Invisible stalker(後編)

作:Sato



 結局、おれは何の案も思いつかないまま放課後を迎えてしまっていた。しかし、おれが帰ろうとした矢先、白井さんのほうからお呼びがかかったのだ。もちろんそれはデートの誘いなどではないのは分かっていた。だがおれは妙に気分が高ぶってきてしまう。

 例によって屋上に足を運んだおれたちは、お決まりの作戦会議へと突入した。もちろん、おれのほうはまだアイデアは出ていなかった。しかし、彼女のほうには何か考えがあるらしく、それを教えるのは一週間ほど待って欲しいとのことだった。当然、おれはその間には今日のように、一緒に登校することに決まった。

 それにしても、白井さんの考えるアイデアとはどのようなものだろうか。もしかすると、取るに足らない案かもしれない。おれのほうも何か考えておかなければ、おれはそう考えていた。

 それから一週間の間(もちろん土日は必要なかったが)、おれは一緒の電車で白井さんと通学することになった。白井さんとふたりといっても、間にはやつがいるわけで、白井さんのことが気になりはじめたおれにとっては複雑だった。思わず、やつを見る視線に強烈なものが生じてしまっていることにおれは気付かなかった。

 ある日、そのことを圭子に指摘されたおれだったが、少し気付くのが遅かった。5日目になると、やつが姿を見せなくなってしまったのだ。圭子はこれで被害に遭わずに済む、という風に考えているようだったが、おれには不吉なことが起こる前兆のようにしか思えなかった。

 次の日には試しに一度、おれは圭子の登校に立ち会わなかった。おれが登校するなり圭子が飛んできた。

「どうした?やっぱりきたのか?」

 何やら暗号のようだが、この程度の言葉だけでも、おれたちの間では十分な内容を持っていた。他の生徒に聞かれても問題ないので、都合がいい。

「うん・・・」

「やはりか。じゃあ今度は試しにまたおれが一緒に行くよ」

「・・・・・お願い」

 ここ数日で圭子は確実に疲れているようだった。明らかに寝不足になっているようで、おそらく体重もいくらか減っているのではないだろうか。女の子の体重が減るというのは、ある意味うらやましいことなのかもしれないが、こんな不健康な痩せかたはよくないだろう。早くこの娘に元気になって欲しい、おれは心の底からそう考えるのだった。

 次の日、予想通り、やつは現れなかった。どこでどうやって知るのかは分からないが(ストーカーの行動を理解なんかしたくはないし)、おれがくると、その時点でストーキングは中止になるようだった。しかしもちろん、やつが圭子のことをあきらめたわけではなさそうだった。

 そう考えれば、こうやって電車の中でガードしていることは、むしろマイナスに働く可能性も考えられる。おれがいない電車以外の場所で、圭子が被害に遭う可能性のほうを考えなければいけない。もちろん、いくらおれだって四六時中圭子を見ているというわけにもいかない。

 その日の昼休み。おれたちは屋上に行き、作戦会議を開いていた。

「困ったよなあ。おれがいればやつがいないんじゃ、おれには手の出しようがないよ」

「・・・こうなったら最後の手段しかないわね・・・」

「ん?最後の手段?例の計画ってやつの話か?」

「うん、そう。実はね・・・・これを見てくれる?」

 そういって圭子はポーチの中から何かを取り出した。よく見ると、それは瓶のような、ペットボトルのようなものだった。当然、中には何か青い液体のようなものが入っている。

「それが?ジュース・・・みたいに見えるけど、もしかして薬なのか?」

「スルドイわね。これは不思議な効果をもったジュース・・・」

「ほう、ただのジュースってわけじゃなさそうだな」

 圭子はそれから驚くべき話をおれにしてくれた。要するに、これを飲んだ人は透明でゼリーのような体になってしまうというのだ。さらにそれだけではなく、目的の相手の体に入り込んで、その体を自由に動かすことができるらしい。

「ふうむ、なるほど。本当だったらすごいジュースだな・・・それで、これをどう使うんだ。やつに入ろうにも、やつはおれがいると姿を・・・・あ、おれがこれを飲んで姿を消していればいいわけか!」

