(イラスト:◎◎◎さん)






 1月31日 愛妻家の日

 作:toshi9




 ベッドの中で俺は目を覚ました。
 顔を横に向けると、隣で寝ている妻は既に目覚めているようだ。

「おはよう」

「おはよ、今日は『愛妻の日』、あなたが家事やってくれるって約束よね」

「ああ、今日1日俺がお前の代わりに家事を全部やってあげるよ。だからお前はのんびりしてな」

「去年までそんな事してくれなかったのに」

「こんな日があるなんて知らなかったんだよ。だけどお前に教えられてはっとしたよ。ずっと忙しい思いをさせてるし、こんな日くらいはお前のことをいたわってあげないとな」

「こんな日くらいねぇ。ふふっ、でもありがと」

 妻が横になったままにこっと微笑む。そんな妻の顔を見ると、俺も何だか幸せな気分になる。

「けどね、男のあなたが家事やるなんて、何だかしまらないのよね」

「幻滅か? でもしょうがないだろう。さてと、独身の時以来だけど、久しぶりに朝食を作るとするか」

 そろそろベッドから起きようと体を起こした俺の腕を、妻が引き止めた。

「ん?」

「待って、あなた。これ飲んでみて」

 昨夜のうちに妻が置いていたのか、半身を起こした妻は枕元にある1本のジュースを俺に差し出した。

「なんだい? このジュースは」

「『ゼリージュース』よ。起きる前に飲んで頂戴、お願い」

「わ、わかったよ」

 妻に言われるままに、俺は差し出された赤いゼリー状の飲み物を飲んだ。

「うふふ、あなた、大好き」

 そう言いながら、飲み終えた俺に妻が抱きついた。

「え!?」

 何かが俺の中に入って、いや妻の体の中に俺の体がめり込んでいくような不思議な感覚と共に、俺の意識は遠くなっていった。





 俺が再び意識を取り戻した時、妻は既にベッドから起き、パジャマから着替えていた。

「う、うーん、何がどうなって……」

「あら、気がついた? はい、これ着替えよ」

 上半身を起こした俺に、妻が服を差し出した。それは妻のパンティとブラジャー、そしてスカートとセーター、エプロンだった。

「何だこりゃ?」

「あなたの服よ」

「俺の服? これ、お前のだろう」

「うふっ、鏡を見てごらんなさい」

 俺はベッドから立ち上がった。だが何だか感覚がおかしい。そういえばいつの間にかパジャマがダブダブになってる。そしてベッドルームの姿見に映った俺の姿は、ダブダブの俺のパジャマを着た妻だった。

「え!? 俺?」

「あたしの姿になったの。だから着替えもあたしの服じゃないとね。さあ、あたしが着替えさせてあげる」

 妻は呆然としている俺のパジャマを手早く脱がせると、要領良く俺にブラジャーを、パンティーを、スカートを着せていく。

「はいできた。それじゃあなた、今からあなたはあたしだから、代わりを頼むわね」

「いや、お前の代わりに家事をやるって言ったけど、これはちょっと」

 鏡には、双子のように並んだ二人の妻が映っていた。エプロンをした妻が今の俺なのか!?

「あら、だってあたしの代わりをやってくれるんでしょう。あなたが家事する姿なんて見たくないんだから、あたしになり切って家事をやってもらうしかないでしょう」

「そ、そんなものか?」

「そんなものよ」

 妻はにこっと笑って言った。

「くぅ〜、わ、わかった。やってやるよ」





 それから俺は妻の姿で朝食、掃除、洗濯と家事をこなした。全く重労働だ。

 そして夕方、夕食の準備をしている俺を後ろから見ていた妻が声をかけた。

「それにしてもほんと……似合うじゃない。このままあたしの代わりでいない?」

「馬鹿言え!!こんな格好は今日だけだ」

「ふーん、今日だけ……か」

 妻がにっと笑う。

「ええっと、味噌はどこだ?」

「冷蔵庫の下の扉よ」

 冷蔵庫を開けた俺は絶句した。

 そこには、買いだめされた『ゼリージュース』がぎっしりと詰まっていた。

「また頼むわね、あなた」



(了)


                                  2008年2月16日 脱稿