プリンセス・チャーミング
作:嵐山GO


「う、うう・・・むむ」
混濁する意識の中で、オレは目覚めようと必死だった。
だが、なぜか瞼を開けることが出来ない。
四肢を動かそうとすれば針で刺すような痛みが走る。
どうやら瞼が開かないのは巻かれた包帯のせいだった。
それは触らずとも、頬の感触や締め付けられる具合で分かる。
とすると、ここは病院?そういえばなにやら薬品というか
消毒液らしき独特な匂いを感じる。

「目が覚めたかね?」
しっかりとした威厳のある男の声がすぐ目の前で聞こえる。
「あ・・・あうう・・・オレ・・私は、なぜここに・・」
ハスキーというのは程遠い、ひしゃがれた酷い声だった。
年老いた老婆のような声だ。
喋ろうとすると、紙やすりで喉の奥を擦られるような痛みが走る。
「喉が渇いただろう。ほら水だ。飲みなさい」

背中に当てられた手によってゆっくりと上体を起こした。
口元に急須の先端が当てられ、それを口に含んだ。
ごくっ、ごくん
「何か、思い出したかね?」
医者がさらに質問する。
オレはなぜ、こんな所に・・・病院に寝ているのだろう?

生まれてこのかた、殆ど医者の世話になったことはない。
ましてや病院など。

オレは自分の本当の親の記憶がない。
両親はオレが生まれてすぐに道端に捨てた。
孤児院に入れられたようだが、その記憶も無い。
やがて里親に出された。
子供のいなかった、その夫婦は初めはオレを大切に
してくれた。

だがオレが小学校に入る頃、その夫婦に子供が誕生した。
さらに1年後には二人目が生まれた。
この頃になるとオレの居場所が無くなってきた事を痛烈に
感じた。
オレの記憶が正確に刻み始めたのは、この辺りからだ。

だが今考えると、虐待も苛めも無かった事は運が良かった。
オレの生い立ちを知ったのは中学に入る頃だった。
「お前は私たちの子ではない」のだと告げられた。
この事実を知った俺は、一日も早く義務教育を
終えたかった。

中学を卒業して、この家を出る事がオレの義務であり
目標であると思われた。
だが当面は勉強の面でも、健康の面でもこの夫婦に
面倒はかけまいと誓った。
勉強することは嫌いではなかったので、本心からいえば
進学を望みたいところだった。

そしてオレは予定通り中学を卒業し、家を出て
警備会社に就職した。
こういった場では現場で働く人間にとって、あまり
学歴などを意識しないので気分的には楽だった。
事実、いままで転職を考える事も無く、こつこつと
真面目にやってこれた。

20年か・・・
独身のまま20年という年月が流れた・・・。
その間、オレは育ててくれた夫婦とは一度も
連絡を取った事は無い。
向こうもそれを望んではいないだろう。

この年になるとさすがに「チーフ」とか「主任」
とか呼ばれたりする。
だが学歴の無いオレはたぶん、このままずっと
現場にいることだろう。

「思い出せそうかね?君は人の命を救ったのだよ」
黙り込んでいたオレにまた医者が声を掛けた。
「人の・・命・・ですか?そういえば・・・」
喉を潤したせいか、先程より声が通る。
ただし今度は裏声で喋っているような気味悪い声だ。

あの日・・・
オレはいつも通り出勤して前もって命じられていた
仕事に就いた。
それは、某国より来日したお姫様の護衛という任務
だった。
沢山のSPや私服警官などに混じってオレたちのグループも
窓から手を振る少女を乗せた黒塗りの車と同行した。

ゆっくりと車が走る・・・窓を開けて街道の人たちに
満身で笑顔を振りまく。
細かな所まで覚えてはいない。
ただ、ビルの屋上に間違いなく見えた。
あれは人影?そう、鈍く光る銃口も見えた。

