メイド喫茶はパイン味
作:Tarota


世間には疲れが蔓延している。
どこもかしこも、どことなーく元気無いし、どことなーく無気力感が漂っている。
だから、人々に求められているのは『癒し』なのだ。
需要があれば供給があるように、『癒し』が商売になってからどれくらいが過ぎただろうか。

そんな『癒し産業』の片隅に、いや一部の人に取っては本命の位置に、特殊な飲食店群が存在していた。
有体に言えば、女の子が趣味的な衣装でお給仕する店の事である。
ただし、エッチな事は一切なし。
ウェイトレスの姿や挙動を鑑賞しながら、お茶でも飲んで優雅に一時を過ごす場所なのだ。

中でも根強いのが、給仕役がメイドの衣装を着ているというものだ。
近世西欧の富裕層が、屋敷で働く女性達(メイド)に着せていたような服。
本来、それは一定の形式を持っておらず、多分に質素で実用的な服装であった筈だ。
それは、個人の屋敷で働く服装なのからあたり前なのだが、何時の間にかイメージだけが一人歩きしていた。結果、黒か紺の衣装に白いエプロン、ただし襟元やエプロンの装飾がやや過剰というスタイルが出来上がっていた。
同時に、メイド=従順という図式も広く植え付けられ、寛ぎのスペースを提供するという役割に最適なのだ。


そうしたメイド喫茶の一つに、カフェ・メイディアンという店がある。

「お待ちしておりました、ご主人様」

店に入るとまず、そんな挨拶が飛び込んでくる。
メイド喫茶では、客を主人に見立てているのである。
『お客様はご主人様です』という張り紙が、スタッフルームに貼ってあるくらいだ。
静々と歩くメイドさんの後姿を堪能しながら、テーブルに案内されるとメニューを手渡される。
紋章が浮き彫りされている荘厳な皮張りの表紙が、手にしっくりと馴染む。
大仰なお品書きだが、ドリンク・フード・ケーキと大別されてはいるものの、個々の品目は少ない。
レベル的には『文化祭の喫茶店』といった処だろうか。


「むむむむ‥‥」
開店前の厨房で、背中を丸め唸っている男がいた。
片瀬川大樹という名のその男は、カフェ・メイディアンのスタッフの一人だ。

「むむむ‥」

彼をこんなにも悩ませる原因とは何であろうか?
それは、新しいフェアの企画である。
このお店では、例えば『中華週間』と名づけて、ウェイトレスの格好をチャイナドレスにして、メニューも簡単な中華料理に変更するといった趣向を凝らしているのである。
準備期間を考えると、月に一度の企画までに時間は余り無かった。
流石に毎月となるとアイディアも枯渇してきて、最近は過去に好評だったものをもう一度やったり、ちょっと無理矢理かな?と思えるような物になっている。
だからこそ今度のフェアでは、斬新な新機軸な未体験なといった文句の付けられるようなものにしたい。
そういう思いだけはあるのだが、アイディアが閃く訳もなく、唸り声に繋がっているのである。

「むむむ‥‥ひゃあ!

何度目かの唸り声が間抜けな叫び声に変わった。
大樹の頬っぺたに、いきなりヒヤっとする物が当てられたのだから堪らない。
「えへへ‥おはよ〜」

振り向くとそこには、チロっと舌を出した女の子がそこに立っていた。
名前は藤堂和美[トウドウ カズミ]、この店のウェイトレスの一人だ。
開店まで間があるので、メイド服ではなく袖なしのトップスにGパンといったラフな格好をしている。

「ああ、和美さんか‥おはよう。
 いきなり、冷たいモノが当たるから何かと思ったよ‥」

「ごめん、ごめん。まさかこんなに驚くとは思わなかったから」

再び舌をチロっと出して悪びれてみせる仕草が可愛い。
大樹は内心ドキドキしていた。

「あんまり考え込んでも煮詰まるだけだよ。
 気分転換に飲み物でもどう?」

そう言って和美は、さっき大樹の頬をヒンヤリとさせた物体を見せる。

「あれ?新製品?」

見覚えのないラベルに、大樹は飲料の容器を受け取ると、珍しそうにしげしげと眺めた。
某食品会社と高原ビューティサロンの共同開発品らしい。
最近流行りのキレイになる飲料というヤツだろうか?

「そう、今朝お店に届いた試供品」

喋りながら和美はグラスを用意し、ペットボトルから中身を注ごうとする。

「あれ?なかなか出ないぞ」

「ゼリー飲料みたいだから振らないと」

「そか」

蓋を閉めて、ボトルを懸命にシェイクする。
大樹はその動作を可愛らしいなと眺めながら、それとは別に揺れる和美の胸の動きも監察していた。

(結構‥揺れてるな‥)

