作:夏目彩香(2003年11月2日初公開 for Ts・TS)
西野美香は帰宅時間になったので、女子更衣室に行って着替えをはじめた。もちろん、美香の中身は真鍋利晃のままだった。
西野美香と書かれたロッカーを開けると、そこにはお姉さんの通勤服があった。制服よりも短い感じの白黒格子模様のタイトなミニスカートが際だったツーピース、それに白のジャケットがかけられていた。下の方には黒いセパレートパンプスが置いてあった。これに着替えるんだと思うと、ちょっとどきどきしてしまう。 西野さんの姿のままでピンクのツーピースから、この服に着替えるんだ。周りには誰もいないので、ちょっと向こうにある姿見でも見ながら着替えでもしようか、白のジャケットとブラウス、それにミニのタイトスカートを持って、大きな姿見鏡のある場所で着替えを始める。 女子社員が少ない会社なので、女子更衣室に入って来る可能性は低いはず。何かあったら大変なので、鍵を閉めてから着替えを始めることにした。 まずは着ている物を脱ぐことから始めた。ジャケットを脱ぐと、ほんのりピンクがかったブラウスが現れた。中にはブラが透けて見えているのがよくわかる。もちろん今はこの中に包まれているものだって利晃のものだった。 西野さんがなぜか興奮をしながらブラウスを脱いでいる。そんなことを考えるだけで、更に興奮していた。ブラウスのボタンを全て外すと、中に白いブラが見えて来た。どこにでもあるようなありきたりのものだったが、胸の谷間を作り出す仕組みがあるみたいだった。思わず、谷間の部分に手を当ててみる。 「あっ」 ちょっとだけだったが、気持ちのよい感触だった。次はスカートのホックに手を持って行った。その場でスルスルっとスカートが落ちて行く、床に落ちたスカートを広げあげると、鏡の中には下着姿のお姉さんがいた。 (やっぱり、西野さんってかわいいなぁ。それに、素肌がとってもきれいだ) そう心の中で思いながら、白く美しい肌を手でさすっていた。姿見の中にいるお姉さんも同じ動きをしている。ピンクのパンプスを履いたまま下着姿で佇んでいるのだから、誰かがみていたらまさに犯罪ものだった。 続いて、さっきとは逆に通勤服に着替え始めた。ロッカーの中から出した、白いブラウスを手に取り、上半身を包み込むように着込んでいく。次に白黒格子模様がとっても可愛いミニタイトスカートにまずは右足を入れてみた。続いて左足、そのまま腰まで持って行ってホックを留めると左にひっぱって形を整えた。 ピンクの制服の時とは違う、ちょっとお姉さん℃がたっぷりの女へと西野さんを変えていた。白ジャケットを着込むと、その場でそのまま一回転してみた。目の前に邪魔になった髪をかき分ける仕草をしてみると、鏡の中にいるのが今の自分だなんて想像できないくらい女性らしかった。 (ふ〜ん。女ってのもいいかも) そして、最後にロッカーに残しておいた黒いセパレートパンプスと履いているピンクのパンプスを履き替えた。これでようやく完成、ロッカーの中にあったショルダーバッグを取り出して左肩に掛けるとそのままさっきの姿見の前に立って見た。思わず自分の姿に見とれてしまうくらい、端から見るとすぐに声をかけられそうな女性に仕上がっていた。 メイクがちょっと崩れていたので、バッグの中からコンパクトを取りだし、軽く手直しをした。ついでに、リップグロスで唇を光らせて、通勤モードに突入。会社を後にして家に帰ることとなったのだ。休憩室に置いておいたピンクのスーツケースを持って、会社の人にはなるべく会わないように気を付けながら会社の外に出た。
ピンクのスーツケースを転がしながら地下鉄の駅へと向かうと、周りの視線がお姉さんである俺に集まって来た。ミニスカートの裾の下から見える格子状の網タイツも注目されているということなのだろうか? 地下鉄のホームで電車を待っている時も、周りの視線がうるさかった。嬉しいような恥ずかしいような、ちょっと女が大変だとここでは思った。電車の中はラッシュ時間なので、混雑している。このスーツケースを持ったまま入ることができるかと思ったが、お姉さんの体は細いのでそんなに問題が無かった。 そして、スーツケースのおかげで周りの暑苦しい人たちと接触することも少なく、お姉さんの家の最寄りの駅まですんなりと到着することができたのだ。地下鉄を降りると、エスカレーターとエレベーターを使って地上まで上がって来た。 ちょっと休憩したくなったが、あともう少しで家に到着。お姉さんはルームメイトとの二人暮らしだってことも分かっていたので、なおさら足が向かうのが早くなっていた。パンプスでアスファルトを叩くたびにカツっと言う音が聞こえるのもすっかり慣れていたのだ。
