さて、ここで再び話を数時間ほど遡ろう。

 生田家において、ブラックピジョンがハニィたちに幸の拉致を告知していた頃(第6話参照)、南高校とは私鉄の線路を挟んだ丁度向かい側にある西高校の剣道場において、ある剣道の試合が始まろうとしていた。

 それは南高校と西高校の女子剣道部の対校試合。

 南高女子剣道部は、ここ2年の間、西高女子剣道部に苦杯を舐めさせられ続けているが、今日こそはと雪辱に燃えて西高に乗り込んでいたのだ。

 試合は南高の先鋒と次鋒が勝ち、南高校側が久々の勝利を得られるものと沸いたのもつかの間、中堅と副将は西高が勝利した。

 双方2勝2敗。最後に残った大将同士が腰を落として向かい合う。そしてゆっくりと立ち上がると、互いに竹刀を構えた。

 固唾を呑んで見守る両校の部員と生徒。

「はじめ!」

「てやぁ〜〜」

「お〜りゃ〜〜」

 お互いの実力を知り尽くしている者同士の戦い。どちらも安易に踏み込んでは来ない。

「とぉりゃ〜〜」

 だが、やがてじれた西高の大将が飛び出すと、突きを入れる。

「ちぇすと〜」

 突かれた南高の大将は、しかし己の竹刀でそれを上手く受け流し、西高の大将に横胴を見舞った。

 バシッ!

「1本、それまで!」

 剣を振るったままの姿勢で静止する南高の大将。

 一方胴を打たれた西高の大将はがっくりと片膝をつく。

「「うぉ〜〜〜〜」」

 道場内が歓声に包まれた。

「やっっった〜」

 勝ち名乗りを受けた佐藤と刺繍された胴着を着た南高の大将が、その面と籠手を外す。

 美少女だった。

「えり子、おめでとう!」

 一人の女子高生が彼女の元に駆け寄った。

「ありがとう、宏美。でも……」

「どうしたの、えり子。浮かない顔をして」

「うん。あたし、この試合を先生に見てもらいたかったのに」

「如月先生? そう言えば長いこと行方不明で、剣道部にも全く顔を見せてなかったんだね。そっか、えり子は先生から剣道の手ほどきを受けたんだったよね」

「うん。光武流免許皆伝の先生に比べたら、あたしなんてまだまだだけどね。でも今日の試合は会心だった。なのに先生、どうして来てくれなかったんだろう」

「えり子、あなた試合のことは先生に話したの?」

「うん。でも何だか話が噛み合わなくって。それに授業が終わった後、すぐに幸が先生を捕まえて行っちゃったし」

「そっか、そう言えばそうだね。まったく幸ったらしょうがないなあ。まあ先生が帰ってきて、自称恋人の幸が嬉しいのはわかるんだけどね。でも何だか……」

「え? どうしたの宏美」

「今日の如月先生って、何だか様子がおかしくなかった」

「まあ長い間監禁されていたんじゃね。全くハニィったら、先生の仇打ちをしてやらなくっちゃ。今度会ったらぼっこぼこにしてやるんだから」

「まあ、物騒ね、うふふっ」

「えへへ」

 話し続ける二人。だが、そこに一人の男子高校生が近寄ってきた。

「おめでとう、えり子」

「あら、委員長、あなたハニィと一緒に帰ったんじゃなかったの」

 栗田宏美がにやりと笑う。

「なんだよその笑い」

「だって委員長って、なんかハニィに気があるみたいだしぃ」

「え? ば、ばか、俺とハニィは何でもないさ。俺は委員長としての務めをだなあ……」

「はいはい、わかりました。で、ハニィはどうしたの。彼女、落ち込んでたんじゃないの? 
あたしちょっとやりすぎだったかなあって後悔してるんだ」

「あら、そんなことないわよ。あれでも足りないくらい」

「おいおい、えり子、もう止めようよ。まああいつは芯が強いから、あれ位じゃめげてないみたいだったけどな。それよっか、なあ二人とも、今日の如月先生っておかしいと思わなかったか」

