氷井町テラー「あたたかいスープ」


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「ただいまぁー! あー、寒かったぁ……」
帰宅を済ませ、鞄を置き終えた少女は、
リビングから漂う素敵な匂いを嗅ぎ当てた。

「あれ、なんかいい臭いがする?
ママー、今日のごはん、なぁにー?」
しかし母の返事はない。
どこかへ出掛けているのだろうか、
そう思い少女はリビングへと足を運ぶ。

「わぁ、スープかな? 美味しそう!」
琥珀色のスープの透明度は高く、
中の具材がはっきり見えるほどだ。
薄切りのハム、細かく切られたニンジン、四角いじゃがいもは大きく切られ、存在感を放っている。

「これは私の分だよね! いっただっきまーす!」
少女は、何の疑いも躊躇いもなく、机上のスープに手をつける。
匙と皿がぶつかり、チンと軽い音が鳴る。
暖かなスープをふぅ、ふぅと冷まし、直後には汁を啜る音が響く。閉じた口の中では咀嚼音がしていることだろう。

「あー、美味しかったぁ! 食べたことない味だけど、何のスープだったんだろ?」
コンソメでもないし、もちろんポタージュでもない。
とても美味しかったが、いったい何のスープだったのだろう?
後で母に聞いてみることにしよう、そう考えて少女は立ち上がった。

「ん……? なんか、身体がポカポカしてきたような……」
生姜や芥子の味はしなかったが、別のスパイスか何かが含まれていたのだろうか?
少女はとりあえず、テレビ前のソファに座り込む。

「なんかこう、眠くなってきちゃった……ふぁ〜ぁ」
少女は突然の眠気に耐えきれず、備え付けのタオルケットを被ることもなくこっくり、こっくりと眠りに落ちた。


しばらく経ち、少女は不意に目を覚ます。
「……ぁ」
部屋を見回す少女、時計を見て時間を確認する少女。
そして最後に、自分の身体の確認を始める少女。

顔を上げる。

少女は紅潮した顔で、満面の笑みを浮かべる。
『やった、できたぞ! これでやっと――』とでも
言うかのような表情で。

「ふ……ふふ……うふふ……」


笑う。

「これで君と、ずっと一緒だよ――」


自らを抱き締めるように両手を伸ばすと、
少女は一筋だけを流していた。
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