ありえる“かもしれない”未来 × 入れ替わりシンドローム 町中に鏡を! (ありえる“かもしれない”未来版) 第1回 きっかけはニュースだった 「忘れないうちにアイディアを書いとかなきゃ!」 友だちのさそいを断って、私は大急ぎで家に帰った。 でも、家に帰っても、 「ひとみ!テレビばっかり見ないで、勉強しなさい!」 って、お母さんにうるさく言われるだけだ。 欲しいものもまともに買ってくれないのに、勉強、勉強、勉強。 いまどき、仕事はコンピュータがやってくれることばかりだというのに、どうして勉強なんかしなくちゃいけないの…? なんでこんな親のところに生まれたんだろ…? なれるもんだったら、だれかほかの子になりたいな…。 そう思うと、何年か前のことを思い出さずにはいられなかった。 あのうるさいお母さんが何かの会の旅行に出かけたときのことだった。 1泊するというので、あのうるさいお母さんがいなくてうれしかった。 怒られることもないので、こっそりテレビを見られるからだ。 でも、いまどきテレビなんてもう古い。 友だちなんかだれも見ていない。 けど、最近の機器の小さい画面はイヤだし、そのせいで目を悪くしてしまったから、テレビのほうが、画面が大きくて目にやさしい。 けれど、いまどきテレビはつまらないものばかりやっている。 それに、新聞も電子ペーパーのものしかないので、スイッチを入れないと何をやっているのかわからない。 ひまつぶしなら、なんでもいい。 聞き流すだけでいい。 そう思ってスイッチを入れたその時だった。 たまたまニュースの時間だったけれど、最初の話題は意外なものだった。 だって、おなじみの政治や経済、事件じゃなかったんだもん! 「今まで、マンガやアニメの中の世界だったことが、本当になるかもしれません。 斉藤研究所の斉藤一夫さんらの研究グループが「入れ替わり」の実用化に成功しました。斉藤さんたちが生み出したのは、二人の人間の人格を交換するもので…。」 入れ替わりってまさか、マンガやアニメでおなじみのあの展開? それが本当になったの?! ウソ…。 そのことを聞いて、初め、誰かがウソのニュースでも流してるんじゃないかって思ってた。 開発者の名前を聞いて、私は一つの映画を思い浮かべたからだ。 今からかなり昔、『転校生』という石段から転げ落ちた男女の中身が入れ替わってしまうストーリーの映画があった。 当時は内容がいやらしいって言われていたようなんだけど、その後、「入れ替わり」を扱った名作として高く評価されたらしい。 公開から長い年月がたった今でも、古典的な作品として伝えられていて、私も授業で見たことがある。 でも、そんなことはマンガやアニメの中だけのことだろうって思ってた。 だから、本当はこのニュースを信じたくなかった。 1か月くらいたってからだろうか。 今度は別の科学番組が「入れ替わり」のことを取り上げていた。 ニュースの時とは違って、もっと詳しく説明していた。 でも、できたらそんなことは信じたくない。 自分のほうがおかしくなったんだって思いたい。 あ~あ、どうしてこんな時代に生まれたんだろ…。 そんなふうに心配していた。 でも、それはいらない心配だった。 自分の生まれた時代をうらんでも仕方ない。 それに、ある日突然誰かと「入れ替わって」しまうものではない。 それより、不満だらけの今の自分の願いをかなえるものかもしれない。 そう思うと、私はその技術に願いを託したくなった。 もし、誰かと入れ替われるのなら、誰になろうかな…? 大人の女性になってファッションを楽しもうかな…? 自分は男勝りだから、いっそのこと活発な男の子になってストレスを発散してみるのもいいかもしれない。 それに、自分よりとびっきりステキな女の子になって、男の子から告白されるのもいいな…。 でも、安全なのかな? それに、自分になった相手はちゃんと元に戻してくれるのかな…? 「入れ替わり」が実現したときのことを想像すれば想像するほど、期待がふくらんでいく。 期待がふくらみすぎて、とうとうその夜は眠れなかった。 もちろん、自分とは関係のない世界のことだということを前提にして…。 それから何年かがたった。 あこがれていた、先輩の通う高校にも入り、「入れ替わり」が信じられないという私の思い込みは、白いペンキで塗ったかのように消えていた。 けれど、私の知らないところで、誰も予想もしなかったことが起きていたのだった…。 (以下次回) |