「あら、委員長もそう思ったの?」

 宏美が相槌を入れる。

「ハニィの家族のことは俺もよく知ってるが、他人を監禁などするなんてことをする人たちじゃあ絶対に無い。俺にはむしろ先生の行動のほうがおかしいと思えてならないんだ」

「委員長、あなた何が言いたいの」

「あの如月先生は、偽者じゃないかと思うんだ」

「はあ?! 委員長ったらそんな馬鹿なこと、ドラマじゃあるまいし」

「だがおかしな怪人たちが現われたり、ドラマみたいなことが現実に起こっているじゃないか。そして俺はハニィが今までどんな奴らと戦ってきたかよく知ってる。そしてそいつらが彼女を陥れる為には、どんな卑劣な手段でも使う奴らだってことも知っている。俺もこの身に何度も思い知らされたしな」

「え? 何かひどい目に遭ったの」

「ま、まあな」

 こほんと咳払いする相沢謙二。

「えり子、あたしも委員長の言葉のほうが信用できるな。今日の先生って妙ににやにやしてたり、確かにどこかおかしかったもん」

 こめかみに指を当てて考え込む宏美。

「そんな、宏美まで……でも……教室にいる時には頭に血が昇って一方的にハニィを責めたけれど……確かに先生ってちょっと変だったわよね。よく考えると、あのハニィがそんなことをするなんて信じられないし」 

「ねえ、今からハニィの家に行ってみない」

「そうだな。善は急げだ」

「よし、わかったわ、行きましょう。そして事の真相をはっきりさせましょう」

 道場の出口に向かって竹刀をしゅっと振る佐藤えり子だった。









戦え!スウィートハニィU

第10話「地上最凶の陰謀(中編)」

作:toshi9





 ピンポ〜ン。

「こんにちは」

「あら、謙二くん、いらっしゃい」

 玄関のドアを開けた奈津樹が、謙二たちを迎え入れる。

「ええっと、そちらのお二人は、初めてだったかしら」

「同じクラスの栗田さんと佐藤さんです」

「栗田宏美です」

「佐藤えり子です」

「生田奈津樹です。初めまして」

「ハニィのお姉さんですか? 何だか朝霧先生に似ているような……」

「あ、あの、早速ですけど、ハニィは?」

 謙二は慌てて話題を振った。
 
「……いないわ」

「え? 外出したんですか」

「うん……」

 奈津樹の言葉はどうも歯切れが悪い。そしてその顔色も心なしか冴えない。

「ハニィがどうかしたんですか。俺たち本当にここで如月先生が監禁されていたのか確かめに来たんですけど」

「監禁されてた? ……君たちが今日会った如月先生は偽者よ」

「え? 委員長と同じことを」

「そして偽の如月先生について行った桜井幸さんが捕まってしまったの。蜜樹は一人彼女の救出に向かったわ」

「そ、そんな」

「あの如月先生が……偽者……なんてこと」

 えり子の表情は真っ青になったり真っ赤になったりしていた。

「あたしすっかり誤解して……ハニィに何て謝ったらいいんだろう」

「お姉さん、で、ハニィは何処に」

「『虎の爪』の怪人たちが待ち構えているある洋館よ。でもあなたたちが行っても危険なだけ。ここで蜜樹の帰りを待っていなさい」

「できません。俺はハニィを助けに行く」

「あたしも」

「あたしだって。お姉さん、ハニィと幸の居場所を教えて」

「やれやれ、言うんじゃなかったな」

 苦笑いする奈津樹。

「奈津樹、教えてやりなさい」

 玄関に姿を現わしたのは賢造だった。

「え? あ、お父さん」

「その子たちに、これを届けてもらいたいんだ」

 賢造が謙二に差し出したもの、それはきらきらと光る指輪だった。

「え? お父さん、完成したの!?」

「ああ、幸枝が、母さんが必死でがんばったよ。今は精魂尽き果ててベッドで眠っている。全くこれまで何度やっても完成できなたっかというのに、つくづく母の愛は海より深しだな」

