俺の名前は南条秀樹、アパートで一人住まいしている予備校通いの浪人生だ。
けれどもある日、ゴミ捨て場で拾った等身大の女の子の人形を持ち帰ったことから、俺はその人形と身体を入れ換えられてしまった。
 金髪の美少女人形の身体になってしまった俺は、身動き一つできないままゴミ捨て場に打ち捨てられて朝を迎えていた。



 ねえおねえちゃん、あれなあに。
 うわあーかわいい、おうちにもってかえろうよ。
 等身大のお人形? まだきれいだし持って帰ろうか。
 うん。よかったね、おにんぎょうさん。あれ? おねえちゃん、このこないているよ。
 ばかね、そんなわけないじゃない。朝露でしょ。



 散歩していた高校生と小学生の姉妹に拾われた俺は、ぼんやりと考えていた。

 この姉と妹どちらになれるのかな。人間に戻れるならどちらでもいいやって。





続・少しだけ優しく

作:toshi9





 二人が俺を持ち帰ったのは、藤原という表札の掛かった立派な家だった。

「おかえりなさい、美香、友香。あらその子どうしたの?」

「「拾っちゃった!」」

「拾った??」 

「捨てられてたんだ。でもきれいだし、あたしこんなの欲しかったの」

「おねえちゃんだめ、わたしのおともだちにするの」

「まあ、それ人形なの? どこの子かと思ったわ。それにしてもよく出来ているわねえ」

 二人の母親らしき女性が、姉に抱えられた俺をしげしげと見詰める。

「じゃあ私の部屋に持っていくからね」

「おねえちゃん、ずるいよ」

「明日は友香の部屋に持っていって良いから。ね、交代にしましょう」

「うん、やくそくだよ」

 美香は、俺を抱えて自分の部屋に上がった。その間も俺は碧眼の眼を通して何が起きているのかを見てるだけで、ただされるがままだった。

 っていうか、指一つ動かせない俺には何もできないんだけれど……。
 
 ベッドに座らされた俺は、それからも姉の美香にされるがままだった。

「まずあなたの名前を付けてやらなきゃね。そうだなー、ヒカル、ちーちゃん、さくら……うーん、何かピンとこないなぁ」

 俺を見ながら美香が小首をかしげる。

「あなたっていくつなのかな? そうだ、きっと中学生だよね。私と友香の間位だよね」

 俺って高校卒業しているんだけどな。

「美香と友香の間だから、さやかってどうかな。うん、これからあなたはさやかちゃんだよ」

 俺の年齢と名前を勝手に決めた美香は、手を叩いて喜んだ。

「じゃあさやかちゃん、お着替えしよっか。そうね……今のあたしのじゃ大きいし、昔の制服着てみましょうか」

 美香は押入れからダンボールを引っ張り出すと、そこから服を出し始めた。どうやら彼女の中学時代の制服らしい。

「あなたの服、汚いから脱ぎましょうね」

 昨日着せたばかりの妹の服だぞ。

 そう反論しようにも、口もきけない俺には勿論何もできない。

 着ているTシャツとミニスカート、靴下を脱がされ、下着だけにされてしまう。

「へぇ、下着もきちんとしたのを着けてるんだ」

 妹のブラジャーとショーツを着ている俺を見て、美香はちょっと感心したように呟いた。

「じゃあ、着てみよっか」

 それ以上下着は脱がされることなく、足に紺のハイソックスを履かされ、丈の短い紺のプリーツスカート、そして長袖の白いセーラー服の上着を着せられ、最後に紅色のリボンを胸元に巻かれた。

