フュジティブ”D”
 作:無名


※フュジティブの後日談となります!
 フュジティブの1〜3を先にお読み下さい!


市村 龍平(いちむら りゅうへい)
高校生。凶悪犯の座間の憑依を突き止めた。

市村 孝彦(いちむら たかひこ)
龍平の父親。座間を追っていた。

松本 彩香(まつもと あやか)
高校生。龍平の彼女。座間に憑依されていたが救出された。

清水 由香里(しみず ゆかり)
高校生。生徒会副会長で、読書好き。

竹内 美香(たけうち みか)
高校生。お嬢様育ちでわがまま。

小笠原 淳子(おがさわら じゅんこ)
高校生。ショートカットが似合うスポーツ好きの少女。

座間 良一郎(ざま りょういちろう)
凶悪犯罪者。少女に憑依していたが龍平により消され…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


能ある鷹は爪を隠すー。

能ある犯罪者は、本性を隠すー。

凶悪犯罪者、
座間 良一郎(ざま りょういちろう)は
そうして生きてきた。

今までも、
これからもー。

警察官の市村 孝彦(いちむら たかひこ)らの
懸命な捜査にも関わらず、座間が長らく捕まらなかったのは、
座間が計算高く、用心深い性格をしていたからだ。

しかし、座間は”あるミス”を犯した。

そのため、孝彦に発見されてしまった。

だが、彼には、切り札があった。
それが、”憑依薬”

座間は孝彦から逃げられないことを悟ると、
憑依薬を使い”自らの肉体”を破棄した。

そして、女子高生の体を乗っ取り、
成りすまし、高校に潜伏した。

けれど、座間は”あえて”本性を現した。
孝彦の息子で高校生の龍平(りゅうへい)の前で。

龍平の彼女、松本 彩香(まつもと あやか)に
憑依していた座間は、一芝居打った。

それは、彩香の強い意志によって、
彩香の外に追い出されて、
龍平たちによって、消滅させられるという”演技”をー。

龍平たちは、座間が消えたと思っている。
けれど、座間は消えては居ない。

座間は、今も、とある生徒に憑依している。

なぜ座間が一芝居打ったか。
それは”座間は消えた”と龍平たちに思わせるため。
逃走中、女子高生たちに憑依した場面を孝彦に見られた。
やつらは、永遠に”座間が誰に憑依したのか”
探し続けるだろう。

だから、消えた”芝居”をしたのだーー


そのおかげで、
あれから2ヶ月、誰にも邪魔をされず、
女子高生ライフを満喫している。

表では、普段どおりを装っている。
記憶も読み取れる。

”この女”として、日々を楽しんでいる。

だがー。

「−−−−−−いちいちむかつくヤツだ」
自分の可愛らしい部屋で、少女はそう呟いた。
”誰にも見られていないとき”は、唯一素を
出せる時間。

部屋の壁に、市村 龍平の写真が貼られている。
憎き、警察官、龍平の写真が。

彼女はその写真に、カッターを付きたてた。

狂気の笑みを浮かべながら
彼女はその写真を切り裂き、
足で何度も何度も、踏み潰した。

「は〜っ…は〜っ…」
少女は息を荒げてベットに座る。

大胆に胸元を強調したおしゃれな服装と
大胆なミニスカートを穿き、
彼女は微笑む。

家でなら、どんな格好をしていても、
誰にもおかしく思われない。

”バイトはやめた”
この女が貯めていたお金は、全て自分の
おしゃれに費やした。

どうせ、この女に、
将来なんて無いのだから。

この女の将来は、自分のものなのだからー。

「−−ふふ、わたしはーーーー」

彼女は、自分の名前を呟いた。
そして…

「−−最高だぜ…
 心も、体も、全部俺のものだ」

そう言うと、彼女は唇を舐めながら
呟いた。

「”death”」

ー彼女は、そう呟いた。


龍平は殺す。

だが、それは今ではない。
この女が卒業を迎える日だ。

座間は、無類の女子高生好きでもある。
だからー
高校を卒業したら、この女の体にはもう、用はない。

龍平を消して、自分のからだも”廃棄”する。

そして、また、4月からの新入生に憑依するー

「−−無限女子高生ライフ…」
彼女は呟いた。

既に、2ヶ月憑依され続けている少女は、
果たして今、無事なのだろうか…。

「−−わたし、あと1年で死んじゃうの…うふふ♪」

自分の生命の危機が迫っているのに、
少女は嬉しそうに微笑んだ…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「−−本当に大変だったよ」
市村龍平は、彼女の松本彩香と共に、
学校に到着していた。

