(前回のあらすじ)

 相沢謙二の妹・未久になりすました謎の男は、人形に成り果てた本物の未久をその傍らに置きつつ未久として振舞い、ハニィの様子を伺おうとする。その夜、未久が謙二の部屋を訪れると、突然怪人ブルーイソギンチャクが二人に襲い掛かった。未久を庇おうとする謙二。だがブルーイソギンチャクの目標は謙二だった。謙二の体に取り付き、謙二の身体と心を支配しようとするブルーイソギンチャク。
 謙二はこのまま『虎の爪』の手中に落ちてしまうのだろうか。

 ハニィはこの事実をまだ知らない。






戦え!スウィートハニィU

第3話「交錯する思い」

作:toshi9





「ふふっ、どお、お兄ちゃん、女の子になった気分は」

 未久はひざまずく謙二を見下ろしながら冷ややかに笑った。

「あの……何だか不思議な気分……あたし……でも、これが本当のあたし……」

 突然女性の体に変わってしまった己の身体を見下ろし、盛り上がった両胸を左右の手で持ち上げながら未久に答えていた謙二だが、突然体を抱えて苦しみ出した。

「違う! 違う、違う、俺は女じゃない。俺は、俺は……相沢謙二……男……だ」

「ちっ、ブルーイソギンチャク、どうした!」

 謙二は膝立ちで仰け反り、がくがくと体を振るわせる。

 その胸がぷるぷると揺れる。

「あ、あうっあうっ、うくぅ……ぁぁ、はぁはぁ」

「ふふっ、まだブルーイソギンチャクの支配が不十分なようだね。そうだ、お姉ちゃん、あたしの前でオナニーやって見せてよ」

「え?」

 自分は男だったはず、でもこの体は、あの記憶は、そして今の未久様のご命令……未だ混乱の中にいる謙二は、未久の言葉に戸惑いの表情を浮かべた。その頬にぽっと赤味が刺す。

「あ、あの、未久……様、それは……」

「ふふふっ、さっきあたしがやってあげてわかったでしょう。女の子の体ってとっても気持ち良いんだよ。胸の先とかアソコとか。今度は一人でやってみるの。ほら、お姉ちゃん、やるのよ」

 未久が強い調子で促すと、謙二はゆるゆると己の身体を抱きしめていた腕を解き、その手を胸と股間に添えた。それは謙二の意思なのか、ブルーイソギンチャクのコントロールによるものなのか解らない。だが彼の手は、指は、ゆっくりと胸と股間で動きはじめた。

「うっ、うっうっうう」

 手の動きに合わせて謙二の胸がふにゅふにゅと柔らかそうに変型する。

「う、あうっ、う、うん、うん、ううう、うあっ、あ、あああ」

 そして股間を擦っていた彼の指が、未だ濡れたままのその中に少しずつ滑り込む。そして謙二がその指を出し入れする度に、そこは再びいやらしい音を上げ始めた。

 謙二の息が段々と荒くなっていく。

「あ、う、うう、うあっ、あ、あ、あん、あああ、あん」

「どお、お姉ちゃん、女の子って気持ちいいでしょう。お姉ちゃんは本当に女の子なんだよ、わかったでしょう」

「い、いい、気持ち……いい、ああ、これ……が……女の子……ああん、あたし……女……あああああぁ」

 再び体を仰け反らせ、びくびくっと痙攣したかと思うと、がっくりとうな垂れる謙二。

「お姉ちゃん、お姉ちゃんが女の子の悦びを知れば知るほど、お姉ちゃんはブルーイソギンチャクに取り込まれていくの。そしていつかお姉ちゃん自身が怪人ブルーイソギンチャクになるんだよ。お姉ちゃんが気が付かないうちに段々とね。でもそれって気持ちいいでしょう」

「はぁはぁ、はぁはぁ」

 謙二は頬を桜色に染め、肩で大きく息をしていた。

 気持ち……良かった。あたし……は……そうだ、未久様に従わなければ……

「ふふっ、お姉ちゃん、いつまでも裸のままじゃ恥ずかしいよね、だからこれを着るといいよ。でもその前に濡れてるところはちゃんときれいにするのよ」

 未久は謙二の様子を見て満足気に笑うと、携えていた紙袋から赤い布着れを取り出すと、枕元のティッシュと共に謙二に向かって放り投げた。

「はぁはぁ、はぁはぁ、はい」

 未だ肩で息をしながら謙二は数枚のティッシュを抜き出し、それを己の股間にあてがおうとした。

 これ、あたしの……

 膨らんだ胸越しに濡れてまだ開いたままの己の股間をじっと見詰め、謙二は今の自分が間違いなく女の子の身体になっていることを再び認識させられてしまった。そしてティッシュでそこを丁寧に拭き取り終えた時、彼の心は再びブルーイソギンチャクの中に取り込まれようとしていた。

