俺の名前は藤丸和也。17歳の高校二年生、藤丸家の一人息子だ。藤丸家はじっちゃんまでは代々忍者の家系だったらしいけれど、親父はごく普通のサラリーマンをしている。

 ところがお盆前のある日、突然田舎からやってきたじっちゃんから、俺は藤丸家に代々伝わるという奥義を伝授された。それは写真に撮った人物の姿に変身できるというもので、俺は早速隣りに住んでいる幼馴染の風野麻美に変身すると、麻美としての生活を楽しんでしまった。麻美にそのことがばれて彼女はかんかんだったけれど、新しく麻美の友だちの田端千秋、栗山秀美、池山明子の3人とアイドルの近藤詩織ちゃんの陰画をゲットすることができたんだ。

 さて、この奥義何に使おうか。




奥義3

作:toshi9




 翌日の朝、家の前で麻美とばったり出くわした。

「あ、麻美、昨日は悪かったな」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 麻美は俺を無視して、プイっと行ってしまった。そりゃあ麻美にとってはショックだったかもしれない。家に帰ってみると自分がもう一人いて、しかもそれが実は俺だったんだから。彼女に成りすまして数日間生活していたなんて知ったらもっとショックかもしてないけれど、そこまではさすがに彼女には話せなかった。

 さて、どうしようか。

 ・・・・・  ・・・・・  ・・・・・  ・・・考えてもしょうがない。ええい、麻美のことは取り敢えずなるようになれだ。とにかく今日はテレビ局に行ってみなくっちゃな。

 そう、そしてテレビ局に着いたら昨日ゲットした詩織ちゃんの陰画を使って詩織ちゃんに成りすます。そしてまた別のアイドルの陰画をゲットするんだ。

 今のところ変身して外に出かけたのは麻美の姿だけだけれど、誰にも見破られなかった。

 今日も上手くいくさ。

 この数日麻美になって暮らし、彼女の両親にさえもばれなかったことで、俺は他人に成りすますことに結構自信を持ち始めていた。

 えへへへ、俺ってじっちゃんが言っていたように才能があるのかな。昨日の調子で今日も上手く陰画をゲットしなくちゃな。

 俺は電車の中で陰画をどうやって手に入れるか思い巡らし、いろんなアイドルに変身する自分を想像しながら、思わずにやついていた。 




 さて、JRと地下鉄を乗り継いでテレビ局の前まで行ってみたものの、中に入ろうとしてガードマンに止められてしまった。

「きみきみ、ここは関係者でないと入れないよ。見学だったらあっちの入り口から入るんだな」

「そうなんですか、玄関からは関係者だけ・・じゃあ芸能人のひとってここから出入りしているんですか」

「うーん、そんなところだ。さあ、いつまでも立っていないで行った行った」

 俺は仕方なくその場を離れた。さて、どうする。

 あたりを見回してみると丁度玄関の脇にワゴンが止まっていた。俺はあたりに誰もいないことを確かめると、その陰に回り込んだ。

 さあ、奥義、いくぜ。

 俺は昨日変身を解いた後で再びデジカメからプリントアウトしておいた詩織ちゃんの写真をセカンドバッグから取り出すと、それを地面に置いた。両手で印を結びながら詩織ちゃんの写真に精神を集中する。集中が段々高まっていくに従って体の感覚が研ぎ澄まされてくる。そして俺の体は徐々に縮み始めていた。すっかり小人サイズにまで小さくなると、俺は写真に向かって飛び込んだ。俺の体は写真にぶつかることなく、シュルンと写真の中に入ってしまっていた。

 写真の中に入った瞬間に、すでに詩織ちゃんの格好になっているのを肌で感じる。

 気合を入れ写真から飛び出すとまだ小さなままだが、十字に組んだ腕をゆっくりと内から外側に回すと俺の体は元の詩織ちゃんの大きさに戻っていった。

「さあて、上手くいったかな」

 俺は自分の体を見下ろして自分の格好を確認してみた。今の俺は半袖、膝丈のひらひらのワンピースを身に纏っていた。肩からはかわいいポシェットを下げている。自分の両手を見詰めると細くて長い白い指がそこにはあった。爪はきれいに切りそろえられ、透明のマニキュアが塗られている。頬を触ると少しひんやりとした自分の手のひらの感覚が心地よい。目の前にあるワゴンの窓に写った自分の姿を確かめると、そこには昨日ホテルで見たまんまのショートカットの詩織ちゃんがうれしそうに立っていた。

