氷井町テラー「あたたかいスープ」 |
▼▼ 「ただいまぁー! あー、寒かったぁ……」 帰宅を済ませ、鞄を置き終えた少女は、 リビングから漂う素敵な匂いを嗅ぎ当てた。 「あれ、なんかいい臭いがする? ママー、今日のごはん、なぁにー?」 しかし母の返事はない。 どこかへ出掛けているのだろうか、 そう思い少女はリビングへと足を運ぶ。 「わぁ、スープかな? 美味しそう!」 琥珀色のスープの透明度は高く、 中の具材がはっきり見えるほどだ。 薄切りのハム、細かく切られたニンジン、四角いじゃがいもは大きく切られ、存在感を放っている。 「これは私の分だよね! いっただっきまーす!」 少女は、何の疑いも躊躇いもなく、机上のスープに手をつける。 匙と皿がぶつかり、チンと軽い音が鳴る。 暖かなスープをふぅ、ふぅと冷まし、直後には汁を啜る音が響く。閉じた口の中では咀嚼音がしていることだろう。 「あー、美味しかったぁ! 食べたことない味だけど、何のスープだったんだろ?」 コンソメでもないし、もちろんポタージュでもない。 とても美味しかったが、いったい何のスープだったのだろう? 後で母に聞いてみることにしよう、そう考えて少女は立ち上がった。 |
「ん……? なんか、身体がポカポカしてきたような……」 生姜や芥子の味はしなかったが、別のスパイスか何かが含まれていたのだろうか? 少女はとりあえず、テレビ前のソファに座り込む。 「なんかこう、眠くなってきちゃった……ふぁ〜ぁ」 少女は突然の眠気に耐えきれず、備え付けのタオルケットを被ることもなくこっくり、こっくりと眠りに落ちた。 |
しばらく経ち、少女は不意に目を覚ます。 「……ぁ」 部屋を見回す少女、時計を見て時間を確認する少女。 そして最後に、自分の身体の確認を始める少女。 顔を上げる。 少女は紅潮した顔で、満面の笑みを浮かべる。 『やった、できたぞ! これでやっと――』とでも 言うかのような表情で。 「ふ……ふふ……うふふ……」 笑う。 「これで君と、ずっと一緒だよ――」 自らを抱き締めるように両手を伸ばすと、 少女は一筋だけ涙を流していた。 |