聖夜の夢
作:夢追い人


どこにでもある住宅街。そこに僕の家はある。
そして、今日は聖夜。
イエスさまの誕生をお祝いする日。
そして、不思議な奇跡がおきる日。

僕は寝る前に、大きな靴下に手紙を入れたんだ。そして僕は、おかあさんにおやすみを言った。
ベッドの中で僕は思う。
サンタのおじさん、手紙を見てどう思うかな。喜んでくれるよね。
そのうちに、僕の意識は縮んでいった。
ああ、もうちょっと起きてなきゃいけないのに。
そんな考えとは反対に、僕の意識はすうっと落ちていった。

僕は、聞き覚えのある声で目を覚ました。
「お〜い、起きんか、手紙は、嘘なのかい?」
かすれて見えた目の前には、近所のおにいさんと、その横に立ってる、僕の知らないおねえさん。
しかも、二人ともお揃いの赤い服を着て。
おにいさんは僕に言った。
「迎えに来たよ」
僕は事情を読み取れないで、首をかしげる。
「コレコレ」
そうやって、僕の書いた手紙を見せる。
僕はわかった、何が起こっているのかを。
でも、本当に驚いたんだ。まさか、あのおにいさんがサンタさんなのか、って。

「でもね、二人しか、ソリには乗れないんだ、だから、義美、キミには替わりにここで待ってて貰わなきゃ」
そういうと、横のおねえさんが首を縦に振る。
「そういう事なんだ。だから、ここに置かせて貰うよ」
僕に言う。
僕は、頷いた。
「それじゃ、準備して」
そうおにいさんが言うと、おねえさんは頷いて、僕の肩を掴んだ。
すると、僕の意識は、吸い込まれるように消えていった。

僕が再び目を覚ますと、目の前には僕がいた。
「今日はゆっくり休ませてもらいます」
目の前の僕が言った。
今の僕は、赤い服を着て、おにいさんの隣にいた。

「それじゃ、乗って」
おにいさんは窓の外を指差して言う。
僕は、指差す先を覗き込んで、頷いた。
そこには、僕は絵本でしか見たことのない、ソリがぷかぷか浮いていた。
そして、僕はさっきの言葉に従って、少し小さなソリに乗った。
ソリは、重さを受けて少し沈んで、また浮かぶ。
おにいさんが続いて乗って、また沈んでは浮いた。
ソリは走り出した。
「…寒い」
向かい風を受けて、僕は言う。
「あー、やっぱり? 暖めあえばそうでもないんだけど」
僕は暖めあう、という言葉に、なぜだか顔が熱くなった。

「あ、ここだここだ」
そこは、街から少し遠くの古びた鉄塔だった。
見上げても、てっぺんが見えないくらい大きくて、街を見下ろすように立っていた。
「ここで、何があるの?」
僕は聞いた。
「見張り、だよ。スムースに進むようにね」
ソリは、鉄の合間をぬって、鉄塔に入った。
外に向かう半透明のパイプが伸びていた。
それは放射状に広がり、まるで街を包み込んでいるかのように見えた。
その中を、ころころとボールが転がってきた。
カラリカラリと小気味の良い音を立てて、パイプの向こう側に消えていく。
ボールは、見たことが無かったけど、なぜだかその音をよく聞いた事がある気がした。
「今年の幸せを配っているんだ。これが、本当のサンタの仕事なんだ」
そして、パイプの先を眺めて続ける。
「だから、あの先にキミの家もあるんだよ」

長く、気を張って待った。とくになにもなく、時が過ぎていった。
そして明け方。
「そろそろ終わりだ」
「これだけなの?」
「今日の仕事はね、準備が大変なんだよ。それじゃ、帰ろうか」
「僕は、どうしたらいいの?」
おにいさんは少し、考えて、微笑んで言った。
「眠ればいい。目が覚めれば、全て元通り。いつもの日常だよ」
そして、僕はおにいさんと一緒にソリに乗った。今度は、ちょっと寄り添って。
着くまでに、たった一つの会話があった。
「どうして、サンタっているのかなぁ?」
「さあね、俺も親のを継いだだけだから。でも、多分、…」
僕は、くたびれていたから、答えを聞く前に目が閉じてしまった。

そしてまた、目が開いたら僕の部屋。
ぜんぶ昨日の夜のまま。
靴下を見ると、手紙があった。でも、僕が入れたのより、ほんのちょっと小さな手紙だった。
手紙には、丸文字でこう書いてあった。
『昨日はありがとう。大人になっても、覚えていてくれるといいな。
                     メリークリスマス         』