「よし、成功だ。詩織ちゃん、しばらく君をやらせてもらうぜ」

 俺はデジカメをポシェットに入れるとセカンドバッグを垣根の中に隠し、もう一度テレビ局に入ろうとした。勿論堂々と正面玄関からだ。

「あ、近藤さん、おはようございます。今日はお一人なんですか」

「ええ、詩織、マネージャーさんとの約束の時間間違えちゃったみたいで、一人で来ることになっちゃったの」

 さっきのガードマンはすっかり俺を詩織ちゃんだと思い込んでいる。

「それは大変でしたね。今日もがんばってください」

「ええ、ありがとうございます」

 ガードマンの目じりが下がっているな、俺だとも知らないで。

 内心ではにやりと笑いながらも俺はにこっと微笑んでガードマンに会釈すると中に入って行った。

「さーて、と、どこに行ってみようかな」

 勢いで来てみたものの、テレビ局に入るのなんて初めてだ。どこに何があるなんて勿論俺は知らない。廊下をぶらぶらと歩いていると何人かテレビ局のスタッフらしき人から声をかけられた。

「おはようございます」

「あ、おはようございまーす」

「詩織ちゃん、今日も元気そうだね」

「へへ、ありがとうございまーす」

 そんなやり取りを繰り返しながらうろうろしていると、第5スタジオと書かれている部屋の前で突き当たってしまった。

「おっと、行き止まりか」

 そこで一旦引き返そうとすると、後ろから突然呼び止められてしまった。

「あれ、詩織ちゃんじゃないか。マネージャーさん昨日から探していたみたいだったけれど大丈夫だったの。でも丁度良かった。こちらもそろそろリハーサル始まるから準備してよ」

「え、えー?」

「さあ、入った入った」

 有無を言わせず目の前の第5スタジオの中に引っ張り込まれてしまった。リハーサル、はて何をするんだ。

「おっはよー詩織、今日はどうしたの。なかなか来ないし心配したよ」

 お、西野さやかじゃないか。

「うん、ちょっとあってね」

「そっか、詩織は一人暮らしだもんね、いつも大変だね」

「へへ、今日は特別だよ」

 さやかちゃんとこうして普通に話せるなんて感激だぁ!詩織ちゃんと仲が良いんだな。

 じゃあ始めまーす。バンドの方OKですか。

 んーと、何始めるんだ。

「じゃあ詩織ちゃん、がんばろうね」

「うん(はて、何をするんだ??)」

 じゃあ、さやかちゃん良いですかぁ。

「はーい」

 さやかちゃんが呼ばれてステージに出ると、バンドが演奏を始めた。ゲゲッ!これって歌番組か。俺歌なんて歌えないぞ。

 やがてさやかちゃんは自分の歌を歌い終えた。生で聞けるなんて、詩織ちゃんになって来てみて良かったな。それにしてもリハーサルって普段着でやるもんなんだ。うーんそれにしても・・・どうしよう。

 じゃあ詩織ちゃん、行くよ、あそこのハミまで行ったら演奏始まるからね、じゃあ頼むよ。

「はい、詩織ちゃん。がんばってね」

 さやかちゃんがにっこりと笑って俺にマイクを渡す。こ、困った。頭の中が混乱しまくりながらも回りのスタッフに促されて俺はさやかちゃんがさっきまで歌っていたテープの貼ってある場所に進んで行った。

