ランプリーレディに続いてレディ・アイまでもがスウィートハニィの前に敗れ去り、某所ではシャドウレディに対して詰問がなされていた。

「指輪の奪取に2度ならず3度も失敗しおって。シャドウレディ、この失態どう責任をとるつもりだ」

「申し訳ありません。レディ・アイの作戦は完璧なはずでしたが……」

「もはやお前の言うことは信用できぬ、当分謹慎しておれ」

「シ、シスター。どうか今一度チャンスを」

「ならぬ! 下がれ」

 シスターはその美しい顔を怒りに歪ませていた。だがその時シスターに向かって進み出る一人の怪人がいた。

「シスター、お待ち下さい」

 その怪人はシャドウレディに良く似た雌猫タイプだが、背が低く毛色もシャドウレディが黒なのに対して茶色をしていた。

「シスター、どうぞあたしをお遣わしください」

「ほう、お前は」

「シャドウガールです。シャドウレディの妹です」

「妹か、姉の失態をお前が償おうというのか」

「駄目よ、シャドウガール、あなたまだ実戦経験が無いでしょう。スウィートハニィは手強い相手よ」

「姉さん、大丈夫だニャ。初陣だけれど、必ず手柄を……指輪を奪取してみせるんだニャ」

「ふむ、シャドウレディ、妹に免じて今回は許そうぞ。シャドウガール、見事指輪を奪取してみせぃ」

「ははっ!」






戦え!スウィートハニィ 

第5話「シャドウガールの誤算」


作:toshi9






 さて、レディ・アイを打ち破った如月光雄であったが、現在それ以上に手強い相手に悪戦苦闘していた。

「せんせい〜こっちこっち」

「おいおい、そんなに急ぐなよ」

「だってうれしいんだもん。デートデート、えへへ」

「お前なぁ、これはデートじゃないぞ」

「デートだもん。一緒にプールに行って、それからお茶して、買い物して・・・」

「はぁ〜」

 光雄の傍らで指折り今日のスケジュールを確認する幸であったが、そんなうれしそうな幸が微笑ましくも自分がその対象であることに対して、相変わらず教師としてこれで良いのかと悩む光雄であった。

(まったく困ったもんだ。だが、いつまた『虎の爪』の怪人が現れるかもしれないしな。なるべく桜井の側に居てやらなければ)

 プールに一緒に行くことに安易にOKしてしまったことをちょっぴり後悔している光雄であったが、桜井幸の姿でスウィートハニィに変身する姿を『虎の爪』の怪人たちの前に晒したことで、『虎の爪』は幸がスウィートハニィだと思い込んでいることに責任を感じざるを得なかった。