そして、ここはとあるマンションのある一室、グレーのスウェット姿で台所に立っているのは原田美鈴(はらだみすず)、長い黒髪を黒いゴムで束ねている様子は後ろから見るとそそられるものがありそうだ。彼女こそが西野美香と同居をしているルームメイトである。 鍋の様子を見るとできたものをお皿に載せ、そのまま後ろにあるテーブルへと運んでいく、そして、ちょうどテーブルの上にお皿を載せた時に家のインターホンがピンポーンと鳴った。 「は〜い。どなたですか?」 美鈴はエプロン姿のまま玄関へと向かいながら言った。 玄関の向こうから聞こえるのはどうやら女性の声。美鈴は警戒することも無く、玄関の扉を開けた。そこにいたのは西野美香の姿だった。 「いつもだったら自分で鍵を開けて入ってくるのに、今日はどういう風の吹き回しなの?」 美鈴がそう言うと美香はピンクのスーツケースと一緒に玄関へ入って来た。美鈴も見たことの無いスーツケース。どうやら新品のようにも見える。 「これ持って来たから、つい呼んじゃった。ごめんね。美鈴」 美香はそういいながら軽く舌を出した。 「早く、入って。夕飯の支度してたから、これから一緒に食べよ」 ここで美鈴は菜箸を手に持ったままいるのに気づいた。 「さすが、美鈴。私は先に着替えとかするから待ってて」 美香は玄関の扉をしっかりと閉めて錠を掛けると、黒のセパレートパンプスを脱ぎ捨て、スリッパに履き替えた。その場で玄関に向き返りしゃがみ込むと、きれいに靴を並べる。さっきは制服姿だった美香は通勤服の白黒格子模様がかわいいミニスカートから出ている太ももに思わず見とれていた。 部屋に入るといい匂いが立ちこめている。どうやら今日は美鈴が肉じゃがをつくったらしい、おいしそうな匂いに誘われて、スーツケースを美香の部屋に置いてくると、通勤服姿のまますぐに台所へ出てきた。そして、美鈴の背後にゆっくりと忍びよりすっと目隠しをした。 「だ〜れだ」 子供の頃のような他愛もない遊びを美香は始めた。それに応えるようにして美鈴は答えを言ってみせる。 「美香っちに決まってるでしょ」 美鈴は自信ありげに即答したが、美香はストレートに正解とは言ってくれなかった。 「いいえ、私は美香であって美香っちではありません(そして、美香でもありません)」 すると、美鈴が美香の手を振り払って後ろを振り向いた。 「やっぱり、美香っちじゃないの。そんな答え方って。いけずなんだから」 そう言うと、台所には二人の笑い声で溢れていた。 「美香っち。早く着替えて来なさいよ。準備はすぐに終わるんだからね」 美鈴がそう言うと美香は自分の部屋へと戻って行った。
「いただきま〜す」 二人の声が一緒に鳴り響くと、食事の時間がはじまった。美香は着替えとメイク落としを済ませていた。黒いワンピースを着込んでいた。これが美香のいつもの部屋着だ。 食事がはじまると。まずは美香が美鈴のつくった肉じゃがに手を出す。口の中で何度か噛み砕いたあと、しっかりと飲み込んでから美香は感想を言い出した。 「今日のすごいおいしい。100点満点で120点あげちゃう」 いつものようにおいしいものを食べると笑顔を振りまく美香ははしゃいだ声で言った。 「そう?ありがとう。いつもと変わんないけどね。美香っちにいつも点数つけられるから、それで私も頑張ってるんだよ」 美鈴は美香にほめられて満更でも無い顔をしている。 「やっぱり、料理は美鈴には敵わないもの、私じゃこんなおいしい肉じゃがができないって」 二人はその後もお互い会社であった今日の出来事や友達の話と言った、雑談をしながら食事を進めて行ったので、時間が過ぎ去るのにも気づかなかったようです。夕飯を取り終わると、いつものように美香が片づけをすることになった。 基本的に家事は二人で分配することにしていますが、美鈴の方が会社からの距離が近いので、料理は美鈴、後片づけは美香というの展開が多いのだ。シンクの中に置かれた皿を見て洗い始めるが、美香は1枚1枚ピカピカに光るように洗っていた。その間、美鈴はリビングでテレビを見ていた。
