日本人の「入れ替わり」観 まえがき 3月、唯川恵の小説『今夜は心だけ抱いて』がNHKでドラマ化される。といっても、これは母親と娘の入れ替わりだから、「入れ替わり」と聞いてTSF的なものを思い浮かべる人はあまり興味を持たないかもしれないが、昨年は1月の『神様のイタズラ』、8月の『山田くんと7人の魔女』そして10月の『夫のカノジョ』など、ドラマにおいて「入れ替わり」が話題となった年だったことは記憶に新しい。 もっとも、これはドラマに限らず、マンガも同じようだ。吉川美希の『山田くんと7人の魔女』はいうまでもなく、将良の『思春期ビターチェンジ』や車谷晴子の『兄が妹で妹が兄で』など、何かと話題となった作品の多い年でもあったが、一昔前はTSF関連のサイトでしか使われていなかった「入れ替わり」という語句が、今や一般化していることからしても、市民権を得出しているかのようにも思えてくる。 中でも、『夫のカノジョ』は、低視聴率と打ち切りの原因探し(犯人捜しに等しい)がさまざまなサイトでなされ、タイトルが不倫ドラマを連想させるとか、キャストがよくないとか、裏番組の『ドクターX〜外科医 大門未知子』が強かったからだとか、いろいろな説が飛び交った。中には「面白い」とする見方もあったり、Yahooでは比較的高い評価がなされていたりと、同作品を評価する動きもあったものの、悲しいかな、その中には「入れ替わり」というシチュエーションに起因するという見方もあった。 確かに、「入れ替わり」が今やありふれたシチュエーションとなっていることは間違いないし、TSFの一パターンとしてその地位を確立し、感想で『転校生』がよく引き合いに出されるように、男女がアクシデント的な要因によって入れ替わるという黄金比を発見してしまったかと思えるくらい、設定やストーリーに対するイメージも根強い。そういったイメージがあるからこそ、「入れ替わり」が好きな人もいれば、嫌いな人もいるという、とらえ方に対する二極化が生じているのかもしれない。 しかし、いずれにせよそれは「入れ替わり」のごく一部でしかない。その本質は複数の対象間で心あるいは体、及びそれに相当するものが交換されることにあるのだから、実際の「入れ替わりモノ・ネタ」はもっと多様で、当事者の関係にせよ、入れ替わった原因にせよ、ストーリーにせよ、結末にせよ、とうてい一口で言い表すことができないくらい幅広い。また、それが単発でもエピソードでも、そして結末でも使え、小説やマンガはもちろんアニメやドラマ、映画、ネット上の個人創作など、幅広いメディアで用いられている。ここに「入れ替わり」の汎用性の高さがあると言って過言ではない。 そして、これまでも多くの作品が発表されてきたと同時に、ネット上でも作品が発表され、論じられてきた。年代や性別、関心のあるジャンル、そこで論じられている作品によっても、そのとらえ方は千差万別で、中には「なるほど!」と思うものもある。もちろん、誤りや思い込みなども少なくないとはいえ、それらもまた「入れ替わり」に対する見方の一つであり、雰囲気を醸し出す要素の一つだといっていい。それはあたかも、現時点ではある意味空想上のものである「入れ替わり」と案外似通っているのは、決して偶然ではないのかもしれない。 それぞれは小さくとも、いくつも集まれば、日本人の「入れ替わり」観とも呼べるものが見えてくるかもしれない。しかし、それらはただ存在しているだけであって、その感想自体を論じたり、そこから分析したりすることは、これまでなかったように思える。 それならば、 これまで、人々は「入れ替わり」をどういったものとみなしてきたのだろうか? ジャンル?ネタ?シチュエーション? また、何が入れ替わるものとみなしてきたのだろうか? 心?体?魂?人格?心と体?誰々と誰々?男女? そして、どういったものとしてとらえてきたのだろうか? 王道的展開?ベタなシチュエーション?使い古されている?ネタ切れ? ここではそんな、「入れ替わり」論、つまり、「入れ替わり」やそれを扱った作品について論じた記事やサイトを中心に、人々の「入れ替わり」像・「入れ替わり」観をさぐってみようと思う。ただその前に、本コーナーの扱う範囲などについて少し説明しておくこととしたい。 @ 本コーナーでは、複数の対象間で心あるいは体、及びそれに相当するものが交換されるシチュエーションやそれを扱った作品、つまり一般に「入れ替わり」や「入れ替わりモノ」、「入れ替わりネタ」と言われるものについて論じた記事・サイトについて紹介・分析する。ただし、番外的なものとして、特定の作品の評論についての分析についてのまとめも考えている。 A 対象とする記事は、公式サイト・ニュースサイト・ブログなどを問わない。極端に言えば、インターネット全般であり、「入れ替わり」について論じている部分がたった一行であったとしても、当方にピンとくるものがあれば対象とする。ただし、その場合は複数記事をまとめて紹介するか、当方がヒマな時に回すことになると思う。 B 本サイト(TS解体新書)はTSF(性転換フィクション)を扱ったサイトであるが、TSFに属さない作品も対象とする。扱っている範囲が「男女入れ替わり」ではなく「入れ替わり」なので当然と言えば当然だが…。 C 憑依・変身・転生などは基本的に扱わないが、それらを「入れ替わり」とみなしている場合など、場合によってはそれらも対象とすることもある。そのくらい「入れ替わり」という概念はあまりにも漠然としているということである。 D 時間の経過によって、サイトにアクセスできなくなる場合もあるが、その場合はインターネットアーカイブをご利用いただきたい。なお、掲載分に関しては念のため、インターネットアーカイブの方に保存しておくことにしている。すでにサイト上から消滅し、インターネットアーカイブに残されているものを分析の対象とする場合はこの限りではない。 |
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