そんな邪な心を知らずに、和美は柔らかくなった飲料をグラスに注いでいく。

「ほいじゃ、今日も一日頑張ろうね!」

そう言うと和美は、グラスの方を大樹に渡し、自分はペットボトルに口をつけた。
艶やかな唇が飲み口を咥えるのを、悩ましく見ながら大樹も慌ててグラスを手にとる。

「乾杯!」

和美の方にグラスを掲げてから、大樹もグラスに口をつけた。

爽やかなパインの味が口中に広がっていく。

「ゼリーの滑らかな喉越しとパインの味が絶妙だね」

「ケーキとかには合いそうにないね」

「一手間加えればデザート飲料としていけるかも」

レビューの会話が自然と口に出るのは、流石プロといった処か。

全てを飲み干しホッと一息ついたところで、急にドクン!と体の中で大きな脈を打ったような気がした。
和美の顔が蒼白になり、苦しそうに歪む。

「和美さん‥大丈夫‥?」

大樹はそう声を掛けたつもりだったが、自分も苦しくなってきて言葉は途中で消えていた。

「う‥うう‥」

和美も大樹も、身体の奥で熱いものが畝っているのを感じていた。
身体全体が解けていくような感じだ。
脚が泥のようになって、立っているのもままならない。

実際に二人の身体は解けていた。
まるで先程飲んだゼリーのように、二人の身体が足元から薄黄色でゲル状の物質に変わっていく。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

大樹は薄い意識の中で、これは夢なのだと思っていた。
和美も自分もゼリーになって溶け合う夢。
これって、和美ちゃんと一つに成りたいっていう性的欲求の表れなのかな?

大樹がそんな極楽思考に辿り着いている中、和美の方はなんとかしなくちゃと必死だった。
ゼリー状になった身体を、なんとか動かそうともがいていく。
5センチ離れ、10センチ離れ‥
ついには、和美と大樹だったゼリーの塊が、それぞれに分離する。

すると不思議なことに、ゲル状の物質が形を造り始めた。
先程の溶解していく映像を逆回しにしたように、元の姿を象っていく。
だけれども、位置が違っていないだろうか?

片瀬川大樹が、復元したばかりの身体を起こそうとしている。
蕩けそうな頭を二三度振り、そして自分が裸でいることに気が付いた。

「へ?」

ゼリー状になった体が服から抜け出していたのだから、裸になっているのは仕方ないだろう。

「何で裸‥」

そう言おうとして凍りつく。
眼下に見える自身の体に驚いているようだった。
脚を見て股間を見て腕を見て胸を見て…
最後に凝視するのは、股間の物体だ。
恐る恐る触っては、ぐにゃっとしたその感触と確かに付いているという実感に恐怖する。

そうなのだ見知らぬ物だったのだ。
片瀬川大樹の体で動いている中身は、藤堂和美だったのだ。
だから当然、平らな胸も、脛毛の生えた脚も、堅く大きくなった全身が、見知らぬ物で当然だった。
中でも一番気になるのは、股間に生えた突起ブツだろう。
初めて見る訳ではないグロテスクな物体を掴みながら、和美は途方に暮れていた。


さて、本物の大樹はといえば、同じように見知らぬ体で目覚め、途方に暮れている処だった。
眼下に見える魅惑の双球、先端にはこれまた魅惑的な桜色の乳首も備わっている。 のみならず、腿も脛もキレイな色形でとても美味しそうに見えるし、股間には見慣れた物体も皆無で茂みに覆われた丘になっている。
大樹は途方に暮れるというより、眼前の光景にゴクンと唾を飲み込んでいた。
おそるおそるといった感じに、胸に実っている果実へ両手を伸ばす。

ぷにゃん

と、これまでに感じたことの無いような柔らかな手ごたえが返ってくる。
ぷにゃんぷにゃん

と触れば、胸の辺りからは『触れてますよ〜』という信号も返ってくる。

「ちょっと、ちょっと、何やっているのよ、あんた〜」

股間の物体を握り途方に暮れていた和美は口から漏れる低い声に戸惑いながら、直ぐ側で胸を揉み始めた裸の女に気がついて声をかけた。

「へ?」

声を掛けてきた裸の男を見て、大樹は絶句する。

”どこかで見た顔・姿だぞ”

二人は顔を見合わせながら、少し考えた‥。

「あたしぃ〜?」「オレ!?」

綺麗に声がハモる。

お互いに口をパクパクさせ、なかなか二の句が出てこない。

そのとき、外から話し声が聞こえた。

「ね、キッチンの方で何か変な声がしなかった?」

「和美と大樹君が出勤しているみたいだけど?」

どうやら、仲間たちが出勤してきたらしい。

こんな所で裸になっているのを見られたら、どんな噂が立てられる事やら!

