ゼリージュースがある日常(最終回)

作:月より





萌:唯!唯!!しっかりして。もうすぐだからね。もうすぐ、研究所に着くから。

唯:(・・・)

お母さん:私がしっかりしておけば、こんなことに。


=== 時間は1時間前にさかのぼる ===


TV:「ミラクルガール、ミンクちゃん。次回『ミンク、マーメードに変身♪』来週も、PiPiっとへんしん。お楽しみにね♪」

唯:今日もおもしろかったね!ミンクちゃん♪

萌:ほんと、面白かったね!はぁー、わたしもあんな風に変身できたらいいのになぁー。

唯:うん♪ミンクちゃんみたいに変身したいね、おねえちゃん。

お母さん:あらあら、ふたりとも何いってるの。ゼリージュース飲めば、変身できるじゃない。

萌:だって、変身するのに5分もかかるんだよ?服も脱がなきゃならないし、面倒くさいよ。

唯:うん!ミンクちゃんみたいに、好きなものにPiPiっと変身したい♪

お母さん:お母さんが小さい頃は、ゼリージュースなんてなかったのよ。ゼリージュースを初めて飲ん・・・

その時、テレビから何かを知らせる音が流れた。

TV:「プープープ、プププ、プープープ、プププ。」

その後、テレビ画面上部に、ニュース速報が流れた。
「今日午後、4時35分○○県にお住いのニュータイプ、服部さちこちゃん(6)が、ゼリージュースの摂取不足から容態が急変し2時間後、死亡が確認されました。今年に入って、ニュータイプの死亡は国内で7人となり、政府は何らかの対策を急がれています」

2日に1度、ゼリージュースを飲まないといけないニュータイプ。そして、唯がそのニュータイプであることを、小学1年生の唯にその事実を伝えるのにはまだ早いと、お母さんは教えていなかった。

お母さん:・・・そ、そうだわ。ミンクちゃん見た後だし、ゼリージュース、ふたりで飲みなさい。

そういうと、ペットボトルに入ったパインのゼリージュースを二人に手渡した。

萌:・・・あっ、そ、そうだね。唯、いっしょに飲んで、お姉ちゃんと入れ替わろっか。

唯:唯、いまゼリージュースほしくない。

お母さん:唯ちゃん、昨日、ゼリージュース飲んだよね。

唯:うーん・・・。飲んだよ♪

萌:ほんとに?

唯:う、うん。ほんとだよ。ぶどうのゼリージュースのんだよ。

お母さん:そう。それならいいのだけど・・・。それなら、お風呂沸いてるからふたりで入りなさい。

萌&唯:はーい♪


お母さんは、何か嫌な胸騒ぎがしたが、普段と変わらない二人を見て、夕食の準備を続けた。そして20分後、萌と唯はお風呂から上がってきた。


萌:お母さん、唯、のぼせちゃったみたいなの。

唯:はぁー・・・、はぁー・・。

お母さん:まあ、たいへん。とにかく身体を冷やさなきゃ。萌ちゃん、唯ちゃんをソファーに寝かせて、うちわで扇いでちょうだい。その間に唯ちゃんの部屋、クーラー効かして冷やしておくから。

萌:わかった。


萌は、唯をソファーに寝かせて、うちわで扇ぎ続けたが、唯の身体は火照ったままだった。


萌:唯、身体が熱いままだよ。

唯:はぁー、はぁー・・・。

お母さん:とりあえず部屋で寝かせて、頭を氷枕で冷やすわ。

その時、お母さんは唯をソファーから起こそうと手を触れたとき、変な感触がした。

お母さん:!?

萌:どうしたの、お母さん?

お母さん:指が・・・。

萌:ゆび??

お母さんの手をのぞきこむと、唯の指先が透けていた。萌は驚いて触ってみると、まるで、肌色の寒天、いやコンニャクゼリーのような感触だった。

萌:ど、どうしたの?どうしちゃったの??

