「二人だけのひみつ」 

作:しんご






「入れ替わってみない」

恭子の突拍子な言葉に、最初は何をいっているのいか分からなかった。

「えっ・・・入れ替わるって?」

「私と舞が入れ替わるの」

恭子の丸い顔は、本気だった。

いつも笑って見える二重顎はない。

「恭子、冗談でしょ」

「ううん、本気」

「だって、そんなの出来るわけないじゃん」

そう私が突っぱねると、恭子は手に持っている鞄から小さな木箱を取りだした。

「それは?」

私がそう聞くと、恭子は何も答えずただ木箱の蓋をあけ小さな消しゴム程の二つの白い石をみせた。

「これはね。入れ替わることの出来る石なの。入れ替わる二人がお互い左手に石を乗せて、
 右手を相手が持つ石の上に乗せるの。それでお互いが相手の名前を言うと入れ替わるの」

「・・・・」

そんなわけない。

でも・・・

私は、恭子の話を聞きながらこの馬鹿みたいな話に興味がわいた。

そんなことは、絶対に出来ないのにちょっと面白さを感じていた。

「やってみない?」

そう再度聞く恭子の誘いに私は乗ってしまった。





「舞、いい?」

「うん」

私は呟く。



 野島恭子



どうせ、目の前には恭子がいるんだ。

そしてお互いに笑いあって、いつものいつものように家路へと帰っていくんだ。

「舞」

ほら、恭子の声が・・・・

えっ違う。

「・・・・うそ」

目の前には、私がいた。

いつも鏡に映る姿。

でも、それはいつも私と同じ動きをした。

私が髪を整えようと手を挙げれば、鏡の私も手を挙げる。

私が微笑むと、鏡の私もそれに続いて笑ってくれる。

でも、私の目の前の私は、私が口を開けてないのに喋りだした。

「ね。本当だったでしょ」

「・・・・・」

「どうしたの舞、黙っちゃって」

分からない。

なんで・・・

どうして。

私がいる。

でも私じゃない。

   :

   :

   :