 おれは思いついたままを口に出していっていた。しかし、圭子はうなずきはしなかった。どうやら、おれの考えは間違っていたようだった。しかし、このジュースが体を乗っ取るものだとして、やつに入るわけじゃないとすると・・・・

「え?まさかおれが白井さんの中に入るのか?」

 圭子はわが意を得たり、というような表情をした。

「そういうこと。それならあいつも中村くんがいないと思って、油断して近付いてくるに違いないわ。それで中村くんがあいつをどうにかしてくれればいいのよ!」

「どうにかって・・・・体が白井さんになるんだったら、大したことはできないんじゃないか?それどころか、逆にやられてしまう可能性だって・・・」

「大丈夫だって。わたしだって中学校までは体操をしたんだから。あんなオタクみたいなやつに負けはしないわよ!」

「う〜ん、それはそうかもしれないけど・・・相手は何を考えているか分からないやつだからな。もしかすると凶器の一つくらい持っていてもおかしくないぞ」

「う〜ん、そういわれると自信がなくなるけど・・・・でも中村くんがわたしの体を使うんだったら、もっと強くなるんじゃないの?」

「どうかな。やってみなくちゃ分からないよ。それと・・・・他人に自分の体を勝手に使われることになるけど、それはいいのか?」

 圭子は少しうつむいた。が、すぐに顔を上げ、おれに向かって微笑んだ。その顔を見たおれはドキッとさせられてしまう。いかん、かなりの重症のようだ。

「そりゃあ、他人に自分の体を使われるのは嫌だけど、今回は仕方ないよ。それに、中村くんなら、ヘンなことしたりしないって思えるから」

「・・・・・どうかな。そんなの、なってみないと分からないことだし」

 圭子はぷっと吹き出しながらそういった。あまり前向きなことをしゃべったわけではないのだが、圭子の表情はうれしげだった。

「ホラ、そんなこという辺りがいい人の証拠なのよ。普通なら『絶対にしない』とかっていうところだもの。それを正直にいっちゃう辺りがね・・・・」

「う・・・そうか。そういったほうが安心ならいい直すけど?」

「あはは〜。もう遅いよ。今さら訂正したって遅いんだから!」

 あっけらかんと笑う圭子。おれもつられて笑ってしまう。この笑顔を止めさせてたまるか、とおれの決意はさらに強まった。



 次の朝。おれは早めに駅に着くと、トイレに入り、圭子から受け取った「ジュース」を取り出した。瓶の中には青い液体が満たされている。普段、青い液体など、化学の実験なんかでしか見たことがないおれにとっては、あまり美味しそうには見えなかったが。

 圭子がいうには、この「ジュース」の欠点は服を脱がなきゃいけないということにあるらしい。そのため、当然、元に戻るときには裸、ということになる。ジュースの効き目があるうちは透明になるために問題はないが、効果が切れるときには気を付けなければ、思わぬ恥をかくことになるということだ。

「さて、そろそろ圭子もきそうだし、早速飲むか」

 おれは服はどうにでもなると考え、まずは実行に移すことにした。トイレの個室に入り、まず服を脱ぎ裸になる。そして瓶を手に取り、ふたを開けた。青い色にふさわしく、かぎなれない匂いが伝わってくる。それよりもおれが驚いたのはその見た目だった。少々瓶を傾けたところで、液面が動いたりはしない。どうやら、このジュースはかなりの粘性を持っているようなのだ。

「・・・・こんなの飲めるのか?」

 とはいえ、やってみなくちゃはじまらない。おれは瓶を持ち上げ、らっぱにあおることにした。ビクともしなかった青い液体が、どろりと瓶の縁を伝って流れはじめる。口に妙な冷たさを感じたときには、すでに大半が口の中に侵入していた。飲む、というよりは半ば咀嚼するという感じで、おれはそれを胃の中へ納めてしまった。

「ふう・・・・味は意外とよかったな。さて、効果は・・・?」

 圭子の説明によれば、効果が出るのは飲んでから5分経ってから、ということだった。この間に脱げばよかった、と思ったおれだが、今さらいってもはじまらない。おれは服をたたみながら、しばらく待つことにした。

