氷井町ビギニング「発明家のおはなし」 |
昔々の大昔、或いは遥か未来の話。 もしかしたら今この瞬間の話かもしれないが、そこはまぁお愛嬌さ。 |
とある中規模の地方都市に、それはそれは思考の可笑しい マッドサイエンティストが住んでおりましたとさ。 彼は発明家で、色々と奇妙な機械や道具を作り出していたんだってさ。 でも、いつもいつでも失敗ばっかりさ。 思うに、アレは頭が足りてなかったんだろうね。 発想はいいんだけど、それを理論に準える事ができない、開発力もない、そんな悲しい残念なおじさんだったのさ、彼は。 それで、彼にはライバルの発明家がいたんだ。 ライバル、って言っても、そいつは至極マトモな発明家さ。 コレがこうだったら嬉しいのに、それならこうしたらどうかな? そっかじゃあこことここを入れ替えて……なーんて、いろんな便利グッズを作ってた綺麗な女の子さ。 彼は彼女のことを心底憎んでいてねぇ。 私の発明が上手く行かないのはあの女のせいだ! ――なーんて、すっごい逆恨みしてたわけさ。 でもあのオッサン臆病だからねぇ、直接手を出したり、邪魔をしたり、 そういう事はやりたくても出来なかったわけよ。 そんなこんなで彼はずっと鬱々とした日常を送り続けていたし、 彼女は心底楽しそうに、発明行為をニコニコしながらやり遂げていってたんだわ。 そんな時、彼は偶然に偶然を重ねて、部屋の隅のダンボールみたいに うず高く積み上がった偶然の過剰集合体で、とんでもないモノを発明してしまったのさ。 それが、 「自分の身体を捨てて、別の人間の身体を奪い取る超スペシャルな装置」 っていう、科学の粋を飛び越えたとんでもないマジックアイテムみたいなマシーンだったんだよ。 それで、彼は無い知恵絞って考え始めたね。 『誰の身体を奪えば、私のアイデアを実現できるだろうか』 まあ自分の能力の事はよくよく分かってたんだろうね。 自分の脳スペックではどうしようもないから、 もっと頭のいい人間の体を奪ってしまおう。って考えさ。 で、彼は思いつくわけだ。 そりゃあそうだろうね、いつもソイツの事考えてるんだもん。 ターゲットは頭のいい美人な「あの女」 ソイツの身体奪ってやろうと思いついたのさ。 憎き憎きあの女への復讐ついでに、実に素敵な脳が手に入る。 正に一石二鳥ってヤツさ! それから彼は実行しようとするんだけど、まあなかなか上手く行かない。 なにせ彼と彼女はそこまで交流がないからねぇ。 彼女からは友達だって思われてたみたいだけど、悲しいもんだねぇ全く。 そしてスペシャルな装置は最高にバカでかくて、上手いこと自宅に呼び寄せないと使うことも出来ないんだなぁ。残念ながら。 で、彼がもうヤケクソになって、彼女を家に招待するのさ! すごい発明が出来たー!とかなんとか言ってね。 彼女の方はのんきなもんで、 すごーい!だって君すっごく頑張ってたもんね!私もうれしくなっちゃう! ってな感じに無警戒にやって来ちゃうわけよ。びっくりだね。 あとはもう計画通りに全進行さ、面白くもなんともないね。 彼は普段飲まないようなお高いコーヒーを彼女に出して、 彼女は砂糖とミルクをたっぷり入れてゴクンと飲み干したのさ。 そしたらすぐに目がとろんとしてきて、机に突っ伏して眠ってしまったんだな。 まあ、お馴染みの睡眠薬さ。 それを一服盛って、そのまま機械に取り付けちまおうって魂胆よ。 で、彼は彼女を背負って装置へと運んでいったわけさ。 彼はビックリしていたね。 女の子の身体がこんなに軽いなんて思ってなかった、みたいな顔をしてね。 まあ、そんな機会が今まで一度もなかった、って事は想像に難くないがね。 しょうがないね全く。 そんなこんなでバカでかい装置に彼女を繋いで、自分は装置の上に登ったのさ。 この装置のヤバイところは、元の肉体を強烈なアルカリ性の液体に放り込んで、ドッロドロドロになるまで溶かしちまうって所なんだ。 だから、彼はもう二度と元の体には戻れない。そういうもんなんだ。 でも彼はぜんぜん躊躇なんてしなかったよ。もう腹を括ってたんだろうね。 