お母さん:落ち着いて…萌ちゃん。おそらく、2日間ゼリージュースを飲んでいなかったんだわ。とにかく、飲ませなきゃ。萌ちゃん、ゼリージュースとコップ、あとスプーンも持ってきて。

萌:うん。

お母さんは、ゼリージュースを受け取るとペットボトルを押さえ、コップに半分ほど移した。そして、スプーンにすくい取った。

お母さん:唯ちゃん、苦しいけど我慢して飲んでね。

お母さんは、唯の口を開けるとスプーンを喉の奥の方まで入れた。

唯:んぐ・・・ん、ゴホ、ゴホゲホゴホッッ。

お母さん:だ、駄目だわ。もう、飲み込める状態じゃない。

萌:どうするの、お母さん。病院連れて行かなきゃ。


お母さんは、萌の言葉を聞く事なく、慌てて119番に電話をしていた。

5分後、救急車が到着。唯はパジャマ姿のまま、キャスター付の担架に乗せられ、お母さんと萌は同乗した。救急車のサイレンで集まった近所のおばさん達も、この地域の人気者、唯ちゃんが担架で運ばれている姿に動揺が隠せなかった。

=== 救急車、車内 ===

救急士:病院では対応できないので、今、国際ゼリージュース研究所に向かっています。奥さんとお姉さんは、唯ちゃんにできるだけ話をかけてあげてください。研究所からの指示で、意識が薄れると身体の異常の進行が早くなるそうです。私達も出来る限りスピードを出して、研究所へ向かっていますので。


救急車は、50分ほどで研究所に到着した。後部から、唯が担架で運び出されると、入口で待ち構えていた研究所の10人ほどのスタッフが内部へ誘導していった。お母さんと萌は、うしろから小走りに追いかけていった。その時、唯はすでに意識がはっきりしない状態だった。


研究所内の手術室を思わせる部屋に誘導されると、救急士が唯を担架から手術台のようなベッドに慎重に移された。研究所スタッフは、先が丸くなっているハサミでパジャマや下着を素早く丁寧に切り取り、唯を裸の状態にすると、身体中至るところに「斑点」のように透明になった肌が現れた。またそれだけでなく、髪の毛先や、うっすら開いていた瞳までもがコンニャクゼリーのような感じになっていた。


あるスタッフは、それらをハンドビデオに、あるスタッフは、意味のわからないコードを唯の身体にぺたぺたと貼り付けていた。

萌:なにしてるのよ!はやく、はやく、唯を助けてよ!!

お母さん:唯は、あなた方の研究材料じゃないのよ!わたしの、わたしの大事な娘なのよ!!

スタッフ:お気持ちは察しますが、研究所内では、叫ばないで下さい。邪魔になるようだと、ここから退出してもらいます。


ベッドでは、唯の咽喉の下あたりをガーゼで消毒され、ボールペンのような器具で突き刺しすぐに引き抜くと、それと同じ太さのチューブを挿入していった。不思議と血は一滴も出なかった。その間、唯の手は激しく痙攣を起こしていた。


萌:唯に何してるのよ!あんなことしたら死んじゃうじゃない!!

萌は、目の前の悪夢のような光景を見て、顔は涙でぐじょぐじょになり、お母さんは、その場で呆然としていた。

チューブからは、牛乳のような液体が流れ、チューブを通じて唯の咽喉から入っていた。

スタッフ:(間に合うか・・・)

10人ほどいたスタッフは、その間、微動だりせず、祈るような視線を送っていた。

すると、唯の身体は次第に白く変色し始めた。そう、これは「カ○ピス味のゼリージュース」を飲んだときと同じ感じだった。

スタッフは一様にほっとした表情になったが、すぐに険しい表情に戻った。唯の喉あたりに差し込まれたチューブは引き抜かれ、手でその部分をこすり穴が塞がれた。
周りでは、慌しくなにやら大掛かりな準備をしているようだった。そのスタッフの中から、70〜80代を思わせる白髪の老人が、お母さんと萌がいる所へ歩いてきた。


老人:初めまして。わたくし、この研究所の所長、小野俊行というものじゃ。スタッフが失礼なことをしたかも知れんが。許してやってくれ。

お母さん:それで、唯は、…唯は、助かるのですか?

小野:今の唯ちゃんの現状を申すと、2日以上、ゼリージュースを摂取しなかったことによる身体の異常。ゼリー化しているような肌は「壊死」していると考えてもらったら判りやすいかと思う。
この現象がおこると約2時間で全身がゼリー化、脳まで達すると精神崩壊、そして亡くなる。
先ほど白のゼリージュースを10倍薄めたものをチューブで直接胃に投入し、この現象の進行を止めることができた。幸い、胃はまだ大丈夫だったようじゃ。

萌:それじゃあ、唯は助かるのね!

小野:いや、幾度となくマウス実験などで試みてきたのじゃが、この現象は一度起こると進行を止める事はできないのじゃ。白のゼリージュースと言えども進行を止められるのは30分に過ぎん。

お母さん:何か、何かないのですか?唯が助かる方法は。たとえば、コーラのゼリージュースで、ゼリーの塊にして保存するとか。

萌:そうだ、元に戻ったら、またカ○ピスのゼリージュース飲ませたら?