後片づけが終わると、美香は自分の部屋へと行き、化粧台に座るとハンドクリームを塗りながら一息ついていた。鏡に映っている美香の姿を見ながら、心の中から美香としての生活をエンジョイしているようだった。 そして、鏡の中に映っているピンクのスーツケースを見て、あることを思い出した。そう、スーツケースの中に入れておいた青いゼリージュースを使って、もっと楽しい夜を過ごそうと考えたのだ。そんな美香の企みは、リビングでのんきにテレビを見ている美鈴には知るよしもなかった。 美香はハンドクリームを手に塗り終えると、ピンクのスーツケースの暗証番号を合わせてふたを開けた。美鈴に見られないように、素早く取り出したいものだけを探す。利晃のスーツや靴と一緒に持って来た青いゼリージュースをここから出していたのだ。 ゼリージュースを手に持つと、せっかくだから美鈴に見せてみようと美香は思った。こんなものが世の中にあるなんて最初は信じてもらえないだろうから、うまく仲間にしてしまえば、もっと楽しい世界が待っているかも知れない。そう考えたからだ。
美鈴がリビングでテレビを見ている時、美香が何かを持って自分の部屋から出て来た。美香はそれをローテーブルの上におもむろに置いてから美香の横に座った。気持ちのいいソファの感触が伝わって来た。そのまま一緒にテレビを見始めた。 テレビのコマーシャルが始まると、美鈴は美香の持ってきたものに興味を持って、手に取ってみた。美鈴は初めて見た青いペットボトルに目を奪われたようだった。 「これって。きれいだね。青い液体って気持ちが悪い感じがするけど、こんな青は初めて見たよ。一体何なの?美香っち」 どうやら美鈴はラベルも何も貼っていないペットボトルに入った、青い液状のものに興味を持ったらしい。こうなると美香は話を進めやすくなった。 「美鈴。すごいでしょ。これってなかなか手に入らないんだよ。ものすごい力を持ってるから誰でも買えるととんでも無いことになるからって、普通には売ってないんだ」 「へぇ〜へぇ〜へぇ〜、10へぇかな。そうなんだ。これって何なの?」 右手でボタンを叩くような感じで美鈴は言った。 「誰にも言わないって秘密にしてくれる?」 真剣な眼差しの美香に対して美鈴も真剣な目をしたまま首をゆっくりと縦に振った。テレビのリモコンに手をのばし、電源を切ってしまった。 「わかった。約束ね」 そのまま、お互いの小指を組み合わせて指切りをする。 「じゃあ、言うわよ。よく聞いてね。これはゼリージュースって言ってね。青色のゼリージュースは他人に憑依することができるの」 「へぇ〜、11へぇ」 そう言いながら、美鈴はなぜかドキドキしはじめていた。美香の話はまだ続いている。 「これを飲んで5分すると、プルンプルンで透明な体になって誰かの体に覆い被されるの。そのまま10秒待つだけで、その人の体を動かせるってわけ」 美鈴はぽか〜んと口を開けたままの表情から、ようやく我に戻った。 「へぇ〜へぇ〜へぇ〜……でも……」 美鈴はちょっと疑いを持つ表情に切り替わる。 「でも、本当にこんなんで憑依できるの?それが確かめられないと20へぇはあげられないよ」 「わかんない。私もこれを買ったのは初めてだからね。よかったら今から実験しようか、私が誰かに憑依してみせるから」 美香はわざとゼリージュースの効果がわからないふりをしてみせた。どうやら、美香の作戦通りに進んでいるらしいからだ。 「じゃあ、私の彼氏を今から呼ぶから、彼に憑依してくれる?」 美鈴の彼氏と言えば、脂ぎった男らしい男。あんな男になるなら死んだ方がましだ。美香はすぐに逆提案をした。 「えっ?彼氏って?彼氏って、男じゃない。女の方がいいなぁ。最初から男にってのは抵抗あるから(それにもともと男だから、やっぱり女がいい)」 美香は女になるなら抵抗が無いと理由までつけて説得に入った。 「そうねぁ。じゃあ、私の友達の瑞紀(みずき)にしようかなぁ。でも、今日はバイトのはずだから、あとは舞(まい)も無理だし、そもそも、美香が知ってる人しか思い浮かばないよ。ほとんど共通の友達だからね」 すると、美香は思いついたように美鈴に言って来た。 