上がって放送機の
方を見つめる。

早紀を襲ったということは、
マスターが憑依していたのは、瑞帆。

ならばー

「--わたしたちの勝ちよ!
 早くここから出しなさーーー」

そこまで言いかけて、悠子は凍りついた。

”瑞帆が憑依されていたなら、
 なぜ、”ゲーム”が終わらない?
 なぜ、まだゲームが続いている?”

悠子はハッとして振り返った。

早紀が、悠子の方を見る。

「---どうしたの?」
早紀が尋ねる。

「--早紀、あんた…」
悠子が言うと、
早紀は、口元を三日月のようなカタチに歪めた。

「--どうしよう…
 わたし…殺しちゃった…!」

早紀が笑いながら言うー

「--大好きな…友達を
 この手で…殺しちゃったぁ!」
早紀が狂気の笑みを浮かべた。

「---あ、あんただったのね!」
悠子が叫ぶと、
早紀は瑞帆の死体を踏みつけながら笑った。

「うふふふふふふふぅ~♡
 せいか~~い!気づくの遅かったね!!!」
早紀が、弱気な仮面を脱ぎ捨てて、
見下すような目付きで悠子を見つめる。

「--…わ、、わたしたちを弄んで…!
 何が目的なの!?」

悠子が叫ぶようにして言うと、
早紀は答えた。

「--ふふふふふ!
 お前たちの歪む顔が見たいの!

 あの生徒会長の真登香ちゃんだっけ!
 最高だったよ!
 優しい生徒会長が恐怖で狂ってく姿!

 あは、あは!あははははははははぁ~」

早紀が舌をペロペロしながら笑いまくる。

「--黙って!
 早紀を返しなさい!」

悠子が叫ぶと、
早紀は自分の胸を触りながら言う。

「--イヤだね!
 これはもう、ボクの身体だ!

 いや、わたしの身体!
 最初に言ったよねぇ?
 わたしを殺さないと、君たちの勝ちはない!」

早紀が胸を揉みながら言う。

「早紀!目を覚まして!」
悠子はすかさず叫んだ。

けれどー。
早紀はスカートをめくって、濡れた下着を
見せながら笑う。

「くふふふふふ♡
 どう、わたし、ボクの意思に従って興奮しちゃってる…

 今、わたしの身体が感じていること…わかる?
 興奮よ…!
 ゾクゾクするの…!
 大人しいわたしが友達を殺してる状況!
 そして、わたし自身のえっちな体に…!
 
 うひ…うひひひひひひっ!」

早紀が時計を見る。

23:50-

「--さぁどうするの?
 ”わたしを殺す”?
 それとも、”おまえが死ぬ”?」

早紀が挑発する。

悠子は歯を食いしばって早紀を見つめる。

早紀が初日、
幸代と一緒に見張りをしていた際に、居眠りした”フリ”をしたのは、
天然女子である幸代は一人になれば、必ず毒入りの食事を
食べに行くと計算していたからー

生徒会長の真登香に襲われた際は、正直、焦った。
けど、真登香に不満を感じていた瑞帆が、真登香を
殺すことは予想できた。
だから、大声で悲鳴をあげた。

「--あんたに、私は殺せない」
早紀が、”自分が王だ”と言わんばかりに
悠子を見下すー

「ーーいい身体してるじゃない」
早紀が今まで見たこともないような、
イヤらしい笑みを浮かべて、悠子を見る。

悠子に近づいた早紀は、
悠子の胸をわしづかみにした。

「--くふふ・・・♡ 悠子ちゃん…イイ体してるね」
早紀が、エロい表情を浮かべながら、
汚らしく笑みを浮かべる。

「やめて!」
悠子が早紀の手を払いのける。

「--いいから触らせろよ!」
早紀はそう言うと、乱暴に悠子を地面にたたきつけて、
その上にのしかかった。

「---どうせお前は死ぬんだよ!
 ならわたしの好きにさせなさいよ!」

早紀がペロリと唇を舐めると、
悠子にキスを始めた。

「--や・・やめ…っ!」
悠子は、密かにポケットに隠していたナイフを手につかむ。

瑞帆と同じように、悠子も”護身用”に
武器を持っていたのだ。

これを早紀の首に突き立てれば、
全ては終わる―

”憑依されている子を殺せば”