慌てて床に散らばった衣服を着けようとするが、男女の身体が入れ替わっては、なかなかうまくいかない。
特に大樹の方は女性の下着と身体に、戸惑いと興奮が入り混じり、頭の中がわやくちゃになっていた。
それでも何とか、お互いにカバーしあって仲間たちが覗きにくるまでには間に合った。

「おはよう、お二人さん」

「ひゅーひゅー。朝からお暑いねぇ〜」

厨房の間仕切り越しに、二人の女性からそんな野次が飛んだ。
丁度、和美(中身:大樹)の捲くれ上がった空色の上着の裾を大樹(中身:和美)が直しているところだったから、そんな声になるのも無理はないだろう。

意味に気が付いて、大樹(和美)が口をパクつかせながらシドロモドロに喋る。

「ち‥ちがうのよぉ〜 これはぁ‥」

言い掛けて、口から漏れる声が違う事に気づく。
いつもの調子で、思いっきり語尾を伸ばしてしまったので、カマっぽくて気持ち悪い。

一瞬の沈黙の後。

「お邪魔だったみたいね」

「そうね」

何かを察して、スゴスゴと引き上げていく二人。
それを見送った後、「ふぅ〜」と同時にため息が漏れる。

「参ったわねぇ‥」

「変な噂広められたらゴメンね」
大樹はそう言いながらも満更ではないようだ。

「違うわよ‥。これからのこと!」

「へ?」

「これから先どうするの?」

といっても、良い方策が浮かぶ訳もない。
大体、どうしてこうなったのか‥すぐに思い浮かぶのはゼリー飲料だ。
メーカーに問い合わせれば、何か解るかもしれない。
しかし、時間に余裕が無かった。

「あと10分で開店!」

「うーん‥しょうがない。
 後で問い合わせるとして、お互いに役割を交換するしか‥」

言いかけて、大樹は気がついた。

「え?ひょっとして、俺があの服を着るって事か!?」

それは勿論、メイド服の事を指している。

「そうだね‥‥。どうやって着るか解る?」

毎日見ているとはいえ、服の構造なんて解る訳がない。
その事を告げると、和美は困ったなぁ‥と呟き。

「‥この姿でついていく訳にもいかないし‥」

そんな所を目撃されたら、今度こそ何を言われるか解ったものではない。
和美は自分の物になっている大樹の身体を見下ろし、服の上からゴツゴツした体を触り、ちょっとだけ赤面した。

「そうだ。今すぐに行けば、まだエルミちゃん達が着替えてる筈。
 彼女達の着替えを見て、同じようにしてよ!」

「え?」

彼女達の着替えと聞いて、今度は大樹が頬をちょっとだけ染めた。
戸惑っている大樹の細い身体を押して、和美は先を急がせる。

(こうなったら‥仕方ないよな)

大樹は内心、ニヤニヤっとしながら女子の更衣室へと向かっていった。

和美はそんな自分の姿を見送りながら
(わたしの身体って、あんなに細くて柔らかかったんだ‥)
手の中に残る感触にドギマギしていた。


特に存在を示すようなプレートはないが、この奥に立ち入る事は許されない禁断の領域。
大樹は今、ドキドキと高鳴る胸をわくわくさせながら、震える手で女子更衣室の扉を開いた。

きゃいきゃいと黄色い声がまず飛び込んでくる。
次いで、綺麗な肌を晒した女性の後姿が飛び込んでくる。

「あ、和美。ようやく来たのね」

「何やってたのよー。朝早くから二人っきりで‥」

興味深々といった感じで、二人の女性−エルミとマヤが尋ねてくる。

問われた方の和美(大樹)は、答えもせずにジーっと二人のブラジャーに包まれた胸へと視線を注いでいた。

「ちょっと、なぁーに?何かついてる?」

突き刺さるような視線に耐えかねて、エルミは思わず手で覆い隠した。

「は‥いや‥。これはその‥。あの‥。仕方ないんですよ‥ははは‥」

シドロモドロに素っ頓狂な声で支離滅裂な言葉を喋る和美(大樹)に、大丈夫かしら?と小首を傾げるマヤ。

「頭に春が来ちゃったんじゃん?」

小声でエルミが答えると、二人は背を向けて着替えの続きへと戻った。

今度はスカートが外され、形良いお尻が露になる。
下着姿の二人の動作を、和美(大樹)はだらしない顔つきでじっと眺めていた。
その視線に気が付き、二人が振り返る。

「もう、いい加減にあんたも着替えなよ!」

「そうそう、いつまでも浮かれている場合じゃないでしょ!」

二人の剣幕に押され、和美(大樹)は自分の(?)ロッカーを探した。
ポケットに入っているという鍵で扉を開けると、中にはメイド服とエプロンがハンガーに掛かっている。
これに着替えなければならないのかと思うと、大樹は気が滅入った。
それを紛らわせようという訳ではないが、着替え方を盗み見ようと隣で服を畳んでいる下着姿の女性二人を盗み見る。
再び肢体に目を奪われそうになるのをこらえて、和美(大樹)も自分の服を脱いでいく。
空色のトップスを脱げば、突き出した胸が。ジーンズを脱げば脚線美の備わった下半身が明らかになる。
眼下に見える光景も周囲と変わらず悩殺的で、和美(大樹)は堪らなくなって自分の胸を布越しに触っていた。

柔らかさに我を忘れそうになるが、訝しそうな視線に気が付いてそれを中断し、いよいよメイド服の着装へと取り掛かる。
とはいえ、構造的な事は解らないので、怪しまれないようにそっと二人の事を伺いながらの作業であった。

なんとか身に纏えたものの、スカートというのは落ち着かなくて困る。
カフェ・メイディアンでは、それぞれのメイド達が個性を持っている設定になっている。
同じメイド服をベースとしているものの、設定に合わせてカスタマイズされているのだ。
和美は『活発』という個性が割り当てられていて、スカートの丈も一番短いタイプのものになっている。

