「妻へのお土産」


作:しんご





僕は父が嫌いだった。
いつもいつも仕事と言って遊んでもくれない父。
母が何か言うごとに父は決まって

「誰のために働いているんだ。家族のためだろ」

と伝家の宝刀のごとく一言で終わらせる。
なにが、家族のためだ。
どこが家族のためになっているんだ。
僕のことなんかぜんぜんかまってくれないじゃないか。
一緒に遊んだことも、一緒に笑った事もないじゃないか。

父が大嫌いだった。







そんな父は僕が中学一年の頃突然死んだ。







前の日父の様子は、少しおかしかった。
いつも夜遅く帰る父が何故か、早く帰って


「疲れたから少し寝る」


と言ってご飯も食べず寝室へと入って行った。
母は難しい顔をしながら、


「大丈夫?明日、病院に行ってくださいね」

「あぁ・・・・」


それが父と母の最後の会話だった。
次の日の翌日に父がいつものように起きることはなかった。

その後の事はよく覚えていない。
僕が起きたときにはもう母が父の死に気がついて崩れるように泣いていて、
すぐに親戚やら祖母や祖父などいろいろな人が来てみんなが僕に向かって同じ事を言う。


「気をしっかりとね」


中学生となっていた僕は人の死を受け入れない年ではなかったけれど、
あまりに突然で、まして死んだのが毎日顔を合わせていた父だなんて
とても信じられなかった。
頭ではまるで虫が宙を飛んでいるかのように周りの音も声も聞こえなかった。


今自分が何をしているのか?

これは現実なのか?

これは夢じゃないのか?

これは嘘じゃないのか?


でも、目からあふれ出す涙がそれは現実だと冷たく僕を突き放つ。


口に感じる涙のしょっぱさ。

手に感じる涙の存在。


「なんで何だよ!!
 なんで死んだよ!!
 なにが家族のためだよ!!
 どこが家族の為になるんだよ!!
 これじゃ嫌いなんて言えないじゃないか!!」



 母も僕もまるで砂漠に何も持たず放り出されてしまった。 
でも母は強かった。
今まで働いたことの無い母が朝早くから夜遅くまでパートに出た。
そんな母にこれ以上迷惑をかけたくなかった。
だから、僕は高校に進学しないで働く決意をした。
これが母の為なんだ。
これが一番いい道なんだ。
母に告げると、母は突然泣き出した。
そして怒り出した。
今まで見たことも無かった母が目の前にいた。
でも、どこか怒りよりか悲しんでいるのが僕にはわかった。


「私はお父さんになんて言えばいいの?
 なんていう顔すればいいの?
 どんな顔をして天国にいるお父さんに会えばいいの?
 息子を高校にでも行かせないで・・・・・
 お父さんはどう思うの?
 自分のせいで家族をこんな事にしてしまって。
 誰よりも愛している息子がそんな風になるなんて知ったら・・・・・

 お父さんは誰よりも、世界中の誰よりも愛しているのよ。
 誰が好き好んで家族を残して死ぬと思う?
 私はお父さんに任せられたの。
 私はお父さんに代わって立派に育てなければいけないの。
 それがお母さんの天国にいるお父さんに会うときのお土産なの」


母は泣きながら僕に訴えた。





それから僕は高校に進学し、母は大学まで出してくれた。



その後、
僕は教師になり、同じ学校にいた女性と結婚をした。
結婚をする前に一度だけ、僕は妻に亡くなった父の話と母さんの話をした。
話をし終わり横にいる彼女を見たら、彼女は涙を流していた。
僕はその時思ったんだ。
彼女と結婚をしようと。
彼女だったらと。





結婚の一年後。

喜ばしい知らせが妻の口から出た。
僕たちの赤ちゃんが出来たというのだ。
順調にお腹の子供も育っている矢先だった。
その日は休日に、暮らしている市が実施する
初めて出産する両親を対象とする教室に車で向かっていた。


「なぁ男の子かな?女の子かな?」

「また?」

「なんだよ。その態度」

「だって一日に必ずそのセリフを言うから。だったら、あなたはどっちがいいの?」

「んー。どっちでも良いかな。出来たら双子がいいかな。男の子と女の子の」

「ざんねん、お医者さんは一人だって」


最近僕たちの会話は妻にいる子供のことばかりだった。
車内は幸せに包まれていた。
しかし、終わりは突然おきる。

交差点で僕の運転する車が青で渡っていた所、横からものすごいスピードのトラック
が近づいてきた。


「ぶつかる!!」


   気がついたら、あたり一面は見渡す限り真っ白い世界だった。

   僕は死んだのか?

