「巨乳になりたい!(前編)」
(ファシット・ファクトリー・シリーズ)

作・JuJu
 

「いいなー、法子はおっぱいが大きくて」

「何? 詩織もこっちの世界に興味が出たの?」

「違う違う!」
 

 午後をちょっと回った頃。
 あたしは親友の法子と雑談をしながら街を歩いていた。
 法子は私より年上なんだけど、そんな事を感じさせない気さくな人。
 だから私もついつい、相談に乗ってもらったりして、頼ってしまう。
 ただ法子って、レズなのよね。
 

「今度の彼、巨乳が好きなのよ」

「なんだ、また男の話しか」

「信二ったら、いつも『お前は胸がねーなぁ、一度でいいからパイズリさせろよ』って言うの」

「パイズリって、胸に男のアレをはさんでこする奴?」

「うん。あたしだって、好きで胸がない訳じゃないのに」

「男なんかやめておきなよ。すぐ浮気するし。
 もしかしたら今ごろ、巨乳の女を作って浮気してるかもよ。
 詩織くらい可愛けりゃ、こっちの世界でも恋人はいくらでも出きるんだから」
 

 あたしはノーマルなの!
 いくら恋人が出来たって、相手が女じゃ仕方ないじゃない。
 

「でもあたしは、信二を信じているし」

「はいはい。
 じゃあ私は、バイトに行くから」
 

 法子は繁華街に去っていった。
 道を歩く男の人の視線は、法子の胸に集まっている。
 まるでおっぱいが歩いている様な巨乳。
 やっぱり男の人って巨乳が好きなんだ。
 貧乳な事に劣等感さえ感じる。
 このまま家に帰ると落ち込んでしまいそうだったので、とりあえず歩いた。
 行き違う男の人があたしの胸を見てあざ笑っている気がする。
 誰もあたしの胸なんか気にしていない。そんな事は分かっている。 だけど、自分ではこの気持ちをどうにも出来ない。
 あたしだってウエストだってヒップだって自身がある。
 顔だって可愛い方に入ると思う。ちょっと童顔だけど。
 
 ただ、胸がない。
 
 あー、あたしも法子くらいおっぱいが大きかったら、信二を見返してやれるのになぁ。
 そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか見た事ない通りに来ていた。
 まあ、法子から別れてそれほど歩いていないし、帰り道はすぐにわかるだろう。
 あたしの目の前には古風な喫茶店があった。
 大正時代を思わせるお店の造り。
 

「なかなかおしゃれじゃない」

 行く当てもないあたしは、喫茶店に入る事にした。
 

「いらっしゃいませ」
 

 メイドの服を着たちっちゃな女の子が来た。外人だろうか、金髪だ。
 店の奥では、男の人がピアノを弾いていた。
 内装も古風だった。
 私は一瞬、大正時代に来てしまった錯覚をした。
 唯一、ここが現代だとわかるのがキッチンだ。
 さすがにキッチンだけは、現代風になっている。
 あたしはテーブルに座った。
 座ってみると、視点からキッチンが隠れるようになっている。
 あたしは大正の世界に包まれた。
 

「お客様、ここはコーヒー専門店ですので、コーヒーしかお出し出来ませんがよろしいですか?
 あっ、ここはメニューもないんですよ」

 女の子が言う。
 

「じゃあ、キリマンジャロを」

「はい。かしこまりました。
 マスター、キリマンジャロひとつ」
 

 女の子は、店の奥でピアノを弾いていた男の人に言った。
 男の人はうなづくとキッチンに入った。
 彼がこの店のマスターだったのか。
 ピアノの音がやみ、店の中は大きな柱時計が時を刻む音だけになった。
 あたしは目を閉じた。
 やがてコーヒー豆を挽く音がしてきた。お湯が沸騰する音。カップとソーサーが重なる音。コーヒーにお湯を入れる音。
 コーヒーのいい香りがした。
 ピアノがなりだした。目を開ける。
 女の子がコーヒーを持ってくる所だった。
 いいなぁ。この子って外人だから、大人になればおっぱいだって法子みたく大きくなるんだろうなぁ。
 

「あの? 何か?」
 

 あたしが胸を見る視線に気がついたのだろう、カップをテーブルに置きながら、女の子のが言った。
 あたしはごまかすために、別な話題を振った。
 

「あっ、いいえ。
 でも、素敵なお店ね。レトロで」

「マスターの趣味なんです。凝り性で困っちゃうわ。
 だからこの店には、電気がついてないんですよ。
 もー、不便で不便で」
 

 あたしは天井を見る。
 確かに蛍光灯も電球もない。
 代わりに、天井からは明かりのついたランプが吊るされていた。
 テーブルの上のろうそく立は、夜に使うのだろうか?
 