彩香は、あれから、すっかり元気を取り戻して、
2ヶ月前、座間に憑依されていたことなど、
嘘のようだ。

「ふふ…あ、そういえば、今回のテスト
 どうだった?」

2学期の期末テストの話題になる。
彩香に尋ねられて龍平は言う。

「いやぁ…英語が全然…
 ほ、ほら、僕日本人だからさ!」

龍平が言うと、
彩香が苦笑いする。

「そんなこと言って〜、
 少しは頑張ろうよ〜。
 
 ほら、私が教えてあげるから、
 放課後図書室で…」

彩香がそう言いかけると、
背後から元気な声が聞こえた。

「おっはよ〜!」
スポーツ好き女子の小笠原 淳子(おがさわら じゅんこ)
当初、座間に憑依されていた子だ。
ショートカットがよく似合う、男勝りな彼女は、
最近も変わらず、元気だった。

「−−あ、おはよう小笠原さん」
龍平が言うと、淳子はニヤニヤしながら2人を見た。

「今日もラブラブ?
 お勤めご苦労様です!」

淳子がふざけた調子で敬礼する。

龍平が警察官の息子だと知ってからはいつもこうだ。

「−−−はは…」
龍平も苦笑いしながら敬礼を返す。

「−−ラ、ラブラブって…」
彩香は顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。

「−−ふふ、恥ずかしがらなくたっていいじゃん!
 あの時、市村くん、わたしたちの前で
 彩香に愛の告白したでしょ?
 2人がラブラブなの知ってるんだから!」

淳子がテニスラケットの入ったバックを
持ちながらさらに続ける。

「−−あ、もしかしてもう、アレしちゃったりしてるの?」
淳子が尋ねる。

「あれって…?」
彩香が言うと、淳子はさらに小声で呟いた。

「えっち…」

その言葉を聞いて龍平が顔を真っ赤にする。

「えぇ〜〜〜〜〜!
 し、しないよそんなこと、ほ、ほら僕は
 彩香を大事にしてるから、ほ、ほら、ね?」

パニックになる龍平を見て、
淳子は意地悪そうに微笑んだ。

「でも、あの日、乗っ取られて服を脱いでいる
 彩香ちゃんを見て、市村くん、顔真っ赤にしてたよね?
 全くもう〜えっちなんだから!」
淳子の言葉に、
彩香が顔を赤くしてうつむいている。

「あ・・・ご、ごめんね!」
淳子はたまに悪気はないのだが、デリカシーの無い
発言をする。

「お、おじゃましましたぁ〜」
そういうと、淳子は足早に教室のほうに向かっていった。


顔を真っ赤にしている龍平を見て、綾香が呟く。

「な…何よ…」

綾香の言葉に龍平が
「ごめん、あの日のこと、ちょっと思い出しちゃって」
と言う。

男の龍平にとって、やっぱり魅力的な場面
だったのは、悔しいけれど事実だった。

「…もぉ…」
彩香がふてくされたように呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・

お手洗いで少女は微笑む。
「−−−今日も、”女の子”楽しんじゃおっと!」

そう呟いて、少女は自分の胸を触る。

「うふっ…♪ 感じちゃう…」

でも!と少女は制服を調えて笑う。

「−−−遊ぶのは、夜、たっぷり遊べるから、
 昼間は”わたし”のふりしなくちゃね…」

少女は髪を整えると、
優しく微笑みながら、お手洗いから出て行った…。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「あら?おはよう」
お嬢様育ちの竹内 美香(たけうち みか)が
教室に入ってきた龍平たちに挨拶をした。

