沙織と祐大のトラブルChange
   作:toshi9
   挿絵:jpegさん


 野々村沙織と藤崎祐大は同じ高校に通う二年生です。一年生の時に起きた様々な出来事を通して二人は今や家族もクラスメイトも認める恋人同士なのですが、ある日とんでもないトラブルに巻き込まれてしまいました。

 さて何が起きたのでしょう。


 登場人物: 野々村沙織(ののむらさおり) 17歳 高校生。祐大のことは「たっくん」と呼んでいる。
         野々村仁 (ののむらじん)   41歳 沙織の父、映画監督
         野々村香 (ののむらかおり) 21歳 沙織の姉、大学生
         藤崎祐大 (ふじさきゆうた)  17歳 沙織のボーイフレンド
         藤崎梨々花(ふじさきりりか)  20歳 祐大の姉、大学生



 日曜日の朝、姉の香と共に父親の仁に招待された沙織は、姉の梨々香を伴った祐大と駅前で合流すると、とある場所に向かっていた。
 電車を乗り継いで数駅、都心から離れた郊外の駅を出ると、そこには真新しい巨大な映画スタジオがそびえている。
 未来都市を思わせる白亜のビルを中心に数多くのカラフルな施設が建ち並んだ広大なエリアは、壁で囲まれて外の街から完全に切り離されており、二人の立つ建物の入り口からもとても全体が見渡せない。



「ほらたっくん、ここよ」
 沙織が建物の入り口を指さすと、祐大も驚いた表情でそれを見上げる。
「うわぁ、ほんとうにおっきいんだな」
「うん、あたしもこんなに広いなんて思わなかった。ここで映画の撮影もするし、一般のお客さんはいろんなアトラクションで遊べる複合パークなんだって」
「ふ〜ん、でも何だか中に入っていく人が少ないな」
「完成したばかりで一般公開はまだらしいよ。招待状に前覧会って書いてあるでしょう」
「前覧会って?」
「関係者だけが遊べる日だってことよ」
 二人の後ろから沙織の姉の香がそう解説する。
「あ、ほんとだ」
「だからあたしたち、今日は遊び放題ってわけ。お父さん、ありがとう♪」
 父親の仁の顔を思い浮かべて、心の中で手を合わせて感謝する沙織。
「ほらほら、お二人さん、なに突っ立ってるの。早く入ろうよ」
 今度は二人の後ろから、祐大の姉の梨々花がせっつく。その隣で沙織の姉の香がにこにこと見ている。そう、仁が持ってきた招待状は4枚。それを沙織と姉の香が二枚ずつもらったのだ。
「わかってるよ。それにしても何で梨々花姉さんまで……」
「何言ってるの、あたしは香に誘われたのよ。お邪魔虫で悪かったわね、祐大」
 にやりと笑う梨々花。
「ね、姉さん」
「わかってるって、あんたたちのデートの邪魔はしないから。でも祐大がもし沙織ちゃんに変なことしようとしたら」
 そう言って、梨々花はポーチからカードをすっと抜き出す。それは彼女が所属している大学の魔法研究会で卒業生から手に入れた魔法のカードだった。沙織と祐大がまだ1年生だった頃二人の心と体を入れ替えてしまい、周囲を巻き込んだ大騒動になったことのある強力な力が込められたアイテムだ。

「へ、へ、変なことなんてする訳ないよ」
 顔を赤らめ、力を込めて否定する祐大。そんな祐大を沙織は少しつまらそうに見ていた。
(たっくんったら、そんなに力いっぱい否定しなくても、あたし少しだったら変なことだって……って、あたしったら何を考えているんだろう)
 沙織も顔を赤らめてうつむいてしまう。
 そんな二人を見て、やれやれとばかりに梨々花が両手を広げる。
「はいはい、わかったわかった。全く根性無いんだから」
「え?」
顔を赤らめたまま思わず梨々花を見る祐大。そんな彼の手を沙織が引っ張る。
「たっくん、入ろっか」
「う、うん」

 魔法の研究と称して何度も祐大と沙織をトラブルに巻き込んだ梨々花が一緒に来たことに何とも不安を隠せない祐大だが、気を取り直した沙織に促されて入り口のゲートをくぐった。コンパニオンに場内マップを渡され、4人は入り口近くの施設から順に見て回ったのだが、その内容はたちまち沙織と祐大を夢中にさせた。