だから余計にスースーと下半身が落ち着かない訳であった。

エプロンを縛り、胸元にブローチを付け、頭にカチューシャを付ければ、一通りの着装が終わる。
和美(大樹)は更衣室の端にある鏡に全身を映してみた。

そこには、カフェ・メイディアンのウェイトレス‥『カズミ』が立っていた。
普段と変わらない姿だが、鏡越しに見るとどこか変な気分だった。

(どう見ても和美さん‥だけど‥)

鏡に映っているメイド服の女性‥それが今は自分の姿なのだ。
意識するとドキドキと胸が高鳴ってしまう。
誤魔化すようにロッカールームを後にしようとすると、マヤに呼び止められた。

「和美〜。靴履き替えるの忘れているよ!」

そうだった。何か違和感を覚えたのはこれの所為でもあったのだ。

(メイド服にスニーカーなんて変だと思ったんだよな‥)

ロッカーの底に揃えてある革靴を手に取り、その小ささに再びドキリとする。
スニーカーを脱いで見れば、大樹の足よりも二周りくらい小さい。
そういえば、靴下も替えなくっちゃ。
思い出して、ロッカーの中から一足選び、短い白いソックスに履き替える。
小さな靴にピッタリと収めれば、少し高いヒールに違和感を感じる。

今度こそ準備完了だ。

そう意気込んだ矢先に、またもマヤから声が掛かる。

「エプロンの紐、曲がってるよ!」

後ろを向かされ、きちんと縛られる。

ふぅ‥。やっと終わったよ。

いやいや、これからが始まりなのだ。
大樹がメイド姿で、フロアの仕事を初体験する時間はもう目前であった。


「お待ちしておりました、ご主人様」

スカートの裾を摘んで、一礼をする。

何度も見てきた光景だが、実際にやる羽目になるとは‥。

大樹はトホホ‥と思いながら、お客さんの前でそんな動作をしていた。
短いスカートに、ただでさえ嫌気がするのに、それを摘んで動くとなると見せてしまいそうになって恥ずかしくてしょうがない。

尤もお客様の方にしてみれば、そんな和美(大樹)の恥ずかしげな態度がツボをついているのであったが。

恥ずかしいといえば、全てが恥ずかしかった。
まず、言葉遣い。
いつも聞いている言葉だし自分で監修した台詞もあったが、喋るとなると別だ。
メイドという役割柄、基本の口調は丁寧な女性言葉だし。
和美の『活発なメイド』という個性上、ちょっと砕けた女の子言葉も喋らなくてならないのだ。

「本日のケーキは抹茶シフォンケーキにイチゴのミルフィーユ、それとアップルパイです。
お薦めはミルフィーユだぞ☆」

そんな風に喋りながら、大樹は面白がって設定を手伝った自分を恨んでいた。

注文を取ったら、カウンターに伝票を置き、再び席の案内をしたり注文を取ったり接客に追われる。

フロアを歩く度にヒラヒラするスカートや、踵を押し上げる重い靴に違和感を覚えっぱなしだ。

「お待ちどうさまです、ご主人様」

そんな言葉と共に紅茶とケーキを配膳する。
和美(大樹)が皿を置くのを、紅茶を注ぐのを見て客の男は幸せそうに顔を歪ませる。

「御寛ぎ下さいませね☆」

我ながら酷い出来の台詞だなと思いながらも、にこっと営業的に微笑むと相手も微笑み返してくる。
何だかこっちまで癒されるようだった。

晒し者気分で働いていた大樹も、繰り返す内に段々と慣れてきた。
一挙手一動作に、周りからチロチロと注がれる視線も気持ち良くなってきた。

高まる気分で絶好調に仕事をこなし、すっかりメイドさんでお給仕という役柄をこなしていると、厨房に食器を運んだときに出会った大樹(和美)の姿にはっとなる。

「随分、ご機嫌ね‥和美さん‥」

ジト目で自分の姿の和美に嫌味を言われて、大樹の気分はすっかり冷めた。

(何、流されてるんだよ〜俺‥)

心で汗を掻きながら、言葉を返す。

「あはあは‥。大樹‥くん‥お疲れ様っす‥」

お互いに自分の名前を他人に呼び合うのは変な気分だった。


大樹になった和美は勿論、大樹の替わりに裏方作業をしていた。
それは、身体の違いからくる些細な事柄にドギマギしながらの作業であった。
洗いものしている時には手の大きさを実感したり、品出しすれば力の強さに驚いたり。
それよりも、一番驚いていたのは、メイド姿を見ている時の心の揺れ方だった。
ちょくちょく顔を覗かせる、仲間のウェイトレス達が、何だか輝いて見えるのだ。
いつもと同じ筈なのに‥見慣れて‥着慣れている筈なのに、どこか違うのだ。

「大樹君。和美をよろしくね」

マヤにそんな風にからかわれてドキリとしたけど、それは内容についてなのか、彼女の笑みに対してだったのか解らなかった。

そして厨房に入って来た和美(大樹)の姿を見て、ますますそのドキリは大きくなった。
思わず嫌味を口にしたものの、和美のモヤモヤは収まらない。
目を逸らすものの気になって度々見てしまう。

(やだ‥自分の姿なのに‥なんでこんなに気になるの?)