「ふふふふ、じゃあそれを着てみなさい。ママのエアロビ用のレオタード、今のお姉ちゃんにもぴったりだと思うよ」

 謙二が布切れを広げてみると、それは滑らかな生地で出来た真紅のレオタードだった。

「これを、着る、あたしが」

「そうよ、だってお姉ちゃん女の子なんだから」

 謙二はゆるゆると立ち上がると、広げたレオタードに足を通してするすると引き上げていった。その真紅の薄い生地は今の謙二のうっすらと翳った何も無い股間にぴちりと密着し、そこにあるものをくっきりと浮き立たせていた。細くなった腰と大きな胸の盛り上がりは、その上に覆い被せられた光沢のある滑らかな生地によってさらに強調される。そう、謙二が身に纏ったレオタードは彼の身体の柔らかなボディラインを一層艶かしく浮き上がらせていた。そして首から上は男の謙二のままで首から下はレオタード姿の女の子というその姿は……元々謙二が女顔だということもあるが……妖しくも不思議な魅力を醸し出していた。

 すっかりレオタードを着込んで恥ずかしそうに己の前に立った謙二の姿を未久はベッドに座ったままにやにやと見詰めている。

「ふふふ、かわいいよお兄ちゃん。おっとお姉ちゃんだったね、へへっ。でもお姉ちゃん、他の人の前では今まで通りのお兄ちゃんとして振舞うんだよ」

「はい」

「さあて、お姉ちゃん、あたしお姉ちゃんに聞きたいことがあるの」

「はい、未久様、何でしょうか」

「スウィートハニィのことよ。あたしは少なくとも三人のスウィートハニィを知っている。かつてパンツァーレデイが倒したハニィ、私を倒し『虎の爪』を壊滅させたハニィ、そして今生田生体研究所にいるハニィ。この三人って本当に同じ人間なの? ずっとハニィの身近にいたお姉ちゃんはよく知っているでしょう」

「さあ、あたしにもよくわかりません。ただ……」

「ただ?」

「はじめてハニィと出会った時、あたしは彼女の正体は桜井幸だとばっかり思っていました。彼女自身もそう言ってたし、桜井が『虎の爪』と戦いながら如月先生に変装したりハニィに変身しているものとばかり」

「違ったの?」

「はい。桜井は変身して戦っていた時のハニィのことは知らないって言い張っています。そして今のハニィと桜井とあたしは三人大の仲良しだけれど、あたしの知っていた『虎の爪』と戦っていたハニィは、桜井幸ではなく生田蜜樹と名乗っている」

「ちょっと待て、その如月先生というのは?」

「クラスの担任でしたが、現在行方不明です」

「ふーむ」

 パンツ丸見えのあられもない格好で脚を組み、顎に手を当てて考え込む未久。それは愛らしい少女の姿にまるで似つかわしくないものだった。

「……シャドウレディも随分迷わされていたようだったが……ということは、最初にお姉ちゃんが会ったハニィを名乗った桜井幸も実はハニィの変身だったということね」

「……そうかもしれません」

「そもそも生田蜜樹が変身したスウィートハニィはパンツァーレディが倒している筈。それが再び現れ、そして桜井幸はハニィとは別人……ということは、今生田生体研究所にいる生田蜜樹=スウィートハニィの正体は……」