「じゃあ、親戚とかはどう?美鈴の妹の優ちゃんとか」 美鈴は忘れていたかのように思わず相づちを打ってしまった。 「そうねぇ。じゃあ、ちょっと時間が遅いけど、妹の優(ゆう)を呼んでみるね。明日は学校が休みだし、遊びにおいでって声掛けてみるから」 「うん、わかった」 美香は頭の中で優の姿を思い浮かべてみると、チェックのミニスカートが初々しい優の顔が浮かんで来た。美香は優のデータを引き出している頃、美鈴は優の携帯に電話をかけていた。 「もしもし、優?」 『あっ、お姉ちゃん。どうしたのこんな時間に電話なんかしちゃって』 「あのさぁ。唐突で悪いんだけど、今からうちに来られないかな?」 『えっ。今からだったら結構時間かかると思うよ。お姉ちゃんの家までまともに行っても1時間半はかかるんだからさぁ。明日にしない?』 「優に会いたくなったもんだからね。それに、明日は学校も休みなんだし、こっちで泊まるのもいいでしょ」 『どうしようかなぁ。今からだとお母さんからうるさいことを言われちゃうかも知れないし……』 「じゃあ、明日一緒に買い物行こうよ。優の欲しいもの買ってあげるから」 『えっ?本当?約束してよ。これからすぐに準備するから』 「約束するって。美香っちを証人に立ててあげるから」 『わかった。今から準備してそっちに向かうね』 「じゃあ、今から待ってるからね」 優に思い切った約束をしてしまったが、来てもらわないとメンツが立たなかったので、思わず言ってしまった。とにかく、あと1時間半もすれば優がやって来る。そう考えただけでも何が起こるのか楽しみでしょうがない美鈴だった。
その後、2時間余りが経ち、優からの連絡は全く無かった。テレビを見て待っている二人はすっかり来ないのかと思っていたぐらいだった。しかし、そんな不安を吹き飛ばすようにインターホンがリビングに鳴り響いた。 美鈴よりも先に玄関に向かったのは美香の方、すぐに玄関の鍵を開け、扉を開けるとそこには記憶で見た通りの愛らしい女の子が立っていた。 デニムの台形スカートにカーキ色の綿ジャケットを基本に、茶色のルーズブーツという着こなしで、とても女子高生とは思えないほどに大人っぽく見えた。軽く茶色がかった髪は肩にちょうどかかるくらいの長さ。街で見掛けたらすぐにでも誘われたっておかしくない美貌は、姉の美鈴と同様だった。 「優ちゃん。こんばんは」 美香は優に見とれて言葉を出すタイミングが遅れたが、優は笑顔で応えてくれた。 「あっ。美香さん。いつもお姉ちゃんがお世話になっています」 優は玄関できちんとお辞儀をしながら挨拶をして来た。なかなかしっかりした性格らしい。 「いいえ。こちらこそ」 美香もお返しの挨拶をする。そして、優のためにスリッパを置いて、中に入るように勧めた。 「早く上がって」 美香が優の持って来た手荷物を預かると玄関の鍵をしっかりと閉めた。 「お邪魔しま〜す」 美鈴に似た脳天気な声で二人の家に入って来た優。この時、二人の企みによって呼び出されてことなど知るよしも無かったのだ。
「お姉ちゃん。久しぶり、元気だった?」 優の姉の美鈴の顔を見るやいなや優はすぐに声をかけた。 「元気だって。久しぶりに会いたくなったから、優を呼んだんだからね」 美鈴は優に何かあるかのような言いぐさをしていた。 「そうなの?彼氏とデートの方がよっぽどいいくせに」 優と美鈴は年の差が結構ある割には年の差を気にしない話し方をしている。 「まぁ、そうだけど。とりあえず何か飲みたいものでもある?」 そう言って美鈴は台所に向かった。 「なんでもいいよ」 優は適当な答えをしたので、美鈴は簡単に済むのでコーヒーを煎れ始めた。 「あっ。そう言えば、さっき美香さんが出迎えてくれるなんて思わなかったよ。私はてっきりお姉ちゃんが出て来たと思ったから」 台所にいる美鈴に向かって優は思い出したように投げかけた。 「そうだった?美香っちに先に行かれちゃったから、美香っちに出てもらったの。ただ、それだけよ」 そう言うと、台所からコーヒーカップを持ってリビングのローテーブルに置いた。 「また、言い訳。お姉ちゃんって昔からそうだよね。何かにつけて言い訳ばっかり」 端から見るとまるで姉妹喧嘩のようだが、いつもこうなので二人は別に気にすることも無かった。