「誕生日」 

作:しんご




体中の何処からも、悲鳴をあげている。
私の心臓は、まるで最後の足掻きのように激しく音を響かせる。
白衣を着た医者と、看護婦が私を懸命に助けようする。


「もう、死なせてよ」


苦しむ中で私はそう願った。
    
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誰かが、体を揺らす。

なんだ。私、生きていたんだ。
昨日の発作で、私はもうダメかと思った。
今日は、私の最後の誕生日。

やっぱり、嬉しい。

私が、ここまで生きたって言う数字が少しでも増えるから。
昨日だったら今まで頑張った364日が無駄になってしまう。
窓越しから射す朝日が目に入る。


「おはよう」


そうそう。
今日も、私を起こしてくれる看護婦さん。


「おは・・・・」


起こしてくれた看護婦さんに私は返事をしようとした。
でも、私を起こしてくれたのは見知らない中年の女性だった。
白衣もきていない。だから、看護婦さんではない。
それに、親戚でもない。
本当に一度も会ったことのない人に私は起こされ、
何がなんだかわからない。


「智美、日曜日だからってあまり寝ているんじゃないのよ。
 朝ごはん出来ているから、早く下りてきなさいね」


えっ何言っているの?

私は、ひとみ。
智美っていう名前じゃない。
おばさんに、そう言おうとベットから体を起こした。
言おうとした私の前に、もっとわからない状況に言葉が口から出てこない。
部屋から出て行く女性。
そこが、私のいた病室なら私は女性にこういっただろう。


「誰かと間違えてはいませんか?私は、河合ひとみです」


そう言おうとした。
でも、私がいまこうしている場所は、昨日までいた病室ではない。
病院内の違う病室ではない。
私が寝ていたベットは、白いパイプで白い布団ではない。
私の周りを囲んでいたカーテンも隣のおばあさんも、
向かい側のお兄さんもいない。
あるのは、机に本棚にちいさな黄色いテーブルに、ベット。
真っ白い病室ではなくて、
ここは、どこ?

さっきの女性だろうか。
階段を下りる音が聞こえる。
女性が言った言葉が、ふいに頭を過ぎる。
部屋にあった、手鏡に私の顔を映した時
何本も重なり絡む紐がとけた。

ともちゃん。

昨日、私を訪ねて来てくれたともちゃんの顔がそこに映った。



他人の家に無断に入っているような罪悪感で、
階段の前で躊躇している。
ただでさえこの状況に戸惑っているのに、
私の心臓はこんなにもドキドキしている。
胸に手をあてる。
でも、いつもとは違う鼓動。
そうか、この体は私じゃないんだ。
心臓だって私のじゃない。

私は、ともちゃん。

この家はともちゃんの家なんだから。
本当の私がここにいたら、おかしいけど
今の私なら大丈夫。
オドオドしながら、階段を下りていった。


「どうしたの、智美?」

「えっなんでもないよ」

「そう」


向かい側に座るともちゃんのおばさんには、やっぱり可笑しいと思われるみたい。
でも、私にはともちゃんが毎朝どうしているわかるはずがない。
もう、ともちゃんを演じることの難しさに戸惑う。
私は、今の状況をおばさんに話すかどうか考えた。
でも、どうせ信じてくれない。
だって自分だって信じられない。
だからまず自分が、自分の体がどうなっているのか見るまでは話すのはやめようと考えた。
いくら、私がともちゃんの体をしているからといっても、
おばさんと二人だけの状況にいつまでも耐えられない。
早く、病院にいかないと。


「いただきました」

「あら、智美もういいの?」

「うん」


私は逃げるように、ともちゃんの部屋へと戻った。

とりあえず着替えないと。
クローゼットを開ける。
何着もかかるともちゃんの服。
本当は早く着替えて病院に行かないといけないのかもしれない。
でも、私はともちゃんの制服に目が留まった。
これが当たり前なんだ。
制服をきて、学校に行って勉強したり、友達と話したり。
そういうことが普通なんだ。