 そう、元をただせば自分のせいだとは言え、幸に対して矛先を向けている『虎の爪』の攻撃から幸を守るために、ますます幸との緊密さを増してしまう光雄であった。

 そんな彼らの後ろを1匹の子猫がつかず離れずついて来ていた。

「あれがスウィートハニィだニャ。隙を見て合体してやるんだニャ」

 その子猫・・・シャドウガールは、二人の後姿を見ながら目を細めて笑っていた。





 さて、幸が用意したプールのチケットとは都心の遊園地の中にあるプールのもので、遊園地の入場券付きのチケットだ。

 光雄と幸は遊園地に入場すると、案内地図を見てプールの場所に向かって歩いていった。

 その後をなおもついていく子猫。

 二人はプールの入場口にたどり着くと、受付嬢にチケットを渡して施設の中に入った。そして各々更衣室で水着に着替えた後で再び落ち合うことにした。

「じゃあ先生、着替え終わったらここで待ち合わせましょう」

「ああ、じゃあ後でな」





「しっ、しっ」

 その頃、シャドウガールは受付嬢に遮られてプールの中に入ることができないでいた。遊園地の入口は上手くすり抜けたものの、プールの受付嬢は手強かった。

「困ったニャァ」

 子猫の姿でしばらくうろうろしていたが、どうしてもこのままでは中に入れそうもないを悟るとその場を立ち去ってしまった。

「こうなったら誰か人間と合体して中に入るニャ」

 シャドウガールが辺りを伺うと、一人の女子高生はこちらに歩いてくる。白いブラウスをミニのプリーツスカートから出した制服姿はちょっとだらしなく見えるが、かえってそれが良く似合うかわいい娘だ。丁度チケットを手に持っていて、どうやらこれからプールの中に入るようだ。人通りがまばらなことを見計らって、シャドウガールは女子高生の前におずおずと進み出た。

「ミャー、ミャー」

「あら、子猫ちゃんどうしたの」

 子猫は彼女の前に座り込むと、彼女に向かって鳴き出した。

「どうしたんだろう。具合でも悪いのかなぁ」

「ミャー」

 その時子猫は顔を上げると、突然彼女の体目掛けてジャンプしてきた。

「きゃっ」

 彼女はそれを受け止めようとしたものの、間に合わずに彼女の胸に子猫はぶつかる・・・いやぶつかるはずであったが、子猫はそのまま彼女の胸の中にずぶずぶと吸い込まれていってしまった。

「え? どうして? く、くはっ」

 彼女は突然苦しそうにしゃがみ込み、胸を押さえてぶるぶる震えだした。

 やがて、震えている彼女の茶色の髪がピンク色に変わり始めたかと思うと、頭にぴょこんと猫の耳が生え、ミニスカートの中からは猫の尻尾がニョキニョキと生えてきた。

「あ、あ・・・ああ」





 まるで猫娘のように変身してしまった彼女は座り込んだまま不安気な表情で目をパチパチさせていたが、突然その口をにやりと歪ませた。

「よし、成功だニャ。この姿ならきっと中に入れるニャ。中に入ったらスウィートハニィと再合体するんだニャ」

 シャドウガールの作戦とは、得意の合体技でスウィートハニィ(と思い込んでいる)すなわち桜井幸に強引に合体し、その体と意志を支配することで指輪を手に入れようというものだった。

「シャドウガール、くれぐれも無理はするなよ」

 建物の影の中からシャドウレディが心配そうに囁く。

「大丈夫、あたしにどんと任せるんだニャ。姉さんの汚名は必ずあたしが晴らしてみせるんだニャ」

 女子高生に合体したシャドウガールは、幸に合体して指輪をシスターに献上している自分の姿を想像してひとしきりにやけていた。

「ちょ、ちょっと」

「え? あ、ああっと・・・さあて、じゃあ始めるんだニャ」

 シャドウガールはよいしょっと立ち上がってパンツの埃を払うと、プールの入口に向かって歩き出した。

「あいつ、本当に大丈夫か」

 その後姿を見送りながら、妹の楽天的な返事にますます不安に駆られるシャドウレディであった。

 そんなシャドウレディを尻目に、女子高生に合体したシャドウガールは入口でさりげなく受付嬢にチケットを渡した。受付嬢は耳と尻尾を生やした彼女の姿に怪訝な表情を見せたものの、そこは遊園地の中ということもあり、コスプレかなんかだろうとさして詮索しようともせず彼女を通すのだった。






 その頃、光雄と幸は各々水着に着替えるために男女の更衣室に分かれて入っていた。

(先生、『虎の爪』の怪人の気配がする)

「なんだって!」

 ポロシャツを脱いで上半身裸になっていた光雄は思わず叫んだ。その声に思わず周囲の注目を集めてしまう。

「あ、いや」

(あまりキョロキョロしないで。ますます変に思われますよ)

「どうする」

(この気・・・あまり強力じゃない。恐らく女子更衣室の方)