少し前に、美香は長かった髪を切り、
今はセミロングになっている。

「−−−で、バイト辞めちゃったから
 今、新しいの探してるの」

美香が言うと、
すぐ近くの座席に座っていた、
髪の長い、清楚な雰囲気のメガネ女子
清水 由香里(しみず ゆかり)が笑う。

「−−辞めちゃったんだ、バイト…」
由香里が言うと、
美香は「だって聞いてよ!」と文句を言い始めた。

いつもの光景だ。

龍平は座席につくと、
「平和っていいなぁ」と思いながら
机の整理を始めるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・助けて!」

暗闇。

聞き覚えのある声が聞こえる。

龍平は「?」と思いながらも、
その声の方向に、吸い込まれるようにして
近づいていく。

「助けて…!願い!助けて…!」

龍平もよく知る女子生徒ー。
目に涙を浮かべて、必死に懇願する。

「助けて…!
 体…奪われちゃった…
 お願い…助けて!
 このままじゃ…」

泣きじゃくる女子生徒。

龍平がその名を呼ぼうとすると、
その少女は不気味に微笑んだ。

「−−クソガキがぁ…!
 この女は、俺のものだ!
 くくく…あは、あははははははは!」
少女が狂ったように笑う。

「−−−−!」
龍平は驚いて、目を見開いた。

座間ー?
消えたはずでは…



「うわあああああああああああ!」
龍平は叫んで、布団から飛び上がった。

冷や汗をかきながら「はぁ、はぁ」と息を吐く龍平。

「−−ゆ、夢か…」

でも、不思議と龍平には今のが夢とは思えなかった。
まるで、本当に助けを求められているかのような…。

そもそも、座間は本当に消えたのか。
龍平はふと疑問に思った。
”消えた”と思い込んでいるだけなのではないか。
もしかすると、今も誰かに憑依しているのではないか…
”成りすまして”日常に溶け込んでいるのではないか。


「−−−」
龍平は思う。

自分が座間の立場だったら、憑依薬という
圧倒的アドバンテージがあるのにヘマなんてしない。

「もしかして…」

龍平は、夢で助けを求めてきたーーー

「あれ…?」
龍平はふと思った。

ーー夢で助けを求めてきた子が、
誰だか忘れてしまった。


夢は、よく忘れる。

けれど、よりによって一番大事なことを…

「−−僕のバカ!」
龍平はそう叫んで、リビングへと向かった。


「お、おはよう」
新聞を読んでいた父親の孝彦が笑う。

「うん、おはよう」
元気ない様子で、龍平がイスに座ると、
龍平は少し間を置いてから口を開いた。


「ねぇ…あの凶悪犯罪者って本当に消えたのかな?」
龍平の思わぬ言葉に、父も、表情を険しくした。

「何か、気になることでもあるのか?」

「ううん…みんなは普通だけど…
 でも、僕、気になるんだ…
 あんなに計算高い犯罪者が、あんなに簡単に
 消えちゃうかな…って」

その言葉に、孝彦も難しそうな表情を
浮かべて「…ふむ…」と、言葉を詰まらせるしかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