優は目の前に置かれたコーヒーカップを持ち、そのまま口へと運んだ。最初の一口目を飲むと、ようやく気持ちが落ち着いたようだ。 「おいしい。やっぱりお姉ちゃんだ」 コーヒーカップをソーサーの上に置き直すと、優はテレビを見始めた。 「ただのインスタントコーヒーなんだけどなぁ。あっ、優。私、美香っちの部屋に行ってるから、ちょっと待ってて」 美鈴はそう言ってリビングに優を一人残して美香の部屋へと入って行った。 美鈴が美香の部屋に入ると、美香はベッドの上に座りながら、ゼリージュースのペットボトルを手にしていた。 「優ちゃん、どう?」 美鈴に向かって美香が言うと、美香はとぼけたような顔をして聞き返した。 「どうって?」 「私たちのこと何か疑っていないかってこと」 「全然よ。何も気づいてないわ。美香っち、今のうちに試して見ようよ」 「わかった。じゃあ、さっそく試してみるからね。よく見ててよ。あっ。そう言えば、これって飲む前に裸になった方がいいんだった」 「どうして?」 美鈴が美香に聞いてみると、美香はすぐに説明を加えた。 「ゼリージュースを飲むと体がプルンプルンとなっちゃうから服を脱ぎずらくなるの。美鈴の前だから恥ずかしがらないで脱いでもいいけど、美鈴は大丈夫?」 そう言って美香は恥じらうような仕草を見せる。 「そんなの全然平気よ。私たちの仲だし、透明になって行くならそれを見ないと信じられないから」 「そうね。わかった。じゃあ思い切って」 美香は黒いワンピースを脱ぎ捨てた。いくら親友とは言っても下着姿になるだけでも、ちょっと緊張感が背筋に走った。 「やっぱり、美香っちの方が胸は大きいわね」 「恥ずいじゃない。そんなこと言わないでよ」 「わかってるって。ブラ取るの手伝ってあげる」 美鈴は美香の後ろに回って、ホックを外すのを手伝い、美香はショーツをゆっくりと足の下へと下ろして行った、これでゼリージュースを飲む状態が整った。 「じゃあ、準備完了。飲むわね」 美鈴のゴクリと唾を飲む音を聞きながら、美香はゼリージュースを一気に飲み干して見せた。飲んですぐには変化が全く見られなかったが、これからゆっくりと効いてくるのだろう。5分待たなくてはならないので、時計に目をやって、時間が経過するのを待つことになった。 するとどうだろう、針が進むと共に美香の体が透明になって行くのに気づいた。そして、美鈴は透明になって行く美香を見ているだけでなぜか興奮していた。初めて見るこの光景になんとも言えない感覚が襲ってきているのだろう。 美香の姿を見ていると、後ろにある美香のベッドがどんどん見えて来た。美鈴が透明になって行く途中で、美香を触ってみるとプルンプルンの触感が伝わってくる。 美香が完全に透明になってしまった。時計に目をやるとちょうど5分が経っていた。ということは、これから誰にでも憑依ができる準備ができたと言うこと。たぶんうまく行ったと思うので、美香に優のところへ行ってもらうのでは無く、せっかくだからと美鈴は優を呼び出すことにした。 「優。ちょっと来なさい。」 狭い家なので、ちょっと大きな声で言うとリビングに聞こえる。 「何なの?お姉ちゃん。今テレビがいいところなんだけど」 「今じゃなきゃ駄目なの。早く来てよ」 「しょうがないなぁ」 そう言いながら、だるそうな表情で美香の部屋に優が入って来た。 「何なの、お姉ちゃん」 「いいから、ベッドに座りなさい」 優がベッドを見ると、何も無いのに一部凹んでいる部分が見えた。 「変なベッド。何で凹んでるのかなぁ」 「その凹んでる場所に座って見てよ。おもしろいから」 「わかった」 優は言われた通りに不自然に凹んでいる場所に背を向けて、座わってみようとした。すると、腰の方から何かが入って来るような変な感触に襲われた。 「何これ?何か入って来るみたいだよ」 「そうでしょ。おもしろくない?」 もちろん透明な美香がそこにいるなんてことはわかっていない、この時すでに透明な美香と優が重なり合っていた。このまま10秒後に起こることは、優だけが知らなかった。 美香も美鈴も心の中では10秒のカウントダウンを始めていた。10秒になる直前で優は自分の意識が遠のいて行くことに気づいた。 「お・ね・え・ちゃん……」 優は叫んだつもりがか細い声でそう言うことしかできなくなっていた。 そして、10秒が過ぎ去り、優の体から力が抜けて上半身そのままベッドの後ろに倒れた。優の体はそのままベッドの上で軽く跳ねた。そして、優は目をゆっくりと開けながら上体を起こして美鈴の方を向いて来た。