「ハニィが何か」

「簡単な消去法だな、ふっふっふっ、そうか……あっははは」

「未久……さま?」

「ふふふ、スウィートハニィ、さてお前をどうしてくれよう」

 未久は狡猾そうな笑いを浮かべ、再び何事かを考え始めた。

「ああそうだ、それから壊れたハニィの指輪はどうなったのかお姉ちゃん知ってる? さっき確かハニィは指輪をしていなかったよね」

「指輪ですか、さあ、わかりません」

「そうか、まあいい。『虎の爪』の組織も早急に立て直さなければならないが、それよりもまずハニィへの復讐と指輪の奪取が先だ。ふむ」

 一瞬考えた後、再び未久は口を開いた。

「ねえお姉ちゃん」

「はい、未久様」

「その如月先生の写真って持ってる?」

「はい」

 謙二は本棚からアルバムを取り出すとそこから数枚の写真を抜き取った。

「ここに写っている先生です」

「へ〜え、なかなかかっこいい先生だね」

「桜井がぞっこんでしたから」

「そうか……ふふふ、なるほどね。さて、お姉ちゃん」

「はい」

「あたしハニィを学校で孤立させてやりたい。それにはどうすればいいと思う?」

「彼女は今や南高校の人気者ですが、そうですね、校内で影響力のある人間が音頭を取れば」

「適任者はいるの?」

「生徒会長の春日さん、3年の春日美奈子さんなら或いは」

「よし、それじゃあまずその春日美奈子を我等の仲間に引き込むのよ。そしてハニィを一人ぼっちにしてやるの。学校の中で誰もハニィに近づく者がいなくなるような、そんな嫌われ者にね」

「はい。でも仲間にすると言いましても……」

「大丈夫、お姉ちゃんはその生徒会長と二人きりになった時に彼女に触れるだけでいいわ。後は、ふふふ、ブルーイソギンチャクがやってくれるから」

「……わかりました」

「じゃあまた明日ね。それから今までの出来事は事を起こすまで忘れるのよ。そのレオタードもちゃんと着替えてね。そして明日目が覚めたらあなたは元の謙二お兄ちゃん、外見もね」

「はい、忘れます」

「それじゃあお休みなさい、お・ね・え・ちゃん。ふ、ふふっ、あっははは、おっかしい」

 ベッドからひょいと降りると、未久は笑いながら謙二の部屋を出て行った。そして未久の出て行った後を、謙二は夢遊病者のようにぼーっと立ち尽くしたまま眺めていた。







 さて、時間を少し遡る。

 生田生体研究所では謙二と未久が帰った後、入れ違いに警察病院に入院している筈の井荻恭四郎の調査に出かけていた宝田輝一が帰ってきた。

「おお、宝田君戻ったか。どうだった、警察病院の恭四郎の様子は」

「はい、副所長、それが……」

「どうした」

「院長に話を伺ったのですが、恭四郎が受けた体の傷はもうほとんど治っているそうです。すぐにでも公判に出廷することが可能なほどに」

「ほう」

「ところが、今彼は精神科病棟のほうに移っているそうです」

「何だって! それはどういうことだ」

「はい、数日前から彼が急におかしな言動を取るようになったとかで、そのために精神科病棟の個室に転科させたそうです。明日精神鑑定を実施するとか」

「おかしな言動とは一体?」

「はい、何でも自分のことを『これは俺じゃない』とか『俺は外科に勤務している澤田だ、医者だ』と言い張って騒いでいるそうです。まあ罪を逃れるために頭がおかしくなった振りをしているんじゃないかという疑いがありますので、精神鑑定を行うのだとか」

「ふーむ、『これは俺じゃない』か。その他に変わった事はなかったのかい」

「はい、その外科の澤田医師は行方不明なんだそうです。それに若い看護士が一人やはり行方不明だとか」

「それはいつからだ」

「数日前からだそうで」

「まさか恭四郎の様子がおかしくなった日じゃあなかろうな」

「いや、私も気になって聞いてみましたら、そのまさかなんですよ」

「そうか、嫌な感じがするな。宝田くん、君はどう思う」

「残念なことですが、井荻恭四郎は既に警察病院を脱出しているのではないかと。今の彼の中身は別人、恐らく本物の澤田医師とすりかわっているのじゃないでしょうか」

「そうだな。そもそもこれまでの事件について整理していると、初めて奴がここに来た時の中身が本当に奈津樹の同級生だったのかどうかも怪しいものだ。その可能性は充分に有るな。よし、私も明日警察病院に行って、場合によっては恭四郎に会ってみよう。そうすれば、彼が本当に恭四郎なのかどうかはっきりするだろう。それから」

「はい」

「蜜樹をここに呼んで来てくれないか」

「かしこまりました」






 コンコン

「入りなさい」

 宝田が出て行った数分後、再び副所長室のドアが開くとハニィが中に入ってきた。

「お父さん、何かあったの」

「うむ、警察病院から帰ってきた宝田くんから報告を聞いたんだが……」

 賢造はハニィに輝一から聞いた警察病院で起きている異変について話した。

「……というわけだ。私は明日警察病院に行き、彼と会って確かめて来ようと思う」

「そうですか、でも宝田さんの推理通りだとすると、あの『虎の爪』を名乗る怪人たちはやはり恭四郎の命令によって動き始めたと言うことじゃあ」

「うむ。その可能性は大いにある。蜜樹、お前も充分に気をつけるんだ。何しろお前は『虎の爪』を壊滅させた張本人だからな。恭四郎が復讐しようとするかもしれん」

「でももしそうだとしたら、『虎の爪』の怪人は何故あたしではなく未久ちゃんを狙ったんでしょう」

(先生)