少女は鞭を持って、
男を叩いていた。

「ほら!もっと、もっと苦しみなさい!」

学校とは”正反対の顔”を見せる少女。
座間に憑依されて、完全に座間の意のまま。

今日は両親が旅行で不在だ。
だから、手近な男を自宅に呼んで
存分に楽しむつもりだった。

コルセット姿で大胆に肌を露出した
少女が鞭を振るう。

「あぁ、、もっと、もっと叩いてください!」
変態男が叫ぶ。

「−−ふふふっ…叩いてくださいませ女王様、でしょ?」
少女が言うと、男は復唱するかのように、そう叫んだ。

「んふふっ、なら叩いてあげる!
 わたしに感謝なさい!」

高飛車な様子で、少女が叫ぶと、
少女は鞭で、男を叩き続けた。

興奮した少女はそのまま、男を押し倒すと、
仰向けになった男に強烈なキスを加えた。

舌を絡めさせて、腰を振りながら
メスのような飢えた表情で、少女は攻め続ける…。

「んぁあああああああっ♪」

興奮は絶頂に達し、少女は大声で叫んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の休み時間。

彩香に龍平は自分の不安を話した。

「僕、まだ、あいつが誰かに憑依している気がするんだ…」

夢を見てから、不安を拭えない。

「まさか?…だって、あの人は消えたんでしょ?」
彩香が困ったような表情で言う。

「うん…そのはずなんだ…
 でも、昨日、僕、夢を見たんだ」

不安そうに言う龍平。

彩香も不安そうに、そんな龍平を見つめた。


「−−そっか…それだけ、あの時のことが
 トラウマになってるんだよね…。
 ごめんね…わたしのせいで」

彩香が悲しそうに言う。
そんなつもりじゃなかった龍平は、
「いやいやいやいや!」と叫びながら首を振る。

「−−ごめん、僕のほうこそ。
 僕、心配性だから」

そう言って綾香の目を見る龍平。

「−−だいじょうぶ。わたしはわたしだから。
 もう、龍平を悲しませたりなんかしない」

そう言って笑う綾香の目は、
心から、信じることのできる目だった。


「うん…」
龍平は少しだけ微笑んだ。



昼休み。

淳子、由香里、美香の3人が
図書室で楽しそうにしていた。

龍平は、昨日の夢が少し気になって
なんとなく3人の様子を見に来ていた。

「−−あ、市村くん!」
生徒会副会長の由香里が微笑む。

”爆発の惨状”という小説を読んでいる。

彼女は、見た目によらず、過激な小説も読む。
それで、一度、由香里を疑ったこともあったが、
彼女は座間に憑依されてなど居なかった。

由香里は言った。
”本は、タイトルからじゃ想像もつかない世界が
 広がっている”と。

「−−どうしたの?」
淳子が言う。

「・・・?な、なによ?」
美香が髪をいじりながら気味悪そうに言う。


「あのさ…
 みんなは、みんなだよね?」
龍平は、思わず尋ねてしまった。

座間が消えたのは、もう分かっている。

だけどー。
だけど…

あの夢で助けを求めていたのがー
もしも本当に…

「またぁ?いい加減にしなさいよ。
 あたし達は正気よ!分かるでしょ?」
おしゃれ好きの美香が声を荒げる。

「まぁまぁ…」
由香里が苦笑いしながら本を机に置く。

「−−わたしたちなら、大丈夫。
 心配してくれてありがとう」

誰にでも優しい由香里が微笑む。
龍平は少し由香里の笑顔にドキッとしてしまう。

3人の中で、どちらかと言えば、一番彩香と似ているのが
由香里だからだろうか。
いつもドキドキしてしまう。
浮気はするつもりないけれど…。

「−−ご苦労様〜!」
淳子が敬礼しながら笑う。


「−−うん。そうだよね。ごめん」
龍平は3人に謝り、そのまま図書室を後にした。


「−−待って!」
図書室から出た龍平を、おしゃれ好きの美香が
呼び止めた。


「今週の土曜日、空いてる?」
美香の突然の言葉に、龍平は首を傾げる。

「へ?」

「−−あんたと、彩香で、あたしの家に来てくれる?」
美香が言う。

「−−ど、どういう…?」

美香の目を見て、龍平はゾクッとした。
美香の目が殺気だっているように見えた。

「断ったらー…」
美香が低い声でそういいかけたのを聞いて、
龍平は慌てて「い、行く行く!」と返事をした。

「じゃ、待ってるから」
美香はそう言うと、
「13時ね…」とだけ言って、
図書室に戻っていった。


「−−−ま、まさか…」

龍平は、美香に座間が憑依しているのではないか、と思い始めた。

そしてー
土曜日の突然の招待…。

お嬢様育ちの美香の家は一般の人より豪邸だ…。
その屋敷とも言える家に自分たちを呼んでどうするつもりなのか。


”バイトをやめた”

”髪型をかえた”

「−−−まさか…竹内さん…」
龍平は不安そうに、美香の後姿を見つめた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そうか…」
父の孝彦は神妙な面持ちで言う。

