夕日の差し込む部屋の中で、その少女は一人ベッドの上に座っていた。がに股に開いた脚の間からはスカートの奥の白いパンツが丸見えである。しかしそれを気にするでもなく、彼女は足をぶらぶらとさせながら目の前の机に置かれた着せ替え人形に話しかけていた。 「あ〜あ、今日はとっても怖かった。あんな恐ろしい怪人が出てきて未久をさらおうとするんだもの」 (・・・・・・・・・・・て) 「でもやっぱりハニィお姉ちゃんが助けに来てくれた。噂で聞いていた通りだったな。強くて優しくて、そしてとっても綺麗で」 (・・・・・・・・・めて) 「でも未久は、そんなハニィお姉ちゃんの恐怖に歪んだ顔って見てみたいなぁ。ふっふっふっ、あっはっはっ」 (やめて、やめてやめて、未久の真似なんかしないで。それにハニィお姉ちゃんにそんなこと……) 「どうして、今はあたしが未久だよ。あたしが何を言おうが勝手じゃない。あなたは未久のお人形さんなんだから、黙ってそこで見ていなさい。と言ってもあなたの声はあたしにしか聞こえないんだから、誰もあんたみたいなお人形さんが実は本物の相沢未久だなんて思う訳ないけどね。まあまだ役に立ってもらわなきゃいけないし、いざとなったら人質になってもらうよ。さて」 偽の未久は窓の方を振り向いた。窓の向こうからはベランダの手すりに留まった黒い鳩が部屋の中をじっと見ている。 「ブラックピジョン、計画は上手く進んでいるか」 「はい、仰せの通りに進行中です」 「よし、頼むぞ。俺はこの姿でハニィの懐の中にいるとするよ。『虎の爪』の魔の手からハニィに守られる少女・相沢未久としてな。まさか自分が守ろうとしているこの愛らしい姿の少女が俺だとは思うまい。それに……」 その時部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。 「未久、どうしたのぶつぶつ独り言なんか言って。今日は大変だったのよね。さあ早くお風呂に入りなさい」 「うん、ママ」 ベッドからよいしょっと降りると、偽の未久はにっこりと微笑んでそれに答えた。 (ママ、それはあたしじゃないよ。いやだ、いやいや、もういやぁ〜) 悲痛に叫ぶ未久の心をその中に閉じ込めたまま、人形は静かに部屋の中に佇んでいた。 戦え!スウィートハニィU 第2話「陰謀、深く静かに」 作:toshi9 さて、その頃生田生体研究所ではハニィが遊園地での出来事を賢造、幸枝の夫妻、それに姉の奈津樹と賢造の助手の宝田輝一に話していた。 「……と言うわけです。襲われた未久ちゃんを奪回することはできましたが、危うく『パープルカメレオン』と名乗るその怪人に拉致されるところだったんです」 「ふむ。『虎の爪』は壊滅したものとばかり思っていたんだが」 「そうね。怪人たちに袋叩きにされて瀕死の重傷を負った恭四郎は、未だ警察病院に入院しているはず。それにたとえ退院しても即刻刑務所行きでしょう。怪人たちはみんな『虎の爪』から離反してどこかでひっそりと暮らしていることでしょうし、どうして今頃『虎の爪』を名乗る怪人が現れて活動を始めたのか……奈津樹、あなたはどう思う?」 「気になることが二つあるわ。一つはあの恭四郎が大人しく警察病院に入院しているのか。そしてもう一つは『虎の爪』が壊滅した時に海外に散っていた怪人たち。パンツァーレディだった時のあたしのように海外に派遣されて、そのまま日本に戻っていなかった怪人が何人かいるんじゃないかと思うけれど、現れた怪人っていうのはもしかしたら……」 「そうか、そいつらが日本に帰ってきた可能性はあるな。しかし彼らに命令する者がいないことには勝手に活動する筈はなかろう」 「そう、そうなのよね」 「宝田くん」 「はい、先生」 「至急警察病院に入院しているはずの井荻恭四郎に関して調べてくれたまえ。