「え? ハニィどうした」

(先生、そのことなんですけど、あたし、どうしても気になることがあるんです)

「気になるって、ここに来た時の未久ちゃんの様子のことかい」

(はい。初めて会った時の未久ちゃんと、さっき来た未久ちゃんって姿は同じでもまるで印象が違うんです)

「印象が違う?」

(はい、遊園地でさらわれるまでの未久ちゃんって無邪気で明るくって……でもさっきの未久ちゃんはどこか嫌な感じがするの。お手洗いの件もそうでしたけど、それだけじゃない。何処と無くあたしたちのことを観察しているような、何かを計算しているような、そしてたまに浮かべていた狡猾そうな笑い。あれは小学生の笑い顔じゃあなかった……そう、まるで……)

「まるで?」

(初めてこの研究所に来た時の恭四郎、そしてシスターと化していた時のお母さんそっくりの笑いだった)

「あっ!」

「どうした」

 突然驚きの声を上げたハニィを不審気に見つめる賢造。

「俺の中のハニィが、未久ちゃんはもしかしたら恭四郎と入れ替わっているかもしれないと」

「なに? ふーむ、警察病院を脱出した後で我々が気付かないように研究所の中に入り込む。その為にあの子とすりかわって何食わぬ顔で近づいたか。確かにあの恭四郎なら充分やりそうなことだが……だがまだそうと決め付けるのは早いんじゃないか。とにかくまずは明日警察病院で確かめてみることにしよう」

「でももしハニィの予想が当たっていたら……そうだ、一緒にいる委員長が危ない! それに本物の未久ちゃんの行方も気になります。ぐずぐずしてられないんじゃあ……」

(先生、本物の未久ちゃんってもしかしたら)

「え?」

(あの未久ちゃんの持っていた着せ替え人形。あの人形の中で泣いていた純粋な気、あれは未久ちゃんのものだったのかも)

「くぅぅ、もしそうだとしたら、何て卑劣な。許せん」

「おいおい、まだ決め付けるのは早いと言っただろう。委員長くんには学校でそれとなく注意してやったらどうかね」

「そんな悠長な」

「落ち着きなさい。妹思いの彼のことだ、いきなり未久ちゃんが実は『虎の爪』の首領井荻恭四郎だと言っても怒り出すだけじゃあないのか」

「……そうかもしれませんね」

「まず彼には最近の未久ちゃんにおかしなところがないか聞いてみることだ。若し彼が不審に思っているようであれば、その上で彼に話してみるんだな」

「はい、そうしてみます。でもお父さん」

「ん? 何だ」

「さすがですね。素敵よ」

 にっこりと賢造に微笑みかけるハニイ。

「ば、ばかもん」

 顔を赤らめ照れる賢造だった。

「こほん、そ、それと指輪のことだが」

「え? 指輪ですか?」

「うむ、もしかしたら直せるかもしれん」

「え! 本当ですか」

「幸枝が義父の遺した資料を調べているんだが、指輪に関するものらしき資料が見つかったそうだ」

「それじゃあもしかしたら元に戻れるかも、あっ……でも」

「まあ、先のことはまた考えようじゃないか。今のお前は紛れも無く私たちの娘だ。そうだろう」

「お父さん……そうね、そうですよね」

 再びにっこりと微笑むハニィだった。

(先生……)






 そして生田家、相沢家の一人一人の思いを他所に静かに夜は明けた。






「行ってきま〜す」

 相沢家では、謙二と未久が一緒に家を出ていた。謙二はいつも通りの黒の学生服。その胸は昨晩のことが嘘だったようにまっ平らになっていた。顔色はやや青白いものの、彼の表情もいつもと変わるところは無い。その彼の隣を赤いランドセルを背負って歩く未久。二人並んで歩くその姿は傍目には仲の良い兄妹にしか見えなかった。しかし……