気遣いではなく、明らかに興味を持った視線に、大樹の方もドギマギしてきた。

(和美さん‥俺の事をみてる‥。自分の姿なのに?)

二人とも頭の中で混乱し始めてきた。

(俺が‥私が‥自分を‥自分が‥‥)

そんな混乱の渦を掻き消すように、声が割って入った。

「和美〜。接客お願い〜」

はっと我に返った二人は、それぞれ元の持ち場に戻ろうとする。
フロアの方に行きかけて大樹(和美)は慌てて戻った。

「大樹君‥今はあっちでしょ‥」

洗い物を始めようとしていた和美(大樹)に、小声で話し掛けて場所を交代する。

「おお、そうだった。そうだった」

大げさに頭を掻き毟って、大股で歩き去ろうとする和美(大樹)に、大樹(和美)はゼスチャーで注意を促す。
それを察して、慌てて小股で静々とフロアに戻っていく。

一瞬の邂逅が、二人のペースを大きく乱していた。


ボーっとお湯が沸くのを眺めながら、和美はモヤモヤを晴らそうと必死だった。
何でそんなに必死にならなければいけないのかは良く解らなかったが、捕われると大変な事になるという危機感が本能的に察知していた。
けれども、脳裏を過ぎるのはさっきの和美の姿。
自分なのに他人と意識しているなんて‥。
この状況では仕方ない事なんだろうか。

「大樹君、休憩してきていいよ〜」

思考の渦をかき乱すように、突然、甲高い声が割って入ってきた。
ビクっとして振り返れば、そこにはマヤの姿があった。

「驚かしてゴメンね」

目を大きく開いてから、慌てて誤るマヤの姿を見て、和美の心臓は高鳴った。

「あ‥あ‥うん。じゃ、少しの間、よろしくね」

なんとか声を搾り出すと、変なの‥という感じで小首を傾げるマヤを尻目に、大樹(和美)は厨房を後にする。
途中、フロアの様子をチラリと伺い、楽しそうに仕事する和美(大樹)の姿を確認した。
いつまでも見ている訳には行かず、かといってどこで休憩すればいいのだろうか‥。
そう考えた時、大樹(和美)は不意に尿意を覚えた。
異性の身体で感じるので、どことなく違うものであったが、確実に『おしっこがしたい』という事が感じ取れた。
恥ずかしさに顔を俯けながらも、お手洗いに向かって歩き出す。
特に男女分けがある訳ではないトイレの扉を押すと、正面には鏡と手洗い台が待ち受けている。
鏡面が跳ね返す像は、いつもの和美の姿ではなく大樹の姿だ。
不思議な感覚に捕らわれて、そこで足を止めて鏡に魅入った。

(本当に私‥大樹君になっているんだな‥)

鏡に映る大樹の顔を覗き込み、手を当てて感触を確かめていく。
骨っぽい感触に、僅かに残る口髭に、やや硬めの頭髪に、男を感じてドキリとする。
異性の身体を動かしている‥意識しだすと、好奇心は止まらない。

乳房を感じさせない平らな胸をまさぐり、次いで身体のラインに沿って手を下ろしていく。
やがて、股間に生える物体に行き当たる。
その部分は、入れ替わった直後に見ていたが、興味が薄れる事はない。

(ごく‥)

喉仏が上下して、生唾を飲み込む音が大樹(和美)の体の中に響く。
いつものように個室の方に行きかけて慌てて振り返ると、男性が用を足す為に存在する便器の前に移動した。
これまでの人生では当然のごとく縁の無かったその器具に、和美はわくわくしていた。

(へへへ‥。私は大樹君なんだから、当然こっちだよね)

嬉しそうな顔をしながら、適当な知識でズボンのジッパーを下ろす。

(ここからどうやって出すんだろ?)

丁寧にトランクスのボタンを外し、窓から先端を掴み出す。
グニャっと柔らかい感触が手の中を駆け巡る。

(あ‥)

ズボンの窓から、異様な物体が姿を現した。
グロテスクなんだけど、どこか愛くるしいようなその姿は、和美の心を捕らえて離さない。

(これが‥おちん○ん‥なんだよね‥)

完全に引っ張り出して、遠慮なく熱い視線を投げかける。

(私の身体についているんだよね‥変な感じ‥)

その器官から伝わってくる感触にゾクゾクする。

(さてと‥どうやって‥おしっこするのかな?)

考えるまでもなく、先端の割れ目から勢いよく飛び出してきた。

(すごーい!)