「そうか。しかしそうなると幸が危ない!」

 光雄は慌てて服を着ると男子更衣室を飛び出した。そして物陰に隠れると指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光の中から現れたのは半袖のセーラー服姿の栗田宏美だった。勿論光雄の変身した姿だ。手に持っていた水泳パンツとタオルの入ったバッグも女性用のシースルーバッグに変わっている。その中に入っているのは、幸に無理やり買わされたあの真っ赤なビキニだ。

「よし、この姿なら中に入れるだろう」

(あの・・・先生、この格好でまさか)

「おいおい、これは覗きじゃないぞ。俺は教師だ」

(うふっ、そうですね、ごめんなさい。さあ早く行きましょう)

「おう」

 栗田宏美の姿になった光雄は威勢良く女子更衣室の扉を開けるとその中に入ったが、入ったとたん中に充満しているむっとむせ返るような女臭さに思わずくらくらとしてしまっていた。

 おまけに目の前で繰り広げられているのは右を向いても左を向いても女の子たちの着替え、着替え。どっちを向いても水着に足をくぐらせている女の子や下着を手に持つ女の子、バスタオルを巻いている女の子でわいわいがやがやと喧騒していた。

 光雄は「俺は教師だ」と必死に心の中で呟きながらその中に分け入り、ようやく幸の姿を見つけると彼女に声をかけた。

「幸〜」

「あら宏美、あんたも来てたの」

「うん。幸は誰と来たの」

「あたし? えへへ、先生とだよ」

「へぇぇ、じゃあこの間の予定通りか。ねぇ幸、いいかげん先生は諦めなよ」

「え、そんなの駄目だよ! あたし絶対に先生と一緒になるって決めているんだから」

「あんたねぇ、ほんとしょうがないなぁ」

「宏美ったらそんなこと言わないで応援してよ。それよっか早く着替えようよ」

「え? あ・・・そうか」

「なにうろたえているのよ。ほらぐずぐずしていると先生を待たせちゃうから早く着替えて行こう」

「え、えーと」

 幸は尚も躊躇している光雄・・もとい宏美の着ているセーラー服を無理やり引っぺがし始めた。

「ちょ、ちょっと、やめてよ。自分で着替えるから」

「あれ持ってきたんでしょうね。あたしが選んだやつ。お! あるある。じゃあほら宏美、早く着ちゃいなよ」

「そ、そうね。はぁ〜」

「何ため息なんかついているのよ」

「え? な、何でもないよ・・・ほら幸も着替えたら?」

「あ、そうだね」

 ううう、本当にこれを着ることになろうとは。

(先生がここに入るって決めたんでしょう。こうなるに決まっているじゃないですか。覚悟決めて早く着替えましょうよ)

「ハニィまでそんな」

「え? 誰?」

「え、ううん、独り言よ。ははは」

「変な宏美」

 光雄は仕方なくスカートの中のショーツを下ろすと、バッグから出したビキニ用のアンダーショーツを、そして真っ赤なビキニのパンツを穿いた。上着を脱いで体にバスタオルを巻きつけると、スカートを下ろし、バスタオルの中のブラジャーを外し、代わりに水着のブラジャーを胸に着けた。パチッと背中のホックを留め、バスタオルを外すと、首の後ろで肩紐を結わえると出来上がりだ。

 光雄の目の前の鏡には、そのスリムな体を真っ赤なビキニで包んだ栗田宏美が映っていた。鏡の中の彼女はちょっと恥ずかしそうに頬を赤くしている。

 これが俺なのか・・・しかし何でこんなにスムーズに着替えられるんだ・・・あ、これももしかして。

(ええ、私が自然にできるようにしているの)

 ・・・女の子になり切ってこんな水着に着替えている俺って・・・

 今更ながら女の子している自分の行為を恥ずかしいと思う光雄であった。 

(先生、本当は恥ずかしがり屋なんですね)

「馬鹿! 教師がこんなこと」

「え? 教師がどうしたって」

「え? えっと・・・如月先生がこんなところ見たらどう思うのかなって、へへっ」

「先生が覗きなんかするわけないじゃない。でもあたしの胸だけは先生に見せたいな。ほらっ!」

「ちょ、ちょっとそんなもん出さないでよ」

「いいじゃない女同士だもん」

 Dカップはあろうかという自分の立派な胸を宏美に見せ付ける幸であった。まさか見せ付けているのが宏美ではなく本当に光雄だとも知らずに……

 もし桜井にばれたら・・・怖いな。

 幸の胸をじっと見詰めながら、思わず地雷を踏んでしまったような気持ちになった光雄だった。




 ハニィ、怪人の気配ってわかるか?