だけど、私は違う。

いつも同じ服を着て病院という閉鎖的な場所に毎日毎日、ただ死を待つだけの日々。
なんだか、ともちゃんと私にはすごく大きな差があったことを痛感させられる。
服を取ろうと伸ばした手の色にやっぱり違うなと思った。
私の腕の色はもっと真っ白い。
でも、ともちゃんの腕は少し焼けている。
着いるパジャマの胸元から見える胸も私とずいぶん違うことを思わせる。
他人の体をこうして見たことなんてない。
ブラつけていない大きな乳房がパジャマを脱ぐとぶるんと震える。
白いショーツに、私よりか大きな胸。
私の胸についた乳房を片手でつまんでみる。
軽く揉むだけで女芯のほうに快感がジワジワと伝わってくる。
ほんの少しの興味からだった。
でも、もう我慢できない。
ショーツを脱いで、ガバッと足を開き、股間を覗き込む。
自分のまるで違う。
ピンク色がいやらしく染まって、綺麗に無駄毛を処理されている。
なんだか急に大人になったみたいで、それでいて自分が子供だったと認識させられる。
いつも自分がやっているように二本の指をワレメへと入れていく。


「はぁ・・・ん・・・・」


クリトリスは、収縮を繰り返し恐ろしく敏感だった。
感度の大きさも私とぜんぜん違う。
左手で乳房を揉んで、右手はクリトリスをいじる。


「あ・・・ん・・・・いい・・・・つ!」


快感がジンジン伝わって、体は背をのけぞらせて
クリトリスをいじる指の動きは思わず速くなる。
自分は今、ともちゃんになっているんだ。
私よりも感度の良いアソコ。
それを私がいじっている。
ともちゃんの顔をした私が、ともちゃんの指を使って。
そう、考えると妙に興奮してきて体もアソコもますます熱くなっていた。


「あら、智美どこかに出かけるの?」

「うん・・・ちょっと出かけてくる」

「そう、遅くなら電話しなさいね」

「はい」


よかった。
さっきの聞こえてないみたい。


「行ってきます」


ドアの向こうは懐かしい景色だった。
ともちゃんと私の家は、歩いて数分のところ。
ここもよく来たことのある場所だった。
そして、なによりも久しぶりの外の世界。


「わん、わん」


家の庭に一匹の犬がいた。
そうか、ともちゃんの家って犬を飼っていたんだ。
小学校のころ、私はこの犬にいつも吠えられていた。
何度も、頭をなでようと思っても出来なかった。
家族以外、みんなに吠える。
名前は・・・・そう、スカイ。

今だったらできるかな。

私は、恐る恐る首輪に繋がれたスカイへと歩み寄る。
案の定、スカイは私をともちゃんだと思って尻尾を振らして
頭をなでさせてくれる。


「ばかね。私は、あなたの飼い主じゃないのよ」


ともちゃんじゃないっていても、私は何処から見てもともちゃん以外に違いない。
この顔も、声もそして匂いも私ではない。
この犬が間違えても無理がないか。
だって、親だって私を偽者だって気がつきはしない。
私を娘だと信じて、笑顔で送り出したおばさん。
そうか、ばれる訳がないじゃない。
誰も入れ替わっているなんて思いはしない。
そんな馬鹿なこと起こるなんて、考えない。
私の体に入ったともちゃんが誰かに言わない限り。
そんなこと思うはずないじゃない。
もしも、そのともちゃんが・・・・・・・・・・


彼女になれば私は自由になれる。
もう苦しまなくてもいいんだ。
もう死を恐れなくても良いんだ。
もう明日を恐れて寝なくても良いんだ。
外を自由に歩けて、
学校にも行けて、
友達としゃべったり。

私は、病院までの道のりをそんな恐ろしいことを考えていた。
私が、いやともちゃんが死んでいることを。
そうすれば、私が藤井知美になれる。
そう、なっていることを願ってともちゃんのいる病室へと足を踏み入れた。







あとがき

最後まで読んでくださってありがとうございます。
なんとか「誕生日の前日」の完結編を書き上げました。
期待して待っていた人、ごめんなさい。
最近、忙しくてなかなか書けませんでした。
いざ、書こうと思っても、なかなかネタが浮かばなくて。
「誕生日の前日」を書いたときは、ちゃんと考えていたんですよ。
でも、すっかり覚えてなくて^^;
読み返しても、ぜんぜん浮かばないし。
私は、熱しやすく冷めやすいタチなもので
一旦やめちゃうとダメみたいです。
「誕生日の前日」では、智美には彼氏がいる。
そういう設定でした。
その彼氏をここで持ってくるストーリーを考えていたと思うのですが、
まったくストーリが思い出せません。
仕方なく、無視して書き上げました。
ですので、後は皆さんの豊かな想像力にお任せしますね。
ではでは、本当に読んでくださってありがとうございました。