「お、何だか手が透けてきているような・・・」

 3分ほど経つと、徐々に効果のほどが現れはじめた。明らかに体の輪郭がぼやけはじめ、後ろの景色も透けて見えはじめていた。おれが全身を見回している間にも、徐々に体の色が失せてきて、まるで自分が消滅するような錯覚に襲われてしまう。ちょっとパニックになってしまったおれだったが、意識ははっきりしていたので、姿が完全に消え去る頃には落ち着きを取り戻していた。

「よし、消えたか。じゃあ次は圭子がくるのを待つのみだな」

 おれはトイレから出て、駅の様子を見に行った。透明なので、改札だろうと何だろうと誰にも見咎められることなく通ることができる。

 駅の中を見ても、まだ見知った顔はいなかった。つまり、圭子もまだだったが、やつもまだきていないということだ。おれは一旦駅から出て、圭子を待つことにした。

 待つこと数分、圭子がようやく登場した。あまり入り込む場面を他人に見られたくはないということで、圭子には女子トイレのほうに入ることを依頼してある。圭子はしっかりとそれを実行に移してくれた。女子トイレに入った圭子の後を追うように、おれも女子トイレに入った。

 幸い、トイレには誰もいないようだった。しかし、いくら透明だとはいえ、女子用のトイレに入るっていうのは緊張するものだ。まして、自分の好きな女が入っていると分かっている場所となればなおさらだ。

 個室に入った圭子のあとにおれも入る。

「じゃあ、乗り移らせてもらうよ。いいかい?」

 圭子の耳元にささやいてやると、さすがに圭子も驚いたようで、ヒッと小さな悲鳴をあげた。しかし、すぐに正気に返り、小さくうなずき返してくれた。それでおれの決心は固まった。

 おれは圭子の体に自分の体を重ね合わせていく。とはいっても自分の姿が見えないのと、圭子との体の寸法のミスマッチがあったため、これがなかなか大変だった。しかし、圭子と体の位置が合いやすい足元から徐々に同化がはじまった。

「あっ・・・・これがゼリージュースの力なの!?」

 圭子がつぶやいた。そうか、ゼリージュースっていうのか。ゼリーっぽい感触を考えれば、いい得て妙な表現だな。そんなことを考えているうちに、圭子との同化はさらに進んでいく。もはや下半身は完全に圭子の体と重なり合っている。まだおれの意志では動かすことができないようだが、全身が重なればいいのだろう。

「う・・・・」

 圭子の苦しそうな声が耳に入ってきて、おれは少し躊躇しかかった。しかしここまできて引き下がるわけにもいかない。とうとうおれは圭子の全身と重なり合ってしまった。その瞬間、溶け込むようにおれの体は圭子の体の中に完全に吸い込まれてしまう。

「・・・・」

 圭子の意識もその時点で途絶えたようで、がくりと膝が落ち、壁に寄りかかってしまった。

 しかし、おれの支配があっという間に圭子の全身に行き渡ると、圭子の体にはまた力がみなぎり、ゆっくりと立ち上がっていた。

「ふう、どうやら上手くいったみたいだな」

 おれは視線を落として自分の体を確認してみた。うちの女子の制服である紺色のブレザーと、赤と緑のチェック柄のスカートが目に入ってくる。そこから覗く白い脚・・・・おれは完全に女になってしまっているようだ。しかもこれは圭子のカラダなのだ。そう思うと、おれも思わず興奮してしまう。

「いかん、そろそろ電車がくる時間だ!」

 圭子のかわいい声でそう叫んだおれは、個室を出て、女子トイレを出た。周りに人がいないのを確認すると、おれは男子トイレに入り、さっき自分が入っていた個室に入って、おれが脱いだ服を回収して圭子のかばんに詰めた。

「やべ、あと1分しかない!やつに怪しまれなければいいけど・・・」

 男子トイレを飛び出したおれは、圭子のサイフの中から定期券を取り出し、改札を抜けた。ここからは怪しまれないよう、おしとやかにしなければいけない。

 やつは当然のようにそこにいた。おれがやや遅れているので、やきもきしていたようで、おれがくると一瞬ふうっと息をついたようだった。やつに心配されるとは・・・情けない限りだが、おれはなるべくやつと視線を合わさないようにしながら、ホームの白線のところまで進んだ。

