アナタに訊きたいコトが・・・・ 9()

俺はついに手に入れた。やっと元の自分に戻れるチャンスを・・・

俺の手にはマリンブルーの深い青色のドリンクビンが二つ握られていた。

『北海道日本ソーセージファイヤーズVs神戸バッファローブレーブス』

わざわざ北海道に行かなくてもあいつと出会えるチャンスを神は与えてくれたのだ。

奴の元へと向かって鹿児島を出てから、北海道で奴に会い、そこで戻ることに失敗し、遠征のあとを追っていたのだが、その間に、あったいろんな事。そう、あまりにも俺の身に起こったいろんな出来事が、その辛く大変だった思い出が俺の頭の中であふれ出した。

崖から落ちたり、手に入れたドリンクを奪われたり、愛知博では、屈強の男たちに混じってデスレースに参加したり、湖にいきなり突き落とされたり、客船に拾われたが旅費が払えず、ICHI○にメイドとして雇ってもらい何とか暮らしてきたが、ついに、ついにその苦労が報われる。俺はついに元に戻れるのだ。

はやる気持ちを抑えながら、俺は、試合前、グランドで練習をしている北海道日本ソーセージファイヤーズナインの一人に近づいていった。

もちろん一般客は近づけないが、ある雑誌社の記者に化けて(本物にはトイレの個室でお休みいただいている。疲れていたみたいだからいいでしょう)グランドに出た。そして、グランドを見回すと奴が居た。バッティング練習をしている選手のいるカーゴの後ろで、審判の真似事をしていた。相変わらずの乗りの軽さだ。それも今日までだ。お前は今日からごく一般の女の子になるのだから。

俺は奴に近づいていった。今までの思いがこみ上げてきて、瞳から涙が溢れ出し、前がよく見えなくなってきた。

「オイ、大丈夫かい?」

力強くたくましい手が俺の両肩を掴んだ。あふれ出す涙を拭きながら相手の顔を見ると、それは奴だった。

「え?ア、その、だ、だ、大丈夫です」

「僕に会えたのがそんなに感動的なのかな?」

奴は俺に気付いていないようだった。それはそうだろう。これまでの苦労とメイクで、奴と最後に会ったときとかなり印象が変わっていたからだ。

「は、はい。ファンなのです。お会いしたかったので、記者になりました。新米ですがよろしくお願いします」

「おう、僕のファンなのか。それは大事にしないといけないな。ようこそ、これからもよろしくね。プリティレディ」

そう言うと俺を力強く抱きしめた。そのたくましい胸板と、男臭い体臭に、俺はクラッとした。

『このまま抱きしめられていたい・・・ん?何を考えているんだ俺は!』

胸の鼓動が高まり、意識を失いそうになる寸前、俺は気を取り直して、いつまでも抱きしめている奴の身体を押しはがした。

突然拒まれて、二人の間に気まずい空気が流れた。俺は、この場を何とかしなくてはと思い、手に持っていたドリンクを奴に差し出した。

「こ、これを飲んでください。パワーがみなぎるそうなんです」

「ありがとう。でも、僕は試合前は、こんなのを飲まないんだよ」

「え?」

俺は、困ってしまった。次のチャンスを狙うのは難しいだろう。チャンスは今しかないかもしれないのだ。俺は思わず泣きそうになった。

「泣かなくてもいいよ。君みたいな可愛い女の子を泣かすわけにはいかないからね」

そういうと、奴は。俺の渡したドリンクを一気に飲んだ。それを確認すると、俺も残っていたもう一本のドリンクを飲んだ。身体の中から熱い何かが込みあがって来て、俺の身体を飛び出し、目の前の奴の身体にぶつかって行った。

「あ、ん、んん〜」

俺のしかいが一瞬暗くなったと思ったら、さっきまでとは違う視野が広がった。

「お、え、あれ・・これは??やったぁ」

今までと視界が高く、俺の目の前にはさっきまでの俺が立っていた。呆然として、自分の手を見詰めていた。俺は、ついに自分の身体を取り戻したのだ。俺は、まだ呆然としている今までの俺をグランドから押し出した。奴は、俺に逆らうでもなく大人しくグランドから出て行った。意外とあきらめのいい奴だ。ふと、俺はそう思った。

