(前回のあらすじ) 妹・未久になりすました謎の男によって遂にブルーイソギンチャクに取り込まれてしまった相沢謙二。そして謙二をその手中に収め、謎の男はハニィへの復讐を目論む。一方ハニィと賢造は警察病院から戻った輝一が示唆した井荻恭四郎の失踪、そして未久の不審な行動の意味が一つの線で繋がることに気付き始めていた。 あの未久ちゃんはまさか……委員長が危ない! 翌日、ハニィを孤立させるために生徒会長・春日美奈子をも取り込もうと手を伸ばす謙二=ブルーイソギンチャク。しかしその瞬間彼女の身体が光り輝き始めた。 「え? 何? 一体何が……」 何が起きたのか解らず呆然とする謙二。 その時美奈子は閉じていた目をぱちりと開いた。 「ふふふふ……」 戦え!スウィートハニィU 第4話「シャドウガールの帰還」 作:toshi9 「か、春日さん、あなた……」 「相沢くん、いや、ブルーイソギンチャク、そこまでだにゃあ。お前の陰謀なんかお見通しなんだにゃ」 美奈子は椅子から立ち上がるとくるりと振り返った。何時の間にかその頭には猫耳がぴょこんと生え、スカートからは尻尾がにょきにょきと伸びている。 「お前、誰だ」 「ある時は、生徒会長・春日美奈子、ある時はプリティーな子猫、しかしてその実体は……おっとこれってハニィの口上だにゃあ」 美奈子はぽりぽりと頭を掻いた。 「シャドウガール! 大丈夫」 その時生徒会室の外で様子を伺っていたハニィが、部屋の中から光に溢れ出るのを見て飛び込んできた。 「心配いらないにゃあ」 ハニィを見てにやっと頷く美奈子。 「生徒会長のことよ」 「そんなハニィ、あたしのことも心配して欲しいんだにゃぁ」 一転情けなさそうな表情に変わる美奈子。 「ふふっ、あなたその調子なら心配ないんでしょう」 「ま、それもそうだにゃ、にゃははは」 今度はからからと笑う美奈子、いやシャドウガールだった。相変わらず憎めない奴である。 「お前、シャドウガールか」 「そうだニャ。久しぶりだにゃあ、ブルーイソギンチャク。お前、早くその身体から離れるんだにゃ」 「いやだね。この身体もこいつの心ももうわたしのものだ」 ざわざわと謙二の髪が伸び始めた。そしてそれは太さを増し、触手状に変化していく。 「委員長、その姿」 ハニィが謙二の変わり果てた姿を見て驚く。 手の爪が長く伸び、青白い肌色へと変わった上に髪は触手へと変化している。そしてちりじりに破れた上着の下には大きな二つの胸が揺れていた。そして魔女ゴーゴンにも似たその全身からは異様な殺気を発していた。 「それはわたしの獲物だ。邪魔だシャドウガール」 頭の触手が一本ひゅっとシャドウガールに向かって鞭のように伸びる。それをくるりと体を反転させて避けるシャドウガール。 「誰がお前を操っているんだにゃ。まさか」 「さあてね。裏切り者に語る話などない。死ね!」 長く伸びうねうねと動く頭の触手が今度はシャドウガールに向かって一斉に襲いかかる。 「危ない!」 ハニィはシャドウガールに飛びつくと、その身体を抱えてジャンプした。 空しく空を切る触手。 「あ、ありがとうだにゃ、ハニィ」 「早くその身体から離れなさい。これ以上生徒会長を危険な目に遭わせられないわ」 「わかったにゃ」 子猫の姿で美奈子の身体から抜け出るシャドウガール。そしてシャドウガールが抜け出た途端に美奈子の身体からは尻尾と猫耳が消え失せ、彼女はその場でぐったりと倒れ込んでしまった。 ハニィは倒れた美奈子に駆け寄ると、その体を背中に庇いながら、ブルーイソギンチャクに向かってびしっと指差した。 「ブルーイソギンチャク! 生徒会長を襲うなんて、世間が許してもこのスウィートハニィが許さない! 生徒会長には指……いいえ触手一本触れさせないわよ」 「そうだニャ!」 