こうするしか自分の発明を完成させることは出来ない、ってさ。悲しいもんだ。 そんで、彼が液体の中にダイブしてしばらくすると、 彼女の方に変化が出てきたんだよ。 身体をびくっ、びくっとクネらせてさ。痛いとも苦しいとも違う、 何ていうか気持ちよさそうな感じだったらしいね。 手足はある程度拘束されてるから、機械から外れることは無いんだけど、 それでも段々と動きが激しくなっていってね。 最後の方には大声で喘ぎ声まで上げて、激しく身体をビクつかせちゃってねぇ。まるで交尾の最中みたいだったよ。 で、そんな状態が暫く続くと、彼女の声が一瞬だけ止まるわけだ。 顔を赤らめて、目をかぁっと開いてねぇ。 真っ赤になった頬と、だらしなく開いた口がねぇ。 こりゃアレだな、クるなって感じさせたのさ。 で、彼女は絶叫したのさ。 喘ぎ声のフルコーラスだね、アレは。 そんな厭らしい絶唱を済ますと、彼女の頭はガクンと崩れ落ちたのさ。 そこから暫くの間は、もうずっと眠ったみたいになって、 指先一つ動かさなかったね、うん。 で、その内に彼女が目を覚ますわけさ。 とろんとした目をゆ〜っくり開いて、ぼーっとあたりを見回すのさ。 するとキリッと急に目つきを変えて、慌てて拘束具を取り外したのさ。 色々と混乱している感じだったね、手が届く筈の場所に届かない、 みたいな小さい失敗を何度もしていたし。 少なくともいつもの彼女だったらそうそうしないような行動だったね。 拘束器具を外し終えると、次は自分の手のひらをじーっと見つめだしたのさ。 そしたら、にへらぁ〜って表情をして、成功だ! 成功したぞ! って歓喜の叫びを挙げ始めたのさ。彼女のやわらかな可愛い声で。 そしたら彼女は服を脱ぎ始めたね。 いつも来ている服だろうに、脱ぐのに手間取っていたようさ。 一糸まとわぬ生まれたままの全裸になった彼女は、自分の身体を確かめるかのように、色んな所を触り始めたのさ。 あとは、さっきと似たようなもんだね。 胸や股間に触れるたびに、ビクンビクンと身体を震わせて。 ッ! ぁっ! って甲高く喘いで、随分と愉しんでいたようだね。 終わり方もさっきのとおんなじかな。 あぁぁぁぁぁぁ――――――っっっ!! って、喘ぎきって終わったのさ。 コテンと倒れてはぁはぁと荒い息を吐きながら、 やはりこの身体は素晴らしい、みたいな事を呟いていたなぁ。 それで、起き上がった彼女は、自分の中の素敵なアイデアを実行する方法を 容易く考えつける事に気がつくんだ。 天使のような顔立ちの彼女は、一瞬だけ顔を歪に歪ませて、 悪鬼羅刹のような笑みを浮かべるのさ。 そして、何事もなかったかのように、天使のような微笑みを浮かべて、 脱ぎちらかしてあった服を着ることにしたんだ。 でも、下着の付け方に手間取って、結局全部やめてしまった。 素肌を晒したまま、とりあえず白衣だけを身に着けて、 実験室の方へ歩いていって、その扉を締めたのさ。 |
これにてめでたしめでたし。 彼は念願の彼女の頭脳を手に入れ、最高の発明が出来るようになりましたとさ。 え、それから彼はどうなったのかって? 彼は今になってもずっと、その町で発明を続けているよ。 どんなものを作っているかって? ――そうだね。じゃあ……。 例えば、君に好きな人はいるかい? 気になるクラスメイト、あこがれの先輩、いつも元気な後輩、近所のおねーさん、よく行く店の店員さん、病院の看護師さん、テレビに出ている有名人、アイドルや美人女優、教育実習生のお姉さん、洋館に住んでるお嬢様……。 その人の裸を、見たいと思ったことは? その人の身体を、自由にしたいと思わない? その人を、自分の好きなように操ってみたくはないかな? そう、その人に――"なって"みたくない? ……ふふふ、良い答えだ。 それじゃあ、君に、コレをあげよう―― |
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――Beginning_for_all...
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