 バンドが演奏を始める。

 ええい、何とかなるさ

 俺はマイクを握り締めて歌い始めた。

「#@♂℃・・☆☆〒♪√♪♭・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・ 

「よし、どうやら終わったかな」

 バンドが演奏を止めた。どうやら終わったようだ。歌い終えてほっとした俺は回りを見回した。

 皆ぽかーんとした表情で俺を見詰めている。その中のディレクターらしき人が駆け寄ってきた。

「詩織ちゃん、おかしいと思ったら今日は調子悪かったんだね。少し休みとっていいよ。おーいリハ一旦中止するぞ」

「ええ、私別に普通ですよ」

「うんうん、詩織ちゃんの責任感が強いのはよーくわかったから、今日の本番は口パクでやろうね」

「は、はぁ」

 俺の歌ってそんなにひどかったのか?

「詩織ちゃん、風邪だったの。医務室に一緒に行ってあげようか」

「さやかちゃん・・・そんなにひどかった?」

「・・・うん」

 さやかちゃんが申し訳なさそうに頷く。

 お、俺って音痴だったのかぁ!




 その後さやかちゃんに付き添われて医務室に行った。どこも悪くないんだけれど・・結局風邪薬を飲まされる羽目になった。うげー、苦いよ。

「ここのお薬よく効くのよ」

「うん、ありがとう。ところでさやかちゃん」

「ん?何、詩織ちゃん」

「ちょっと写真撮らせてくれない」

「ええこんなところで?変な詩織ちゃん」

 俺はポシェットからデジカメを取り出すと、さやかちゃんに向かってシャッターを切った。

 カシャカシャ

 怪訝な表情を見せながらもさやかちゃんは写真を撮らせてくれた。へへさやかちゃんゲットだぜ。

「じゃあ、詩織ちゃん行こうか」

「うん。あ、先にお手洗いに寄ってかない」

「え、うん、いいよ。じゃあ一緒に行こっか」
 
 俺たちは女子トイレに行くと二人して中に入った。うーんいいんだろうか・・いいよな。俺って今詩織ちゃんなんだし。

 隣の個室にさやかちゃんが入る。続いて俺もその隣へ入る。隣からはガサガサと衣擦れの音が、
ああ、今さやかちゃんが隣で脱いでいるんだ。続いてジャーっという水を流す音。お、これが音消しってやつか。うーん残念(俺って変態かぃ)

 さてと、俺も済ませなくちゃな。

 俺はスカートの裾に両手を挿しいれると、自分が穿いているショーツをするすると下ろした。
麻美になった時に経験しているから戸惑いはないものの、詩織ちゃんとして用を足すのは初めてだ。何か興奮するなぁ。

 俺は便座に腰を降ろすと股を広げて力を抜いた。股の間に目をやると、そこには慣れ親しんだものは無くただ翳るような詩織ちゃんの陰部が・・そしてやがてチョロチョロと小水が出てくる。

 ああ、これって詩織ちゃんのなのか。気分が高揚すると共にそこが段々熱くなってくるような気がした。けれども、その時隣でドアが開く音がした。さやかちゃん終わっちゃったんだ。うーん仕方ない。行くか。俺はカラカラをトイレットペーパーを引き出すと、股間を拭いてショーツを元通りに穿きなおした。

 ドアを開けると、鏡に向かってさやかちゃんがメイクを直していた。

「詩織ちゃん遅かったね。やっぱり調子悪いの」

「ううん、大丈夫。さ、行こうか」

 トイレから出てスタジオに戻ってみると突然声を掛けられた。

「詩織ちゃん、何処行ってたの。連絡もしないで突然いなくなるから心配したのよ。まあ話は後で聞くとして、早く衣装に着替えましょう」

「え、は、はい」

 それはグレーのタイトスカートのスーツ姿のおねえさんだった。もしかして詩織ちゃんのマネージャーさんかな。20代後半ってところかな、きれいな人だな。

「あ、じゃあまたね詩織ちゃん」

「うん、ありがとう、さやかちゃん」

 俺はその女性に引っ張られるようにして控え室と書かれている部屋に連れていかれた。どうも詩織ちゃんは昨日から行方不明らしい。うーん妙なことになってきたな。そういえばあの時詩織ちゃんって誰かを待っているみたいだったな。