シャドウガールもひょいと二本足で立ち上がるとハニィに相槌を打ち、同じくブルーイソギンチャクに向かってびしっと指差した。そしてその子猫の姿はむくむくと別の姿に変身し始める。 二本足で立ち上がったまま背がぐんぐんと伸びていく。やがてその姿は小学生並みの小さな体ながらも人の形に変わっていった。それは甲冑に身を包んだ女の子の姿。手にはその小柄な身体に不釣合いな大きな剣が握られている。 「あれ? シャドウガール、その姿って」 「ふっふっふ、パワーアップして人間と合体しなくても人型を取れるようになったんだにゃ。 さあブルーイソギンチャク、あたしと尋常に勝負だにゃあ」 剣をよいしょっと振り上げるシャドウガール。 「あなた……まだ時代劇見てるの」 「にゃはは」 「ぐ、ぐぐ」 と、その時ブルーイソギンチャクはぶるっと体を震わせた。髪が触手に変化した女性というその姿はさらに別のものに変化していく。ズボンもびりびりと破れたかと思うと、ほっそりとしたその青白い胴体はどんどんと膨らみ、太い丸太のように変わっていく。頭も太く伸びていく胴体と一体化していく。そう、その姿はブルーイソギンチャク本来のものに変わっていた。 「ブルーイソギンチャク、遂に本性を現したにゃあ」 壁を背に剣を構えなおすシャドウガール。そしてブルーイソギンチャクは振り上げた触手を鋭い刃物のように変形させて、じりじりとシャドウガールに迫ってきた。 「来なさい……だにゃ」 「ぐぐぐ、死ね! 裏切り者」 ハニィは美奈子をその背に庇い、セーラー服姿で拳を構えながら二人が対峙するのを見守っていた。 突然ブルーイソギンチャクの触手がシャドウガールに向かって伸びる。 「危ない!」 「ふふん、問題ないニャ」 シャドウガールは振り上げた剣をさっと振るった。 「ぎゃっ」 切られた触手が髪の毛に戻ってはらはらと床に落ちる。 「駄目! あいつは委員長と合体しているんだ。下手に傷つけると委員長も危ない」 「そうだったにゃあ」 再び次の触手を刃物に変型させ、シャドウガールに迫るブルーイソギンチャク。 何とかできないのか、このままではシャドウガールが……。 ブルーイソギンチャクを睨みつけながら思案するハニィ。 と、その時シャドウガールが叫んだ。 「ハニィ!」 「え? なに? シャドウガール」 シャドウガールはいきなり手に持った剣をハニィに向かって投げた。 飛んでくる剣の柄を片手でぱしっと受け止めるハニィ。 「どういうこと、シャドウガール」 「ハニィがそれを使うんだにゃあ。ハニィならあいつの皮だけを切り裂くことができるにゃ」 「皮だけ? どうして?」 「ブルーイソギンチャク、あいつの本体は宿主の身体に皮のように薄く貼り付いているんだにゃ。宿主を傷付けずにあいつを倒すには、それしかないと思うんだにゃあ」 「そうか皮だけか……よし」 ハニィの頭の中にランプリーレディとの戦いの記憶が甦った。 ハニィはひゅっと剣を振る。 うん、これなら。 彼女自身の剣・プラチナフルーレより大振りではあるものの、充分使いこなせると直感するハニィ。 ハニィは剣を斜め下段に構えた。 「来い! ブルーイソギンチャク! あなたの相手はこのあたし、スウィートハニィよ!」 そしてセーラー服姿で剣を構える彼女の姿を見たシャドウガールはその美しさ、凛々しさに嘆息を漏らすのだった。 「ハニィ、やっぱり来て良かったにゃあ」 「ぐぎぎ……死ね!」 ブルーイソギンチャクの触手が剣を構えるハニィ目掛けて一斉に襲い掛かる。 「なんの」 彼女を絡め取ろうというその触手を掻い潜り、ハニィはブルーイソギンチャクの懐に一気に飛び込んだ。 「やぁ〜〜〜」 彼女の剣先が下から上に一閃する。 