考えるより先に身体が動いていたと思う。
オレはとっさに少女の前に立ちはだかり、
そして・・・大きな銃声を何回か聞いた。
身体が背後の車に叩きつけられバウンドし、
そして景色がゆっくりと斜めに倒れていく・・・
大勢の人たちがもの凄い形相で大声を上げて
いるようだったが、俺にはもう何も聞こえなかった。

「オレは、いや私は助かったんですね・・お姫様は?」
いくら唾を飲み込んでも、声のトーンは
変わらない。
相変わらず、気色の悪い声が鼓膜を響かせる。
「死んだよ。君はね」
「え?今、なんと・・・」
しっかりと聞こえたはずなのに意味が理解できなかった。

「君は死んだんだ。その身体は君のものではない」
「言っている意味が分かりません。私ではないと?」
「ああ」医者はそう返事をした後、看護婦に何かを
指示していた。
どうやら体中に刺されている、注射針のようなものを
抜いているようだ。

「もう怪我は完全に完治している。包帯も今、取って
あげるから目も開けられるだろう。何もかも説明は
その後だ」
シャーという音がしてカーテンが閉じられた。
続いて女性の優しい手先でオレの頭部に巻かれた包帯が、
緩められた。

「さあ、もういいよ。ゆっくりと目を開けてごらん」
医者の言葉を聞いて、瞼を僅かずつ持ち上げてみる。
「うう・・・眩しい」
何年か振りに光をみるようだ。まともに目を開けていられない。

「どうかね・・・見えるかね・・・」
「はい・・・先生と看護婦さん、それに病室も」
看護婦は思っていたよりも若くはなかった。婦長クラスかもしれない。
「結構だ。どうかな?どこか身体で痛いところとか
あるかい?」
オレはシーツを掛けられたままの上体をすこしひねったり、
軽く両肩を持ち上げたりしてみた。
「特に何も・・・ただ喉の調子が悪いみたいで声が変なんです」

「君、鏡を」
看護婦が移動テーブルの下から鏡を取り出す。
「何もおかしい事はないんだ。ほら、自分の顔を見てごらん」
オレは言われたとおりに、鏡を受け取り自分の顔を映し見た。
「こ、これはオレじゃない・・・女の顔だ。どういう事ですか?」
それは若い少女の顔つきだった。本来なら金色になびく髪が、
ばっさりと切られたのかスポーツ刈りのように短い。


「その身体は君が命をかけて守ろうとした、お姫様の身体だよ」
言われて見れば、そうだと今になって気づいた。
気づかなかったのは短くなった髪のせいか、あるいは初めて
間近に見るこの顔のせいか・・・。

「え?しかし、どうしてオレが、お姫様の身体なんです!お姫様はどうなったんですか?」
もう体裁など考えてはいられなかった。
やっと身体が自由になって目も見えるようになったというのに、まるで振り出しに戻ったようにオレは混乱した。

「ここから先は私が話すことではない。私は今日、君の完治を
確認しに来ただけなのだ。申し訳ないが」
看護婦はその間、オレの身体、いや少女の身体の体温や脈拍、
脳波など小型の機械で、てきぱきとチェックし「問題ありません」と言った。

「では私たちはこれで失礼する。すぐに代わりの人が来るから
細かな事情はその人に聞きなさい。今後の事もね」
二人は精密機器を乗せたテーブルを押して、病室を出た。
看護婦が出る際に、ドアの脇のスイッチを押したので、
窓のシェードが僅かに角度を変え、部屋は一層明るくなった。


「オレを、こんな姿に変えて一体どういうつもりなんだ?」
いつまでたっても声が戻らない原因は分かった。
そして、その少女のキュートな声でオレは不安を漏らし続けていた。
シーツを完全に捲ってみる。
おそらくシルクなのだろう。高級そうな、それでいて
フリルの使い方が可愛いパジャマが着せられている。