 ある場所では人間そっくりのアンドロイドと会話をし、ある場所では時代劇のセットで行われているの撮影を見学した。また内部が有名特撮ドラマに出てくる秘密基地の司令室そのままといった趣きの施設では二人で一緒に興奮し、香と梨々花を呆れさせた。
 それぞれの施設で趣向を凝らしたアトラクションが用意されており、それは巨大ロボット物に目の無い祐大と映画オタクの沙織を、たちまち虜にしてしまったのだ。

「たっくん、あのロボットってどうやって動いてるんだろう」
「自律型だな。まあ対戦相手としてはかなり物足りないけど」
 人気のロボットアニメの主役ロボットそのままのデザインのロボットを操って敵方ロボットを倒すロボット対戦コーナーでは、二人で夢中になって操縦機のスティックを操作した。


「ここ、思ってた以上に面白いね」
「うん、まだ半分も見てないけど、ほんとにすごいや」 
「ほら、時間がそんなに無いんだから次に行こう」
 格闘ゲームを堪能し続ける2人を香と梨々花はようやく引っ張り出す。構内のストリートを歩いていると、特撮映画の格闘シーンを撮っているのだろか、通りの一角で撮影が行われている。
「あ、あそこで撮影やってるよ」
 集まった招待客の前で、幼女を抱いたカメレオンのような姿の怪人に向かってセーラー服姿の少女が駆け寄り「待ちなさい!」と呼び止めると飛びかかった。
 勿論怪人は着ぐるみである。
 揉みあう少女と怪人。
 そして泣き出す幼女をセーラー服の少女が怪人から奪い返す。
 そしてそのアクションを、周りからスチールやカメラを持ったスタッフが囲んでいる。
「よし、カアッット」
「あ、お父さんだ」
 スタッフの中の一人、黄色いキャップをかぶった監督らしい人物は沙織と香の父親・仁だった。
 仁も4人が撮影を眺めているのに気がついたようだ。
「よおし、休憩にするか。みんな、暑い中ごくろうさん。みーなちゃん、動きがまだ硬いぞ。吹き替え無しで全部自分でやると言ったのは君だろう。もっともっと役に成りきらなくちゃ駄目だ。午後の撮影はビシビシいくからな」
 セーラー服の少女は人気アイドルのようだ。だが彼女は仁の注意を真剣な眼差しで聞いている。
「はい、監督!」
 彼女は仁にペコリとお辞儀すると、額の汗を拭いながらマネージャーらしき女性のほうに駆けていった。
 仁はスタッフに二言三言指示すると、4人に歩み寄った。

「やあ、よく来たね」
「お父さん、ここで仕事だったの?」
「ああ、このスタジオの施設を使って新作映画の撮影に入ってるんだ。ここは、現代劇の撮影はおろか、時代劇、アニメ、特撮何でも撮ることができるんだ。セットも最新の撮影機材も揃っているからな。それよりここはどうだ? 4人とも楽しんでいるか?」
「はい、面白いです! ロボットバトルができるなんて思いませんでしたし」
「市販されてないプロ仕様の機材を使っているから、動きが違うだろう」
「でもあれだけ動けると、かえって物足りない部分もありますね」
「ほう、それじゃ担当に話しておくよ」
 祐大が目をきらきらと輝かせて答えるのを、仁はにこにこと見ていた。

「まあ正式オープンしたらどっと一般客が押し寄せるだろうから、私たちのも落ち着いて仕事できるかわからんのだがな。全くうちの会社も何を考えているのか。ところで構内は一通り回ったのか?」
「ううん、まだ半分くらいかな」
「そうか、おーい、美津橋君」
 仁に呼ばれて女性スタッフの一人が寄ってくる。



「はい、野々村監督、なんでしょう?」
「君の仕事は今の撮影で終わりだろう。すまんが この子たちを案内してやってくれないか?」
「はい、監督」
「あ、お父さん、忙しいのにいいよ。あたしたち勝手に回るから大丈夫よ」
「ここは広いし、人気アトラクションで何度も遊べるのは今日だけかもしれんぞ。心配するな。な、美津橋君」
「はい。みんなにここの目玉のアトラクションを教えてあげるわよ。さあ、行きましょう」
「じゃあお父さん、がんばって」
「おう! それじゃ祐大くん、梨々花さん、またな」
「はい。今日は招待してもらって本当にありがとうございました」
「おじさん、ありがとう」