小野:どちらも無理じゃ。身体の崩壊が始まっているので、脳への進行も時間の問題。黒を飲ませたら、身体が崩壊しているので「皮」にならない。白を飲ませても、胃の機能を失ったら・・・。ただひとつだけ、唯ちゃんが助かる方法があるのだが。これは、マウスでの実験では確実に成功している。じゃが・・・今まで、人間には試したことがない。

お母さん:唯が助かるのなら、何でもします。

萌:お願い、唯を助けてあげて。

小野:この方法で助けるには、萌さん、あなたが必要なのじゃ。

萌:唯は、甘えんぼで生意気だけど、大好きな妹だもん。どんなことだってするよ!

お母さん:萌ちゃんが必要って、どういうことですか?

小野:実は・・・




お母さん:・・・私では、駄目なのですか。

小野:駄目じゃ。解かり易くいえば、唯ちゃんに一番近い身体は、唯ちゃんの父と母の血を受け継いだ子供。また、奥さんでは年齢的にも違うので、必ず拒否反応を起こすのじゃ。

萌:私、やるよ。唯のためだもん!

お母さん:萌ちゃん、今の話、しっかり聞いたの?マウス実験だけで、もしかしたら副作用があるかもしれないのよ。

萌:うん、わかってる。それより、もうあまり時間がないんでしょ。

小野:ああ。こちらはもう準備は整っている。

萌:お母さん、心配しないで。

お母さん:萌ちゃん、ごめんね。ほんとにごめんね。

小野:それじゃ、よろしいかの。あそこにベッドがある。今、着ている衣服をすべて脱いだら、このゼリージュースを飲んで、寝てればいい。ただ、それだけじゃ。


萌は小野からカ○ピスのゼリージュースを渡されると、奥にあるベッドまで歩き、その場所で衣服を脱ぎ始めた。周りには若い男性スタッフもいたが、萌の頭の中は唯を助けたい一心で、恥ずかしいといった感情はなかった。

ごきゅ、ごきゅ

萌は、ベッドの上に座るとすぐにゼリージュースを飲み干し、ベッドに仰向けに寝た。

女性スタッフ:衣服とペットボトル預かりますね。ぜったい、助かりますから。気を楽に、ねっ!

萌:うん。ありがとう。


スタッフ:準備は整いました。白色ゼリージュースによる、萌さんの身体のゼリー化も確認できました。いつでも始動できます。

小野:わかった。それでは、始めてくれ。


小野は、スタッフに指示を出すと、唯と萌、それぞれが寝ているベッドの四方から、透明のアクリル板のようなものが1mほどせりあがり、まるで、水槽の中に寝ているような状態になった。


小野:よし。次は、希釈10倍の透明ゼリージュース注入。


唯と萌、それぞれが寝ている「水槽」の底から、透明の液体が染み出てきた。その透明な液体は、見る見るうちに、水槽いっぱいになり、唯と萌の白くなった身体は、水槽の中間で幻想的に漂っていた。


萌:(・・・なんだか、ふしぎなきぶん・・・)