「おい、お前の番だ」

「は?」

「は?じゃないだろう。お前のバッティングの番だ」

俺は、バッティングコーチーに言われて、慌ててゲージの中に入った。何年ぶりかの自分の身体。そして、念願のプロ野球でのバッティング。俺は感無量だった。バットを構えて、ボールを待った。

「来た!」

俺のほうに向かってくるボールは、思っていたのよりはるかに早かった。

「キャッ!」

俺は思わずよけて、しりもちをついてしまった。

「なに遊んでいるんだ。真面目にやれ!」

「は、はい」

俺は気を取り直して、バッターボックスに立つと、バットを構えた。だが、やはり飛んでくるボールは怖かった。

「腰は引けているぞ。それにバットを振らずに当たるわけがないだろうが!」

コーチに怒鳴られ、俺はバットを構えて、思いっきりバットを振った。すると、今までの身体よりもはるかに力があり、振ったバットに振り回されてしまった。

「なにやってるんだ。真面目にやれ!もう一丁」

だが、何度やってもダメだった。どうしても、今までの身体の感じでやってしまい、この身体に慣れないのだ。俺はあまりの情けなさに涙ぐんできた。

「戻るんじゃなかった・・・」

と、バックスクリーンのオーロラビジョンに、あのドリンクのCMが流れた。

『・・・・ファイナル・ポンポコジー]U ポーションで十分間のTSファンタジーを体験してください』

「十分間?」

スクリーンを見て、そうつぶやいた瞬間、俺は何か見えない強い力で、身体から引き剥がされた。そして、気がつくと俺は汗臭い部屋のベンチに座っていた。

「あれ?ここは・・・」

見回すとロッカーが並んでいた。

「ここは、選手のロッカー室か。身体は・・・大丈夫みたいだな」

服の乱れや、ほてっている場所などもなく、奴は身体を触りまくることなどしてはいないみたいだった。

「もう戻れないのかなぁ・・・」

俺はさっきの体たらくに落ち込んでしまった。あの頃持っていた野球センスはすでに失われ、ただの女の子になってしまったみたいだった。

「このままのほうがいいのかも・・・」

ふと、今の自分の手を見つめながら、俺はつぶやいた。

「さようなら俺・・・」

俺は・・いえ、私は、そう小さな声でつぶやくとベンチから立ち上がった。そして、今まで追い掛け回していた奴に別れを伝えようと、ドアに近づいた時、誰かがこちらにやってくる足音がした。この状態では、過剰なファンか変態と思われてしまう。私は、身を隠すところを探して、身近にあったロッカーの中に隠れた。私が隠れると同時に、ドアが開いた。

「ふう驚いたなぁ.突然女の子になるんだものな。でも、あの感触よかったなぁ」

ロッカー室に入ってきたのは、奴だった。

「しかし、あのドリンクの効果ってすごいなぁ。今度、ほかの子で使ってみるかな」

奴は部屋に入ってくると、部屋の中を見回した。

「あれ、あの子帰ったのかな?でも、ときどき女の子になるって言うのもいいな。男に飽きてきたもの」

奴の言葉を聴きながら、私は言い知れぬ怒りを感じた。私は今までいろんな苦労をしてきたのに、奴は人の身体を奪っておきながら、のほほんとして男に飽きてきたってぇ。女の子になるのもいいかなだって。ふざけるな!!

わたし・・いや、俺は隠れていたロッカーの戸を蹴飛ばした。

バガン!

勢いよく戸が開き、大きな音を立てた。その音に奴は驚いて、俺のほうに振り返った。

「お前なぁ、人の身体を奪っておきながら、無責任なことをぺらぺらと言ってくれたな。誰がお前にこの身体を返してやるものか!」

俺は勢いでタンカを切ると、唖然としている奴を残してロッカー室を飛び出した。悔しさと言い知れぬ悲しさにとめどなくあふれてくる涙を手で拭きながら東京ドームを飛び出して行った。

「鹿児島に帰ろう・・」

懐かしい故郷の町並みが、浮かんできた。俺の・・・私の足は自然と東京駅へと向いていた・・・

 

 

 

あとがき

 

ふう、やっと終わりました・・・と言えるのでしょうか?また、何かの拍子に、彼女のトラブルトラベルが始まらないとはいえません。その時は・・ぜひ、ほかの方が語ってくださることを望みます。無理でしょうが・・・^^;

では、みなさま。ぬた!