(うん、この中にいるのは確かみたい。でもこれだけ人が多いと誰なのかよくわからないわ)

 そうか。とにかくなるべく幸の側を離れないことだな。

 レモンイエローのビキニを着た幸と真っ赤なビキニ姿の宏美(実は光雄であるが)は水着に着替え終わると、一緒に女子更衣室を出て光雄が男子更衣室から出てくるのを待った。しかしいつまで待っても光雄は出てこない・・・当たり前だ。

「先生遅いなぁ。どうしたんだろう」

「あたし、ちょっとプールのほうを見てくる。もし先生が来たら二人でプールのほうに来て」

「うん、じゃあもし先生が来たら行くからね」

 プールのほうに探しに行く振りをして物陰に隠れると、光雄は小さく叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光の中から現れたのは海水パンツ姿の光雄だった。

「桜井、こっちだぞ」

「あれ? 先生もう更衣室を出ていたの?」

「ああ。プールのほうをちょっと見てきたんだ。ごめんごめん」

「ねえ、宏美・・・クラスの栗田宏美を見ませんでした」

「え? い、いや見てないぞ」

「そっかぁ、先生を探すってプールのほうに行ったんですけれど」

「彼女も来ているのか」

「うん、更衣室の前で偶然会って。でも帰ってこないなぁ」

「まあ泳いでいれば会えるさ。さあ桜井、泳ぐぞ」

「うん」

 ビキニ姿の幸はにっこり笑うと光雄の腕を掴んでプールに駆け出した。すらりと長い手足が眩しい。

「おいおい、そんなに走るなよ」

「あはっ、はやくぅ〜せんせい!」

 幸はきゃっきゃっとプールの中に入ると、光雄の腕を掴んでぎゅっと胸を押し付けるように抱きついてくる。

「おいおい、そんなに抱きつくな」

「だってあたしあんまり泳げないんだもん」

「それでよくプールに行こうなんて」

「えへっ、ねえ先生、泳ぎ教えて」

「しょうがないなぁ、じゃあ俺の両手を掴んで、背筋を伸ばして」

「はーい、きゃあ、沈んじゃうよぉ」

「ほら、しっかりばた足しなきゃ駄目だぞ」

 光雄の手を掴んで懸命に足をばたつかせる幸。時折休憩する時のその顔はとっても幸せそうだった。





「それにしても宏美どこに行ったんだろう」

「ちょっとその辺を見てこようか」

「んーと、あたしが探して来るから、先生はここにいて」

「そうか」

 幸がプールの中から上がってプールサイドを歩きまわっていると、猫耳のついた帽子と猫の尻尾のついたスカート付き水着を穿いたおかしな格好の女の子がその後にぴったりとついていた。

(先生、あの子ですよ。怪人が取り付いています)

「ははぁ、あんな格好でプールなんて変だと思ったら、やっぱりそうか」

 光雄は再び物陰に隠れると、指に嵌めている指輪を胸に当てて叫んだ。

『みつお・フラァッッシュ!』

 光雄の水泳パンツ一枚の体が光に包まれる。

 水泳パンツが粉々に飛び散り、一瞬何も身につけない裸の状態になってしまう。

 そして空気が再び光雄の周りにまとわり付き始め、別の姿に変化し始めた。

 身長が少し低くなると共に体のラインが優しくなっていく。肩のラインがどんどん滑らかになり、腰がぐぐぐっと絞れていく。胸とお尻が大きく張り出すと共に股間の一物は消え失せそこは縦のすじが入っただけの何も無いのっぺりしたものになった。そしてその豊満になった彼の胸と下半身を赤い滑らかな生地が包み込んでいった。きりっとした男らしい彼の顔はかわいくも凛々しい女性の顔へと変貌していた。同時に髪も長く伸びると共に赤く染まり、毛先が跳ね上がっていった。右手には細身のサーベルが握られている。