「でもその代わり、夜はカップルの方がいらして、繁盛しているんですよ」
 

 あたしはこの店の夜を想像した。
 恋人が集まる喫茶店。
 ロウソクのわずかな明かりを頼りに、お互いの顔を確かめようとして、自然に二人の顔は近づいていく。
 静かに流れるピアノの生演奏。
 大正時代にこだわったインテリア達。
 こんな店で信二とデートしたらどんなにいいだろう。
 いつのまにか、テーブルの向こう側に座っていた信二が言った。
 

『お前は本当貧乳だな。一度でいいからパイズリしてくれよ……』

「どうせあたしは貧乳よ!!」

「え!? お客様、どうしました?」
 

 あたしは現実に戻さた。
 信二がいたはずの向かいのイスには、誰も座っていなかった。
 女の子があたしを見ている。
 あたしは慌ててマスターを見るが、何事もなかったようにピアノを弾いていた。
 よかった、きっと演奏に夢中で聞いていなかったのね。
 

「お悩み事ですね? タロット占いはどうですか?」

「うーん。この悩みは……」
 

 胸が小さい悩みなんて、占ってもらっても、どうにもならない。
 でもわたしは、相手は誰でもいいから悩みを聞いて欲しかった。
 

「そうね。じゃ、占ってもらおうかしら」

「それでは始めます」
 

 女の子はタロット・カードをポケットから出すとテーブルに並べ始めた。
 

「身体のお悩みですね……胸……ですか?」

「えっ? わかるの?」

「お付き合いしている男性に、胸が小さい事をからかわれる……。
 うん、その悩みはよくわかるわ。
 アタシだって早く大きくなって、おっぱいが大きくなりたいし。
 わかりました! ちょっとまっていてください、マスターにお願いしてみます!」

「えっ! 男の人に話すのは……ちょっと」

「マスターならばきっと助けになってくれます!」
 

 女の子はあたしが止めるのも聞かずにマスターの所に行ってしまった。
 ピアノを弾く手が止まる。
 女の子はマスターの耳元で何かを話している。
 マスターは、あたしの事を見ながらうなづいていた。。
 きっとあたしの胸を見て、貧乳だとか思っているんだろうな。はずかしい。

 マスターは立ちあがると、キッチンの奥にいってしまった。
 女の子は振りかえる。あたしを見て、ニコニコ笑っていた。
 しばらくして、マスターが帰ってきた。
 白い液体の入ったビンを持っている。
 女の子はそのビンを受け取ると、あたしの元にやってきた。
 

「ファシット・ファクトリー特製アイテム『ボディ・ゼリー』!」

 女の子はテーブルの上にビンを置いた。
 

「これは、身体の型を取るゼリーです。
 中に入っているゼリーを出して、型を取りたい身体……つまり、巨乳な人の胸にゼリーを塗りつけて、まんべなくのばしてください。
 10分待つと、その身体の形そっくりにゼリーが固まります。
 ゼリーが固まったらはがして、自分の胸に貼れば巨乳になれます。
 いらなくなったら剥がしてください。
 一度型を作れば、何度でも貼ったり剥がしたりできます」
 

 なんだ、おっぱいの型が出来るだけか。
 あたしはガッカリした。
 確かにパイズリができるかもしれないけど……。
 まあ、気分だけでも巨乳になれるのならいいか。
 あたしはボディ・ゼリーを受け取り、女の子とマスターにお礼を言うと、喫茶店を後にした。
 次の日、あたしは法子の家に行った。
 法子に事情を話すと、快く胸を貸してくれた。
 法子は裸になって、ベッドに仰向けに寝る。
 あたしは法子の胸にゼリーを塗った。
 ビンに入った白いかたまりを触ると、わずかな弾力があった。
 ボディ・ゼリーは、薄く広がるように法子の胸に広がっていった。
 それにしても、仰向けに寝てもこんなに大きいなんて。
 あたしなんか仰向けになったら、胸なんてなくなるのに!!
 10分経ってからゼリーをはがすと、女の子の言っていたとおりに胸の型が取れた。
 色は真っ白だが、形はもちろん乳首まで法子の胸にそっくりだ。
 法子の胸の型を自分の胸につけるために、あたしはセーターを脱いだ。
 法子を見ると、いやらしそうな目で見ていたので、背を向けてブラを取る。
 胸の型を手にとって、自分の胸に貼る。
 子供だましだと思っていたが、見た目だけでも巨乳になれるのだと思うとわくわくする。
 胸の型は吸いつくようにあたしの胸に貼りついた。
 白かった胸の型は肌色になっていく。
 突然、胸の重みを感じた。
 胸の型と肌の継ぎ目も消えた。
 

「すごい! これなら胸の型を貼ってるなんて分からないわ」
 

 あたしは法子に胸を見せた。
 法子も驚いている。
 見た目だけならば、立派な巨乳だ。
 

「これって、本当にニセモノなの?」

 あたしの胸を触る法子。
 

「あん! ……えっ? うそ?」
 

 法子に障られた胸から、快感が走った。
 あたしは自分の胸を触った。
 胸から指一本一本の感触が伝わってくる。
 

「すごいよ、まるで自分の胸のよう!!」

「本当?」

 そう言って法子はあたしの胸を揉んだ。
 

「あっ……そんな……」

「へー? 感じるんだ?」

「はぁん……もう! さわっちゃだめだって!」
 

 あたしは法子から離れる。
 さすがレズだけあって胸を揉むのにもなれているようで、かなり気持ちよかったけど、あたしは我慢した。
 

「この胸は信二のために使うんだから!」

(つづく)