ある日、目を覚ますと異世界の姫になっていた@ 作:無名 「−−きみぃ!こんな企画なら、うちのポチでも企画できるよ」 企画部長の山盛 次郎(やまもり じろう)が言う。 「−−−は、申し訳ございません」 サラリーマンの 幾田 俊介(いくた しゅんすけ)。 30代後半の彼は、 大学卒業後にこの会社に就職した。 だが、 上司に恵まれず、出世もできず、現代にいたる。 金銭的余裕もなく、休みもあまりない。 恋愛もする余裕はなかったし、趣味を楽しむ時間さえなかった。 だからこうして、何もないまま、30代後半になってしまったのだ。 「申し訳ない申し訳ない申し訳ない…!」 山盛部長が机を叩く。 「君は政治家か!」 部長の怒号に、周囲が失笑する。 「−−謝るんじゃなくて、行動で示せよ!きみぃ!」 山盛部長の言葉に、 俊介は唇を噛みしめながら机に戻る。 「−−−」 くそっ!と内心で毒づく。 俊介の企画は決して悪いわけではない。 山盛部長は、俊介にパワハラを仕掛けているのだ。 「ま、お前は悪くないよ」 ニヤニヤしながら後輩の足利(あしかが)が言う。 「先輩…気を落とさないで下さい!」 優しい20代の女性社員・麻美(まみ)が言う。 後輩にも完全に舐められている。 俊介は悔しがりながらも、 どうすることもできずに居た。 ・・・・・・・・・・・・・ 夜ー ボロいアパートに帰宅した俊介。 大家のおばさんから 「−−あんた、騒音の苦情が来てるよ!」 と嫌味を言われた。 だがー 騒音を出しているのは俊介ではない。 隣の部屋に住んでいる 30代で、ロックミュージシャンになることを目指している男の騒音だ。 だが、ガラが悪いため、 大家のおばさんは、びびってしまい、彼に注意することが出来ず、 代わりに隣に住んでいる俊介に嫌味を言ってくる。 とんだとばっちりだ。 「くそっ!つまんねぇ人生だぜ」 俊介が、チューハイの空き缶を放り投げる。 家に帰っても、やることがない。 テレビもないし、楽しい事と言えば、スマホで ツイッターを開くことぐらいだ。 テレビは昔あったのだが、 見ていないのにTHKが受信料受信料うるさいので、 集金の人にテレビをそのまま持たせて追い返した。 「−−はぁぁ…生き難い世の中だぜ」 そう呟きながら俊介は布団に入る。 どうせ、明日も同じ1日だ。 いや、明日だけではない。 来週も、来年も、10年後も、 同じような日々だろうー 山盛部長が居なくなっても、 また別の嫌なやつが現れる。 それだけのことだ。 前任の薄禿部長が転勤になったときも喜んだものだが、 何も変わらなかった。 もういい、寝よう。 夢だけが、 娯楽だー。 俊介は、今日もいつものように眠りについた。 ・・・ ・・・ ・・・ 「−−姫…!姫様!」 聞きなれない老人の声で、俊介は目を覚ます。 「姫様!ひめさま!!」 やかましい声ー 俊介は目を開いた。 「−−−!?」 物凄く広い部屋にいるー。 自分は椅子に座っていて、 横では、老人が何かを言っている。 「−−あ、、え???」 俊介は混乱した。 「−−まだ寝惚けておられるのですか…?」 老人が言う。 「−−まったく、父君が急死なされたのですから もう少し姫様としての自覚を持ってもらいたいものですな」 老人の言葉に俊介は首をかしげた。 「姫様?」 俊介の言葉に、老人も首をかしげる。 「−−ほれ、しゃきっとしなされ…! シャイン王国の姫君としての自覚を…」 老人に言われて、俊介は自分の身体を見る。 高貴なドレスを身にまとった自分がそこには居たー 「−−えっ?うわああああああ!」 俊介は叫ぶ。 老人も、整列していた臣下たちも驚く。 