スタッフ:第1段階終了しました。

小野:あまり時間がない。すぐに第2段階じゃ。

スタッフ:わかりました。それでは、ホモゲナイザー機能を用います。

小野:うむ。


すると、2つの水槽の水面に振動が走ると、それまで透明だった液体が白く濁りだし、唯と萌の身体は、簡単に崩れ、溶けるように消えていった。

その状況に、後方で見ていたお母さんは、顔を手で覆って、とても見ていられなかった。


ホモゲナイザー機能、つまり「水槽内の内容物の均一化」を機械的に振動を与えることですばやく行なうことだった。


スタッフ:唯ちゃん、萌さん、それぞれの均一化、完了しました。まもなく人形化されたものが液面に現れるはずです。

小野:二人の人形を回収でき次第、すぐに第3段階に移行できるよう準備じゃ。

スタッフは、2つの白く濁った水槽を移動させてピッタリくっつけ、液面に浮かんだ、唯と萌を思わせる人形を回収、ガーゼで包み、小野のところに持ってきた。

スタッフ;唯さんと萌さんの人形を回収しました。すぐに第3段階に入ります。

小野:うむ。

小野の横にいたお母さんは、ガーゼで包まれた人形を覗き込むと、まるでミイラのようになった、唯と萌の姿に、気を失いそうになった。

小野:奥さん、しっかりするのじゃ。唯ちゃんも萌さんもいま、一生懸命頑張っている。あなたが、しっかりしてあげないとどうするんじゃ。

お母さん:そ、そうだわ。唯ちゃんも萌ちゃんも、頑張っている。

小野:この人形を見て、驚くのも仕方がないことじゃが、これは黒のゼリージュースでいう「ゼリーの塊」、あの水槽でにごっている白色の液体は「人の皮」と考えれば、判りやすいかの。そして今から2つの水槽に入っている液体を混合する事で、健全な萌ちゃんの身体によって、唯ちゃんの崩壊している身体を補うのじゃ。現状、これだけが唯ちゃんを助けられる方法じゃ。

小野がお母さんに説明しているうちに、ピッタリくっつけた二つの水槽をさえぎっていた中央の2枚のアクリル板が下がり、1つの大きな水槽となり、白く濁った液体が混ざり合った。その数分後、白色だった液体がカフェオーレの様な色に変りだした。


スタッフ:唯ちゃんが白色ゼリージュースを摂取してから30分が経過しました。

お母さん:大丈夫なのですか?

小野;大丈夫じゃ。これから萌さんの健全な身体が混ざり合って、唯ちゃんの崩壊した身体を補い、あの茶色の液体が再び白色に戻るのじゃ。

しかし時間を追うごとに、小野の内心は少し焦りだしていた。マウス実験だとこの反応は数秒で元の白色に戻っていたのだが、もう10分も経つのにその気配がない。

小野;(マウスと違って、体積が大きいせいか。くッ)

スタッフ:あと5分で、萌さんが白色ゼリージュースを摂取してから、30分になります!

小野:(あと5分以内に終えないと、失敗じゃ。仕方がない)

小野:ホモゲナイザーの出力をいっぱいにせいっ!!早くするんじゃ!!

スタッフ:は、はい!!!
お母さん:ひっ!?


隣にいたお母さんはもとより、スタッフも、小野のあまりにも大きな声に驚いた。
すると瞬く間に、先ほどまで茶色くにごった水槽は、白色の液体に変化した。


小野:よし、最後の仕上げじゃ!

スタッフ:第4段階に入ります!

すると1つになっていた大きな水槽の中央の底の部分から、2枚のアクリル板がせりあがり、再び2つの水槽となった。

小野:よし。あとは、この人形をそれぞれの水槽に返すだけじゃ。

小野は、2つの白く濁った水槽に唯と萌の人形をそれぞれ入れると、徐々に白濁の液体が透明の液体となり、人形は少しずつ大きくなり始めた。

小野:奥さん、安心せい。成功したぞ。あとは待つだけじゃ。二人の身体は、1時間ほどで元に戻るが、意識が戻るには、おそらく半日はかかる。今日は遅いし、ここには宿泊施設もあるので泊まったらええ。ご主人も先ほど到着して、別室で待ってもらっている。それに今、ここを出て行っても、外はマスコミで大変なことになっているようじゃからの。

お母さん:わかりました。ありがとうございます。

小野:あとは、頼むぞ。わしゃ疲れた。少し横になる。

女性スタッフ:はい。それでは、ご主人が待たれている部屋にご案内します。こちらは、萌さんからお預かりしたお洋服です。


お母さんは女性スタッフの後についていき、応接室のようなところに案内された。

がちゃ

お父さん:あっ、娘は、唯は、大丈夫なのか!

女性スタッフ:はい。無事成功しました。経過も良好です。ただ今後、副作用があるのか様子を見てみないとわからないのですが。

お母さん:お父さん・・・ごめんね。私がついていながらこんなことになってしまって。

お父さん:いいんだ。唯の無事が確認できたのなら…。お母さん、今日は色々あって疲れただろ。研究所の外がマスコミだらけだから、今夜はここで泊まっていっていいそうだ。そういえば、萌は?一緒に来ているんじゃなかったのか?

お母さん:萌ちゃんが、唯ちゃんを助けてくれたのよ。

お父さん:えっ??


お父さんは、スタッフとお母さんからこれまでの経緯を聞かされた。驚きを隠せなかったが、自分が萌やお母さんの立場だったらと思うと、研究所に来て、ただこの部屋で待っていただけで、何もしてやれなかった自分が恥ずかしく、また情けなくも感じた。

その後、スタッフに今夜泊まる部屋に案内され、一晩を過ごした。


=== 翌朝、9時 ===

研究所の食堂で、お父さんとお母さんはスタッフと一緒に食事をしていた。


お母さん:唯ちゃんと萌ちゃんは、元気ですよね?