和美は楽しくなってナニを掴んだ手を動かし、小水を縦横無尽に撒き散らした。
その内に排泄する勢いは弱まったものの、和美の手の動きは止まらなかった。

(なんか‥変な感じ‥)

手の中の物体が段々と硬くなっていく。

(まさかこれって‥)

当たり前だが、生まれて初めての勃起に戸惑う。

(ど、どうしよ‥)

うろたえる気持ちの反面、知識を試してみたくなっていた。
大樹(和美)の手は自然に動いていた。


一方、自分の身体が弄ばれてる事など知らずに、大樹はフロアの仕事を楽しくこなしていた。
くすぐったいような視線の嵐も、スカートの頼りなさも、慣れてしまえばそんなに気にならない。
どころか、見られているのが快感になっているのだ。

チャリーンと涼しげな音が床に響く。
客の一人がフォークを落としたのだ。

「御取り替えしますわ‥ご主人さま」

間髪いれずにマヤが替えのフォークを持っていく。

客の意図に気が付いた和美(大樹)は、屈み込んで落ちたフォークを拾う。

(見てる‥見てる‥)

お尻から足へとに注がれる視線が気持ちいい。

(どうしようもなく馬鹿だよな‥男って‥)

大樹はそう思いながら、身体の奥が微かに痺れているのを感じていた。

(ひょっとして、これが女の子の『感じてる』ってヤツなのか?)

男の勃起と違って、なんだかモドカシイ感じだ。
とはいえ、身体は女(和美)でも中身は男(大樹)な訳だから興味深々な訳で。

(あー。弄ってみてぇ〜)

と危うく店の中で身体を弄り出すところであった。


「はぁはぁはぁはぁ‥」

スタッフ用のお手洗いの中に荒い息が篭っている。
便器の壁面には、和美が男の絶頂を楽しんだ跡が残されている。
大樹(和美)は虚脱感と満足感の狭間で漂っていた。

(これが男の人なのね‥)

大樹の身体でこんな事をしてしまったという罪悪感もあったが、そんなものは軽微だった。
大部分は快感に酔いしれ、もっと試したいと今や親しくなった突起物を早くも擦り初めていた。

ところが。

力を失ったナニは、どんどん縮んでいくだけだった。

(え?そんな‥出し終わった後、いじっちゃいけなかったの?)

大樹(和美)の目の前で、男性の象徴がどんどん小さくなっていく。
それだけじゃない。
指も手も腕も‥締め付けられるような感覚と共に縮んでいく。

(な、なに?身体が変‥)

勝手に大樹の身体を弄んだ罰が下ったのかとビクビクする。
それも借り物の身体を壊してしまったのだろうか?

和美が罪悪感に捕らわれている間にも変化は止まらない。
大樹(和美)の全身は縮小を続け、余った肉は一部に流れていく。
ズボンのベルトはゆるくなり、お腹の変わりに丸く突き出したお尻でそれを受け止めた。

「はぁはぁはぁはぁ‥」

さっきとは違った意味で荒い息がトイレに響く。
その音程もさっきとは違い高音域だ。

変化が終わったとき、大樹(和美)の体はもう大樹の身体を成していなかった。
恐る恐る覗いた鏡に映る姿は、元の和美の姿であった。

「戻ってる!」

思わず声を上げれば、正に自分の声だ。
ベストとズボンを押し上げる膨らみに手を当てて、その感触にニヤリとしてしまう。

「やだ‥男の子の気持ちが残っているみたい」

手で揺らして楽しんでみるが、ノーブラなのでちょっぴり先端が痛かった。

(私が戻ったって事は、大樹君の方は?)

化粧室を後に、恐る恐るフロアを覗き込む。
すると、そこには変わらず働く和美(大樹)の姿があった。

(戻ってない。じゃあ‥さっきのアレが原因なの?)

飲料が原因だから排泄する事で解決される‥理屈は解るが‥

(あんな排泄の仕方したなんて事は黙っておこう‥)

そう心に決めたはいいが、どうやって大樹に戻る方法を伝えようか。
考えを巡らしている和美に、後ろから声がかけられた。

「おや、和美君!」

「ひゃあ!!」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「あ‥て‥店長‥おひゃようございます‥」

慌てて振り返れば、そこにいたのは店長の祝三郎だった。

「和美君‥どうしたのその格好?」

さっきまで大樹の姿をしていた和美は、店長と同じく男子従業員の服装をしている。

「これは‥」

どう誤魔化そうかと考えていると

「そうか、今日は男装デー!って設定だったか!」

勝手に納得すると、フロアの方へ向かおうとする。

「あ、てんちょー、ちょっと待ってくだ‥」

今覗かれてはヤバイと、慌てて呼び止めようとするが遅かった。

「!?和美君‥!?」

(あちゃー)

天を仰ぎながら、和美は言い訳を考える。

「今日、男装デーじゃないじゃないか‥」


 ずてっ


思わずコケてしまう。

「おや?」

店長が今度こそ気が付いたようだ。

「和美君‥‥。きみ‥」

「はい‥」

高速移動で分身して見えるんです‥と素っ頓狂な言い訳を思い描きながら真顔の店長に圧倒される。

「君‥‥双子って設定だったっけ?」

「はぁ?」

一瞬気が抜けてから

「そ‥そ‥そうです‥。
 今日は、双子の姉妹‥カズミとカスミって設定なんです♪」

こうなりゃ自棄だ、店長に話を合わせてしまおう。

「うむ。採用!早速、君もメイド服に着替えてご主人様方のおもてなしをするんだ!」

「はい!」

和美は更衣室へと駆け出していった。


「お待ちしておりました、ご主人様」

「今日はゆっくりしていって欲しいぞ☆」

まったく同じ顔をした二人のメイドから口々に言われて、入ってきた客は唖然としている。
双子だとしてもここまでソックリなのは、フィクションの中でしか考えられない。
目を白黒させている客に双子の一人がにこやかに自己紹介する。