 本当に時間がなかったようで、すぐに電車が到着した。電車がくる際、思わぬ風を受けることになり、おれは思わずたじろいだ。おれの体重であれば何てことはないのだが、圭子の体になっているため、吹き飛ばされそうになるのだ。

 そのとき、あっと気が付いたおれは、自分のスカートを押さえていた。少なからずめくれ上がったスカート――もしかするとやつに思わぬサービスをしてしまったのかもしれない。おれはやつの顔を見る気がしなかった。

 電車に乗り込んだおれは、いつも圭子が立っている場所へと移動した。見ていなくとも、やつの視線がこちらに注がれていることぐらいは分かる。今までこういうのは、女の自意識過剰じゃないかと思っていたおれだったが、こうして自分の身をもって体験してみると、本当に見られているんだな、ということを痛感してしまう。女っていうのは、こういう屈辱に耐えながら生活しなきゃいけないのだろうか・・・いや、やつは特別のはずだ。何とかしなければ・・・

 二駅目を発車した頃、突然、今まで痛いくらいに感じていたやつの視線を感じなくなったのだ。気付かれない程度に辺りを見回すが、やつが見当たらない――あ、あんなところにいやがる――やつはいつの間にか、向かい側の空いている席に座っていた。しかも、コクリコクリと船をこいでいるではないか。どうやらやつは眠ってしまったらしい。

 睡眠不足だか何だか知らないが、今日のところはこれ以上、ストーキングの心配はなさそうだった。圭子には悪いが、被害に遭わない以上、おれにはやつを締め上げる理由が見当たらない。このまま学校まで行かせてもらうことに決めた。

「ふう、それにしても立っているだけでも疲れるじゃないか・・・圭子の体だからか」

 思った以上に、圭子の脚には持久力がないようだった。体操をやっていたから大丈夫!などといってはいたが、あまりあてにはならないようだ。ま、体操ということで、瞬発力が強くて、持久力はないのかもしれないけどな。何にしても、やつとやりあっていたらどうなっていたか分からないから、とりあえずよかった気がする。

「な、何!?」

 ほっと息をついた瞬間、全身に寒気のようなものが走った。背筋に何か冷たいものが走り抜けたような・・・それから立ち直らないうちに、背骨を抜かれたように体に力が入らなくなり、おれは慌てて手すりにしがみついた。

「う、うう・・・・な、何がどうなったんだ!?」

 とうとう立っていることもできなくなったおれは、電車の中だったが、膝を落としてしまった。おれの様子に気が付いたうちの生徒の一人が近付いてくる。

 しかし、そんな様子も徐々におれの視界からはかすんで消えていった―――

「いえ、大丈夫ですから。ちょっとめまいがしただけです」

 どこからかそんな声が聞こえてくる。この声――どこか聞いたような・・・そうだ、圭子の声じゃないか!圭子の体にはおれが入っていたんじゃないのか?もしかして圭子の意識が戻って追い出されたのか?そう思ったが、おれの体は圭子の中から抜け出したわけではなく、いまだに圭子の中にいる。どういうことだ?と思っているうちに、体が勝手に動き出した。

 どこへ行くのかと思っていると、やつが目の前にいるではないか。相変わらず眠っているようで、びくりとも動かない。そう、やつの動きは完全に停止しているのだ。呼吸も、鼓動も、何もかも。

「お、もう死んじゃったのか。もうちょっともつと思っていたけど。ま、どうなろうと知ったことじゃないけどね」

 圭子はおかしな口調でぼそりとつぶやいていた。こ、こんなしゃべりかたは圭子のものであるはずがない。おれ以外の誰かが圭子の体に入っている!?ま、まさか・・・・

「ふう、やっと気付いたんだ。そう、圭子ちゃんのカラダに入っているのはこの僕、佐伯亮太なのさ」

 佐伯?知らない名だが、目の前にいるストーカー野郎がそれなのは間違いない。こいつ、どうやって圭子の体に・・・・おれと違って、こいつの体は目の前にある。それに今やつは「死んだ」とかいっていたが・・・

「しかし驚いたよ。まさか僕と同じことができる人間がいるとはね。キミはおそらく何度か見た、圭子ちゃんのそばにいた人だよね。彼女とはどういう関係なんだい?」

 そんなことお前にいう必要はない。そういいたかったが、おれにはそれを表現する手段はなかった。やつは「同じこと」といったが、結果としては同じでも、全然違うような気がする。おれのほうは、排泄すれば元に戻ってしまうらしいが、こいつのはそうではないようだ。それに、こいつの体は死んだって・・・どういうことなんだ?