「ふふっ、じゃあお兄ちゃん頼んだわよ」

「はい。って、あれ? 何だったっけ」

 突然はっとする謙二だった。

「ん? 何でもない、何でもないよ。じゃあねお兄ちゃん」

 未久はにやっと笑うと先に駆け出していった。

「ああ、気をつけるんだぞ」

 頼んだわよ? 何を頼まれたんだったっけな。そう思いながらも駆けていく未久を見送った後、南高校への通学路を歩く謙二だった。

「委員長!」

「あ、ハニィおはよう」

「昨日はあの後何も無かった?」

「え? あ、ああ別に」

「未久ちゃんって何かおかしなところが無かった?」

「いいや、ああ研究所にまた行きたいなって言ってたぞ」

「そお……あれ? 委員長何か背が縮んでない」

「え? そんな筈ないだろう」

「そうかなぁ。それに何だか顔色が悪いみたいだし……」

「はあ? ハニィ目がおかしいんじゃないのか。おっ!」

「え? どうしたの」

「春日さんだ」

 彼らの前を一人の女子生徒が歩いていた。眼鏡をかけたその女の子は本を読みながら歩いている。

「春日さん? 生徒会長の春日美奈子……さん?」

「ああ」

「それがどうしたの?」

「え? あれ、何だっけ。何か彼女に話したいことがあったような。あ、ハニィ、俺今日は先に行くわ」

「う、うん」

 そのまま走り出して春日美奈子を追いかけていく謙二だった。

「春日さ〜ん」

「はい? あああなた確か2年C組の委員長……相沢くんだっけ」

「はい相沢です。実は放課後ちょっとお話が」

「え? じゃあ生徒会室に来なさいな」

「わかりました。じゃあ放課後生徒会室に」





 二人が会話している様子を遠目で見ていたハニィだったが……

「うーん、委員長の奴いきなりどうしたんだ」

(先生、謙二さんの様子、ちょっとおかしい)

「え? どういうことだい」

(謙二さんの中から、何か嫌な気を感じる)

「まさか恭四郎が?」

(いいえ、恭四郎じゃあないと思うけれども、いつもの謙二さんと違う。よくわからないけど、もしかしたら既に何かされてしまっているのかも)

「そうか、だが委員長は委員長だし……どうする」

(そうね)

 にゃお〜

「え?」

 ハニィは思わず振り向いた。






 そして放課後。

「相沢です。失礼します」

「開いてるわよ。入って」

 謙二はがちゃりと生徒会室のドアを開けて生徒会室の中に入った。だがその彼に背中を向けたまま、生徒会長・春日美奈子は机に広げられた資料をじっと見ていた。

「うーん、困ったなぁ」

「どうしたんですか」

「今度の南高祭なんだけど、体育館のステージのほうがなかなか調整がつかなくって」

「生徒会って大変ですね」

 美奈子の背後にゆっくりと近寄る謙二。その時彼の髪は突然逆立ち始め、その胸がむくむくと膨らみ始めた。そして手も変型しはじめる。爪が長く伸び、両手は大きく青白いものに変わっていった。

 それはブルーイソギンチャクの手だった。

「う、ううう、はっ」

 一瞬の後、再びブルーイソギンチャクにその意識と身体を支配された謙二は、禍々しく変型した両手を振り上げ、後ろから春日美奈子に掴みかかろうとする。

「さああなたも未久様の下僕におなりなさい」

 だが、美奈子は資料に集中しているのか、まるで彼のほうを振り返る様子がない。

「は〜困ったなぁ」

 彼女が椅子に座ったままため息をつくと目を閉じた。

「くっくっくっ」

 謙二はまさにその両手で美奈子の首に掴みかかろうとしていた。だが次の瞬間、突然彼女の身体が眩く光り始めた。

 ぴかっ

 眩い輝きは謙二の着ていた学生服を粉々に吹き飛ばし、彼の上半身を、再び盛り上がったその両胸を顕わにしてしまう。





「え? 何? 一体何が……」

 何が起きたのか解らず呆然とする謙二。

 その時美奈子は閉じていた目をぱちりと開いた。

「ふふふふふ……」





(続く)


                                   2004年3月31日脱稿



後書き

 中途半端になってしまいましたが、今回はここで終わらせたいと思います。いえ締め切りに間に合わないからというわけではありませんよ。決して(笑
 次回の題名はもう考えてありまして、そのまま行ければ良いなぁと思いますが、さてどうなりますやら。それは次のイラスト次第ということで。
 それでは次回をお楽しみに。そしてお読み頂いた皆様、どうもありがとうございました。