「ぐ、ぐぎ?」 一瞬動きの止まるブルーイソギンチャク。 ぴ、ぴぴっ、ぴぴぴっ……。 やがてブルーイソギンチャクの下から上へと一本の筋が生まれる。そしてその筋はゆっくりと左右に広がっていく。 そう、ブルーイソギンチャクの太い体は見事にぺろりと二枚に下ろされていた。 どさっ 中から出てきたのは浅黒い肌の裸の少年。そう、相沢謙二だ。 「委員長、委員長! 大丈夫?」 「う、うーん、あれ? 俺はいったい」 「あなたあいつに取り込まれていたのよ」 「あいつ? そう言えばいきなり何か触手みたいなのが未久様に襲い掛かってきて、未久様を庇おうとしてそれから……俺は女の体になって、未久様に……未久……さまあ? なんだ? 俺、何で未久のことをさまって」 「あなたはあいつにコントロールされていたのよ」 「あいつって……げ! 何だあの気持ち悪いのは」 ハニィが指差した先で真っ二つになったブルーイソギンチャクは、未だにうねうねと動いていた。そしてゆっくりとくっつき、再び元のイソギンチャク体型に戻ろうとしている。 「ぐぎ、ぐぎぐぎい〜」 「ハニィ、あいつは二つに切った位じゃあ簡単に復活するんだにゃあ」 「させるか〜」 ハニィは頭上に振り上げた剣を十字に振るう。 「てん・くう・けん、十文字斬りいいい!」 「ぐぅ、ぐぁはああああ〜」 元の形に戻ろうとしたブルーイソギンチャクだったが、完全な姿に戻る前にハニィの剣が再びその身体を切り裂く。 縦に、そして横に…… 十文字に切り裂かれたその身体は、やがて塵となり、その場で舞い散ってしまった。 「やったにゃハニィ」 「ブルーイソギンチャクか、委員長を取り込むなんて何て恐ろしい奴」 「ハニィ、俺は今まで何を」 「ええっと、その、それよりか何か服着たら」 「え? 服って……な、なんだぁ、何で俺裸なんだ」 「ふふふ、委員長のそれかわいいね」 (せ、せんせい、あたし恥ずかしい……) 「お、おい、止めてくれよ、それより何か服」 真っ赤になって股間を両手で隠す謙二だった。 「しょうがないなあ。でも何もないし……じゃあ取り敢えずこれでも穿いてる?」 ハニィは己のスカートに両手を入れると、穿いているものをするすると脱ぎ始めた。 「ほら、委員長」 ハニィは脱いだものを右手でつまむと、謙二に差し出した。 「お、お、お前……それ、それって」 「スパッツよ。下にショーツ穿いているから大丈夫」 「大丈夫って、いやそういう問題じゃなくって」 「何も着ていないよりマシでしょう。ほら早く」 謙二はますます顔を赤くしながらも、ハニィのスパッツ……ほとんどブルマーだが……に足を通し、ぐっと腰に引き上げた。 「あ、暖かい。これってハニィの」 「……ばか」 「お前って変態だったんだにゃあ」 「ちがーう……って、あれ? この娘って誰?」 「シャドウガールっていうの。あなたたちっていいお友達になれるんじゃないの」 「よろしくだにゃ」 「はあ、こちらこそ」 小さなシャドウガールに手を差し出されて、少し腰を屈めて訳も分からず握手する謙二だった。 「ん、待てよ、そうだ、ここって生徒会室だったんだ」 ハニィは奥の戸棚をごそごそと探った。 「あ、あったあった。ほら、上にこれ着たら」 彼女は南高校の紺のジャージの上下を謙二に投げた。 「へぇ〜よくそこにジャージがあるの知ってるな」 「え、う、うん何となくね」 笑ってごまかすハニィだったが、実は教師だった時に生徒会役員がそこに入れていたのを偶然目撃していたのだ。ハニィは心の中でぺろっと舌を出していた。 ところでシャドウガール、何時の間に美奈子に合体していたのだろうか。 話は朝の登校時に遡る。 春日美奈子に声をかける謙二に不審な気を感じ、どうしたものかと思案していたハニィの後ろから、不意に猫の鳴き声がした。 