彼の身辺で何かおかしなことがないかをね」 「わかりました。早速調査してみます」 「蜜樹」 「はい、お、お父さん」 まだ少し気恥ずかしさを感じながらも、光雄はようやく演技抜きで賢造のことをお父さんと呼ぶことに慣れ始めていた。 「お前はその相沢未久という少女を守るんだ。彼らが何故その子を襲ったのか、その目的はわからんが、再び狙ってくる可能性もある」 「そうですね……そうだ、明日は未久ちゃんをここに連れてきても良いですか」 「うむ。それが良いかもしれないな」 (……先生) 「え? なんだいハニィ」 (ちょっと気になることがあるんです) 「どうしたんだい、蜜樹」 「い、いえ、俺の中のハニィ……いえ、蜜樹さんが」 「あたしの、でしょう! 蜜樹」 「は、はい。あ、あたしの中の蜜樹さんが気になることがあるって言うんです」 「ほう」 娘はちゃんと其処にいる。嬉しそうに光雄を見詰める賢造、そして幸枝だった。 (あの怪人、パープルカメレオンって名乗ってたけれど、余りにも呆気なく退散したでしょう) 「それは何か事情があったんじゃないのか。速攻で拉致できなかったら引き上げるように命令されていたとか」 (そうね。そうだったらいいんだけれど) 「どういうことだい」 (もしかしたら、何か裏があるのかも。罠が仕組まれているのかもしれない) 「うーん」 「どうしたんだい」 「蜜樹さんがこの事件には罠が仕組まれているんじゃないかって。それがどんなものかはわからないけれど」 「そうか、いずれにしても用心することだな。それにしても再び『虎の爪』の怪人と戦うことになるとはな」 「大丈夫、どんな奴が現れたって、お……あたしが倒してやりますよ」 「慢心してはいけないぞ。指輪はもう無いんだぞ。それに……」 「え?」 「いや、何でもない。まあとにかく何か対策を考えようじゃないか」 「はい、お願いします」 こうして翌日の日曜日は相沢兄妹を研究所に招くことになり、ハニィは早速それを謙二に電話で伝えたのだった。 謙二がその誘いに喜んで応じたのは言うまでも無い。 さて、その夜のことである。謙二が自分の部屋で勉強していると、パジャマ姿の未久が入ってきた。 「お兄ちゃん」 「ん? どうしたんだい未久」 「今日は、とっても怖かった」 「ああ、危ないところだったな。全くハニィのおかげで助かったよ。彼女には感謝しなくっちゃな」 「そうだね。未久、ますますハニィお姉ちゃんのことが好きになっちゃった。ねえお兄ちゃん、明日はハニィお姉ちゃんには会えないの」 「さっきハニィから電話があってな、明日研究所にお前を連れて来たらどうだって」 「うわぁ〜研究所に入れるの。明日もハニィお姉ちゃんに会えるんだ。未久、嬉しい!」 「ああ、そういうことだ。じゃあ今日はゆっくり眠るんだよ」 「うん、未久、明日がとっても楽しみ。じゃあお兄ちゃん、おやすみなさい」 未久は謙二に向かって明るく笑うと部屋を出た。だが部屋のドアを静かに閉めると、少し俯いたその顔は謙二に見せた表情とは全く違う不敵な笑いに変わっていた。 (こんなに早く生田生体研究所に入れることになるとはな。未久とっても楽しみ……か。そうだな……くっ、くくっ、あっはははは) そして次の日の日曜日、謙二と未久の二人は並んで生田生体研究所の入口の前に立っていた。 謙二がインターホンを鳴らすと、ハニィが研究所の扉を開けて二人を迎え入れた。 「いらっしゃい、未久ちゃん、委員長」 「こんにちは、ハニィお姉ちゃん!」 ハニィに抱きつく未久。それをハニィの後ろから微笑ましく見詰める幸枝と奈津樹だった。 「いらっしゃい。あなたが相沢未久ちゃんね」 「はい、相沢未久です。