 そう、光の中から現れたのは、真っ赤なビキニを着たスウィートハニィだった。

「待ちなさい!」

 幸の後ろから彼女に飛び掛らんとしていたシャドウガールを後ろから呼び止めるハニィ。

「何だニャ」

「コスプレ女子高生の振りをしているあなた、『虎の爪』の怪人ね。世間の目は誤魔化せても、このあたしの目は誤魔化せないわよ」

「何故ばれたんだニャ」

「こんなプールの中でそんな格好してたら目立つでしょうに」

「結構かわいいと思ったんだがニャァ」

「かわいけりゃ良いってもんじゃないでしょう。あなた何者?」

「あたしは『虎の爪』のシャドウガール。あたしの正体を知るお前は何者だニャ」

「ある時は高校教師、またある時は女子高生、しかしてその実体は、愛と正義の戦士、スウィートハニィ(うーん、すらすらこの口上を言える俺って)」

 自分で口上を述べながらちょっぴり落ち込む光雄であったが、すぐに気を取り直した。

「お前がハニィ? ハニィってあの桜井幸じゃなかったんだニャ」

「そうよ。あなたたちの組織の情報力も大したことないわね。そんなことであたしからこの指輪を奪おうっていうの。そんなの百年、いえ千年早いわよ。取れるもんなら取って御覧なさい」

「何を! あたしと合体したらそんなことも言ってられニャイぞ」

「合体・・・そういうことか」

 飛び掛るシャドウガールをひらりと避けるハニィ。

「おっとっと、避けちゃ駄目だニャ」

「避けないでどうするのよ」

「今度こそ」

「おっとぉ」

 プールサイドで戦うビキニ姿のハニィとスカート付き水着姿のシャドウガール。いや、ほとんどそれは女子高生同士の鬼ごっこ状態ではあった。

 お! 何かのアトラクションか?

 たちまち野次馬が集まってくる。

 特撮ショーか何かと勘違いしているらしい。

 ビキニの姉ちゃん〜がんばれ〜

 名前教えて〜

 猫怪人〜かわいいぞ〜

 あちこちから声が飛んでくる。

「もうー、やりにくいなぁ」

 それでも両手で握ったサーベルを下段に構え直すハニィ。

 そこにまたシャドウガールが飛び掛ってきた。再びひらりと避けようとするハニィ。

 しかしその時爪を立てたシャドウガールの左手が一閃した。その爪には赤いブラジャーが引っかかっている。

 おお! いいぞ〜猫怪人!

 男性の観衆から声援が上がる。

「え? キャァ〜」

 そう、ハニィが自分の胸を見下ろすと、ハニィの大きな胸を包み込んでいたブラジャーはそこから無くなっていた。顕わになっている自分の胸を思わず左手で抑えてしゃがみこむハニィをハート型の目で注視する男達の目、目。

「おのれぇ、よくもやったわねぇ」

「わざとじゃないんだニャァ、事故だニャァ」

 うろたえながら思わず謝ってしまうシャドウガール・・・憎めない奴である。

 左手で胸を抑えながら右手でサーベルを構えて立ち上がるハニィ。そこにもう一度シャドウガールが飛び掛ってきた。

「今度こそ大人しく合体されるんだニャァ」

「あんたねぇ」

「おーっとっと」

 ハニィはシャドウガールの突進をひらりとかわすと、危うくプールに落ちそうになるところをかろうじて踏みとどまっているシャドウガールのお尻を左足で蹴飛ばした。堪らずプールの中に落ちるシャドウガール。

