(前回のあらすじ) 拉致された桜井幸を取り戻す為に、ブラックピジョンの指定した町外れの洋館に飛び込んだハニィ。 そこで待っていたのは偽の如月光雄と、ロープで縛られ猿轡をされた幸、そして金髪碧眼の美少女だった。 少女はハニィを見つめ静かに口を開いた。 「スウィートハニィ、よく来たな」 「お前は……」 「我が主、シスター」 光雄が少女に向かって拝礼し、厳かに答える。 「シスター? お前がシスターだって?」 戦え!スウィートハニィU 第8話「対決!ハニィ対如月光雄」 作:toshi9 「シスター? どういうことだ。お前は井荻恭四郎なのか」 「恭四郎? ふふん、さあてな。お前がそれを知っても最早どうなるものでもないさ。 スウィートハニィ、ここがお前の墓場となるんだ」 「なにを!?」 「さあ、やれ」 パチっと指を鳴らす金髪の少女。 「はっ」 それを合図にするかのように、屋敷の灯りが一斉に点る。 「ハニィ、お前はこの俺が倒す。覚悟しろ」 光雄は壁際に手を伸ばした。暗がりの中ではよく見えなかったものの、 そこには日本刀が立て掛けられていた。 日本刀を片手で取り上げ、鞘から刀身を抜き放つ光雄。その刃がキラリと光る。 「に、日本刀? 真剣か」 「クククッ勿論。死ね! ハニィ」 「ムッ、なんの」 鬼のような形相で袈裟懸けに繰り出した光雄の一撃をふわりと避けるハニィ。 光雄の剣先がむなしく空を切る。 「くそう」 「俺の顔でそんな表情をするな! この偽者」 「うるさい!」 己の後ろに立つハニィの体を返す刀で薙ぎ払う光雄。 カキン! 腰から抜いたサーベルで光雄の刀を受け止めるハニィ。 「殺られるか!」 「くっ、まだまだ」 カキン、カキン 刀を引き、繰り返しハニィに向かってその剣を振るう光雄。 しかしその刃先はことごとくハニィのサーベルに受け止められる。 「お前の太刀筋はもう見切った。今度はこっちの番だ。 ハニィ剣の舞、受けてみろ! てやぁ〜」 ガギィン! 「くそう」 ハニィは光雄の刀を跳ね除け、その細身のサーベルを光雄に向かって振るう。 今度は光雄がその剣を受け止める番だ。 そして矢継ぎ早に繰り出されるその剣は次第に光雄を押していく。 そして遂に、ハニィのサーベルは光雄の日本刀を跳ね飛ばした。 空を飛んだ日本刀が金髪の少女の目の前の床に突き刺さる。 「何をしている、無様だぞ」 「も、申し訳ありません。お、おおのれぇ、スウィートハニィ……いや生田蜜樹、お前は担任のこの俺に逆らうのか!」 「ば、馬鹿やろう、誰が担任だ」 「俺は2年C組の担任だろうが。違うか、生田ぁ」 「そ、それは……いや、違う、違う。お前は如月光雄なんかじゃない。この偽者め、正体を現せ」 (先生、落ち着いて。あんまり怒ると相手の術中に嵌ってしまいますよ) 「うっ、すまん、つい」 「どうしたあ、生田ぁ、先生に謝れ」 胸を張ってハニィを挑発する光雄。 「こ、このお」 ボカッ 光雄を素手で殴り倒すハニィ。堪らず光雄が吹っ飛ぶ。 「く、くそう、担任に暴力を振るうとは、先生は悲しいぞぉ」 「き、き、きさまぁ〜」 余りにも情けない自分の姿を見せ付けられて、再び頭に血が上るハニィだった。 そこに再び金髪の美少女の声が飛ぶ。 「いつまで遊んでいる、見苦しいぞ!」 「も、申し訳ありません、シスター。か、かくなる上は。お前、一緒に来い」 「んんん〜」 赤く腫れ上がった頬を押さえながら立ち上がった光雄は、縛られた幸を引っ張って隣の部屋に繋がる扉を開け、その中に飛び込んでいった。 「あ! おい、ま、待て」 (先生、気をつけて、罠かも) 「おう!」 