「−−な、、なんだこの格好は〜〜!」 立ち上がり、叫ぶ姫。 ”姫様はご乱心か” 整列していた騎士団はそう思った。 「−−ひめさま!」 老人が叫ぶ。 「いい加減、目を覚ましなされ。 間もなく罪人のジローがここに連れてこられます。 姫様がその処遇を決めるのですぞ」 老人の言葉に、 俊介は困惑しながら言った。 「あ、あんたは誰だ…?」 と。 口から出るのは、高い声ー それに違和感を感じながら、 俊介は”あぁ、夢か”と納得しながら ”どうせ夢ならこの状況を楽しむか”と決める。 「だ、、、誰…!?」 老人が驚く。 「わ…私は姫様を幼いころからお世話しております マグナスですぞ!」 老人・マグナスがそう言う。 「あ、そ、、そうか、、いや、、そうね…マグナス! あは、あはははははははは!」 笑いだす姫。 周囲はさらに困惑していく。 だがー 一番困惑しているのは俊介だった。 夢だとは分かっているけれど、 自分が女ー ましてや姫になるなんてー 「−−−姫様!」 兵士が頭を下げる。 そして、罪人・ジローが、引っ立てられてきた。 「−−−!!」 姫になった俊介は驚いたー 連れてこられたのはー 企画部長の山盛次郎そっくりの男だった。 「−−街で盗みを働いていた男です。 姫様。王族の名のもとにこの男に裁きを」 この国ではー 国王や姫が、自ら罪人への処罰を下す。 シャイン王国の基本的方針ー ”慈悲の心”の名のもとに。 「え?お、、俺…?」 俊介が言うと、 側近の老人・マグナスは言った。 「お、、俺…? ゴホン・・・ 姫様、罪人に裁きを与えるのは初めてでございましたな。 父君がやられているのを以前見たことがあるはず。 姫様、いつものようにやれば良いのです」 その言葉に、俊介は頷いた。 「−−あ、、、そ、、そうか…いや、そうよね」 姫は立ち上がった。 そしてー ジローの方を見る。 見れば見るほど、企画部長の山盛 次郎に似ている。 「あはははははは!そうかそうか! 俺も部長にストレスを溜めていたんだな!」 姫の声が響き渡る。 側近のマグナスも、兵士たちも唖然とする。 俊介は思う。 自分が姫になっていて、 部長の山盛が罪人になっている。 なんていう夢だと。 「あははははははは!面白すぎるぜ!」 姫の身体でそう叫ぶ。 姫の声が宮殿内に響き渡り、 側近のマグナスも、臣下達も表情を歪めていた。 「−−罪人・ジロー。 貴様は、わが国で盗みを働き、 民を混乱と恐怖に陥れた。 その罪をこれから、姫様が直々にお裁き下さる」 騎士団長のカペルが罪状を読み上げる。 「−−コホン、姫様… いつも通りやるのですぞ。 お父上のやられていた通りに…」 マグナスが耳打ちした。 姫になった俊介は叫んだ。 「決まってるだろ!山盛部長〜!お前は死刑だ〜!」 俊介は、姫の身体でそう叫んだ。 ざわ… 王宮内が一斉にざわつく。 「ひ…姫様…!」 マグナスが困惑する。 「−−−死罪…?」 騎士たちも首をかしげる。 だがー この国で、姫の権力は絶対だった。 「−−−はっ」 戸惑いながらも、騎士は一礼すると、 ジローを掴み、その場で切り捨てた。 血しぶきが飛ぶ。 「ひっ!?!?!?」 俊介は思わず悲鳴を上げた。 ふざけて”死罪”と言ったのに、 ホントに死罪になってしまった。 しかも、血ー 「う…うわああああ」 うろたえる姫。 「−−これ、姫様はお疲れのようだ 自室にお連れしろ」 側近・マグナスが言うと、騎士の何名かが、 姫の方に歩み寄る。 「−−はっ。姫様。お部屋までご案内致します」 「ひっ…え?あぁ、はい、ありがとうございます」 サラリーマンの癖で、俊介は唐突に敬語で 答えてしまった。 