「オレはどれ位、ここに寝ていたのだろう?こんな格好を
しているということは傷はとっくに直っているのか」
ゴムの入っている袖口をたくし上げる。
少女の細い、しかし健康そうな色をした腕が現れる。
「どこを怪我したんだろう・・・あの時、オレは
お姫様の前に壁となって立ちはだかった。だが貫通したか、
もしくは散弾した弾のいずれかがお姫様に命中したのか?
それにしてもオレはともかく一発や二発当たったところで
死ぬことはないだろう。それとも心臓に・・・?」

オレが淡いピンク色のパジャマのボタンに手をかけたその時、
部屋がノックされたのでドキリとした。
「・・・はい」
かちゃり
静かな音を立てて、ドアが開きスーツ姿の男が入ってきた。
端正な顔立ち。髭を蓄えているが、まだ40歳前後だろう。
日本人でないことは、すぐに分かった。

「#$%&」
何かを発したがオレには理解できない異国の言葉だった。
「姫様・・・サリア姫・・・良かった。本当に・・・」
男は目にいっぱい涙を溜め、今度は日本語で言った。
「あなたは・・・?」
「私はガイーデと言いまして、姫様の身の回りの事を全て
任せられているものです。私の事が分からないのでしたら、
やはり脳は、あの方のものですね」
「は・・はぁ?」
「私は日本語は喋れますが、あまり上手くはないかもしれません。失礼がありましたら、お許し下さい」

「教えてください。私はなぜ、お姫様の身体なのですか?
医者は私は死んだと言いました。お姫様はどうなったんです?」
先程、答えを得られなかった分、立て続けに質問した。
「貴方は楯となって姫を守ってくれました。結果、あなたの身体には無数の銃弾が打ち込まれました。だが姫は・・うっ・・」
男は一旦、言葉を詰まらせたが、すぐに続けた。

「貴方を貫通した弾の一発が、姫の側頭部より進入し脳を破壊したのです」
「え?脳を!」
「そうです。二人とも病院に運ばれましたが、姫は即死です。
だがあなたは出血が酷かったにもかかわらず、かろうじて命を
取り留めていました。だが、それも時間の問題だったのです」
「・・・」
「身体中に浴びた弾の傷は直すよりも早く悪くなっていったのです。
心肺と脳波が弱くなっていく中、我々は決断したのです。あなたの脳を姫に移植しようと」

「勝手に決めてしまったことをお詫びいたします。しかし、この決断を下したのには重大な理由があるのです」
「・・・はい」
「今、我々の国は政情が非常に不安定です。王政が揺らいでいます。
国家の転覆を図った者達が、王家を転覆させようとしています」
「よく分かりません・・・すみません」

「私たちの国は小さいですが、僅かに取れる金と天然ガスで民は平和な暮らしをしています。ずっと昔から、この国では争いごとは少なく何も問題はありませんでした。ところが貴方の、いえ姫のお母様があなたをご出産後、亡くなられた頃から少しずつ事態が変わっていったのです」
「お姫様のお母さんは亡くなっていたんですか。知りませんでした。無知なもので」

「恥じることはありません。あまり公に、国外に漏らすようなことでもありませんから。話を戻しましょう。つまり、その時点で国を継ぐべく男子の誕生が望めなくなってしまったのです」
「それは王様が再婚なされば、解決する事でしょう」
「奥様を愛しておられました。姫様が大きくなられるまで、再婚の話は全く出ませんでした。そして姫の後押しもあって始めて再婚の話しが持ち上がったとき、王は凶弾に倒れました」

「そんな・・・」
「今回、あなたのご活躍であらかた組織を壊滅できたと思っています。
だが、ここで姫様まで失う事になると、今度こそ大掛かりな国家転覆が予想されます。お願いします。我々の国で姫となって国を支えてください!」
「でも私は政治にはまったく無頓着でして・・ましてあなたの国のことなど」
「いいのです。あなたが、姫が生きてご健在であられる、それだけでいいのです」