こんにちは」 「まあまあお行儀のよいこと」 「未久ちゃん、こっちはあたしのお母さんとお姉さんよ」 「よろしくね、未久ちゃん」 「はい、ハニィお姉ちゃんも綺麗だけど、二人ともとってもきれい」 「まあ、お上手ね」 「未久、お前いつに間にそんなお世辞覚えたんだ」 「あら、謙二くんはお世辞だって言うの」 「え? い、いえ、あ、あの、二人ともおきれいですよ」 「よ・ろ・し・い」 「「ぷっ、あっはははは」」 「あれ? 未久ちゃん、昨日もそのお人形持ってたわよね。お気に入りなの?」 「うん! この子もミクって言うんだよ。ほらミクちゃん、お姉ちゃんたちにご挨拶なさい」 未久は人形の頭を押さえてぺこりとお辞儀させながら一同に紹介した。 「ふふ、か〜わいい。そうか、よろしくね、もう一人のミクちゃん」 (…… …… …… ……) (……え?) 謙二と未久の来た生田生体研究所は、その日1日明るい笑いに包まれていた。 『虎の爪』の怪人の襲撃を警戒して研究所の建物の外には出なかったものの、みんなでゲームしたり、女性陣でわいわい言いながら昼食やおやつを作ったりして、アッと言う間に時間が過ぎていった。 「ねぇハニィお姉ちゃん」 「なあに未久ちゃん」 「ハニィお姉ちゃんって変身してあの『虎の爪』の怪人たちと戦っていたんだよね」 「良く知ってるわね。さては謙二くんから聞いたのかな」 「え? 俺、未久に教えたっけな??」 「未久もハニィお姉ちゃんが変身するところって見たかったな。お姉ちゃんって今でも変身できるの」 「いいえ、残念ながら今はできないのよ」 「残っていた良い怪人たちってまだ研究所の近くにいるのかなあ」 「みんなどっか遠い所で、きっと平和に暮らしていると思うわ」 「そうなんだ。ふ〜ん」 「さあ未久、今日はそろそろ帰ろうぜ」 「うん」 そして玄関に下りる謙二と未久。それをハニィと奈津樹と幸枝の三人が見送った。 「ハニィお姉ちゃん、奈津樹お姉さま、幸枝お母さま、今日はどうもありがとうございました」 「まあ、どうもご丁寧に。またいらっしゃい」 「うん! またきっと遊びにくるね」 「じゃあ気をつけて」 玄関でぺこりとお辞儀する未久を笑顔で見送るハニィと奈津樹、幸枝だった。 「未久ちゃんっていい娘ねぇ」 「うん、そうね。かわいいしとっても素直だし」 (……先生) 「え? どうしたハニィ」 (先生、未久ちゃんの持っていたあの人形って生きている) 「生きてる? 一体どういうことだい?」 (あれって見た目は人形だけど、人の意識を感じたの。あの子は泣いていた。そして必死に何かを訴えようとしていた。でも今のあたしには何を言いたかったのかよくわからない。指輪があればわかったと思うんだけど) 「そうか、どうして未久ちゃんの人形が。まさか怪人が人形に化けているとか」 (いいえ、あれは邪悪な気じゃなかったわ。幼くて純粋な気。どっかであの気に触れたことがあるんだけれど、よくわからない。それに……) 「どうした、まだ気になることが?」 (未久ちゃんって研究所に来たことがあるのかな) 「いいや、今日が初めてだと思うよ。何故だい」 (誰も教えてないのに一人でトイレとか行ってたし) 「へぇ〜良く見てるな」 (何か気になるの。もう少し良く考えてみる) 「ああ、何でも思いついたら教えてくれ」 (はい) その夜、相沢家では再びパジャマ姿の未久が謙二の部屋を訪れていた。 「お兄ちゃん」 「おう、どうした未久。そう言えばお前、今日はやけにお風呂が長かったなぁ」 「うん、だって女の子の身体って気持ちいいんだもん」 「何だそりゃ。お前まるで初めて女の子になったみたいなことを」 「ふふっ、ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんもこの気持ち良さを味わってみたくなあい?」 