「申し遅れましたご主人様。私はカスミです」

「カズミですご主人様。よろしくだゾ☆」

「もう‥カズミさん。ご主人様に『だぞ』はないでしょ」

『カスミ』を名乗るメイドが『カズミ』のおでこを小突く。

「まぁまぁ。
 それより今は、ご主人様をお席にご案内する事が先決だぞ」

目の前で繰り広げられる二人なんだけど一人漫才みたいな光景に、『ご主人様』は戸惑いの表情を浮かべたまま案内されるに任せている。

カズミ(大樹)とカスミ(和美)は、こんな調子でお店の耳目を惹き付けまくっていた。
あのあと、フロアに初登場したときは、客のみならずエルミやマヤそれに和美(大樹)といった店員達までも驚かせた。
しかし、店長の『双子のメイド:カズミとカスミ』という紹介文が大受けで、ご主人様方は納得し、店員達は黙殺することにした。

『和美さんだよね‥?』

紹介が終わった後、隙を見て和美(大樹)が和美に小声で話し掛けた。

『そうよ。元に戻ったの』

『戻ったって事は‥入れ替わった訳じゃなかったんだね』

てっきりよくあるフィクションみたいだと思っていたのだが、お互いに相手の姿に変身しているだけのようだ。

『でも、どうやって戻ったの?』

『うーんと‥』

戻ったきっかけを思い出して赤面してしまう。

『トイレでね‥‥』

ごにょごにょ‥っと最後の方は口篭もってしまう。

『ふぅん‥飲んだものを出せば戻るんだ』

なるほど‥と和美(大樹)は感心し、とりあえずバレなかったようだ。

「ほらほらほら‥カズミにカスミちゃん‥。ご主人様方がお待ちだよ」

店長に急かされて厨房を後にして、さっきみたいな接客やら双子という設定を生かしたミニショーなんかも即興でやらされてしまう。


そして、双子で一時間半ほど働いた後。

「ふぅ‥」

和美(大樹)はようやく休憩に入ることができた。
カスミ=和美の方は、まだフロアで働いている。

「休み時間の内に元に戻っちゃいな‥」

別れ際に釘を打っておくのは忘れない。

(そうだな‥これ以上遊ばれない内に‥)

本当は結構面白がってやっていて、実際にはおしっこが我慢できないだけなのだ。
本来あったモノがないから、なんとなく抑えが効かないような気がする。

(漏れそう漏れそう)

自然と内股になれば両の腿が擦れあって、むにゃ〜んと柔らかい感触が伝わってくる。

(いいなぁ‥この感じ‥)

手放すのは惜しい。
女の子の身体もこの立場も、今までより魅力的なのだから。
もっとも、僅かな時間しか体験してないのだから、こんな風に気楽に感じられるのであろうが。

スタッフ用のお手洗いの扉を開ける。
正面の鏡に目が釘付けになる。
映っているのは和美のメイド服姿。だが、今は大樹の姿なのだ。
本物の和美と同じように、異性の身体が映るという不思議さと好奇心に足を止める。

(やっぱり和美ちゃんの身体なんだよな‥)

散々動かした体だが、こうやって鏡に向かい合うとやっぱり不思議なものだ。
微笑んだり、はにかんだり、拗ねてみたり、和美の表情をアレコレ演出して楽しんでみる。

(可愛いよなぁ〜)

なんて馬鹿な事をやっていたら、尿意が暴れ始めた。

(って‥やべぇ‥そろそろ限界だ‥)

便器に向かい
(あれ?)
慌てて個室の方に向きを替えるのはお約束だ。

扉を閉めて、身体を見下ろす。
メイド服のヒラヒラした襟元と紺のスカートが見える。

(えーっと‥どうすりゃいいんだろ)
しゃがんでパンツを降ろすんだろうけど、スカートはこのままでいいのかな?

そんな疑問を抱きながら、とりあえずパンツを降ろしてみる。

(うーむ‥なんか変な感じだな)

全てが変な感じなのだが、やはりこういう事には敏感に反応してしまう。
脚と脚の間にパンツを張らせて、とりあえずはと、便座に腰掛ける。

(スカートは脱ぐのかな?捲くるだけでいいのかな?)