「日本に来てしまって大変な事に合ってしまわれましたね」
「遅かれ早かれ、姫のお命は狙われていたでしょう。私たちは、一時的にでも身を隠すため、それと日本という国を知るためにここに来たのです」
「日本を知るため・・・?」
「ええ、この国は天皇制でありながら民主制も同時に布いています。
我々の国も不平、不満をもっと平等に民から聞くためにも民主政治の
利点を取り込もうと思います。結果論ですが、もっと早くに気づいていれば
今回のような不平分子を作る事も無かったのかもしれません」

「話はだいたい察しましたが、いずれにしても私には荷が重過ぎます」
「失礼ながら、あなたの過去や身辺について調べさせていただきました。
さすがに本当のご両親については消息が掴めませんでしたが、あなたを育ててくださったご両親ですが。今回、あなたがこのような立派な仕事をなさったにもかかわらず、お葬式に来られませんでした。あなたの顔も名前も報道され、素晴らしい名誉を与えられたにもかかわらず」

初めて自分の葬式という表現を聞いて、少しずつだが本当の自分はもうこの世にいないのだという実感が湧いてきた。
「・・・そうですか」
「こんな冷酷な言い方は好きではないのですが、あなたにはもう帰る場所がこの国にはないのです」
「そうかもしれませんね」
「私の国で、もう一度14歳からの教育を受けて人生をやり直しては頂けませんか?」
「ええっ!?お姫様はまだ14歳なんですか?」
「ご存知ではありませんでしたか?そうです、まだまだ子供です。この国でいうところの中学生ですか?どうです?もう一度、その若い身体で中学から初めて高校、大学へと行ってみたくはありませんか?」

「し、しかし・・・言葉が・・・」
「当面は何か理由を作り宮廷内でわが国の言葉の勉強から始めましょう。なに問題ありません。あなたの事を知っている者は私を含め数人ですし、銃弾に倒れたニュースは既に世界中に流れてます。言語障害か、もしくは一時的な記憶喪失と言えば誤魔化せるでしょう。それにあなたが間違えて日本語を喋ってしまったとしても誰も気づきません。私、以外は」
男は優しい笑みを浮かべた。
固い事ばかり言うが案外、いい人なのかもしれない。
だからこそ、姫のお目付け役に任命されているのだろう。

「大学に行く頃には国も目標を見つけ、安定している事でしょう。それは私が責任を持って保障いたします。あなたは海外留学するなり、一時、日本に帰って社会勉強するなり、お好きになさって構いません。ボーイフレンドも出来るかもしれませんね。あははは・・・あ、いや失礼」
「はあ・・・」
オレは今のジョークには正直、笑う事が出来なかった。
まだ心の整理が何も出来てはいないのだ。

「そして、出来れば・・・」
男は何かを言いかけて止めた。
「出来れば?」
「いえ、なんでもありません」
たぶん結婚して子供を生み、王政を継承して欲しいとでも言いたかったのだろう。
だが、そんなことよりもオレに決断して貰わなければならない、先程の返答がまずは最優先なのだ。

男はじっとオレの顔を見ていたが、決断しかねていたので突然、正座し手を付き額が床に付くほど深々と頭を下げた。
「どうかお願いします!」
「や、やめて下さい。土下座なんて」
「この国では、誠心誠意、人にお願いするときはこうするのだと聞きました。どうかお願いします」
「そ、それは間違っています。どうか頭を上げてください。分かりました。分かりましたから!」

「そ、それでは?」
男がゆっくりと顔を上げ確認する。
「自信はありません。でもすでにお姫様の身体を頂いた以上、
お断りする理由もありません。どうか、よろしくお願いいたします」
「おおっ、なんという・・・有り難いお言葉。感謝いたします。
どうぞ私どもに出来る事は何なりと申し付けてください。何なりと」
男はオレの小さな手を取って両手で包み込むように力を込め言った。