「でも今からこの子たちが行っても戦いに間に合わないんじゃ」

「奈津樹、お前も何か手を打ってくれたんだろう」

「え? うん。シャドウレディに助っ人を頼んだわ。でも彼女たちも間に合うかどうか」

「実は私も既に手を打っている。こんなこともあろうかと、指輪のプロトタイプをある者に託しているんだ。そろそろ件の洋館に着く頃じゃないかと思うが」

「プロトタイプ?」

「ああ。大きいし、すぐに壊れる不完全なものだが、きっと蜜樹の役に立つはずだ。だから君たち、今からでも決して遅くはない。さあ、これを蜜樹に手渡してきてくれないか」

「あのぉ、この指輪って?」

「蜜樹に渡せばわかる」

 涼やかに微笑む賢造だった。

 賢造の手の平に乗った指輪をじっと見詰めながら考え込んでいた奈津樹は、何かを思いついたように、えり子に向かって言った。

「ねえ佐藤さん、あなた、その格好って剣道をやってるの?」

「え? はい、それが何か」

「そっか」

 えり子を見つめて、にこっと笑う奈津樹。

「無理を承知でお願いしたいことがあるんだけれど……蜜樹を助けてくれない」

「ええ? 無理だなんて、ハニィを助けるためなら、あたしに出来ることがあれば何でも言ってください」

「蜜樹の戦っている相手は、普通の人間に歯が立つような相手じゃないの。でもね‥」

「でも?」

「うふふ、佐藤さん、あたしと一緒に来て頂戴。あ、あなたたちは少しだけ待ってて。すぐに終わるから」

「はあ」

 奥の部屋にえり子を引っ張っていく奈津樹。

 そして約10分後、戻ってきた二人だが……。

「はあ!?」

 えり子の姿を見た謙二と宏美は呆気にとられていた。

「えり子、どうしたのその格好」

「それってハ、ハ、ハニィの……」

「お姉さん、あたし恥ずかしい、こんな格好なんて……」

 顔を赤らめているえり子。

 えり子はハニィのものとそっくりなバトルコスチュームを着せられていた。手には同じ細身の剣が握られている。

「うふふ、それは蜜樹の、いいえハニィの戦闘服と剣のスペアよ。本物を分析してあたしが作っておいたの。佐藤さんの力を強めてくれる訳じゃないけれど、あなたの身を守ってくれるわ」

「どうしてあたしにこの服を」

「あそこには『虎の爪』の怪人たちがうようよいる。無防備なままであなたたちを送り出せないわ。見たところあなたが一番腕が立ちそうだし、佐藤さん、あなたが二人の身を守るのよ」

「そんな、俺だって」

「あら、謙二くんもこの服を着てみたいの」

「え? あ、いや……」

 えり子の姿を見て、思わず口ごもる謙二。

「ふふ、そうよね、あなたには無理よね」

「は……い……」

「謙二くん、あなたが指輪を預かって頂戴。そして必ず蜜樹に手渡すのよ」

 力強く頷く謙二。

「あの、で、その『虎の爪』っていうのは・・」

「そっか、謙二くんしか知らないのね。説明してる暇はないけど、そうね……人間や動物を改造した怪人たちを使って人を支配しようとしている、ある……男が作った秘密結社」

 奈津樹は一瞬顔を曇らせたものの、気を取り直して話し続けた。

「はあ?」

「怪人襲撃事件の時に現われた奴らはそいつらの一味だったんだ」

「それじゃあ如月先生の偽者っていうのも?」

「そいつらの仲間よ」

「くぅ〜、そんな、あの先生が、許せない」

「蜜樹は『虎の爪』の奴らとずっと戦っていた。そして本物の如月先生もそう」

「え? じゃあ先生もその洋館にいるんですか?」

「あ、いえ、そういう訳じゃないけれど……お願い、蜜樹を助けてやって、お願い」

「「「わかりました」」」

 同時に力強く返事する三人だった。






 奈津樹に洋館の場所を聞くと、生田生体研究所を飛び出していく三人。その後姿を賢造と奈津樹が静かに見送っていた。

「いいわね、友だちって」

「そうだな、あんなに真剣に蜜樹のことを思ってくれる。いい友だちだな」

「ねえおとうさん、そう言えば宝田さんは?」

「うむ、何か新しい情報を掴んだみたいでな。警察に向かったよ」

「そうなんだ」

「これで打つべき手は全て打った。後は蜜樹たちに任せようじゃないか」

「うん。でもお父さんは彼女たちと一緒に行かなくても良かったの」

「この年寄りが行っても、それこそ足手まといさ」

「まあ、年寄りだなんて、まだまだそんな年じゃないでしょう。そうだ、蜜樹が無事に帰ってきたら、おとうさん、あたしとデートしない。おいしいワインを置いてるお店をみつけたんだ」