美香から土曜日に招待を受けたこと、
そして、最近、美香が
バイトを辞めたり、髪型を変えたり、
少し違和感があることを父に伝えた。

「…僕、行くよ」
隆平は決意の眼差しで父に伝えた。

「…分かった。気をつけろよ。
 何かあったら、すぐに連絡するんだ」

孝彦は言った。
”座間”は消えた。

そう信じたい。

けれど…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

チャイナドレス姿の少女は、自宅で大人のおもちゃを
手に、喘ぎ狂っていた。

「うへへへへへへっ、この女の声、エロすぎるぜぇ」
少女は、座間の意のままに快感に身を委ねた。


「土曜日の集まりも楽しみだな…
 うははははははは!あっははははははははぁ!」

顔を真っ赤にしながら少女は、
愛液をそこら中にばらまいていた…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

土曜日。

美香の家の前に、
彼女の彩香と共にやってきていた。

「…大丈夫?」
顔色の悪い龍平を心配して顔を覗き込む彩香。

「だ、大丈夫だよ…」

「…よかった」
彩香が微笑む。

龍平は意を決して、
ちょっと豪華な美香の家の、
インターホンを押した。

しかしー
返事がない。

「・・・留守なのかな?」
龍平がそう言いながら玄関に手をかけると、
扉が開いた。

「…は、入るの?」
彩香が気味悪そうに尋ねる。

龍平は振り向いて言う。
「−−−僕は、逃げない」

そう言って、美香の屋敷に入っていく。

長い廊下を歩く龍平と彩香。

龍平が前を進み、彩香がその後ろについていく。
龍平は思う。
やっぱり、座間は消えてなんかいない、と。
座間は竹内美香に憑依しているのだと。

「−−−きゃあっ!」
彩香の声が聞こえて、慌てて振り向く。

そこにーー
彩香の姿は無かった。

「あ、彩香!彩香!」
龍平が叫ぶ。
しかし、返事は無い。

「くそっ!座間!出てこい!」
龍平が叫びながら館を走る。

迂闊だったー。
あの狡猾な犯罪者が、そう簡単に消えるハズなど無かった。

屋敷を走る龍平。
そして、大きな扉の前に辿り着いた。


奥から、”人の気配がする”

龍平は意を決して、その扉を開いた。

部屋は真っ暗。
ろうそくの光だけが、灯されていて、
火が不気味に、ゆらりと揺れる。

「−−ざ、、座間…居るんだろ…」
龍平がおびえながら言う。

「座間…!僕はお前を許さない!
 僕は…!」

パン!パン!パパパパパパパン!

突然大きな音が響き渡った。


「うわああああっ!」
龍平は叫んでしゃがんだ。銃声?


しかし・・・
部屋の明かりが明るくなり、声が聞こえた。

「誕生日、おめでとう!」


とーー。

龍平が、ビクビクしながら顔を上げると、
そこにはクラッカーを持った、
彩香と由香里、淳子、そしてお嬢様育ちの生徒、美香の姿があった。


「へ…」
涙目で言う龍平。

「あはは、大成功じゃない!」
美香が笑う。

「今日は、市村くんの誕生日でしょ〜
 そんなビクビクしてたら警察官にはなれないぞっ!」
淳子がふざけた様子で笑う。

「−−うふふ、ごめんなさい。驚いちゃったよね?」
生徒会副会長の由香里が優しく微笑む。


「−−あ、、彩香…?」
龍平は不思議そうに言うと、
彩香が笑った。

「ごめんね。
 龍平が、またあの時のこと気にしてるの見て、
 ちょっと変わった誕生日祝いしようかなって。

 私が美香に頼んで、ちょっとしたドッキリを
 仕掛けたの」

彩香が笑う。
彼女の彩香は、ちょっとイタズラ好きの
お茶目な一面もある。


「何だよぉ…びっくりしたなぁ…」
龍平はふてくされた様子で言う。

今日は龍平の誕生日。すっかり忘れていた。

彩香が、オシャレ好きの美香に頼んで、
この誕生日祝いを企画してもらったらしい。
ドッキリも。

途中で彩香が悲鳴を上げて姿を消したのも
ドッキリだったようだ。

あの、座間の一件以降、
彩香と、由香里たち3人はより仲良しになったし、
龍平との関わりも増えていた。
今でも龍平を含めた5人は、同じ事件を共有するものとして、
仲良しだ。