 プールに落ちたシャドウガールは、手足をばたばたさせて浮き沈みしている。

「あたしは泳げないんだニャ。誰か・・・助けて・・・」

 あっぷあっぷしながら助けを求めるシャドウレディに、思わず呆れながらもハニィは躊躇うことなくプールに飛び込んだ。ブラを着けていないのも忘れて・・・勿論シャドウガールを助けるために。

 じたばたしているシャドウガールを上手に抱えてプールの縁まで泳ぎつくハニィ。

 数人の男性が駆け寄ってシャドウガールを引き上げた。

「な、何故助けたんだニャ」

「何言ってるの、あなたが助けてくれって言ったからじゃない」

 ニコッと笑ってそれに答えるハニィ。

「そ、そうだったニャ。あたしの負けだニャ……さあ、ひと思いにやるんだニャ」

「あなたはもう負けた。そうね、もしかしたらもう死んじゃったのかもしれないよ。駄目だよ、もうこんなことしちゃ」

 微笑みながらシャドウガールに答えるハニィ

「ハニィ……負けた……この次は必ず……」

 シャドウガールは合体していた女子高生から抜け出すと、子猫の姿に戻って走り去っていった。しかしその胸の中には言葉とは裏腹にハニィに対する今までとは別な感情が芽生えていた。

 ハニィ……。





(先生、今回は倒さなかったんですね)

「あの子はそんなに悪い怪人じゃないような気がしたんでね。怪人だったら全て倒せば良いってもんじゃないと思うんだ」

(先生優しいんですね。さすがですわ。その優しさが、もしかしたら『虎の爪』を壊滅させる鍵になるのかもしれませんね。あの時のあたしにもう少しその優しさがあったら……)

「え? 何か言ったかい?」

(いいえ。それより先生)

「なんだい」

(殿方の皆さんが見てますよ)

「え? あ! キャァ〜」

 そう、ハニィは未だにブラジャーをつけていなかった。

 シャドウガールが合体していた女子高生が未だぼーっと座り込んでいるその傍らに落ちている赤いブラジャーを引っ掴むと、ハニィは慌てて更衣室に駆けていった。それを残念そうに見送る男たち。


 その日プールにいた男たちは皆幸せそうな表情でプールを後にしたという。 





 その頃、幸は未だに光雄を探し続けていた。

「もう、先生ったら何処に行っちゃったのよ。プールのアトラクション見損なったじゃない」

 幸はプールを取り囲む人だかりの向こうのプールサイドで何が起こっていたのかよくわかっていなかった。そんな彼女がようやく光雄を見つけ出したのは、それからしばらく後の事だった。

 そしてプールでの出来事をいつものように上空から見詰める目があった。

「ぎぎっ、シャドウガール……無様な」

 闘いの一部始終を見ていたカラスがばさっばさっと飛んでいく。勿論今日もそれを怪しいと思う者はいなかった。








(取り敢えず了)

                                      2003年7月28日脱稿



後書き
 連載今回も続いています。かきふらいさんのかわいいイラストを元に、続きを書かせていただきました。今回は夏休みスペシャル。第2話から伏線を貼っていた「プール編」です。そして今回の怪人はシャドウレディの妹、シャドウガールの登場です。敵の怪人ながら何処か憎めないキャラクターですが、さて再登場はあるのか。全ては今後のイラスト次第ということで(笑 
 それでは、お読みいただきました皆様どうもありがとうございました。



シャドウガール
 シャドウレディの妹。姉が影の中に入ってその本体を支配するのに対し、直接合体してその体と意識を支配できる。ある意味姉より強力な術の持ち主。
 水が弱点(泳げない!)で、そのためにハニィに敗れるが、どこか憎めないその性格のため、ハニィに助けられる。