 4人は仁と別れると、美津橋について次々と映画をテーマにしたアトラクションやシューティングに参加して回った。美津橋に従って回ると、確かに効率がいい。
 やがて雨が降り出す。雷も鳴り出したようだ。
「あら、夕立かしら? ちょうどいいからあそこに入りましょう」
 美津橋が目の前の施設に4人を案内する。
「ここは……まあ説明するより試したほうが早いかな? これも目玉のアトラクションの一つなのよ。ええっと、あなた、スクリーンの前に立ってみて」
 美津橋は梨々花に対してスタジオ内に設置された巨大な青いスクリーンの前に立つように促した。
「なに? 写真を撮るの?」
 訝しそうにスクリーン前に立つ梨々花。
「そう、ちょっと撮影するだけ。でも面白いわよ。じゃあお願いね」
 担当のコンパニオンに操作を促す美津橋。
 彼女がパネルを操作すると、梨々花の前に設置された二つのレンズを備えた大型カメラがレンズを動かし始める。

「はい、いいですよ。それじゃあ皆さん、スクリーンをご覧ください」
 青一色だったスクリーンに梨々花の姿が映し出される。だがコンパニオンがパネルを操作すると、その姿は徐々に別な姿に変わっていく。
 やがて梨々花の姿は、戦隊物に出てくるようなボンデージ風の衣装を着た悪の女幹部の姿に変わっていた。



「な、なによこれ」
「モーフィングマシンですよ。難しい操作不用で撮影した人物の姿を別の姿に変えることができるんです。勿論いろんなヒーローやヒロイン、お姫様、アニメの登場人物がインプットしてありますから、いろんな変身ができるんですよ。それに動きを完全にトレースしているからスクリーンを見ていると本当に自分が変身しているみたいでしょう。どお、女幹部になった気分は?」
「よ、よかあないわよ」
 腰に手を当てて憮然と話す梨々花の姿そのままに、スクリーン上の女幹部も腰に手を当てて憮然とした表情を見せている。
 だがコンパニオンは、梨々花のそんな様子を気にするでもなく、淡々と説明を続けた。
「しかも変身した姿をこの場でDVDに焼いて、お客様にプレゼントできるの。ちょっと待ってて」
 コンパニオンが操作すると、ポンとパネルの下部からディスクが出てくる。
「はい、どうぞ」
「いらないわよ、そんなもの」
 そう言って、梨々花は憮然とスクリーンから離れる。
「あら、なかなか良かったのに。次はそうですね……こんなこともできるんですよ。そこのお二人さん、このマイクをつけたらそこに並んで立ってみて」
「はあ」
 コンパニオンに渡されたピンバッジタイプのマイクを襟につけると、沙織と祐大は並んでスクリーンの前に立った。
 再びカメラが動き出し、二人の姿をレンズに収める。
「ほら、スクリーンを見て御覧なさい」
 スクリーンには祐大一人だけが映っている。だがコンパニオンがパネルを操作すると、その姿が徐々に変化していく。しばらくすると祐大の姿は沙織の姿に変わってしまった。

「うわぁ、祐大くんが沙織になっちゃった」
 驚く香。
 スクリーンに映った沙織は、スクリーン下に立つ祐大そのままの戸惑いの表情を浮かべている。
「左の男の子の表情をキャプションして右の女の子の表情に変換しているのよ。よくできているでしょう」
「何か変な感じです。え?」
 祐大が思わず口を抑える。
 スピーカーから出てきた声が沙織の声だったからだ。
「あたし何もしゃべってないわよ」
「何で僕の声が沙織ちゃんの声に?」
「うふふ、面白いでしょう。声も完全に変換できるの。さあ今度は……」
 スクリーンに沙織が二人映し出される。一人はもちろん本物の沙織だ。だがその姿が今度は徐々に祐大の姿に変わっていく。そしてスクリーンに映った祐大は、今度はスクリーン下の沙織そのままの表情に変わっていた。

「仲のいい二人はまさに一心同体か。へぇ〜、なかなか面白いじゃない」
 魔法のカードを片手でいじりながら、梨々花が笑い顔を浮かべる。
 それを見た香が不審そうに声をかける。
「梨々花、さっきからそのカードをいじくっているけど、何なの?」
「二人が変なことをしようとしたら使おうかなって思ってたんだけどね」
「使う? 何に?」
「ん? 何でもない」

 スクリーン上での二人の姿の入れ替わりが一通り終わると、コンパニオンが再びパネルを操作する。
「それじゃ今のもDVDに……あ、あれ?」
「どうしました?」
「ディスクが出てこない。機械トラブルかな? どうしたんだろう」
 コンパニオンがパネルのキーボードを叩きながら困惑の表情を浮かべる。

 と、その時

「え? 梨々花、床が揺れてない?」
「揺れてる?」
「地震よ!」
 香が梨々花の腕を握る。
 その瞬間、スタジオが大きく揺れた!