短い丈なので捲くればどうにかなりそうだ。
それにワンピースタイプなので、スカートを脱ぐのは無理そうだと気がついた。

(これで後は‥)

用を足すだけなのだが、出したら戻ってしまう。

(せっかくのこの眺めが‥)

スカートを捲し上げるメイドさん‥。
眼下に広がる光景だけでは実感できないが、さっきみた鏡像と合わせれば想像も容易だ。
湧き上がる尿意に負けず、スカートをさらにたくし上げて股間を覗き見ようと努力する。

(くそ!女ってのは大事な部分を自分じゃ見え難いんだ)

生茂る恥毛は確認できるものの、恥丘を走る裂け目はうまく見えない。
こうなったらせめて‥。
左でスカートを抑えたまま、右手をその丘に突撃させていく。
戦略目標は勿論、未知の大峡谷だ。

柔らかな林と丘乗り越えて、渓谷の淵に辿りつく。
瞬間、ゾクゾクと背筋をくすぐったいような感覚が走り抜けた。

(敏感なんだな‥)

指でそっと峡谷の上を走らせ、徐々に徐々にと谷間の奥地へと侵入させていく。

(お、思ったよりも、くすぐったいもんだなぁ)

てっきり痺れるような凄い快感が襲ってくると思ったのだが、実際には痛いとくすぐったいの中間くらいの感じだった。

(くそっ!くそ!)

半ば自棄になって、指を奥に潜り込ませようとして、余りの痛さに引っ込める。

「痛ぁー!」

(全然気持ちよくないじゃんか!)

俗に言われる女の快感は男の10倍だというのは嘘つきだ。

(もういいや)

我慢も限界にきたので、排泄を始めようと気を緩める。

しゃわわ〜

ほどなく裂け目から、湯気をたてて尿が染み出してきた。

(ふぅ‥排尿の方がずっと気持ち良いじゃねぇか‥)

ほっと一息ついた所で、唐突に閃いた。

(そうだ!女の大事な場所!)

俗に『クリちゃん』と呼ばれる女の突起物‥感じるだけの為にある器官を弄くるのを忘れていた。
このまま排泄が終わったら元に戻ってしまうと、慌てて指で排尿を続ける谷間の突き当たりに狙いを定める。
本で読んだ知識の通りの場所に、確かに突起物が存在していた。
触った感じは思ったより大きい、豆粒のような突起を問答無用に指で弄くった。

「う‥ふ‥くっ‥」

男の突起よりも敏感で、感じ方が強い分調節も難しい。
小水で汚れるのを物ともせず、指を操って様々に動かしていく。
やがて尿は止まったのだが、それにも気がつかず一心不乱に指を動かしていく。

「ん‥あ‥あん‥」

高い声が上がると、奥に溜まっていた最後の尿?が一気に吹きだす。
瞬間、全身が大きく変貌しようとするのを大樹は感じていた。
右手に摘んだクリが大きくなっていき、左で触っていた乳房は減少していく。
やがて、トイレでぐったりしているのは和美ではなく、メイド服姿の大樹になっていた。

(あーあ‥戻っちまったか‥)

鏡でちらっとその情けない姿を確認し、小水に塗れた手を洗うと更衣室で男子従業員の服へと着替えた。


閉店後。
今日の出来事を和美と大樹は説明していた。
目の当たりにしても信じられないような出来事だった。
だが、説明の通りなら納得できる事も多い。

「だから、二人とも変だったんだね〜」

「そうすると、あの時じっと見つめていたのは大樹君だったのね!スケベ!!」

「あはは‥」

大樹は笑って誤魔化すより他になかった。

「むぅ‥双子の姉妹:カズミとカスミの正体はそれか‥
 しかし残念だなぁ‥お客さんの受けも良かったから、もっとやりたかったのになぁ」

悔しがる店長に大樹は

「それでしたら、ジュースの製造元に問い合わせた所。
 『変身』効果だけのジュースもあるみたいですよ」

「おお!」

身を乗り出した店長に和美が抗議の声を挟む。

「ちょっと!!
 他人の身体に変身するような事、勝手に考えないでよぉ〜」

そんな声に構わず、大樹は店長との話を続ける。

「メイドの仕事をしてて思ったんですけど。
 中々楽しい体験だったんですよねぇ‥
 ですから、『メイドさん体験フェア』なんてのはどうでしょうか!」

「おお!!」

素晴らしいよ君ぃ‥といった感じで、店長が大樹の手をガッチリと握る。
反対に女性陣からは、「なによそれ〜」と不評の声が上がる。

「大丈夫だって‥見張っていれば変な事出来ないって。
 ウブなやつら多いし‥。
 なんなら『入れ替わり』のジュースでお客さんと立場交代ってのはどう?」

「良い訳ないじゃん‥」

エルミとマヤからは声が上がったが、和美は考え込んでいた。

「和美さんは、俺の身体だったときどうだった?」

「え?そのぉ‥」

赤面したままの和美を見て、一堂は何かを察したようだった。

 
そんな訳で‥。
カフェ・メイディアンが贈る新フェアは『メイドさん体験フェア』に決まりました。

「みんな!来て欲しいぞ☆」

(完)


☆あとがき☆
シェアワールドだっていうのに、ゼリージュースシリーズだっていうのに、いつもと同じような入れ替わりパニックものを書いてしまいました^^;
こんなんでもいいですかね?
何も考えずに始めた割に‥所為で?‥何だか長くなってしまいました。
和美ちゃんが動いてくれたお陰かもしれません。
感謝してるぞ☆

2003.08.09 Tarota 記