「そうだな。蜜樹たちが恭四郎と『虎の爪』の野望を完全に叩き潰したら……だな」

「あ、そうか」

 ぺろりと舌を出して苦笑する奈津樹、つられて笑う賢造。

 二人の背中を夕闇が包もうとしていた。







 さて、話を洋館の戦いに戻そう。

 ゴールドライオンによって嵌められた謎の首輪によって、ゴールドライオンそっくりの少女に変身させられたハニィ。

 彼女は、裸のままゴールドライオンの前にひざまずいていた。

「さてハニィ、これからお前はシスターの為に働くのだ」 

「はい、ご主人様」

「さあ、シスターの前にひざまずけ。そしてシスターに、その忠誠を誓うのだ」

 ハニィに向かって、その青い瞳でぱちりとウィンクするゴールドライオン。

「はい」

 すくっと立ち上がったハニィは、焦点の合わない目でふらふらとシスターの元に歩み寄っていく。

 勝ち誇った目で、近寄ってくるハニィを見上げるシスター。 

 向かい合った金髪碧眼の二人は、どこか姉妹のように見える。

「ふっふっふっ、ハニィ、いい様だな。これからはお前は私のため、『虎の爪』のために働くのだ」
 
 シスターがその小さな手を厳かに差し出す。

「このハニィ……」

 ハニィは片膝を付いて、その手に己の手を添えた。

 満足そうにハニィを見下ろすシスター。

 だが次の瞬間、ハニィはシスターの手をぎゅっと掴んで握り締めると、にやりと笑った。

 その目には何時の間にか強い意志の光が宿っている。

「このハニィ、必ずあなたを倒してみせるわ」

 手を取ってくるりとシスターの背中に回りこむと、ハニィは小さな彼女の体を羽交い絞めにした。

「ぐっ、何だ、どういうことだ」

 訳も分からず、足をばたばたさせるシスターだった。

「ゴールドライオン、何をしている。早く私を助けろ」

「あっははは、シスター、いや井荻恭四郎と呼んだほうが良いのかな? 私はお前に従う気は毛頭無い」

「な、なにい!?」

「お前のことはシャドウレディから聞いているよ。そして生田博士にもな」

「な、なにい?」

「私は以前からシャドウレディと親交が深くてな。ヨーロッパに出撃した後も、よく連絡を取り合っていたのだよ。そして『虎の爪』の本部が壊滅した時、彼女から直接事の顛末を聞いた。

 まったくいやらしい奴め。

 再びこうしてシスターと称したお前に呼び出されたが、私がここに来たのはお前に仕えるためではない。博士に頼まれてハニィを助けるためなのだよ」

「ハニィはお前に操られていたのではないのか」

「違うね。彼女には私の術にかかったふりをしろって囁いたのさ」

「全くびっくりしたよ。いきなり『生田博士から頼まれた。操られているふりをしろ』なんて」

(でも先生、咄嗟にしては迫真の演技でしたよ。それに敵である筈の彼の言葉を信じるなんて)

「彼の目は濁っていない。信じられそうだったからな」

(先生、さすがですね。それにしてもゴールドライオン、かつて大幹部を張っていただけのことはあるわ)

「え?」

(私が戦っていた頃『虎の爪』の作戦を立てていたのはゴールドライオンだった。ほんとに苦戦続きだった。でもその後シスターと意見が対立して遠ざけられたらしいわ)

