氷井町フォークロア「涼しい部屋」 九重 七志 野十里市 氷井町、その中心部。 そこに建つ旧い市立校には、妙な噂があった―― ∴∵∴ |
旧校舎部活棟の一室には、いつも気温の低い部屋がある。 日の当たり方か、風の流れからか、とにかくそこは一年中、妙にひんやりとしているのだ。 もちろんこんな部屋は格好の「怪談の種」だ。 流れている噂をまとめると、こうなる。
暑さに喘ぐ生徒達によって利用されていた。 部活後の休息、期限の近いレポートの仕上げ、サボっての一眠りなど、 ただの便利な空調スペースであるかのように扱われていたのだった。
「あ、あれ? ドアが開かない……?」 部屋のドアは、凍り付いたように動かない。 「なんで!? この部屋カギなんて無かったはず……!」 噛み付くような冷気が肌を刺す。 そして―― 「ヒッ!!?」 一際強烈な冷気が、少女の背筋に走った。 「ぁ……ひぅ! ……やぁ……なに、これッ!!」 少女の身体は寒さに凍えるように、身体を丸め、全身を震わせる。 その時、彼女は確かに聞いた。 怪談の主の、怨嗟の声を。 |
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少女の意識はそこで途絶え、その肢体は床に崩れ落ちた。 おぞましいほどの冷気は掻き消え、湿気を帯びた生ぬるい暑さが部屋に充満していた。 暫くすると、倒れ付した少女が目を醒まし、立ち上った。 俯いた様子で、その表情は伺えない。 不意に、少女は口の端を上げ、自らの身体を抱き締めた。 「ャっタ……」 「カらダだ……ヌクもリだ……」 そして、自らの身体を撫で回しながら、言った。 「……あタタかイ……!」 「もウ、こレで、寒くナい……!」 少女はとても愛おしそうに、その身体をずっと撫で続けていた―― ―了―
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