にゃお〜 「え?」 思わず振り向いたハニィ。すると彼女の後ろにはちょこんと子猫が座っていた。 「久しぶりだにゃあ、ハニィ」 「え? あなた、まさかシャドウガール!?」 「そうだにゃ」 にっこりと笑う子猫。 「まあ、いったいどうしたの」 「どうしたのはないんだにゃあ。せっかくハニィに会いに来たのに」 「ふふっ、ごめんごめん。嬉しいよ、来てくれて。元気だった」 「にゃあ」 「みんなも元気にしてるの」 「実はシャドウレディに頼まれてここに来たんだにゃあ」 「え? どうしたの」 「海外に散っていた『虎の爪』の怪人が日本に戻ってきた形跡があるって。それでハニィの様子を見て来いって言われたんだにゃ」 「海外の怪人か……それじゃあ奈津樹姉さんが気にしていた通りやっぱり彼らが海外から戻ってきていたという訳か」 (先生、あの怪人たちもやっぱり) 「ああ、そうだな」 遊園地で倒したグリーンアリジゴク、そして未久を拉致したパープルカメレオンのことをハニィは思い浮かべていた。 「どうしたんだにゃ」 ハニィは手短にシャドウガールに最近の出来事について話した。 「うーん、そうだったんだにゃ。そういえばあいつも」 シャドウガールは未だ春日美奈子と話ししている謙二のほうを見た。 「え? 委員長?」 「あいつともう一度合体してからハニィに会おうかにゃと思っていたんだけれど、あたしが合体しようと思ったら、もう取り付かれている。いや取り込まれているんだにゃあ」 「なんですって!」 「あそこにいるのはブルーイソギンチャクなんだにゃ」 「ハニィが感じたおかしな気の正体って……そうだったのか」 「あいつは宿主を体の中に取り込んでしまうんだにゃ。多分次はあの話している相手を狙っている」 「生徒会長を! どうして」 「理由までは判らにゃいけれど」 「そうか、どうする……」 (先生、シャドウガールの智恵を借りたほうがいいんじゃないですか。何かあの怪人のことに詳しそうですよ) 「そうだな。ねえシャドウガール、あの怪人から生徒会長を守る、そして委員長を取り戻すいい手はないかしら」 「そうだにゃあ……あいつに取り込まれないためには、先にあたしが合体しているといいと思うんだにゃ」 「どうして」 「あたしたちは二人同時には合体できない」 「そうか。考えている時間もないし、じゃあそれでいきましょう」 「あの二人、放課後会おうって約束しているんだにゃ」 シャドウガールには遠くからでも二人の話し声がよく聞こえるようだ。 「じゃあその前に」 「にゃあ」 シャドウガールはこくりと頷いた。 そして謙二が美奈子と別れた後、シャドウガールは校門を入ろうとする美奈子に向かって飛び込んだのだ。みるみる猫耳と尻尾が生えてくる美奈子。 「合体成功だにゃあ」 「ちょっとちょっと、それじゃあ目立つでしょう」 「ええ? かわいいと思うんだがにゃあ」 「だめ、何とかならないの?」 「仕方ないにゃあ」 途端に猫耳と尻尾を引っ込める美奈子。 「なんだ、できるんじゃない」 「うーん、残念。じゃああたしは放課後生徒会室で謙二くんを待っているから。ハニィ、彼が現れたら頼んだわよ」 「うん。え? シャドウ……ガール?」 「ふふふ、合体したこの娘の記憶が読めるようになったんだにゃ」 「あなた、パワーアップしてるのね」 「にゃはははは」 校門前で豪快に笑う美奈子、いやシャドウガール。そしてそんな彼女を少し頼もしく思えるハニィだった。 こうして話は放課後の生徒会室での戦いへと繋がっていったのだった。 さて、場面を再び生徒会室に戻そう。 「委員長、ぐずぐずしてないで早く未久ちゃんを助けに行きましょう」 ジャージを着終えた謙二に、ハニィは強い調子で促した。 