・・・。


料理が運ばれてきて、
誕生日祝いが始まった。

「−−おめでとう」
美香が微笑む。

「−−−ねぇ…竹内さん」
龍平は尋ねた。

髪型のこと、
バイトを辞めたこと…

座間に憑依されたからじゃないのか…と、
疑問に抱いていたことを。

「ふふ…バカね…
 あたしがバイトを辞めたのは、
 店長がセクハラ発言をするから。

 髪を切ったのは…その…」

強気な美香が顔を赤らめる。

「−−彼氏が出来たからだよねー!」
スポーツ好きの淳子がからかうようにして言うと、
美香が「バ、バカ!余計なこと言わないで!」と叫ぶ。


ーー杞憂だった。

全部、杞憂だった。

座間なんて、もう居なかった。

「ふふ、二人とも、仲良しね…」
由香里が優しく笑う。


龍平は、いつもの4人を見て、
微笑ましい気分になった。

そしてー
ふいに、涙がこぼれた。

「ごめん…みんな」

突然泣き出した龍平を見て、彩香たちは不思議そうに
首をかしげる。

「ボク…まだ、みんなのこと、疑ってた。
 誰かに座間が憑依してるんじゃないかって…

 ごめん…
 僕、みんなのこと、信じることができてなかった」

龍平は自分の事を心から恥じた。


生徒会副会長の由香里が、優しく微笑んで口を開く。

「…ふふ、市村くんの優しさはちゃんと
 みんなに伝わってるから…
 気にしなくて大丈夫だよ…

 私たちの方こそ、心配かけてごめんね」

由香里が、龍平に微笑む掛けながら言う。
龍平は顔を赤らめて「う、うん…」と言う。

「ちょっと、何照れてんのよ」
オシャレ好きの美香が飽きれた様子で言う。

「どんな相手でも、疑ってかかる!
 警察官の鏡じゃない!」
淳子が、笑いながら言う。

「ぼ、僕、警察官になるかは分からないけど…」
龍平が淳子にそういったが、
淳子は龍平が警察官になると思い込んでいる。


「−−−龍平」
横に居た彩香が言う。

「−−もう、大丈夫…
 座間なんて、もう居ないから…」

彩香が龍平の方を見て言う。

「−−−私のせいで、ごめんね。
 いつまでも苦しめて」

彩香は、今でも、自分が憑依されていたことに
罪悪感を感じていた。

龍平は、そんな彩香に、いつまでも謝らせている
自分が腹立たしくなった。


「ーーごめん。僕の方こそ。
 もう…あの時のことは忘れよう」

龍平は決意した。

もう、過去に振り回されるのはやめよう。

今を楽しもう。
彩香を悲しませないためにもーーー。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、
誕生日祝いは終わった。

龍平は「あ〜楽しかった!」と微笑んで、
「あ、ちょっとトイレ借りていいかな?」と美香に尋ねる。

美香が「あっちよ。汚さないでね」と指を指すと、
龍平はありがとう!と言って、
テーブルのある部屋から出て行った。


ーーーー龍平の背中を見つめる”少女”が口元を歪めた

「…友達になれてうれしいよ…」
小声で、彼女は呟く。

周囲の少女たちは、気づいていない。


「ーー卒業式の日…殺してあげるから…」

それまでは何もしない。
完全にこの少女に成りすまして、
女子高生ライフを楽しむ。

座間は、計画的であると同時に、快楽主義者でもある。
こんなに楽しい女子高生の日常を、投げ出すわけにはいかない。

卒業式のその日まで、楽しんだら、
龍平を殺し、この女を”破棄”する。

また新入生に憑依して、もう一度女子高生ライフを送るー。

「わたしの命はあと1年…」
少女は微笑んだ…


「”death”」

龍平の命も、あと一年。

座間は、その瞬間を頭に浮かべて、身悶えた。
少女が、うっとりとした表情で、


”眼鏡”の下の瞳を不気味に輝かせたー。




おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

皆様からのコメント、とても嬉しかったです!
お礼に、続編をこのようなカタチで投稿させて頂きました!
楽しんでいただければとても嬉しいです!

座間が潜んでいたのは、結局、誰だったのか。
よく読めば、分かると思います!

最後に、
成りすましモノ祭りへ参加できて、
とても嬉しかったです。
皆様、ありがとうございました!