「ははは、できるもんならな、でも俺は男だからそんなのわからないよ。まったく女ってなんでこんなに風呂が長いんだかなぁ」 「お兄ちゃんにもわからせてあげようか」 「え?」 ガラッ! その時突然部屋の窓が開いた。そして外から何か触手のようなものが何本もうねうねと部屋の中に入ってくる。 「な、なんだこれ??」 謙二が呆気にとられて見ていると、触手の後からぬらっとしたその本体がゆっくりと部屋の中に入ってきた。それは青いイソギンチャクそっくりの怪人だった。 「こ、こいつ『虎の爪』の怪人。未久、逃げろ!」 謙二は未久を庇うように怪人との間に入った。 しかし謙二の後ろに立つ未久は驚くでも怖がるでもなく、じっと立っている。 く、くっくっくっ…… 未久は笑いをかみ殺していた。さもおかしくて堪らないと言わんばかりに。しかし未久を庇おうとする謙二がそれに気が付くことは無い。 「どうした、未久、早く!」 しかし完全に部屋の中に入り込んだ怪人は目の前の謙二に向かってその触手をするすると伸ばすと、がっちりと彼の体を捕らえてしまった。 「く、くそぅ、離せ、離せぇ! くそ、う、うううぅ」 何本もの触手に捕まえられた謙二を強烈な眠気が襲う。そしてやがて彼は捕まったままその場にがくりと倒れると、ぐったりと眠ってしまった。 それを後ろから笑って見ている未久。 「よし、ブルーイソギンチャク、やれ」 「フォッフォッフォッ」 未久の声に促され、イソギンチャク怪人は触手で謙二の服をするすると脱がせ始めた。そしてすっかりと裸にした謙二の体をその触手で持ち上げると、自分の口の中に真上から入れていく。 足、腰、胸、腕と謙二の体はゆっくりとイソギンチャク怪人の中に飲み込まれていった。彼の体が入る度にクネクネと体を振るわせるイソギンチャク怪人。そして遂には謙二は首から上だけを残して、ほとんどイソギンチャク怪人に体を飲み込まれてしまっていた。しかし謙二はそのことに気が付くことなく眠り続けている…… その時謙二は夢を見ていた。 ふと気が付くと、彼は何時の間にか学生服を着て何処かの道路に立っていた。 「あれ? ここ何処だ。俺、部屋にいたんじゃぁ、未久は何処だ?」 きょろきょろとあたりを見回す謙二。 何処だ、ここ…… 「ねぇ!」 突然彼の背後から、誰かが謙二に声をかけた。 「え?」 振り返ると、後ろから他校の女子生徒が駆け寄ってくる。 あの制服って確か隣の女子高だよな。彼女って俺のことを呼んでるのか? それにしても、もう11月だっていうのに半袖って…… そのショートカットの女の子ははぁはぁと息を継ぎながら謙二の前で立ち止まった。そして謙二のことをじっと見詰めている。 ちょっと勝気そうな子だな。何の用なんだ。 謙二がそんなことを思っていると、女の子は彼に向かって話し掛けた。 「ちょっと、恵子。あんた何処行くのよ」 「え? 恵子?」 「早く学校行かないと遅刻しちゃうよ」 「え? え? ちょっと待ってくれ、恵子って誰だ。俺は南高校の相沢謙二。男だぞ……」 「恵子ったら、何わけのわかんないこと言ってるの。夢でも見たんじゃないの、あんた女でしょう、ほら!」 女の子は謙二の後ろに回り込むと、自分の体を彼の背中に密着させ左手を脇の間に差し入れた。そして謙二の胸をその手でぎゅっと掴む。 むにゅ あ! その瞬間、彼の胸から奇妙な感覚が湧き上がった。 この感触って? 俺の胸に何か出来ている? 「ちょ、ちょっと」 謙二はその手を払いのけようとしたが、ふと払いのける自分の手がいやに白く華奢になっているのに気が付いた。おまけに長袖の学生服を着ている筈なのに、腕がむき出しになっている。 そう、彼の着ていた黒い学生服は何時の間にか別の服に変化していた。 「え? なに?」 