「さあどうするつもりだスウィートハニィ」 「勿論幸を助けに行くさ」 「そうだろうな。ふふふふ」 「シスター、お前との決着は後で付ける、そこで待ってろ」 「ああ。お前が無事ここに戻ってこれたらの話だがな」 にやにやとハニィを見つめる金髪の少女。 「戻ってくるさ、幸をこの手に取り戻して。それにしてもあいつは誰なんだ。あの偽者は」 「自分のその目で確かめるといいさ。ほら、早く行かないとあの娘がどうなっても知らないぞ」 「くっ! とにかく話は後だ」 扉を開けて隣部屋に飛び込むハニィだった。 「ふふふふ、よし行ったな。皆のもの、出てくるがよい」 少女の声と共に空気が揺らぐ。 そして部屋の中に怪人が次々と姿を現した。 「いいか、この扉からハニィが出てきたら、間髪をおかずに・・殺れ」 「「ははっ!」」 「ふっふっふっ、ハニィ、そこから出てきた時がお前の最後だ」 グッグッグッ ギギギギ グエッグエッグエッ にやにやと笑う金髪の少女。そしてその前にひざまずく怪人たちの唸り声が部屋の中に響き渡っていた。 一方隣部屋に飛び込んだハニィである。 あれ? その部屋に飛び込んだハニィは部屋の中の様子がおかしいのに唖然とした。 そこは建物の一室ではなく、何と砂浜だった。 青い空、青い海、白い砂浜、そう、それは何処かの海水浴場のようだ。 気が付くと手に持っていた筈のサーベルは無くなり、己の姿も普段の蜜樹の姿に戻っている。しかも何故か赤いブラジャーにジーンズ地のパンツといったビキニの水着を着ていた。 な、な、何だ、これ。 目の前を次々と歩いていく上半身裸の男たちがジロジロとハニィに視線を送る。 そ、そんな。 ビキニの水着姿を見られている。かつて栗田宏美の姿に変身して赤いビキニを身に着けた時の恥ずかしさが蘇り、思わずうろたえるハニィだった。 (先生、落ち着いて。でも一体これはどういうことでしょう) 「蜜樹!」 「え?」 「あなた何処行ってたのよ。ジュースを買ってくるって行ったっきり帰ってこないんだから」 「幸、それに……宏美」 駆け寄ってきたビキニ姿の二人の美少女、それは桜井幸とそれに栗田宏美だった。 ハニィの両脇に歩み寄ってきた二人の美少女は彼女を見てにっこりと笑う。 「ほら、早く写真撮ろう」 「しゃ、写真って……」 ハニィの右側に立った青いビキニ姿の幸はその左腕をハニィの右腕に絡ませる、そして左側に立ったエンジ色のビキニ姿の宏美はその両手をハニィのお腹と背中に回した。 「ほら蜜樹ちゃん、笑って、チーズ」 気が付くと誰かが目の前でカメラを構えている。 未だ戸惑いつつも、二人と共ににこりと笑うハニィだったが……。 「蜜樹、もうあたしたちから離れちゃだめだよ」 「え? ご、ごめん」 「さあ、じゃあ早く行きましょう」 「行きましょうって、何処に?」 「地獄の底によ、グェッグェッグェッ」 え! 絡ませていた幸と宏美の腕にぐっと力が入り、ハニィの体をがっちりと掴む。 カメラを構えていた男性が顔をカメラから離してにやりと笑った。よく見るとそれは光雄だ。 「あ、あなたたち」 「グェッグェッグェッ」 幸と宏美の口には何時の間にか鋭い牙が生えていた。そして両側からハニィの首筋に噛みかかろうとする。 「くうっ、やめろ!」 振りほどこうとするハニィ、しかし両側からがっちりと掴まれて体を動かせない。 「グェグェグェ、死ねえ、ハニィ」 (だめえ!) だが牙がハニィの首筋に触れようとしたその瞬間、突然ハニィの胸の青いペンダントが光り輝いた。 ピカッ! 百万燭光の光があたりを包み込む。 ぐっ、ぐえぇぇぇっ。 光の中、砂浜が消えていく。