 グラッ

「じ、地震だ!!」
 グラグラと繰り返し揺れる館内。
 梨々花と香、そして沙織と祐大はそれぞれその場にしゃがみ込んでしまう。
 その時、大きく揺れていた天井から2本のチェーンで吊るされたライトのチェーンが1本がぷつりと切れる。
 がくりと傾くライト。
 そして、1本だけになったチェーンが悲鳴を上げるように金属音を発したかと思うと、残った1本もぷつりと切れてしまった。

「沙織ちゃん、危ない!!」
 沙織に向かって落下するライトに気が付いた祐大は咄嗟に沙織に飛びつくと、落ちてくるライトからかばうように彼女を抱き締めて走った。だが揺れる床に足を取られて、数歩走ったところでこけてしまう。
 そのままその場に倒れ込む二人。

 ガシャーン

 ライトは沙織がついさっきまで立っていた場所のすぐ近くに落下し、粉々に砕け散る。そして飛び散った破片の一つが、梨々花の持つ魔法のカードに刺さると、ぼっとカードが燃え上がった。
「いやっ!」
 慌ててカードを放り捨てる梨々花。
 燃えるカードはカメラに向かってひらひらと飛んでいくと、カメラの上に舞い降りた。
「大丈夫? 沙織ちゃん」
「うん。あたしは大丈夫。だってたっくんが守ってくれたから。たっくんこそ怪我しなかった?」
「こんなの平気さ」
 重なるように床に倒れたまま、じっと目を合わせてお互いを見詰める二人。
 と、その時、突然カメラがチカチカと輝くと、床に倒れた沙織と祐大に向かってそのレンズから眩い光を発した。

「う、うわぁ」
 一瞬眩い光に包まれる二人。
 だが光を放ったカメラが数秒後に沈黙すると、電源の落ちたスタジオ内は真っ暗になってしまった。
「やだ、停電だ。みんな大丈夫? すみません、誰か!」
 美津橋が慌てて助けを求めにスタジオの外に出る。
「な、何が起こったんだ」
「カメラが突然光って、それから部屋全体が停電になったみたい」
「こんなに真っ暗じゃ何も見えないよ、こほん、あれ?」
「どうしたの?」
「僕の声、なんかおかしい……」
「そう言えば、あたしもなんだか……」
 暗闇の中、抱き合ったまま言葉を交わす二人。お互いの表情を確認しようとするが、まるで相手の様子がわからない。

「よかった、どうやら二人とも無事みたいね」
 暗闇で何も見えないながらも、二人の話す声を聞いて梨々花と香は安堵していた。
 やがて電源が回復したのか、天井の照明が点灯する。

「沙織、大丈夫なの?」
 香が二人の声がした方向を見ると、床に沙織と沙織の両腕に抱かれた祐大がうずくまっていた。
「あらあら、女の子に助けられるとは、全くわが弟ながら情けない」
 確かにその様子は沙織が祐大を庇っているようにしか見えない。
 香の横で梨々花が苦笑する。
「ほら、あんたたち、寝転がったままいつまで抱き合ってるのよ。って……あら? いつのまに服を交換したの? 。全く真っ暗で何も見えないからって何やってたんだか」

 梨々花の声に、沙織は祐大を抱いた手を離してむくりと起き上がる。祐大も続いて起き上がった。
「まあ」
 香も小さく声を上げる。
 確かにさっきまでとは二人の着ている服が逆になっていた。
 沙織はさっきまで祐大が着ていたチェック柄の半袖シャツと白のチノパンを履いており、祐大は沙織の着ていた黄色いストライプ柄のパーカーと水色のショートパンツを窮屈そうに履いていた。

「「え?」」

 沙織と祐大は相手の顔を呆然と見詰めていた。
 沙織の前に不思議そうに自分を見ているもう一人の自分がいた。
 祐大の前に目を点にして自分を見ているもう一人の自分がいた。



「僕が……」
「あ、あたし」
「「入れ替わった!?」」
「え? 二人ともどうしたの?」
「な、なんでもない」
 声を揃えて叫ぶ二人に不審気に尋ねる梨々花に、沙織(祐大)は慌てて答える。
(姉さんが企んだ? 違う、姉さんの仕業じゃないみたいだ)
 梨々花の様子にそう直感した祐大は、その場をごまかすことにした。
 沙織になっていることに気づかれたら、何をされるかわかったものではない。