思わず自分の体を見下ろした彼の目に飛び込んできたもの、それは赤いリボンタイ、胸の部分が盛り上がった青いベスト、そしてプリーツのスカートと紺のハイソックスを穿いたきれいな脚だった。そう、謙二は今、目の前の女の子と全く同じ女子高の制服を身につけているのだった。 ふぁさっ 何時の間にか、長く伸びた髪が彼の頬にかかる。 「ほら、恵子、行くよ」 「ちょ、ちょっと待って、どうして……これって何かの間違いだ」 「待・て・な・い。もお、早く行くよ。あたしまで遅刻しちゃうんだから」 「違う〜、俺は、俺は〜」 女の子に引っ張られるようにして、謙二は女子高の中に連れ込まれてしまった。 教室に謙二を引っ張り込んだ少女は、始業前でわいわいしているクラスの女子生徒たちに向かって叫んだ。 「ねえみんなみんな、恵子ったら自分のことを男だって言うのよ」 「まあ、じゃあ本当かどうか確かめてみましょうよ」 「え゛」 「それ、剥いちゃえ」 「止めろぉ、そんな、止めてくれ、それにここは学校だろう」 そんな謙二の叫びに誰も耳を貸すことはない。教壇の前、彼は群がってくる女の子たちにベストもスカートも、ブラウスも瞬く間にむしり取られてしまった。 「な〜んだ、やっぱり女の子じゃない」 「え? そ、そんな」 謙二はブラとショーツ1枚の格好でうずくまっていてた。胸を抱えるその腕には自分の胸の感触が伝わってくる。閉じた両足の間からは慣れ親しんだ充実感が消え失せていた。 「ほら、恵子、あなたは立派な女の子でしょう」 「違う、俺は」 「あたしって言いなさい」 「そうよそうよ、女の子はあたしって言わなきゃ駄目よ」 口々にそう言いながら、彼の周りを女の子たちが取り囲む。 「俺は、相沢謙二だ」 「違うでしょう、あなたは相沢恵子でしょう、ほら、あたしは相沢恵子ですって言いなさい」 「違う……俺は男……」 「これの何処が男なの」 女の子の一人が彼のブラの中にぎゅっと手を差し込む。 「ひゃっ!」 「ほら立派なお乳があるじゃない」 「ちが……」 「ここだって」 別な女の子が彼のショーツの中にすっと手を差し込んだ。その指がもぞもぞとショーツの中を動き回る。 「う、い……いや、ちが、く……くふぅ、は、はぁはぁはぁ」 彼の股間からは彼の知らない快感が湧き上がっていた。 「ほおら、ここだって立派な女の子じゃない。言いなさい。あたしは女の子、あたしは相沢恵子ですって」 「言いなさい」 「言いなさい」 「おれ……」 「言いなさい」 「言いなさい」 いつしか彼の周りに教室の女の子全員が集まり、声を合わせて叫んでいた。その声に責められ謙二の意識は段々と朦朧とし始めていた。 俺は、男? 女? 謙二? 恵子?…… 「ほら、どうしたの、恵子」 「言いなさい」 「言いなさい」 「あたし……」 「言いなさい」 「言いなさい」 「あたし……は、相沢恵子? あたしは女の子?」 「ふふふ、遂に言ったわね。よし、これからあなたは相沢恵子よ。たとえどんな姿であってもね。あたしたちはみんなであのお方にお仕えするのよ」 「あのお方?」 「あなたの妹、未久様よ」 「未久が……あのお方?」 「そうよ。あたしたちは未久様にお仕えするのよ」 「未久……様」 「言いなさい。あたしは未久様に命をかけてお仕えしますって」 「あたし……は……相沢恵子は……未久様にお仕えします」 「「あっははは」」 途端に謙二の周りは真っ暗になった。 その瞬間、謙二を咥えたブルーイソギンチャクはぐにゅぐにゅと体中を脈打たせながら変型し始めた。 そのずんぐりした胴体が、謙二を咥えたまま徐々に縮み始めていたのだ。そして段々と咥えられた謙二の体のラインがその表面に浮かび上がり始める。 そしてブルーイソギンチャクの胴体は遂にはすっかり薄くなって、謙二の首から下はまるで青い全身タイツを着込んだかのようになっていた。