「すごい!!」

私の声も私じゃない。

太い指。

大きな胸。

スカートから見えるふくらはぎ。

全部私と違う。

私はこの非現実な状況に驚き、酔ってもいた。







「舞、違うよ。こっちの鞄。今は私なんだから」

「あっ、どうだね」

私たちは、お互いの持っていた鞄を交換した。

「舞、大丈夫?」

私の顔をした恭子が聞いてくる。

「うん。大丈夫。何度も恭子の家に遊びにも行ってるし。
 恭子こそ平気?」

「私は、平気だよ。
 ・・・・恭子、もう何を言ってるの。
 私は、佐々木舞だよ。・・・」

恭子は、ちょっとぶりっ子の様な口調ぶりで、私の真似をした。

「私、そんな口調だった?」

「えー、そっくりだと思うよ」

笑い声がその場を包んでいた。




「緊張するよ」

私は、恭子の家の玄関を開けることがなかなか出来ない。

いくら、なんでもばれたらどうしよう。

それに、急に自分のしているこの非現実な出来事が上手く整理がつかない。

でも・・・

「ただいま」

自分の家ではないのに、いいのかな。

いいよね。

だって私は、外見は恭子だもんね。

「おかえり」

案の定、恭子のおばさんが返事をしてくれる。

どうしよう。

このまま恭子の部屋に行っていいのかな。

「恭子、もうすぐご飯だよ」

「はーい」

そう答えると、階段を上り恭子の部屋へと向かった。




こうして見ると、恭子の部屋は散らかっていて汚い。

服は脱ぎっぱなしで、絨毯はジュースの染み跡が残っていたり、

食べ残しのスナック菓子がベットに平然と置きっ放し。

勉強机は、教科書の代わりに雑誌が重なっている。

恭子は、どこで勉強するのかと不思議になったけど、

するんじゃなくて、しないのかと考えたら合点がいく。

でも、今は自分がそうなんだった。

勉強も運動も苦手な肥満気味な女子中学生。

それが、今の私。

恭子に教わったように、ベットの上に脱ぎっぱなしになった部屋着を手に取る。

こんなの着るのと思ったけど、私じゃないと思えばもうどうでもよかった。

スカートのフックを外すと、お腹の贅肉が勢いよく突き出る。

「うわぁ。恭子、太りすぎだよ」

笑いながら、贅肉をつねる。

「お腹もそうだけど、胸も大きいよね」

太っているせいで、胸は大きい。

制服越しにもその大きさに圧倒されるのに、

セーラーを脱いで真上から見える胸の谷間に驚かずにはいられなかった。

「すごい!!」

でもね。

私は、お腹を見下ろしテーブルの上に置いてある鏡に顔を映す。

正直言って、太って丸い顔に同姓から見ても可愛いという言葉には結びつかない。

「どこから見ても、恭子だよね。あー、なんか嫌だ。明日、一日は恭子なんだよね」

自分が恭子になったことに今更ながら後悔した。











「行ってきます」

私は、他人の制服を着て、他人の家なのにその家の子のように挨拶を言いながら、

自分の学校へと向かった。

「恭子ちゃんおはよう」

私の名前ではないのに、私はその言葉に答える。

「おはようございます」

学校に近づくにつれ、制服姿の生徒が見え始める。

「おはよう」

誰かが肩を叩きながら、私に挨拶をした。

振り返ると、私がいた。

「恭子・・・」

「もう、だめでしょ。ばれちゃうよ」

「あっ。そうだったね」

「うん。では、やり直し。おはよう、恭子」

恭子は、自分の名前を私に向かって言う。

「おはよう、舞」

私も、自分の名前を恭子に向かって言う。

「どうだった、ばれそうになった?」

私は、恭子に聞いてみた。

「それが、全然。まったく、疑われもないよ」

「そう・・・」

笑いながら、そう答える恭子に何だか自分がこのまま恭子のままでも

誰にも気がついてもらえないじゃないのかとそう思った。

「あっ」

クラスメートの松井君が私の横を、すっと過ぎる。

「おはよう、松井くん」

その声に気がついた松井君は、後ろを振り返る。

でも、私の顔をみると、何も答えないで前を向いてしまった。

「えっ」

なんで。

いつもなら、ちゃんと答えてくれるのに。

すると、恭子が。

「松井君、おはよう」

松井君は、恭子の言葉に反応する。

「おはよう」

彼は、足早に前に歩き去っていく。

「聞こえなかったのかな」

そう、呟くと恭子はこう言った。

「うんうん。そうじゃない。私とは口利いてくれないの。クラスの男子全員が」



恭子の言うことは、本当だった。

確かに、恭子が男子と話している風景は見たことがなかったけど、

恭子が話さないんじゃなくて男子が無視しているんだ。

隣の席の子が落とした、ペンを拾って上げても何もお礼を言わない。

無視だけではなくて、休み時間とかは明らかに私の方を見ながら馬鹿にするように笑う。

その反対に、私になった恭子は男子と笑いながら話をしている。

いいよ。

今日一日だけだもんね。

恭子に貸してあげる。




その日の体育は、水泳だった。

最悪のことに男子と一緒。

いつもなら、そんなに嫌でもなかった。

小学校のころスイミングスクールに行っていたお陰で泳げる方だったし。

でも、今はこの恭子の体型で水着をきないとならない。

それが、嫌だった。

「恭子、なに暗い顔してるの?」

本当の恭子は、笑いながら私に話し掛ける。

どうして、私がこんなに悩まなければいけないの。

本当なら、楽しめるのに。

「私、太ってるじゃない。でも、水着を着ないといけないのがね」

私は、ちょっと意地悪を言ってみた。

流石に、頭がきたのか恭子は怒った顔をしてさっさと着替えてプールへと出て行った。

「やっぱり、悪いこと言ったよね」

私は呟きながら、太い体に水着を着込んだ。






どうしようか?

私は、泳げるけど恭子は泳げないんだよね。

そんな悩む私に、恭子は隣のコースを早いスピードで泳いでいく。

「えっ。恭子泳げるの?」

でも、私のそんな悩みは関係なかった。

いくら泳ごうと思っても、泳げない。

ワザとじゃないのにいくら泳ごうと思っても水かきしかならない。

どうして、泳げるはずなのに。

そんな私の姿に男子は、声高らかに笑う。

恥かしかった。

どうしてなの?




その不思議は、普通の授業にも続いた。

やっていることが全くわからない。

自慢じゃないけど、私は頭のいいほうだと思う。

急に進んだの。

でも、みんなは分かっている。

そんな私を尻目に恭子は手を挙げて先生の質問に答える。

まるで、私のよう・・・・

そして、私は・・・・・




怖くなった。

どうしよう。

私は本当に恭子になっちゃう。

思い出せない。

私は、佐々木舞。

でも、お母さんの名前もお父さんの名前も思い出せない。

代わりに、恭子のおばさんの名前も、おじさんの名前も浮かんでくる。

自分は、佐々木舞。

でも思い出せない。

「ああ!!」











起きた時には、私は保健室のベットにいた。

「もう、恭子大丈夫」

「えっ、舞。私、どうしたの」

「どうしたって・・・・・急に叫んでそのまま倒れたんじゃない」

「私が?」

「そう。覚えてない?」

「うん」

「そう・・・・」

舞は、そう言うなりニヤっと笑った。

「どうしたの?舞?」









あとがき

読んでくれてありがとうございます。
少女漫画ではお得意の入れ替わりパターンなんですが、
私はこのパンターンが好きなもので(^^;
温故知新にならって書きました。
ぜんぜん面白くなかったですよね。
最後まで我慢して読んでくださってありがとうございました。

ODが嫌いな方、すみませんでした。