でもーー

悠子は、早紀に胸をつかまれながら、
時計を見る。

23:55---

「---ねぇねぇ、早紀、
 肝試ししようよ…」

悠子が、今回の肝試しに早紀を誘った時のことを思い出す。

「--え…肝試し…」
早紀は怖がりだ。
イヤそうな顔で悠子を見る。

「--大丈夫大丈夫!
 何かあったらわたしが守るから。ネ?」

悠子がそう言うと、
早紀は微笑んだ。

「うんーー、悠子ちゃんが居れば…
 安心だね…」

そう、守ると約束したーー。

親友の早紀を殺すことなんて…

小学生の頃からずっと一緒だった早紀を殺すことなんて…。

悠子にとっては、肝試しに来たメンバーの中で、
誰よりも長い付き合いの早紀。
その早紀を殺すことなんて…。

「---あはははははは♡悠子ちゃん!悠子ちゃぁぁぁん!」
早紀が狂ったように笑っている。

悠子は、目を閉じた。

もう、いいー。
わたしが死ねば、
早紀はもしかしたら、いつか助かるかもしれないーー

なら…。

”悠子ちゃんーーーー”

声が聞こえた。

気づくと、辺り一面、真っ白な空間にいた。

「--早紀…?」
悠子の目の前には、早紀が居る。

早紀は悲しそうに、けれども、優しく微笑むー。

「悠子ちゃん…
 わたしのことはもういいから…」
早紀が言う。

「いいって…?
 …だめだよ!わたし、早紀を見捨てて逃げることなんて!」

悠子が言うと、早紀は悠子の手を優しく掴んだ。

「その気持ちだけで十分だよーー。
 このままじゃ、二人とも脱出できないーー。
 だったら、悠子ちゃんだけでも逃げて」

早紀の言葉を聞き、悠子は涙を流す。

「でも、わたし…」
悠子が言うと、早紀はさらにつけ加えた。

「--知らない男の人に、体を操られたままなんて
 わたし、イヤだよ…

 悠子ちゃん…
 ”守ってくれる”って約束したよねーー。

 だったら…わたしを…
 わたしを……刺して・・・」

早紀は涙をこぼして、そう言った。

そしてーーー

23:57---

「---あひひひひひひひひひ!
 この女の身体で、ボクは女子高生としてーー」

ーーー!?

早紀に憑依しているマスターは異変に気付いた。

「----早紀!!!ごめんね…!!!!」
悠子が泣きながらそう叫ぶと、早紀の喉元にナイフを突き立てた。

「か……?」
早紀は驚いた表情を浮かべて、悠子を見る。

「----う、、、嘘……だ…」
早紀はそのまま血を流してその場に倒れる。

悠子は悲しそうに倒れた先を見つめた。

「----…」
早紀がうつろな目で悠子を見て、ほほ笑んだ。

「----ありがとう……」
そう言って、早紀は動かなくなった。

「---ごめん…ごめんね…」
悠子はその場に泣き崩れた。

23:59---。

悠子は、ゲームに勝ったのだ。
友達を失いながらもー。

ボーン ボーン ボーン

古時計が音を立てる。

0:00--

タイムリミット。

”うひゃひゃひゃひゃひゃ、
 ゲーム終了~~~~”

放送機から声が聞こえてきた。

悠子は放送機を睨みつける。

「ーーーわたしの勝ちよ!
 早くわたしをここから出して!」

悠子は、マスターが憑依していた早紀を殺した。
このゲームは、悠子の勝ちだ。

まだ声がしているということは、
マスターは恐らく、早紀の身体から抜け出したのだろう。

”ざんねーーーん!
 時間切れだよ”

マスターが言う。

「はぁ!?ふざけないでよ!
 23:59には、あんたが憑依していた早紀は死んでたわ!」

悠子が言うと、
マスターは大笑いした

”あのさぁ、ボク、最初に何て言ったかな?”