「ちょっと驚かせようかと思ったんだけど、あ、あの、ごめんなさい、着替えてきます!」
 祐大(沙織)の手を引っ張って、室内を飛び出す沙織(祐大)
「ちょ、ちょっと待ってよ、たっくん」
 何が起きているのか全く理解できない祐大(沙織)は、手を引っ張る沙織(祐大)に問いかけた。
「ねえ、さっきの地震で何が起こったの? あたしたち、どうして入れ替わっちゃったんだろう」
 扉の陰で沙織(祐大)は祐大(沙織)に向かって振り向く。
「沙織ちゃん、僕たち入れ替わったんじゃないよ」
「え? どういうこと?」
「だって僕たちが着ている服は元のまま、変わってないだろう。ってことは、これは僕は僕の体で、沙織ちゃんの体は沙織ちゃんの体のままなんだよ」
「……ますますわからない」
「つまり、心と体が入れ替わったんじゃなく、僕たちの姿がお互いに変わってしまったんだ」
「変わっちゃった、あたしの体が……たっくんの姿に」
 ぺたぺたと自分の胸を触る祐大(沙織)
 そこにあった膨らみは無くなり、ブラジャーが平たい胸板を申し訳なさそうに締め付けている。

「いや! こんなの。元に戻って!」
「僕だって」
 じっとお互いを見詰め合う二人。
 と、二人の姿が変わっていく。
 祐大(沙織)が少しずつ低くなり、その髪が伸びていく。平らな胸に膨らみが生まれて盛り上がり、ブラジャーのカップの中に納まっていく。そして股間に感じていた違和感が無くなっていった。
 一方の沙織(祐大)も髪が短く変わっていくとともに、シャツを押し上げていた胸の膨らみが無くなっていく。背が伸び、がっちりした骨格に変わる。股間に充実した感覚が生まれる。
 そう、祐大は祐大の姿に、沙織は沙織の姿に戻っていた。

「も、元に戻った。僕たち元に戻ったんだ」
「よかった。元通りなんだ。全く何があったんだろう。でも……」
「どうしたの? 沙織ちゃん」
「こんなに簡単に戻れるんだったら、あたし、もう少したっくんのままでいても良かったかな。たっくんはあたしになってどうだった?」
「え? そ、そんなこと……」
 うろたえる祐大をじっと見る沙織、彼女を見詰め返す祐大。
 すると再び二人の姿が変わり始める。

「うわっ! また変わっちゃったよ」
「ほんとだ。ねえたっくん、もしかしてあたしたちって、見詰め合うと姿を交換できるようになったのかなぁ」
「そんな馬鹿なこと!」
「でも今のあたしはたっくんなんだもん。これは事実だよ」
「うわぁ、沙織ちゃん、早く元に戻ろうよ」
 再び元に戻ろうと沙織(祐大)は祐大(沙織)の顔をじっと見詰めようとする。だが祐大(沙織)はそんな沙織(祐大)の後ろに回ると、背中から抱きついた。

「きゃっ!」
 もみもみと沙織(祐大)の胸を揉み始める祐大(沙織)。
「うん、あたしの胸の感触だ。どお? たっくん、あたしの胸」
「沙織ちゃん、止めてくれよ」 
「いいじゃない、これってあたしの胸なんだから。そうだ、ねえたっくん、明日学校に行ったら入れ替わってみない?
「学校で?」
「みんなを驚かせてやるの。でも黙っていたら誰も気が付かないかもしれないな。うふふふ、何か楽しみ」
 祐大は、いや祐大の姿になった沙織は楽しそうに笑っていた。
「さ、沙織ちゃん……」
「あたしがたっくんか。えへっ、誰かあたしだって気が付くかな」
「沙織ちゃん、駄目だよ、やめようよ。絶対ばれるよ」
「何言ってるの。姿が変わったらあたしは誰が見たってたっくんなんだから、言葉さえ気をつければバレないわよ。たっくんもあたしの姿の時にはちゃんとあたしのフリをするのよ」
「ほんとに入れ替わって教室に行くの?」
「どうしてできるようになったのかわからないけれど、こんなこといつまでできるのかわからないし、今の内に楽しみましょうよ。いいでしょう」
「う、うん……」


 どうやら、二人はお互いをじっと見詰め合うと、姿を入れ替えることができるようになったようです。
 さて、これから二人はどうなるんでしょう。


 (終わり)




(あとがき)
この作品はかなり昔に書き上げたもののお蔵入りさせた入れ替わり作品なのですが、今回のお祭りの為にjpegさんに挿絵を描いてもらい公開することにしました。jpegさん、お忙しい中で描いていただいてありがとうございました!
ちなみに連載用の第1話として書いたのですが、続きはありません。