女性スタッフ:はい、もうすぐ来られると思いますよ。


ガラガラガラガラ・・・スライド式のドアが開いた。

すると小走りに、白衣姿の小さな女の子がお母さんの下へ駆け寄ってきた。

唯:おかあさん♪

お母さん:ああ、唯ちゃん。よかったね、ほんとによかったね、唯ちゃん。


お母さんは、両目を涙いっぱいにして、もう言葉にならなかった。


お父さん:唯、よかったな!お姉ちゃんに「ありがとう」っていうんだぞ。


すると、先ほどのドアから小野がこちらに近づいてきた。


小野:ほら、お姉ちゃんも恥ずかしがらずに、しっかりしないと。

唯:おねえちゃん♪


小野の後ろにいた白衣姿の萌を、唯が手を引っ張ってきた。


唯:おねえちゃん、ありがとう♪

萌:ははは。ただいま。お父さん、お母さん。唯が助かってよかったよ!

お母さん:萌ちゃん。ほんとうにありがとうね・・・。

お父さん:萌、偉いぞ。

その家族の光景に、食堂にいたスタッフは皆、立ち上がって拍手をせずにいられなかった。

小野:これからが、たいへんじゃぞ。ふたりとも覚悟は出来てるか。

唯&萌:うん♪

お母さん:あらあら、息がピッタリね♪

小野が、にこやかに話すと、唯と萌は笑顔で答えた。


=== 1ヵ月後 ===

いつもの朝、唯と萌はランドセルを背負って、小学校、中学校に向かった。
お母さんは、まるで双子のような姉妹を見送ると、ほっと一息をついた。

あの日の出来事から、あっという間の1ヶ月だった。
研究所の食堂での朝、唯と一緒に現れた萌は、唯と同じ背丈になっていた。
こうなる事は、研究所に着いて小野からの事前の説明でわかっていた。唯の崩壊した身体は萌の健全な身体で「補えた」のではなく、正しくは「分け与えた」のである。
唯が6歳。萌が12歳。唯の身体が崩壊して萌が「分け与えた」ので、6歳の双子の姉妹のような身体となったそうだ。また二人とも「ニュータイプ」になってしまったが、2日に1度ゼリージュースを飲まなくても「お互いに手を握れば」よくなったのが、これまでの苦労を考えれば、救いなのかも知れない。

この出来事のおかげで、鷲沢家は休まる日もなく取材攻勢にさらされたが、1ヶ月が経ちようやく落ち着きが出てきた。
萌もランドセル姿で中学校に行くのは、過去に何度か唯の姿で経験があるので抵抗がなく、友達や学校の生徒・先生、近所の方々もこれまで以上に優しく接してくれて、快適な生活を送っている。


萌:ただいまー。今日は、お友達連れてきたよ。

唯:おかえり、おねえちゃん♪いつもおねえちゃんが、お世話になっています!

友達:唯ちゃん、こんにちは♪唯ちゃん、偉いね!萌ちゃんより偉いよぉ〜♪

萌:唯、またそんな言葉使って。


そういうと萌は唯と「手を握った」。すると、お互いの身体が少し透けたかと思うと、また元に戻った。


友達:これが、2日に1度ゼリージュースを飲むのと同じ効果なんだね。

萌:家に帰って、必ずするのよ。まぁ2日間、唯と手を握らないなんて普通に生活していてもないとは思うけどね。でもね、今までと変わったことそれだけじゃないんだよ。研究所の人には口止めされているんだけどね。やっぱり見てもらいたくてね(笑)

友達:それで今日は、萌の家でそれを見せてくれるんだね。どんなのかなぁー、今から楽しみぃ。

萌:それじゃ唯、今日は友達と「ミンクちゃんごっこ」するよ!

唯:わーいい♪「ミンクちゃんごっこ」

友達:えっ?「ミンクちゃんごっこ」??

萌:夕方にアニメ、「ミラクルガール、ミンクちゃん」やってるでしょ。

友達:あー、あれね。「PiPiっとへんしん♪」ってのね。


唯と萌は、ニコニコしながら友達の両手を引っ張って、萌の部屋に入っていった。


友達:それでいつもどうやって遊んでるの?私が悪役なのかなぁー。

萌:ちがうの。ただ「PiPiっとへんしん」するだけなのよ。ま、見ていてね。それじゃ、黄色ね、唯。

唯:うん!