王宮を歩く俊介ー 姫の格好で歩くのは落ち着かない。 王宮を歩きながら、さっきの光景を思い出す。 山盛部長に似た、ジローが斬り捨てられた場面を。 トラウマになりそうだ。 だが、それを頭から振り払う。 …それよりも、綺麗な髪ー 程よい大きさの胸ー 「な…なんだこれは…ぐふふふふ」 つい、一人で笑みを浮かべてしまう俊介 王宮の風景を見渡しながら 俊介は思う。 ”に、しても凄い夢だな” と。 自分にこんな願望があったなんて驚きだ。 まぁ、毎日、疲れてるから、 夢が醒めるまでは楽しませてもらうぞ。 ジローを死罪にしたことなんてどうでもいい。 夢なのだから。 ポジティブに行こう。 俊介はそう思いながら部屋へと入った。 「では姫様。我々はこれで」 案内してきた2名の騎士が頭を下げて立ち去る。 「俺が…いや、、わたしが…姫」 部屋にあった鏡を見ながら、姫になった俊介は微笑む。 姫の顔は、俊介の想像よりもきれいで、 整った顔立ちだった。 「−−−ごくり」 俊介は唾を飲み込む。 やけに、リアルな夢だ。 「−−こ、、、この身体…今なら」 胸に少し手を触れてみる。 ドキッ! 少し触れただけで、大声でやったぜ〜!と叫びたくなるぐらいに 興奮してくる。 「か…髪…おんなの…かみ」 髪を触りながらはぁ、はぁと荒い息を出す姫。 さらさらした髪… ぺろり… 少しだけ舐めてみる 「−−うぁぁ…ぁぁぁぁ」 なんか、甘い香りがする。 そしてー 鏡を見ながら思うー ドキ ドキ 今なら、服を脱ぐのも自由ー 「−−−お、、俺の身体だし、 俺の夢だしー」 「いいよなー」 にこっとして鏡を見つめながら 服を脱ごうとしたその時だった。 「−−−姫様!失礼いたします」 ドキィィィィィイ 「ひぃっ!ご、ごめんなさい!」 サラリーマンの癖で、謝ってしまう俊介。 入ってきた可愛らしいメイドがきょとんとしている。 「あ…わ、、私こそ申し訳ありません。 姫様を驚かせてしまって」 メイドが、頭を下げる。 「あ…い、、、いえ、、、わ、、私こそ」 姫のフリをしながら俊介は言う。 それにしても、長い夢だ。 「−−あ、、あの、、お着替えを…と思いまして」 「き…着替え」 「はい…」 メイドが、鎧のようなものを差し出す。 「−−こ、、これは?」 戸惑いながら聞くと、 メイドは答えた。 「これから騎士の皆様の演習の視察に お出かけになられるお時間ですので、 お着替えを、と思いまして」 「き…着替え…?」 俊介は頭の中で、着替える姫を想像したー そして、 この可愛らしい姫が凛とした騎士の姿に なるのを想像したー 「ぶふぅ〜!」 姫は鼻血を噴きだして その場に倒れてしまった。 「ひっ…姫様!」 メイドが叫ぶ。 あぁ…幸せだーーー ここで、目が覚めるんだなー 俊介は、そう思いながら意識を失ったー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ がばっ! 目を覚ました俊介は 時計を見る。 遅刻だー。 そう思ったー だがー 遅刻、ギリギリだった。 「ふぅ〜!やっぱ夢か それにしても、リアルだったな」 俊介は苦笑いする。 そして、会社に向かう。 会社に到着すると、 俊介はあることに気付いた。 「−−山盛部長は?」 山盛部長が居ないのだ。 「−−−え?あぁ、山盛部長なら、昨日、自宅で急死したけど? 知らなかったか?」 同僚が言う。 「−−え」 俊介は思うー。 「−−−」 俊介は ”夢”で、山盛部長に良く似た”ジロー”を死罪にしたことを思い出す。 「ま…まさかな」 ジローの死罪。 山盛部長の死ー。 俊介は得体のしれない不安を感じていたー Aへ続く |