「うわぁ、かわいい」

 美香は姿見の前に椅子を持ってくると、俺を抱き上げてそこに座らせた。そして俺の足をきちんと揃え、手は体の前に合わせて太股の上に置かされる。

 俺の後ろに立った美香は、俺の肩に両手を置いて鏡を見ながら俺に話し掛けた。

「ほら、さやかちゃん、かわいいね」

 俺の目の前の鏡の中には、セーラー服を着た金髪のかわいい女の子がいた。まるでアニメか漫画から飛び出てきたようなかわいらしさだ。

 この女の子、いや人形が今の俺なんだ。俺は人形になってしまったんだ。何でこんなことになったんだ。でも……。

 絶望感が俺の中を渦巻く。だがその一方で何故かどきどきしていた。

 それでも俺の中のそんな動揺は全く表情に出ることは無い。

 鏡に映る人形の顔は無表情のままだ。

 美香は俺の髪をブラッシングし始めた。みるみる、少し荒れていた金髪がしっとりとしていく。

「へぇ〜、本物の髪みたいだ。さやかちゃんってこんな綺麗な金髪でうらやましい」

 美香が感心したように呟いている。

「ねえさやかちゃん、これからあたしとずっと一緒だよ、友香にはあげないんだから」

 美香は俺の頬にそっと口付けをした。

 俺の鼻先にふわりと女の子の匂いが漂った。







 その夜、俺を部屋の椅子に座らせたまま、ネグリジェに着替えた美香はベッドに寝ていた。

 すーすーと寝息を立てて眠っているその寝姿を見ながら、俺はぼーっと考えていた。

 俺ってこれからどうなるんだろう。

 結局美香は俺を抱こうとしなかった。

 誰かに抱かれないと入れ替わることはできない。俺は人間に戻れない。

 もし二人が俺のことに飽きてしまったら、俺はまた捨てられてしまうんだろうか?

 そしたら……。

 ゴミ捨て場から拾ってくれたのが美香たち姉妹だったから良かったものの、拾ったのがもし男だったら……。

 俺は自分が昨夜感じた衝動を思い出した。

 このかわいい姿、しかも全身がリアルにできている、感覚だってある。

 もし男に拾われてたら俺は……。

 想像した俺は、心の中でぞくっと身震いした。






「さ〜や〜か〜ちゃん、かわいいよぉ」

 ニキビ面の小太りの男が、秋葉原のホビーショップに飾られている人形のように、金髪の美少女人形になった俺をアニメの主人公の制服やメイドの格好へと次々に着せ替えさせていく。

 魔法少女姿でポーズを取らせては写真を撮り、メイドの格好で三つ指つかせたポーズで再び写真を撮り、ねっとりした手つきでスクール水着に着替えさせては頬ずりをし、さらに下から、横から、後ろからじっと眺められる。

 そしてスクール水着も脱がされて、裸で四つんばいにさせられて、背後から……。

 ぺろぺろぺろ

 う、うわぁ〜!





「ふふふ、こんな金髪の娘を一度抱いてみたかったんだ」

 ヒゲ面の中年男の手でエッチな下着に着替えさせられ リアルに出来ている胸を揉まれて、アソコを太い指でいじられる。

 あ、あふぅっ

 人形なのに内側からとくとくと愛液が溢れてくる。

「ほう、よく出来てるな、それじゃあ」

 トランクスを脱ぎ捨てた男が俺の上から覆いかぶさってくる。

 その股間で男のモノがすっかり怒張している。そして……。

 ずっ……

 う、うわぁ〜〜!!





「ふふん、なかなかいいじゃないか」

 怪しげな店の中で、マネージャーらしい蝶ネクタイ姿の男が俺を見て、ズボンの股間を膨らませている。

 裸にされた俺は、全身を縛り上げられ、天井から吊るされていた。

 白い素肌に荒縄が食い込んでくる。

 く、くるしい

「さて、最後の仕上げだ」

 蝶ネクタイの男がいぼいぼの付いた巨大なディルドーを片手に、吊るされた俺に近寄る。そして俺の股間をぐいっと広げると、手に持ったソレをぐいっと突っ込んできた。

 う、うわぁ〜〜〜!!!





 拾われた男にされるがままになった自分の姿が想像の中でどんどんエスカレートしていく。

 いやだ、そんなのいやだ!
 
 男に抱かれないと男に戻れない。それはわかる、わかるけどそんなの嫌だ。

 そんなことする位だったら、ここで、今すぐに……。

 俺は強く念じた。

 美香と入れ替わりたい!、今すぐに!!