さらにその青い肌の色が今度は首から上の謙二の肌の色と同じものへと変わり始めた。そして尚もそのシルエットを変型させ続けていた。 謙二の両胸が膨らみ始める。腰はきゅ〜っと絞れていく。そしてブルーイソギンチャクの薄い肌越しに膨らみを見せていた彼の股間はその盛り上がりを少しずつ無くしてへこみ始め、やがてすっかりつるんとしたものに変わっていった。両胸の先端にはぽちっと乳首が突き出し、きれいな形のおへその穴が開く。そして股間にはぴきっと割れ目が生み出されていた。 そう、ブルーイソギンチャクは謙二の体の表面に張り付いて己を変型させることで、彼を女性の姿に変化させていたのだった。 謙二はその間も全く目を覚まさない。しかし変化がすっかり終わると、その身体は彼の意志とは無関係に動き出した。目を瞑ったまま勝手にベッドに向かって歩き出すと、ベッドの上に寝転がるのだった。 変化し終えた謙二の身体をにやにやと見詰めていた未久は、寝ている彼と一緒にその横に寝転がった。 じっと謙二の横顔を見詰める未久。その時謙二はようやくその目を開き始めていた。 「……う、う〜ん」 「お兄ちゃん、大丈夫」 「あ、あれ?」 「え? どうしたのお兄ちゃん」 謙二がいつの間には未久と一緒にベッドで寝ている自分に気がついた。 「いつの間に寝てしまったんだ。あれ? 未久、あのイソギンチャクの化け物は? それに何か変な夢を……未久様……どうしてあたしと一緒にベッドに……え? 今あたし何て」 慌てて上体を起こした謙二の胸がぷるんと揺れる。それを見て彼は自分は裸になっていること、そして身体の異変に気が付いた。 え? 胸が膨らんでいる。 股間から……アレが無くなっている。 鏡に映るその姿は、首から上は謙二のままだったが、身体はすっかり女の子と化していた。 「なんだこれ! いったいどうして……」 「お兄ちゃん、あ、もうお姉ちゃんだよね。ほら、女の子の体って気持ちいいでしょう」 未久の手が彼の胸を優しく撫でる。 「はうっ、う、ううう、いや、ちょっと、未久、く、くぅ」 未久が撫で回す度にそこから快感が湧き上がっていく。そう、夢の中で感じたあの感覚が。 気が付くと、彼は再びベッドに横になっていた。未久は今度は彼の股間に顔を埋めると、その部分を舐め始めた。 ピチャ、ピチャ 「あ、あう、うううう」 ピチャ、ピチャ 静かな部屋の中には未久の使う舌の音だけが響き渡っていた。 「くふっ、あ、あん、ああん、ああああぁ」 やがて謙二は身体を弓なりに逸らせ、びくびくっと震わせたかと思うとがっくりとベッドに四肢を投げ出していた。 「はぁはぁ、はぁはぁ」 「ふふふ、もうあなたはあたしの下僕だよ。いいこと、あたしはこれからハニィを恐怖と絶望の底に叩き落してやるの。あなたにもそれを手伝ってもらうわ。いいわねお姉ちゃん」 快感に包まれた謙二の心の中に、夢の中の出来事が蘇っていた。 そうだ、あたしは…… 「いいわね」 謙二はベッドから降りると、ゆっくりと未久の前にひざまずいた。 「はい、未久様」 (取り敢えず了) 2004年2月22日脱稿 後書き うーむ、とんでもないことになってきました。これでいいのだろうか。 未久に続いて謙二もあいつの手の内に落ちてしまいましたが、まだハニィを始め、生田家の面々はそれに気が付いていません。果たしてこの先どうなってしまうのか。それは次のイラスト次第ということで。 それではお読み頂いた皆様、どうもありがとうございました。 ブルーイソギンチャク 目標の人間を飲み込み、身体に貼り付いてその人間の意識を支配する。また貼り付いた自分のボディを変型させることで飲み込んだ人間の姿を変えることができる。 謙二の夢とその中に出てきた女の子は、勿論ブルーイソギンチャクの思念によるものである。 |