マスターが言う。

「---はぁ?
 
 ”君たち4人で、ボクに憑依された一人を見つけ出すこと
 君たちが生き延びる方法は、それだけだ”

 って言ったでしょ!?
 
 今更話を変えるなんて、許さないから!」

悠子が怒りを込めて言うと、
マスターは”約束は守るよ”と言った。

”君たち”4人”で、ボクを見つけ出せって言ったよね?”

マスターが言う。

「え?」
悠子の顔色が青ざめる。

”君たち4人で”

「---…ま、、、まさか…」
悠子が絶望の表情を浮かべる。

”そう、4人全員で、ボクを見つけることが勝利条件。
 最初に言った通りさ。

 だからさぁ、君たちは初日の夜の時点で負け確定
 だったんだよ。
 毒入りの食事喰ってあの子が死んだ時点でねぇ”

「---ふ、、ふざけないで!この鬼畜!」
悠子が叫ぶ。

”ゲームする前に、
 ちゃ~んと、ルール理解しなきゃ駄目だろう?

 敗北者の君からは、大事なモノを貰うよ”

「----や、、やめて…助けて!」
悠子が恐怖に震える。

”--ボク、あの早紀とか言う体で外に出ようと思ってたけど
 君に殺されちゃったから、仕方ないや!
 キミの身体を貰うことにしたよ!”

マスターはそう言うと、
悠子の周りに闇の霧のようなものが現れた。

「や、、やめ…!」

霧が、悠子の口をこじ開けて侵入していく

「がぁ…あっ…やめ… ぐほっ!」
悠子はその場に苦しそうに蹲る。

そしてーー

「----ふふふっ♡」
悠子は不気味にほほ笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

山奥で、4人の女子高生が遭難して死亡したー。
生存者は、増本 悠子という生徒のみ。
肝試しの最中だったらしい。

警察も、世間も、この事件には深入りしなかった。

何故ならー

今まで、”あの館”に関わった人間はーーー

だから、マスコミも警察も
”悠子が生き延びた”ということ以外に
一切、触れようとしなかった。

「--ねぇねぇ、悠子、
 最近、なんか女らしくなったよね?」

クラスメイトが悠子に声をかける。

そこには、ロングヘアーになった
おしゃれな悠子の姿があった。

部活は退部した。
スポーツなんか、彼女にとって、どうでも良かった。

今、悠子は”夜のスポーツ”にはまっている。

「ふふ・・・そう?」
悠子は微笑む。
少し、体もイヤらしくなったー。

「--彼氏でもできたの?」
クラスメイトが尋ねる。

「--んふふ・・・ひ・み・つ♡」
悠子はそう呟くと、不気味にほほ笑んだ。

”この身体は、ボクのものだー”

悠子は、口元にイヤらしい笑みを浮かべて、
その日の夜の予定を考え、
一人で興奮するのだった…

おわり



コメント

ついに「憑依されている子」が判明しました~!☆
皆様の予想通りでしたか?それとも、予想外…?

予想通りだった皆様はおめでとうございます~!☆

犯人を捜せ!系は、私自身も書いていて
楽しいジャンルのひとつなので、
また機会があれば挑戦してみたいと思います~!

…私も、また10年後ぐらいにこの作品を自分で読み返せば、
誰が憑依されているのかも忘れた状態で、
お客さん側の立場でこの作品を楽しめたりする…かもしれませんネ笑

ここまでお読みくださりありがとうございました!