唯:PiPiっとへんしん♪おねえちゃんに!!
萌:PiPiっとへんしん♪唯に!!

二人が同時に叫び、お互いの両手を握ると、二人の瞳の色が黄色く輝きだした。

友達:あれ?萌と唯ちゃんの立っていた位置が逆になったよ。

唯(萌):私、萌だよ!

萌(唯):わたし、唯だよ!

友達:え、ええーーー!?

唯(萌):立っていた位置は同じだよ。唯と身体が入れ替わったんだよ。ほら、この洋服、唯のではないでしょ。

友達:あ、ほんとだね。

唯(萌):双子のように身体の大きさが一緒だから、服が破けたりはしないんだよ。

友達:瞳が黄色なんだね!

唯(萌):黄色だから、パインのゼリージュース、入れ替わりと同じ効果なんだよ。

友達:すごーい!あっという間に替わったから、ビックリしちゃった。だから「PiPiっとへんしん」なんだね。

萌(唯):そうだよ!「PiPiっとへんしん」だよー。

唯(萌):(ほんとは「PiPiっとへんしん」なんて、叫ばなくてもいいんだけどね…)

と、友達に耳打ちをしていると、

萌(唯):「PiPiっとへんしん、唯に!!」

と叫び、唯(萌)に抱きつくと、瞳が赤く輝きだした。


すると友達の目の前に、唯がふたりになった。


唯(萌):こらこら、勝手に変身しないの。それに黄色の瞳を元に戻したら、唯に戻れるでしょ。

そういいながら、唯(萌)は、黄色く光っていた瞳を元の色に戻すと、萌に戻っていた。

唯(唯):だって、面白くないもん。それじゃ、おねえちゃん。次、いくよ!「PiPiっとへんしん、ひとりになあれ♪」

萌:わっ、待って。その言葉は。


すると友達の目の前で、唯が萌に抱きついたかと思うと、唯が消え、萌がひとりになっていた。唯の着ていた服は、その場に着たままのように落ちていた。

友達:萌、唯ちゃんが消えたよ。

萌(唯):私が唯だよ!ほら、おめめ、青いでしょ。ブルーハワイのゼリージュースと一緒だよ。

友達:ブルーハワイ、憑依だったわね。それにしても、すごいわね!

萌(唯):それにね、それにね、こんなのだって、できるんだよ♪「PiPiっとへんしん、妖精になあれ♪」

そういうと、萌(唯)の瞳は白く輝きだし、見る見るうちに身体が小さくなって、着ていた服の中に埋もれていた。その服の中から、妖精が這い出てきた。

妖精(唯):ほら、妖精ですぅー♪

友達:あっ、この前あった学芸会のときの妖精だね。

妖精(唯):うん!おめめを白くするとね、今まで変身したことあるのに変われるんだよぉー。

友達:いいなぁー。これって、姉妹じゃないと出来ないの?

妖精(唯):うーん・・・。出来ると思うよ。ちょっと待ってね。


妖精(唯)は、羽根を羽ばたかせると、友達の肩に座った。


妖精(唯):それじゃ、唯の目を見ててね♪

友達:なんだかワクワクしてきちゃった。

妖精(唯)は、友達のほっぺたを両手で触り、見つめ合った。


妖精(唯):それじゃ、いくよ!「PiPiっとへんしん、○○になあれ」

友達:えっ、○○。


萌(唯)の瞳は、黒く輝きだした・・・。


(おわり)



=== あとがき ===

これまで、長い間「ゼリージュースのある日常」を、読んでいただきありがとうございました♪
この、ゼリージュースが当たり前にある世界で、ゼリージュースの良さ(面白さ)が表現できたかと思うと、疑問符が付くかも(^^;
お気づきになったと思いますが、私の作品は「男⇔女」や「18禁」ものがありません(爆)
それ以上に「状態の変化の仕方」(ゼリー化など)の方に興味を持っていたからです。

この「ゼリージュースのある日常」は、(その2)を書き終えた時点で、この最終回や唯ちゃんの「ニュータイプ」は、出来上がっていました。それぞれ「1回読みきり」にしてあるので、間を増やそうとおもえば(その10)でも(その20)でも出来るのですが、私自身が、これからこういう時間がとれるか不安だし、中途半端で終らしたくなかったので、とりあえず最終回を書き上げました。

私の作品はここまでですが、この世界で書くことが出来なかった「男⇔女」「18禁」「最終回のその後」などは、もし物好きな方がおられれば書いてくださると、嬉しく思います。