死せる魔法少女


戦いに傷付き、そして倒れ、その命を失ってしまった『生命』の魔法少女。
しかし彼女の本当の魔法は『死』を操る魔法だったのだ。
その力で死に行く自らの躰から魂だけを現世に留め、幽霊としてこの世に残った魔法少女。
仲間達を助けたい。でも、今の姿じゃ魔法は使えない。
彼女の選択は――

「……ごめんなさい、貴女の身体、お借りします!」
魔法の才能を僅かに残す、魔法少女候補と言うべき少女の身体を乗っとり、影ながら仲間の手助けをする事だった。

しかし、彼女らの魔力はいずれも豊富なものとは言えず、
次へ、次へと新たな身体へ乗り換えていく必要があった。

――だが、彼女は知ってしまう。

自分達の戦いが、全て仕組まれた事だと言うことを。
まもなく全てが終わり、仲間達も"処分"されてしまうと言うことを。
「どうすれば、みんなを守れるの……?」

そして少女は決断する。奴らを全て"死"に送ろう。
その為に、どんな手段を使っても。

――あの娘だけは守り抜く。渡さない、絶対に。

一人、また一人と消えていく、"黒幕"達の歪な群れ。
黒幕は、自分達を信じ込んでいる愚かな魔法少女達に"お願い"をする。

「恐ろしい敵が現れた」

「彼らも、彼女らも、大事な友達も、みんなヤツに消されてしまった」

「だからお願いだ、魔法少女」
「みんなの……仇を討ってくれ……!!」

そして少女は対峙する。片や正義の魔法少女、片や邪悪な敵として。
死せる少女は投げ掛ける。貴女は奴に騙されていると。
魔法少女は応答する。消えていった仲間のためにも、あなたを倒すと。

「……どうして、信じてくれないの」
魔法少女の光弾が迫る。
「どうして、分かってくれないの?」

「私は貴女の為に――」
死せる少女が借りていた、少女の身体が弾け飛ぶ。

「貴女の為に、戦っているのに……!」
その言葉は既に、魔法少女には届かない。

「分からず屋……っ」
魔法少女は武器を下ろし、少し悲しげな表情をする。

「こんなに……分かってくれないなら、いっそ――」

「この子、どうして抵抗しなかったんだろう……?」
容易に敵対者を排除できた事に安堵しながらも、どこか喪失感が残り、少し悲しそうな顔になる。

「それより、早く皆に伝えなきゃ。"わるいやつ"をやっつけたよ。これで、皆も安心できるね、って」
魔法少女は空を見て、足に力を込めた。

――その時

「……ぁひッ!?」
魔法少女は、奇妙な悲鳴を上げる。
身体を震わせ、踞るようにして、足元へとヘタり込む。

『貴女が、悪いんだからね』
どこかで聞いた声が、頭の中で暴れだす。

『相変わらず、言っても聞かないんだから』

『だからね』

『私が代わりに、やってあげる』

踞る魔法少女は、身体の震えを止めていた。
そのまま何かを確かめるように、手を開いては、閉じる。
そして自らの身体を抱き締めて、ぽつりと言葉を漏らす。

「最初から、こうすれば良かったんだね」

「貴女を護るのは、私。」

「だったら、私が貴女になればいい」

「これで、ずっと――」

"黒幕"は部屋で、魔法少女の帰りを待つ。

どうせ間もなく処分するものだが、使えるうちに使っておいて損はない。

しかしあの敵対者は何者だったのだろうか。
巧妙にカモフラージュされたこの"実験"に、感付く者などそうそう現れる筈が無いのだが。

扉の開く音がする。ああ、魔法少女のお帰りだ。

「やあ、おかえり、魔法少女。"わるいやつ"はやっつけてくれたのかい?」

「……うん、やっつけたよ、"わるいやつ"」

「ありがとう、これで皆も浮かばれるよ。疲れてるみたいだね、今日はもうおやすみ」

「うん、でもその前に……」

魔法少女はゆっくりと"黒幕"に近づき、そして――

部屋には、弾け飛んだ"黒幕"の肉片が散乱していた。

「"わるいやつ"は、やっつけた。……今、ね」

魔法少女は笑みを浮かべる。
可愛らしさに溢れた顔に似合わぬ、嘲りと憎悪にまみれた顔で。

「これで……貴女を護れた……」
「――でも、本当に?」


「"もしかしたら" あいつらにはまだ仲間がいるかもしれない」

「"もしかしたら" 貴女を狙う悪い虫が寄ってくるかもしれない」

「"もしかしたら" 貴女を恐れた誰かが、貴女を消そうとするかもしれない」


魔法少女は目を妖しく光らせ、狂ったような微笑みを浮かべる。
そして、絞り出すように次の言葉を紡いだ。

「そうだ。私は、まだ貴女を護りきれてない」

「だから」

「ずっと、ずーっと、ずっとずっと、私が護り続けてあげる」


「だって、貴女は私なんだもの」
.


[死せる魔法少女]終幕
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