アナタに訊きたいコトが‥‥2

 

ボクは信州の山中にいた。

「実験のためとは言いながら、よくこんなところを登ってきたものだなぁ」

ボクは、切り立った断崖を覗き込んだ。はるかそこの方で流れる川面が日の光に反射してかすかに輝いているのが見えた。

ふっと息をつくと、ボクは背負っていたリュックを肩から下ろし、一本のドリンク剤のビンを取り出した。

「これがこんなに凄いなんて」

褐色のたくましい腕に握られたそのビンは、どう見てもごく普通のドリンク剤のビンだった。そのビンのキャップに手をかけた時、後ろの方で大きな叫び声がした。

「ま、待った~~!!!

その声に後ろを振り向くと、女の子が、「ロードランナー」というアニメに出てくるコヨーテのように怖ろしい顔をしてこちらに走って来た。高く上げられるミニスカから伸びる脚は、チラチラと見えるものを気にもせずに、まるで足を振り回しているかのように、激しく動いていた。ボクは彼女の血相を変えた表情に、ただ呆然とその場に立ち竦んでいた。

「飲むな〜!おれんだ!」

彼女は、僕の手からドリンクのビンを奪い取るとそのまま走り去り、止まった。

「ゼエ、ゼエ、ゼエ」

「あの〜〜」

ボクは、息を切らしている彼女に声をかけた。

「な、なんだ?これはおれんだからな。かえさねえぞ」

「そうじゃなくて・・・」

「何だよ」

彼女は、ボクのほうに近づいてきた。ボクは彼女の足元を指差した。彼女は怪訝そうな顔をして足元を見た。そこには、はるか下のほうに日の光にキラキラと輝く川の流れが小さく見えていた。彼女は顔を上げて、ボクに顔を向けた。その顔は、汗を滝のように流しながら引きつった笑いを浮かべていた。彼女は、自分の足元を指差して、ボクのほうを見た。ボクは頷いた。彼女は、両手を肩の辺りで広げて、首をすくめた。と、その瞬間、彼女は落ちた。

「ひや〜〜」

「あぶない!」

彼女は、岸壁から顔を出していた木の根を掴んだ。ボクは、木の根にしがみ付く彼女に手を伸ばした。あと少しでボクは、彼女の腕を掴めそうになった。踏ん張る足場もなく、片手に大事そうにドリンクのビンを持った彼女は、不安そうにボクの顔を見上げた。ボクは彼女を元気付けようと思わず叫んだ。

「ふぁいと〜〜!」

「いっぱ〜〜つ!」

彼女は、ボクの掛け声に答えて、叫んだ!その声にボクは、彼女の腕を掴んで、彼女を持ち上げようと力んだ。

「バフッ!!

ボクの背後で、凄い音がした。

「イヤン」

ボクは思わず掴んでいた手を離し、両手でお尻を押さえた。何か悲鳴のようなものが、断崖から谷底へと遠ざかっていった。そして、かすかに何か水に落ちる音がした。

「もう、力んだらおならが出るなんて教えてくれないんだもの。それに変身もとけちゃったわ」

褐色の腕は、1/3ほどの太さになり、華奢で白く木目細やかな腕に変わっていた。それに厚くたくましい胸板も二つのふくよかな丸みを帯びたふくらみがある細く撫でやかに変わっていた。

「もう、たくましい男の人になれるのはいいけど、おならと共に元に戻るなんて、改良の余地があるわ。これじゃあ、女性ユーザーには受け入れられないわね。まだまだ、あそこのゼリージュースには勝てないわね」

わたしは、下ろしていたリュックを背負うと、下山をする準備を始めた。

「あ、どうしよう?変身がとけちゃったからここから降りれないわ。あ、あのドリンク。かえして〜〜」

わたしはあわてて崖淵から谷底を覗いて見たけれど、そこには、かすかに輝く水の流れが見えるだけだった。

「ドリンク、かんばぁ〜〜〜く」