「そうだったのか」

「さて、ハニィ、お前に嵌めたその首輪には、不完全ながらも、あの指輪と同じように空中元素固定装置が仕込んであるらしいな。

 その首輪の力で一時的にお前の体のDNA配列を変え、ホワイトクラゲの毒を浄化した。さあハニィ、今度は自分自身で使ってみろ。多分あと1回位は大丈夫だろう。いつまでもその格好のままじゃあこっちも目のやり場に困るんでな」

「ありがとう、ゴールドライオン。え? 目のやり場に? ……あ、い、いやぁ〜」

 ようやく今の自分が裸であることに気が付いて、腰をくねらせてしゃがみ込むハニィ。

(先生ったらもう、今更なにを恥ずかしがっているんですか)

「そんなこと言ったって、ハニィ」

 だがその一瞬の隙をついて、シスターはハニィに掴まれた手を振り解くと、遠巻きに取り囲んだ怪人たちの元に駆けた。

「くっ、おのれゴールドライオン。『虎の爪』最強の幹部であるお前が裏切るのか」

「私はお前の人形ではない。薄汚い野望に付き合うつもりはないな」

「お、おのれえ」

「何をしている、スウィートハニィ。早く変身するんだ!」

「え? は、はい」

 ゴールドライオンに促され、気を取り直してすっくと立ち上がると、首に嵌められた太い首輪を握り締め、ハニィは叫んだ。

『ハニィ・フラァッッシュ!』

「なに?」

 金髪碧眼の少女に変身していたハニィの体が光に包まれる。

 そしてハニィの回りの空気が彼女にまとわり付き始め、ハニィは金髪碧眼の美少女から別の姿に変化し始めた。

 上半身が胸の大きく開いた滑らかで真っ赤なノンスリーブシャツに覆われる。同時に下半身は黒のタイツに包み込まれ、それらは腰のところでジャンプスーツのように一つにくっついていった。踵がくっと持ち上がり、両足は白いブーツに包まれる。同時に青い瞳は黒く変わり、金色の髪は短くなりながら赤く染まり、跳ね上がっていった。
 薄い生地のジャンプスーツは日本人離れしたハニィの見事なボディラインをくっきりと描き出している。

 そしてブーツと同じ白い色の手袋に包まれた右手には細身のサーベルが握られていた。

 変身が終わるのと同時に、ハニィの首から真っ二つに割れ落ちる首輪。

 剣先をシスターに向けて突き出すハニィ。

「お前の野望、世間が許しても、このスウィートハニィが絶対に許さない。シスター、覚悟しなさい!」

「な、何を! 皆のもの、殺れ。ハニィとゴールドライオン、まとめて葬り去れ」

「「ぎぎっ」」

 一斉にハニィとゴールドライオンを取り囲んでいる輪を狭めようとする怪人たち。

「させるか〜」

 剣を構えるハニィ。

「この私を倒すだと、雑魚には出来やせんよ」

 腰のサーベルをシャキンと抜き放つゴールドライオン。

 二人の気合いに威圧される怪人たち。

「どうした、数はこちらが圧倒的なのだ。殺れ、一斉に殺れ!」

 シスターの言葉に再び密集隊形を採り始める怪人たち。

「むう、一斉に飛び掛られては……ハニィ、いくぞ」

 ハニィを横目でちらりと見るゴールドライオン。

「おう!」

 初めて会った二人だが、その息はぴったりだ。二人は同時に怪人に向かって駆け込んでいった。

 みるみる切り倒されていく怪人たち、だがその数は一向に減らない。

「ふふふ、二人だけでこの数に立ち向かえると思っているのか。さあやれ、殺せ」

 再び怪人の群れに取り囲まれる二人。

「くそう、切っても切っても、何でこんなに数が多い」

「ふーむ、妙だな。こんなに兵隊がいたのか……」

 その時である。

 ガチャ〜ン!