「え? 未久を」 「遊園地で助けた未久ちゃんって恐らく本物の未久ちゃんじゃない」 「どういうことだ。俺はさっきの奴から未久を庇おうとして、そして気が付いたらお前がそこにいる。まだ事情がよくわからないんだが」 「何か記憶はないの」 「……俺、夢の中で女の子になっていた。いくら俺は男だと思っても、夢の中の俺は女の子の体で、それが妙に気持ちよくって……あ、その」 心なしか顔を赤らめる謙二だった。 「いいのよ、委員長、で未久ちゃんはその時どうしていたの」 「俺、夢の中で未久のことを未久様って呼んでいたんだ。そう呼べって誰かが。どういうことなんだ」 「その未久ちゃんは偽者。本物の未久ちゃんじゃないの。恐らくそれは……」 ばさばさ 「あれは!?」 彼らが窓の外に見たもの、それは生徒会室の窓枠から飛び去っていく黒い鳩だった。 「……ブラックピジョン」 「え?」 「あいつも海外に行ってた『虎の爪』の怪人だにゃあ」 「じゃあ今の戦いのことは」 「ああ、ばればれだにゃあ」 「よし、ぐずぐずしてられない。委員長の家に急ぎましょう。そしてあの未久ちゃんの偽者と対決する」 三人は未だ気を失ったままの美奈子を椅子にそっと座らせると、生徒会室から駆け出していった。 それからしばらく経って目を覚ました美奈子は、何時の間に自分が生徒会室に来たのか判らずにぽかんとしていた。 「あたし、どうしてここに???」 さて、謙二を先頭に三人が謙二の家に飛び込み二階に駆け上がると、未久の部屋には未久が倒れていた。 「未久、未久、しっかりしろ」 未久を抱き起こす謙二。 「う、うーん、お、おにいちゃん」 「どうした。大丈夫か」 「あたし、怖かったよ。カメレオンみたいな気持ち悪い奴にさらわれて、白衣を着た男がもう一人のあたしになって、あたしはお人形さんになって」 「落ち着け、お前何言ってるのかよく判らないぞ」 (先生、どうやら本物の未久ちゃんみたいですよ) 「そうだな……委員長、いいのよ。未久ちゃん大丈夫だった?」 「あ、ハニィお姉ちゃん、怖かった、怖かったよ〜」 泣きながらハニィに抱きつく未久。 「心配ない、もう心配ないよ、怖くないからね」 「ひっく、ひっく」 「未久ちゃん、身体におかしなところはない」 「うん」 「そっか、じゃあベッドでゆっくり眠りなさい。委員長、お願い」 「うん、ハニィお姉ちゃん」 未久を抱いて謙二に渡すハニィ。謙二は未久を抱きかかえられてベッドに静かに横たえた。 (先生、未久ちゃんの言ってた白衣の男って) 「ああ、澤田医師、いや彼と入れ替わった井荻恭四郎だな」 (そうですね。やっぱりあいつが未久ちゃんに化けていた) 「そうだな。でもどうして彼女を戻したんだ」 (ばれそうになったんで、すり替わっているのを止めたとか) 「あのブラックピジョンって怪人か」 「あいつはクロウレディの代わりに情報収集をしてるんだにゃ」 「そうか。いずれにしてもこれで手がかりが切れてしまったっていう訳か」 (そうですね) 「そうだにゃあ」 「ハニィ、どうもありがとう。何かいろいろ世話になったみたいで」 「え? ううん、いいのよ。委員長今夜は未久ちゃんに付き添ってあげて」 「ああ、何かよっぽど怖い目に遭ったみたいだ。未久をこんな目に遭わせた奴、俺は絶対許せねえ。ハニィ、未久の言ってた白衣の男って誰なのか知ってるのか」 「え? う、うん。でもまだ委員長に話す訳にはいかない」 「そんな、俺未久の仇を討ちたいんだ。教えてくれ」 「時期が来たら委員長にも話す時が来るかもしれないけど……今はあたしに任せて」 「そうか……とにかくハニィ、がんばってくれ」 「うん。委員長、それより」 「え? なんだい」 「明日ちゃんとあたしのスパッツ返してね」 「え? あ!」 