 俺は昨日ホテルで見た詩織ちゃんの様子を思い出していた。

「さあ、早く早く」

 有無を言わせずに、俺は着ている服を脱がされてしまった。

「衣装さん、時間ないから早くお願いね」

 部屋にいたスタイリストとおぼしき女性が俺に次々に代わりに新しい服を着せていく。白のハイソックス、アンダースコート(だよな)、ブラジャーも別のものに換えさせられ、最後にフリルをふんだんにあしらった白基調のミニワンピースに着替えさせられた。お、これっていつも詩織ちゃんが歌うときに着ている服だ。ステージ衣装ってやつか。

 メイクを施され、髪をブラッシングさせらると、さっきまでの普段着の詩織ちゃんとはまた違う、テレビでいつも見る詩織ちゃんが鏡の中にはいた。

「さあ、行きましょう」

 廊下をマネージャーのおねえさんと一緒に駆けていく。でも靴は走り難いし、ひらひらと舞うスカートの裾が気になって思うように走ることができなかった。何でこんなにひらひらと・・これって見えてるんじゃないのか。

 再び第5スタジオに戻ると、待ちかねたようにディレクターさんらしき人の声が響く。

「よし、大丈夫かな、じゃあ本番いくよ」

 司会者のトークが始まり、続いてゲスト出演に来ている歌手が順番に歌っていく。

・・・今、さやかちゃんが歌っている。次は俺の番だ。うーん緊張するな。

 目線を落とすと、椅子に座っている俺の目の前には自分の着ているミニスカートからまぶしいくらいに白い脚が。詩織ちゃんの脚、でもこれって俺の脚なんだな。脚を組むわけにもいかないので両手を太股の上に置いてじっと待っていると、自分の脚がぶるぶると震えているのがわかった。

 何でこんなことになっちゃったんだ。

 はい、では続いて近藤詩織ちゃんです。曲は勿論大ヒット中の「TSアイラブユー」

 司会の声が響き渡る。

 戻ってきたさやかちゃんが小声で「がんばって」と声をかけてくれた。

 よーし、どうせ口パクだ。振りは大丈夫みたいだったし、やるだけやるさ。

 俺はマイクを持って立ち上がるとハミの所まで歩いていった。ライトの光がやけに熱い。

 マイクを口元にあてて歌い始める。声は出ない。よーしこれなら。

 俺は安心して振りをこなすことに専念した。

 激しくはないけれど手振りの多い「TSアイラブユー」の振り、少しローアングルに構えているカメラにスカートの中身が映っているんじゃないか気になったけれども、俺はその振りを間違えることなくこなしていった。だってテレビでいつも見ているからね。

 曲が終わって最後の決めのポーズを取ると、出演者から拍手が上がる。そうか体調が悪いって思われているんだ。

 席に戻るとさやかちゃんが「大丈夫?よくがんばったね」って手を握ってくれた。

「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」

「ふふ、よかった」



 収録が終わるとマネージャーのおねえさんが近づいてくる。うーんそろそろ逃げ出したいな。

「詩織ちゃん、ご苦労様。これでお終いっていきたいんだけれど、今日はもう一つ仕事が残っているの。それが終わったら家まで送ってあげるから、もう少しがんばってね」

「え?何のお仕事ですか」

「この間話したグラビア撮影、水着のね」

「そうですか、水着グラビア・・・水着・・グラビア・・ええぇ〜」

 俺の一日はまだ終わらない。



(続く)


                                       2003年3月7日脱稿




後書き

 お待たせしました「奥義」の第3弾です。またまた次回に続くことになってしまいました(汗)
和也くん詩織ちゃんになりすましてテレビ局に入ったのはいいけれど、やはり少し無謀だったようですね。今回さやかちゃんの陰画をゲットできたものの、少しややこしいことになってきたようです。次回は水着撮影・・・男の彼にちゃんとできるのでしょうか。
 それでは、ここまでお読みいただきました皆様、どうもありがとうございました。

toshi9より
感謝の気持ちを込めて