 同じ体にいるせいなのだろう、どうもやつにはおれの考えていることが筒抜けらしい。やつはため息をひとつつくと、しゃべりはじめた。

「質問には答えずに質問を返すとはね。まあ教えてあげようか。僕はあるサイトで珍しい薬の情報を発見したんだ。何でもそれは『他人の体に乗り移ることができる』という素晴らしい薬だったんだ。飲んだ本人の体は死んでしまうらしいけど、こんなに素晴らしいカラダを手に入れられるんだからいいよね!」

 な・・・圭子がゼリージュースを手に入れた経路と非常に似通ったものがあるが、死とかが絡む辺り、もっとヤバイい薬のような気がしてくる。体が死んだ状態で、どうやって元に戻るっていうんだ?

「元に戻る?そんな必要があるはずがないさ。僕は今日から白井圭子として生きていくんだからね。僕がずっとあこがれていた、喉から手が出るほど欲しかった圭子ちゃんのカラダになれたんだ。見てよ、この細くて白い腕。これに比べればこの太った醜い体なんてどうでもいいよ」

 こ、こいつ・・・狂ってやがる。ずっと圭子のことをつけ回していたのは、ストーカー行為っていうよりも、あこがれの視線だったというのか。

「着いたみたいだね。さ、学校に行かなくっちゃ!圭子ちゃんの学校に圭子ちゃんとしてね♪」



 学校でのやつはやりたい放題だった。これからのことを考えてはいるのか、他人にはあまり関わらないようにはしていたが、授業中はずっと、見付からないように圭子のカラダを隅々まで触りまくっていたし、体育の着替えでは他の女子をうれしそうに眺めていたり、トイレの個室にこもって圭子の手鏡で自分のカラダを観察してみたりと、圭子が見れば卒倒してしまうようなことばかりしていた。

 普通であれば、一緒にそれを体験しているおれにとっては役得だといえたが、圭子に対する想いが強くなっている今のおれには屈辱的で、見ていられなかった。



「おお、出た出た。あの圭子ちゃんでもう○こは同じなんだな。あ、でもちょっと細いかも♪」

 午後の授業の直前、おれは圭子の体内から排出されてしまった。見上げると圭子の股間が間近に見えた。それを股間を拭こうとする圭子の手が覆い隠す。

「ふう、何度やってもオ○ンコを拭くっていうのは興奮してしまうよ!」

 恐ろしいセリフを吐いたやつは、パンティを穿くと、スカートの乱れを整え、水を流して出て行ってしまった。かろうじて流されなかったおれは、みるみるうちに元の体に戻ってしまった。



 どうにか素っ裸のピンチを逃れたおれは(結局、放課後遅くまで個室にこもっていたのだが)、次の日には登校した。重い足取りで教室に入ると、すぐさま、待ちかねたように圭子が声をかけてきた。

「おっはよ〜!」

 その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた――


(おわり)



あとがき

ゼリージュースの出番が少なかったですかね(笑
引き立て役に回っちゃった感じですね。
憑依している上に憑依される、と言うのが書きたかったので。
今回の場合は、憑依していてもしていなくても、
結局は圭子はやつに乗っ取られてしまう事になりますね。
そこは少し残念かも。

ゼリージュースの中でも戻り方がかなりマイナスイメージでしたよね。
あれはおそらく汚物まみれ(爆
それより何より、圭子が奪われた事がショックでしょうけど。

久々に救いようのないダークを書いちゃいましたね(汗
まあ、たまにはこう言うのもいいかなと。

それでは読んでくださった皆さん、どうもありがとうございました!