「入れ替わり」とは何か

第1部 

「入れ替わり」モノ大国のフロンティア―「入れ替わり」は学問になりうるか?



第3回 話題作!でも思考停止?

近年の話題作、特に作品中で『転校生』が引き合いに出された『パパとムスメの7日間』や時間も場所も相手もランダムに「入れ替わる」という設定や内容(トラウマ)の深さが注目された「ココロコネクト」で顕著に表れていたように思いますが、ネット上での感想などを見ているとよく、作品を評価するとともに、それまで抱いていた「入れ替わり」に対するイメージが引き合いに出されたものが目につきます。

もちろん、「入れ替わり」をメインに据えた作品が話題となる傾向は、古くは『転校生』や『放課後』などが挙げられるように、今に始まったことではありません。しかし、今世紀に入って、それまでのイメージとは大きく違った、斬新かつ面白いものとして認識されることの少なくない話題作が毎年のように生まれるようになっている今、この傾向はより顕著になってきているといえるでしょう。その背景として考えられるのは、以下の3つのことだと私は考えています。


1.ストーリーのなじみ深さ

「古典的」とか「王道の展開」などと評価する人も少なくないように、「入れ替わり」は日本人にとって、もはやなじみ深いネタとして認識されているといっても過言ではないでしょう。そのことを語る上で『転校生』や『おれがあいつであいつがおれで』などといった金字塔的な作品のイメージが強いのはいうまでもありませんが、そのイメージを作り上げたのは、マンガやアニメだといってもいいでしょう。

日本人、特に今の40代以上の人にとって『転校生』や『おれがあいつであいつがおれで』などは「入れ替わり」モノのイメージとして今なお強く残っているといってもいいでしょう。ところが、マンガやアニメの一エピソードとして扱った作品は、数としては多い一方、ドタバタコメディーやギャグに陥りがちで、テーマ性に乏しいのが欠点です。

それだけに過去の名作の印象が強い世代にとっては「使い古されたもの」に映っていたのでしょう。それが近年、過去の名作にも匹敵するような「入れ替わり」をメインに据えた長編や連載が目立つようになったことで、コメディー・ギャグ中心の作品を「男女間」とか「一対一」とか「使い古されたもの」などと思っている人にとっても、斬新で面白いものにとして受け入れられたのでしょう。

過去の名作とその後の粗製濫造の作品両者のイメージがあり、なおかつうまくマッチしていることが、ある意味でベタでありながらも、親しみがわくものとして認識されている背景にあるのかもしれません。


2.コメディーとテーマの両立

また、これらの作品は、コメディー的要素と過去の名作のストーリーを意識しつつも、相互理解、特に立場の違う者同士や男女間での相互理解などをテーマとしている点で共通しています。その背景にあるのはおそらく「相互理解」が求められつつも、実はいっそう難しくなっているという、世間の現状ではないかと考えられます。

近年、とはいっても、少なくとも10年はいわれていますが、人間関係が希薄化しているとか、常識では考えられないような犯罪が増えているとよくいわれています。もちろん、相手を理解したり相手の立場になって考えたりすることはただでさえ難しいことですが、そういった背景もあって、今まで以上によりいっそう求められるようになってきているにもかかわらず、なかなかできずにいるのでしょう。

つまり、読者や視聴者に対し、互いを理解しあえるようになってほしいとか、互いをより理解し合えばうまくいくなどといった、人々の理想や制作者の願望などが、近年の話題作に反映され、これらの作品のメインテーマになっているのかもしれません。


3.キャストとそのパフォーマンス

しかし、それ以上に、そしてドラマを中心に「入れ替わり」モノが話題となっている最大の要因だといえるのが、キャストのパフォーマンスです。『どっちがどっち!』の渋谷兼人と飯田美心、『パパとムスメの7日間』の舘ひろしと新垣結衣、『転校生 さよならあなた』の蓮佛美沙子、『ドン★キホーテ』の松田翔太と高橋克美、『神様のイタズラ』の久保田紗友…。

新人、ベテランという違いこそありますが、どの作品も単なるドタバタに終わることなく、まるで「入れ替わって」いるかのような逆転ぶりを演じているのが特徴です。もしかしたら、皆さんのなかにもこういったキャストなどにひかれて見ていた人も少なくないのではないでしょうか?

それだけに、これらのキャストやそのパフォーマンスは、作品のストーリーと共に、いや、作品以上に人々に印象となって残っているといえるでしょう。


以上、3つの点をみてみましたが、作品の質だけを見れば、あたかも『転校生』の再来であるかのようにも思えなくもありません。しかし、人々は「入れ替わり」そのものに関心があって、こういった作品を見ているわけではないのかもしれません。

確かに、キャストやパフォーマンスなどといった要素は、近年「入れ替わり」モノから話題作が生まれていることの最大の要因だといえますが、これらはマスコミや人々の間でも話題となりやすいものでもあるので、そっちばかりに目を奪われがちです。そのためか『転校生』が今なお名作として名高く、引き合いに出されることも多いのとは対照的に、放映や連載が終了すると急速に忘れ去られ、話題にすら上らなくなっています。

もちろん、同映画が公開された頃とは違い「入れ替わり」自体がすでにありふれたネタになって久しいだけに、強烈なイメージとなって残ることは、同映画を知らない世代を除けばまずないでしょうし、人々の好みも多様化・細分化したということも無視できません。しかし、アイドルやファッションのような一時の流行にすぎないだけに、キャストなどのイメージばかりが強くなってしまい「入れ替わり」モノ自体のイメージにはなりにくい上、肝心のストーリーやテーマのほうは、それらの要素の背後にかすんでしまっているような気がします。


つまり、近年の話題作は「入れ替わり」モノの再評価というよりも、ネタからメインテーマへの昇格でしかなく、キャストとパフォーマンスという、視覚的なものによって話題となっているといっても大げさではないでしょう。そのため「入れ替わり」それ自体はあくまでも一つの設定にすぎず、考える意味のないことだとみなされているのです。この点では、コメディーやギャグとして描かれている、従来の一話完結のエピソードとそう大きく変わらないようにも思います。


(以下次回)