   「僕の事なんてどうでもいい。妻は?お腹の子供は?
    お願いだ!!妻と子供を助けてくれ!!
    僕なんてどうなっても良いんだ!!」


   僕は叫んだ。
   何度も何度も叫んだ。
   すると、目の前に妻が現れる。
   僕は彼女に走り駆け寄ると、目の前に大河ができ妻はその向こう岸にいる。
   僕はその川に飛び込んだ。
   彼女は涙を流しながら僕へ叫び始めた。


   「だめよ。来てはだめ!!
    あなたは生きるの。
    あなたは生きなければ生けないの。
    私たちの子供の為に。
    あなたなら出来る。
    わたしじゃ無理なの。
    だからあなたは生きて。

    約束よ。

    私たちの子供を立派に育っててね。
    あなたのように、気持ちが優しい子供に育ててね。
    あなたのように、相手のことを思える子供に育ててね。
    それがあなたが私にくれるお土産よ。」


   そういうと、妻は消えて、僕はまた気を失った。





一年後



僕は、墓石の前に立っていた。
僕の横には母さんもいる。


「まったくあんたは親不孝者だね。
 それにこんな綺麗な奥さんとかわいい娘を残しておいて。
 まったく。お父さんになんて言えばいいのよ・・・・・」

(ごめんね。母さん。)


母はハンカチで目を押さえていた。
僕は母さんの肩に触れる。


「ごめんね。春香さん。ごめんね。」
「いいえ、お母様。」


母さんから見れば不幸な息子の奥さんだろう。
でも、僕は妻を亡くした夫なのだ。


   最近は気づくと欲求のすべての解消を自分の体に向けている。
   鏡に映る自分は妻の姿。
   長くうつくしい髪
   知的で誰が見てもやさしそうな顔
   ブラウスのボタンを外し目線を少し降ろすと二つの形のいい胸が映る。
   横についているボタンを外してファスナーを下げると、
   パサッと音を立てて床に落ちる。
   すると、白い2本の細い足。
   白いパンティに少しふっくらとした股間。


   「春香・・・」


   両手で下から持ち上げると、鏡の中の春香が両手で胸を持ち上げている。
   胸を揉むと鏡の中の春香が自分の手で胸を揉んでいる。
   パンティに手をかけた。
   両手でゆっくりと下に降ろしていく。
   パンティの下から徐々に股間が現れる。
   うっすらと茂みに隠れている。
   足首まで下ろしたあと、片足ずつパンティから足を抜いた。
   今まで見ていた春香の体。
   それが今の僕の体。
   割れ目に中指をめり込ませる。

   その瞬間
   全身に電気が走るような感覚した。


   「はぁん・・・・ん・・・・」

      :

      :

      :



   はたから見ればただの女性のオナニーにすぎないだろう。
   だが僕にとって、これが今できる最大の愛情表現だ。
   でも、そこに虚しさがいつもつきまとう。
   彼女ではなく自分だと気がつき夢から覚めるから。

  

母さんは立ち上がりその場をどいた。
僕は娘を母さんにわたし墓石の前にスカートの裾を押さえながらしゃがんで手を合わす。
僕は心の中で語りかける。


「春香、君の方が優しすぎるよ。
 君は僕が残される者の気持ちを知っているから僕に任せたんだよね。
 でも、やっぱり君がここに居るべきだよ。
 君が育てるべきだよ。
 それと、愛する人が亡くなってその姿をもう見ないくらいだったら入れ替わって
 いつまでも相手を見ることが出来る方が良いと考えたのだろ?
 でも、それもやっぱり間違えているよ。
 だって人間は外見だけじゃなく、むしろ中身だろ。
 これじゃ、何の意味がないよ。
 だって確かに君の姿はいつまでも見えても君じゃないじゃないか。
 でもさ、君に会うまで僕は君をしっかり演じるよ。
 そして、母親としても父親としてもこの子を立派に育てるよ。
 君にお土産を渡す為に」






あとがき



謝ります。
私は18禁のような事はうまくかけません。
すみません。
あと、もう一つ予告した内容と違うじゃないかとお怒りになるかもしれませんが
もちろんあれは必ず書きます。
それとなんだ、期待したのに「女同士」じゃないのかとお怒りになるかもしれません
が次回作は必ず書きますから許してください。
それと、「つまらない」とお怒りになる人。
ごめんなさい。
こんなのはTSものじゃないかもしれません。
実はですね。
これは私自身の挑戦です。

ts作品の大体は主人公の欲望で入れ替わったり憑依したりしますよね。
私が今まで書いてきたものは全てそれにあたり、さらにダーク物です。
私自身ダークが好きなのは事実なのですがこのままではダーク物しか書けなくなって
しまうかもしれないと思ったのであえてこんな展開の作品にしました。
でも、よく考えてみるとこれもダークの分類にあたるかもしれません。
えーと掲示板でいろいろ応援してくれた人、期待してくれた人
みごとに裏切ってしまってゴメンナサイ。
毎回毎回、言ってますけれど次は必ずよい作品を書きます。
最後まで我慢して読んでくださってありがとう。