ゆっくりと美鈴の方を向いて来た優の姿。その姿は果たして優なのか、美香なのかわからない、しかし、優がいつも見せる笑顔でこっちを見て来るので、どうしても優のようにも感じてしまう。 「美鈴。私が優ちゃんに見えるでしょ」 どうやら美香のよう、優が自分のことを突然、呼び捨てにして来るとは考えにくいからだ。 「ホントに?成功したの?優に見えるけど、美香っちなのね」 美鈴がそう言っても半分はまだ疑っていた。 「私に決まってるじゃないの、ゼリージュースで優ちゃんに憑依したんだって」 「信じられないけど、ゼリージュースのことは優には話してないんだから、美香っちなんだよね」 「そうだって言ってるでしょ。美鈴はなかなか疑い深いんだから」 「一応でも、そうしておかないとね。優の体を持った親友だなんて普通は誰が信じられる?」 「そんな時にこそ、美鈴が信じてくれないと」 「そうよね。私は信じるわ。やっぱ、話し方は美香っちっぽいものね。でもさぁ、どうやったら戻ることができるの?」 美鈴は疑問を優の体をしてる美香にぶつけて来る。 「そうだね。簡単だよ。排泄すれば元に戻るんだって」 「排泄って。じゃあ、お腹が痛くなったりしたら戻っちゃうじゃない」 「今のところはまだ大丈夫みたい。もしかして、優ちゃんって便秘なのかな、別な意味でお腹が痛いようなぁ。(まさか……)」 最後の部分は美鈴に聞こえないように言葉を濁した。 「ねぇ。美香っち。せっかく優になったんだから。ちょっと優みたく振る舞ってくれないかな?それも、私のことをすごく尊敬してくれる妹として」 美鈴は目を見て言ってきた。こうやると本気モードに入っていると言う合図でもある。こうなると話を聞かないといけないのは当たり前のことだった。 「わかった。やってみるから。優ちゃんだと思ってね。お姉ちゃん」 お姉ちゃんと言ったところから、さっそく優らしく降り舞い始めた。 「もう始まったのね。これから一晩はこうやってかわいい優として一緒に遊んでね」 「もちろん。私もそう思ってるから。お姉ちゃんとこうやって二人きりで過ごすのは久しぶりだからね」 優はまるで子供のような表情で美鈴の方を見つめて来る。 「そうよねぇ。私が仕事を始めてここに引っ越して来てからは家にあんまり帰ってなかったしね」 美鈴は自分の過去を思い出しながら、不出来な姉としての反省をしているらしい。 「だから、私がたまにここに遊びに来るんだよ。私、お姉ちゃんのようになるのが夢だから。バリバリのキャリアウーマンって格好いいものね」 優はまるで自分の世界に浸りながら美鈴に話して来る。美鈴も美鈴ですっかりおとなしくなった優が気に入ったらしい。 「そっか、優ったらまた大人になったんだから。私が応援してあげる」 美香のベッドの上で話を始めて、二人はすっかり姉妹に成りきっている。 「本当?」 疑いの視線で優は美鈴に言って来た。 「本当よ」 その言葉を聞くと優は立ち上がって、美鈴の方を向きながら口を開いた。 「じゃあ、お姉ちゃん。抱きしめてもらってもいいかなぁ?子供の頃にやってもらったように」 「いいわよ」 そう言うと美鈴は優を迎え入れるように手を広げてくれた。美鈴の胸の中に抱きしめられるとなんだか美鈴の温もりが伝わって来た。 「お姉ちゃんって暖かいんだね。私もお姉ちゃんみたく心の温かい女になるんだ」
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あとがき
「Ts・TS」にての投稿版です。「その4」から「その7」までをまとめ、今回はかなり加筆修正させて頂きました。原作にさらに手を加えていますので、読みやすくなっているかも知れませんが、内容的には同じものです。最初に書いた物って表現力が弱い場合が多いので、こうやって見直してみると足りない部分を補充できておもしろいです。それでは、読んで頂きましてありがとうございました。夏目彩香でした。
2003.10.21 夏目彩香 |
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