自分がハニィのスパッツを穿いているのを思い出して顔を真っ赤にする謙二だった。 「ふふっ、じゃあね」 ハニィはシャドウレディと共に相沢家を後にした。 「それにしてもシャドウガール、あなたどうやってパワーアップしたの」 「にゃはは、街を離れていたら何か力が付いてきたんだにゃ」 「へえ〜自然の力って訳?」 「うーん、シャドウレディはどうしてあたしがパワーアップしたのか教えてくれたんだけれど、あたしには難しいことはわからないんだにゃ」 「うふふ、あなたらしいね」 「にゃはは」 頭を掻いて照れるシャドウガールだった。 「さてと、あなたこれからどうするの」 「うん、一度シャドウレディのところに戻ろうと思うんだにゃ。ハニィが教えてくれた通り恭四郎が復活して活動しているとしたら、姉さんにも連絡しにゃいと」 「そうか……折角あなたたち平和に暮らしていたのに」 「ふふふ、あいつから生み出されたあたしたちの宿命かもしれにゃいなあ」 「またきっと会えるよね」 「また必ず来るんだにゃ」 「うん、今日は本当にありがとう。あなたがいなかったらあたしもどうなってたかわからないわ」 「にゃははは、ハニィにそう言われると照れるにゃあ。じゃあさらばだにゃ、ハニィ」 そう言いながら子猫の姿に変身すると、駆け去っていくシャドウガールだった。 「ありがとう……」 (いい娘ですね。でも彼女が先生を慕うのは先生の優しさの裏返しなんですよ) 「ああ……え?」 (何でもありません。さあ研究所に帰りましょう) 「そうだな」 その夜、賢造から警察病院の恭四郎の中身が間違いなく入れ替わっていると聞かされたのは言うまでもない。 さて、井荻恭四郎は何処に姿を消したのか……。 それから数日後、朝のホームルームのチャイムと同時に2年C組に校長先生が入ってきた。 ざわついていたクラスがしーんと静まり返る。 「みんな、喜んでくれ。休職されていた如月先生が今日から復帰されることになった。また君たちの担任をやってもらうからよろしく頼むぞ」 え? 「さあ、如月先生、入ってください」 「はい」 校長先生に促されて一人の男が教室の中に入ってきた。そして教壇の前で爽やかに笑う。 お、俺だ。 呆気に取られ、その男をじっと見詰めるハニィ。 「みんな、心配かけたな。また一緒に頼むぞ」 「せんせい! 今まで何処に行ってたのよ、全く〜」 桜井幸が立ち上がって思わず叫ぶ。でもその顔はとっても嬉しそうだ。 「すまんすまん、ある所に監禁されていてな、やっと脱出してきたんだ」 「え? どういうことですか」 「全くひどい目に遭ったよ。あいつのせいでな」 光雄は彼を注目している生徒の中の一人をゆっくりと指差した。 皆の視線が一斉に光雄の指が向けられた先に座っている女子生徒に集まる。 「俺は今まで生田生体研究所の地下室に監禁されていたんだ。お前はひどいやつだ生田蜜樹、いやスウィートハニィ!」 (続く) 2004年4月29日脱稿 後書き 今回のお話、如何だったでしょうか。題名は前回の後書きに書いた『考えていた題名』がそのまま使えました。久々のシャドウガールの復活、彼女も私の大好きなキャラなんで助っ人に登場してもらおうとは思っていたんですが、いやもう大活躍でした。イラストのおかげでもありますが、よく動くこと動くこと(笑 さて、第2話から続いた対ブルーイソギンチャク戦、ようやく決着です。少しダークでえっちになってしまいましたんで賛否があると思いますが、まあ第2部については自由に書いてますんでご了承ください。 それにしても最後に現れた如月光雄、さて誰なんでしょう(笑 それでは次回をお楽しみに。そしてお読み頂いた皆様、どうもありがとうございました。 |