 美香、起きろ、起きるんだ。

 俺は必死で寝ている美香に呼びかけた。勿論声は出ない。

 だがその時、鏡に映った俺の、いや、人形の碧眼が青く光り出した。

 ミカ、ミカ

 俺は必死に彼女に話しかけた。

「……ミ……カ」

 やがて絞り出すように声が出てくる。あの時俺を呼んだ声だ。

「ミカ、ミカ」

「う、うーん誰?」

 美香が目を覚ましたようだ。

「ミカ、ミカ」

「え、さやかちゃん、あなたなの? おしゃべりできるの?」

 ベッドの上で上半身だけ起こした美香が不思議そうに俺を見詰めている。

 俺は何が起きているのか悟った。あの時の俺と同じだ。

 俺を見詰めている美香の表情が段々とろんとしてくる。何かが彼女を支配している。

 多分それは……。

 美香はベッドから起き上がって俺に近づくと、力いっぱい抱きしめた。

 うっぷ

「さやかちゃん、かわいいよぉ。拾った時から、あなたをこうして抱きしめたかったの」

 彼女は俺を抱き上げてベッドに運ぶと、ベッドに横たわらせた。

 そして俺の上から圧し掛かってきた。

 うっ

 彼女の柔らかい唇が俺の唇に触れる。体のあちこちを撫でられる。髪を、頬を、胸を、足を一つ一つゆっくりと……。

 あうっ

 制服の上から胸を触られた瞬間、痺れるような感覚が俺を覆う。

 声が出せるようになったものの、依然として体は動かせない。結局俺はベッドに寝かされて美香にされるがままだった。

「かわいい。こうしているとあたしも何だか変な気持ちになっちゃう」

 美香はとろんとした目で自分のネグリジェを捲り上げると、俺の小さな手を自分のショーツの中に導いていく。

「さやかちゃん、あたしのさわって」

 俺の指先が美香の股間にある溝に触れる。

 ビクッ

 美香がその瞬間身体を震わせた。

「ああん、なんてき、気持ち……いい。自分でするのと……ちが……う」

 何度も俺の手を、指を使った美香は、はだけたネグリジェからむき出しになった己の四肢を俺の体に絡ませ、俺をぎゅっと抱きしめたまま口を俺の口に押し付けた。

 全身から快感が湧き上がる。そしてその心地良さに浸っていると、やがて俺の意識は遠ざかっていった…… … ‥ 





……俺は夢を見ていた。

「おねえちゃん、たんじょうびおめでとう」

「美香、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

 俺はテーブルに置かれたケーキに付けられたキャンドルの火を吹き消した。

 その数は16本。

 家族全員で誕生日を祝うなんて何年振りだろう。こうしてお父さんとお母さん、友香とずっと楽しく過ごせるといいな。

 そう思いながら、俺はふうっと16の炎を一気に吹き消した。

 家族から湧き上がる拍手。

 まてよ、何か違う。友香? 俺は一人っ子だ。俺の年は19じゃないか。それに此処は俺の家じゃない。

 美香? 違う、俺は美香じゃなくって……。





「はっ!」

 気が付くと、体が動くのがわかった。

 部屋の明かりはまだ灯いている。

 俺はどうなったんだ。

 自分の両手を見詰めると、それは元の俺の手でも人形の手でもなかった。
 
 白くて華奢な手、細い指、それは人間の女の子の手だ。

 俺が着ているのはさっき美香が着ていたひらひらのネグリジェだった。その胸に二つの膨らみが盛り上がっている。

 起き上がった俺の脇にはさっきまでの俺、あの金髪の少女人形が、セーラー服を着た人形が無表情に横たわっていた。

「私……どうしたの?……動けない」

 俺は人形の顔を俺の方に向ける。

「ええ? 私が……いる……あなた……誰?」

「あたしは美香、藤原美香」

「違う……美香は……あたしよ」

「もうあなたは美香じゃない。俺が、いいえ、あたしがこれからは美香よ」

 やっと人間に戻れることができた。

 もう人形はいやだ。

 自分で動けない、何をされるかわからない、いつ捨てられるかわからない。

 そうだ、人間であれば誰でもかまわないんだ。たとえ女の子だって。

 藤原美香、16歳か、そうさ、これからは俺が美香になってやる。

 俺は目の前の人形を見詰めてにやっと笑った。

「さて、この人形どこに捨てようか」





(了)
                                   2007年5月20日脱稿



後書き

 うーむ、まさか今頃になって「少しだけ優しく」の続編が完成することになるとは!
2002年に「TS研究所」に投稿した時に割合好評だったので、続編を書き始めたんですが、結局ネタを思いつかなくて、途中で断念したんです。で、そのままお蔵入りしてました。
 今回taxさんからのリクエストがありましたので、書きかけの続編を読み返してみたんですが、意外と書いてたんですよ。そこにtaxさんの要望をアレンジして書き加えてみたのが今回の作品です。
 ちなみに今までいくつかリクエストがありましたが、結局書き上がったのは
 ・ナールカムさんのリクエストを元にした「ゲルルンジュース・ラプソディ」
 ・ecvtさんのリクエストを元にした「叶えられた願いU」
 ・taxさんのリクエストを元にした「続・少しだけ優しく」
 この3本だけだったと思います。
 リクエストをいただいても全て応じられる訳ではないのですが、まあ今回は完成できて良かったです。
 ということでお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。