二人のビキニ姿の少女はハニィの体からその手を離し、 苦悶の表情を浮かべた。 やがてその姿がゆらぎ始め、怪しげな怪人の姿に変化していく。 そしてハニィのコスチュームもビキニの水着から今までの戦闘服に戻っていた。 「く、くそう、こいつら! 『虎の爪』の怪人!」 ハニィのサーベルが一閃、二閃する。 二人の怪人はその場に倒れ、やがて塵となって消えていった。 「くそう、危ない所だった」 (先生、油断しちゃいましたね) 「ああ、それにしてもこのペンダントって」 輝きを失った胸元の青い宝石を摩りながらハニィは呟いた。 (いざという時には役に立つって言ってたけれど……お父さん、ありがとう) 「そうだな。助かったよ。さてと、おい偽者、正体を現せ」 そう、ハニィの目の前には偽の光雄が縛られた幸を片手に抱えたまま立っている。 サーベルを構えたハニィににじり寄られ、じりじりと後退する偽の光雄。 「ふっふっふっ、まだまだぁ」 「なにい?」 突然光雄の姿がゆらぎ、ある怪人の姿へと変化していく。 「お、お前は」 「この姿では久しぶりだな、ハニィ」 「確かパープルカメレオンって名乗ってたな」 「ああ、よく覚えていたな。どうだ、俺のコピー能力は。なかなかのものだっただろう」 「何を! よくも今まで……世間は騙せてもこのスウィートハニィを騙すことなんかできやしない。覚悟しなさい!」 「ふふふふ、まだ俺は負けたわけじゃないさ、覚悟するのはお前の方だ」 「ん〜ん〜ん〜」 「ちっ、うるさいやつ」 幸を放り出してハニィをじっと睨むパープルカメレオンの姿が再びゆらぐ。 そしてそこに光雄ともパープルカメレオンとも違う別な姿が浮かび上がった。 それは体にぴったり密着したレオタードのような赤いコスチュームに身を包んだ赤い髪の 少女。 手には細身のサーベルが握られている。 お、おれ!? (え? そんな) 「んんん〜!?」 猿轡をされた幸の目が驚愕に満ちたものに変わる。そう、今彼女の目の前には全く同じ姿の二人のスウィートハニィが対峙していた。 「ふふふ、どお、この姿」 その声もハニィそのものだ。 「くっ、きさまあ」 「今のあたしはあなたと同じ能力を持っている。あなたに自分自身が倒せるかしら」 「何を、本物が偽者に負けるか!」 「それはどうかしら、いくわよ!」 偽のハニィがサーベルを振るう。それをサーベルで受け止めるハニィ。 カキン、カキン 何度となくサーベルを交わらせるハニィと偽ハニィ、しかし同じ能力同士の二人だ。 何時までたっても決着がつかない。 「はぁはぁ、はぁはぁ」 「どうしたの、本物さん、あたしを倒すんじゃなかったの、はぁはぁ、はぁはぁ」 どこまでも決着の付かない勝負に、二人の表情に疲労の色が浮かぶ。 「くそう、どうする」 (大丈夫、先生。先生は必ず勝てるわ) 「はぁはぁ、自分自身を相手にしているんだぞ。そんな気休め……」 (違う! 先生、あいつと今の先生は同じじゃない。一つだけ違うことがあるのよ、わかる?) 「え? どういうことだ」 (うふふ、あいつは先生の姿をコピーしただけ。でも先生にはあたしが付いているのよ) 「え? そ、そうか、うん、そうだな。すまんつい泣き言を言って」 (あたしはいつだって先生と一緒よ、それを忘れないで。さあ先生、決着をつけましょう。 あたしとシンクロするの) 「よし、うおぉぉぉぉぉ!」 (うわぁぁぁぁぁぁ!) ハニィの体が震え、気が満ちていく。 「いくぞ!」 「くっ、何だ? 急に動きが」 「この偽者〜!」 偽のハニィに向かってダッシュしてくるハニィ。二人がシンクロしたそのスピードに、最早偽のハニィはついていけなかった。 