 窓ガラスを枠ごとぶっ壊して部屋に飛び込んできた者がいた。

 それは羽の付いた黒豹。

「ま、間に合った。ハニィ! 大丈夫かニャ?!」

「え? 何者?」

 黒豹の姿がぼやけると、やがて二人分のシルエットに変わっていく。

「ハニィ、久しぶりだな」

「ハニィ、助っ人に来たんだニャ」

「あら、シャドウレディ、それにシャドウガール、あなたたちだったの」

「おのれ、お前たち、また私の邪魔をしに来たのか」

「お前、誰だニャ」

「シスターだとさ」

 ニヒルな笑いを浮かべるゴールドライオン。

「にゃにぃ?」

「今度はそんな幼女に乗り移っているのか。つくづく見下げ果てた奴だ」

 シャドウレディがじっと睨みつける。

「うるさい、うるさい。皆のもの、こいつらもまとめて殲滅しろ!」

「「グエッグエッ」」

 一斉に叫び声を上げる怪人たち。

「それにしても随分多いな」

「いくら切ってもあっちの扉から、後から後から湧くように出てくるんだ」

「ほう……そうか、こいつらは」

 シャドウレディがにやりと笑う。

「ゴールドライオン、シャドウガール、ハニィを頼むぞ」

 そう言うと、シャドウレディはするすると影の姿になって床に潜り込むと、怪人たちの間をすり抜けて扉の向こうの部屋へと移動していった。

「ぐえぇぇぇ〜」

 突然隣部屋から断末魔の叫び声が上がる。

 と、同時に怪人たちの群れはかき消すように消えてしまった。

 部屋に残っているのはホワイトクラゲとイエロースネイク、そしてシスター。

「消えた? いったいどうしたんだ」

「そいつらは実体のある幻だよ」

 扉の向こうから現われるシャドウレディ。

「実体のある‥まぼろしぃ?」

「ブラックピジョンのあやかしの術だ。きゃつを倒せば皆消える」

「そうだったのか……」

「く、くそう、くそう、くそう」

「さあ、シスター、いえ、恭四郎、覚悟しなさい」

「まだだぁ、ホワイトクラゲ、イエロースネイク、いけ、奴らを倒せ!」」

「「ぐぎぎぎ」」

 シスターを守るようにハニィたちの前に立ち塞がるホワイトクラゲとイエロースネイク。

「ひっ!」

 目の前で禍々しく脈打つイエロースネイクの腰の一物にハニィの足が止まる。

「ふっ」

 怯むハニィを見たゴールドライオンの剣が一閃する。

 と同時に、イエロースネイクの一物は、その腰から離れ、どさりと床に落ちた。

「ぐえええええ」

「こいつう〜」

 気をとり直したハニィのサーベルがホワイトクラゲの中心に突き刺さる。

「ギギギギギ、ギガガガガ」

 床に倒れ伏すイエロースネイクとホワイトクラゲ。だが、やがて2体とも塵となって消え去っていった。

「シスター、『虎の爪』もとうとうお前一人だけになったようだな。シスター、いや恭四郎、早くその子から離れるんだ」

「お前の薄汚い野望、生み出された私たちが今度こそ決着をつける」

「うむ」

「そうだニャ!」

「く、くそう」

 じりじりと窓際に後退するシスター。






 だがその時、突然窓ガラス越しに部屋に強烈な光が差し込む。そして拡声器の声が響き渡った。

「警察だ! 誘拐犯に告げる、この館は我々が完全に包囲した。大人しくキャロル嬢を解放して出てくるんだ!」

「ふっ、ようやく来たか。この勝負、私の勝ちだな」

 ハニィたちを見てにやりと笑うシスター。

 と、次の瞬間に窓に向かったシスターは窓ガラスを開けると、庭に集結した警官隊に向かって大声で叫んだ。

 怯えた顔で……。

「助けて! あたし殺させる。 誰か、誰か助けて! パパ!」






(続く)


                                   2004年11月30日脱稿



後書き

 さあ「戦え!スウィートハニィU」次回こそ最終回です(笑
 遂に壊滅した『虎の爪』。しかし事態は恭四郎の思惑通りに進もうとしています。このまま恭四郎は大統領の娘として保護されてしまうのか、それとも……それは次回のイラスト次第……といっても、もうイラスト企画も終わりですしねぇ。とにかくまあ次回は何としてもハニィの物語を終えられるようにがんばります。
 ということで、次回最終回「地上最凶の陰謀(後編)」をお楽しみに。そして拙作をお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。