しばし間を置き、男が立ち上がって指を二度鳴らした。
ドアが開いて、若い女性が三人入ってきた。
各自は驚きと喜びの声を小さく上げたが、オレにはどう対応していいか分からなかった。
「着替えてください」
男がオレの耳元で小さく囁いた。
「え?」
「ここの病院の院長が下で記者会見をしています。さすがにまだ今日は出席は出来ませんので、せめてベランダに出て外に向けて手を振って下さいませんか?」


一人の女が衣装ケースを開けてドレスを取り出しオレに着せようとした。
「しばらく向こうに行っています」
男は、三人の中では格上らしき女と無線を使って何やらやりとりを始めた。
また別の女がオレに長いウィッグを被せ、薄い化粧を施した。
最後に宝石が幾つも散りばめられたティアラを頭上に載せる。


少しだけ高いヒールの靴も履かされた。
大きな鏡に全身が映される。
「こ・・これが・・オレ・・?」
あまり喋ってはまずいと思ったが、思わず言葉が口から漏れた。
十代の穢れを知らぬ美少女が不安そうにオレを見ている。
(そんな悲しそうな顔をしないでくれよ)

じっと鏡を見ていると、ブーケのような花束を手渡された。

「準備が出来たようですね。おおっ!!美しい。姫・・・サリア姫。#$%&」
男が何か言うと、三人の女たちはまるで昔、TVか何かで見た従者のように床に膝を付き、頭を垂れた。
「止めてください・・・そんなこと・・」
「いいんですよ。それよりも、さぁ、ベランダに出てみてください」

男がドアの鍵を開錠し、まず先に出た。
歓声が聞こえてきた・・・ヘリコプターの音も聞こえる。それも一機や二機ではない。
「さ、姫。こちらへ」
「・・はい」
オレは慣れない靴で、歩き出した。
久しぶりに太陽の下に出ようとしている。あと三歩・・あと二歩・・あと一歩・・

「ウワーッ!!!姫様ーーっ!おめでとう!おめでとう!」
病院を取り巻く敷地内と通りにぎっしりと人がいた。
ここは5階くらいの高さだろうか?それでも遠くまで大勢の人がお祝いに詰め掛けてきたことが分かる。
中には垂れ幕のようなものも見える。
「サリア王女様、ご退院おめでとう」と日本語で大きく書かれていた。

「退院おめでとうと書いてます」
「そうです。姫はもう元気になられたのですよ。このまま今日は退院です。
ほら、手を振ってあげてください。皆、あなたの事を心配して、喜んで駆けつけてくれたこの国の人たちです」
オレは言われたとおり手を振ってみた。
歓声が一斉に沸きあがる。
「オレ・・・私、生まれて初めてです。こんなに多くの人に心配されて、喜んでもらって・・・嬉しい」
涙がとめどなく溢れた。
「良かったですね。あなたの、姫の元気なお姿が今、全世界同時に流れていますよ。
ほら、あのヘリコプターはBBC、あっちはABC・TVでしょうか?
今、頭上を通っていったのはNHKでしょう?」

「嬉しい・・・嬉しい」
夢中で手を振った。笑顔だか泣き顔だか、自分でも分からなかった。
ただもう感動して、千切れるほどに手を振り続けた。
あの日・・・オレが護衛に付いた日も、お姫様は街頭の人たちにチャーミングな笑顔を振りまいていた。
(オレも、あんたみたいな可愛い姫様になれるだろうか?自信は無いけれど・・・頑張ってみるよ。サリア姫・・)

「さ、もうこの辺でいいでしょう。中に入りましょう。明日から忙しいですよ。
朝から記者会見、そしてテレビ出演。あ、でも何も喋らなくてもいいですからね。そして三日後には帰国です。国を挙げての盛大なお祭りが待っています。
民衆は姫の一日も早い帰りを待ち続けているのです。この数万倍にも匹敵する民達に、お城から手を振っておあげなさい。国全体が揺れるほどの、大歓声が湧き上がりますよ」
「はい。はいっ!」

オレは姫の名前を呼び続ける人たちに振り返っては手を振って答え続けた。
何度も、何度も・・・。