キン! ハニィのサーベルが偽のハニィのサーベルを弾き飛ばす。そして懐に潜り込んだハニィの拳が偽ハニィの腹にヒットした。 「ぐ、ぐふぅっ」 吹っ飛ばされる偽ハニィ。 「さあ、立ちなさい」 「くそう、何故だ、何故力が……」 「このスウィートハニィは偽者なんかに負けやしない。覚悟しなさい」 ボキボキと拳の指を鳴らしながら再び近寄るハニィ。 「や、やられるか。シスター、お助けを」 堪らず偽のハニィは扉に向かって駆け出した。 「あ! 逃がすか」 偽のハニィが扉を開ける。そしてその向こう側に飛び出した。 しかし……。 バキッ、ボキッ、ベキッ 「ぐはっ、ぐっ、ぐあぁぁぁぁ」 断末魔の悲鳴、そして歓声が上がる。 (せ、先生、隣で何が) 「ああ、多分隣の部屋でシスターたちが俺たちが出てくるのを待ち構えていたんだろう。 あいつ間違われたんだ。全く馬鹿なやつ」 (助かりましたね) 「ああ、ラッキーだったかもしれないな。しかしあの『シスター』、かわいい顔をして油断もスキもない」 (姿に騙されちゃだめですよ) 「そうだな。さあ幸を助けよう」 幸の元に歩み寄り、猿轡と縛ったロープを外すハニィ。 「幸、もう大丈夫よ」 体の自由を取り戻した桜井幸はハニィに抱きついて泣き出す。 「ハニィ、怖かった、先生が、先生が、いえあれは……」 「そう、あれは如月先生じゃあなかった、偽者」 「そうだね。でも、でもそれじゃあ本物の先生って」 「うっ、そ、それは……」 (先生・・) 「如月先生はきっとどこかに生きているわ。大丈夫、幸、先生を信じましょう」 「う、うん。ありがとうハニィ」 「さあ、早くここから脱出するわよ」 幸の手を引っ張り廊下に駆け出そうとするハニィ。しかしそれより先に隣部屋に繋がる扉が開く。 「そうはさせん」 扉の向こうには怪人たちを従えた金髪の美少女が立っていた。 「パープルカメレオンめ、全く役に立たん。スウィートハニィ、ここからは出て行かせはせんぞ」 ぞろぞろと部屋に入りハニィを取り囲む怪人たち。そして幸を庇いながら壁際に追い込まれるハニィ。 「くそう、多勢に無勢か、数が多すぎる。だが・・」 (先生、どうしたら……) 「ハニィ、君の命、俺に預けてくれるか」 (ふふっ、もうとっくに預けていますよ) 「え? ああ、そうだったな。よし、じゃあやるぞ、決戦だ。 幸、あなたはここでじっとしているのよ」 シャキンとサーベルを抜くハニィ。 「ハニィ・・」 「心配しないで、あたしはあいつらなんかに負けやしない」 にっこりと幸に向かって微笑んだハニィは、キッっと怪人たちを睨むと、 その群れの中に飛び込んでいった。 でやぁ〜〜〜。 (続く) 2004年9月17日脱稿 後書き さあ「戦え!スウィートハニィU」ラスト間近です。今回はシリーズ中で一度書いてみたかったお約束の対偽者戦でしたが、さて如何でしたでしょうか。 怪人たちの群れに一人戦いを挑むハニィ、さてその結末は……それは次のイラスト次第ということで。 ということでそれでは次回をお楽しみに。そして拙作をお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。 パープルカメレオン 生であろうが写真であろうが、見たものに変身できる能力を持つ。しかもその力や能力さえもコピーできる。 以前相沢未久に成りすました恭四郎が、謙二から光雄の写真を手に入れたことを覚えているであろうか。パープルカメレオンはあの時の写真を使って光雄の姿と能力をコピーしたのだ。 ……うーむ、「陰画移し」みたいだ。 |