やっぱりスカート #08 マーメイド

作:夏目彩香


人工池の広がる横にある公園で気が済むまで『撮影会』を終え、再びショッピングモールへと戻って来た。若本(わかもと)店長に言われた通りにロングコートに身を包んでいる池田心優(いけだみゆう)と白鳥舞衣(しらとりまい)は飯田航(いいだわたる)のエスコートで、さきほどもらったリーフレットのお店に向かった。系列店と言うことだが、若い女性が好みそうな通勤にも使える衣装が並べられているショップで、航が若本店長に薦められたと近くにいた店員さんに伝え、帰宅するためにちょうどいい服装に制服から着替えたいと話した。

店の奥へと二人を案内すると、二人のスタイルに合わせて試着用の組み合わせを持って来た。ネームプレートには奥芝(おくしば)と言う名前とその上には主任スタイリストの文字が入っているだけに、二人の姿をさっと確認するだけですぐに二人に最適な衣装を思いついたようで、二人のためにそれぞれのコーディネートを持って来て、ハンガーラックに吊るした。

池田心優に対しては、トップスにはフリルがついて胸元にはボウタイが揺れるチャコールグレーの三分丈のブラウス。ボトムスは腰のあたりから太ももの辺りまでは真っ直ぐ落ちて行き、その下には裾がたっぷり広がるタイプの黒のマーメイドスカートと言うコーディネート、綿でできている生地がフワッとした着心地となりそうな感覚、足元にはちょっとヒールのあるマットな黒のパンプスを合わせるのがオススメと言うことで、スカートの下に置かれている。

それとは別に隣には白鳥舞衣のコーディネートも並べられていた。トップスには丈が短めのサーモンベージュの半袖ボートネックTシャツ。ボトムスは腰元はタイトだが、裾下部分だけが広がるサテン生地でさらっとツルツルした生地感を持ったマーメイドスカート、スカートの下には白のスニーカーが置かれており、完全にカジュアルなスタイルだった。

ハンガーラックに吊るされているそれぞれの衣装を触ってみたり、身体に合わせてみたが、やはり身につけてみないことにはわからなかった。それぞれサイズを確認するとそれぞれ試着室へと入って着替えることにした。航は二人の脱いだ制服を回収して丁寧に畳んで紙のケースに収めていた。さきほど買ったばかりの制服だが、しばらくは着ることが無いだろう。二人がもともと身につけていたものを一緒にするとかなりの量となる、やっとのことで持ち運べる大きさだった。

試着室からまずは心優が出て来た。さっと見た限りモード系の装い、フォーマルにもカジュアルにも見える。姿見に映る心優は色々な表情を作ってはポージングを取っていた。こうして見ると心優って清楚でお淑やかな女性なんだと改めて気づくのだった。そんな姿を見守る航も、心優が時より見せる笑顔に癒されていた。

少しして、今度は舞衣が試着室から出て来た。身体のラインが目立って、揺れ動く裾、サテンが光と相まってキラキラと反射して、様々な表情を見せていた。こんな装いで会社に来ることはないので、白鳥さんのしなやかな身のこなしを目の当たりにするとデートに誘いたくなる、そんな装いだった。

会社の中では感じることのない魅力に気づき、このままの服装でお茶しに行きたい。そう思うのだった。ここでももちろん航のカードで決済を済ませ、試着したままタグを取ってもらい、一緒にコーディネートしてもらったパンプスとスニーカーも購入して店を後にした。

またまたモールのゆったりとした幅のある通路を歩くのだが、心優自身がヒールのあるパンプスに慣れてきないためか、なんだかぎこちない歩き方になってしまう。それでも、目の前の視界が広がって、目線が高くなったことで女性としての優越感に浸り始めた。しばらく歩くと先ほど制服を買ったショップの前を通り過ぎたが、若本店長が気づいて店の前まで出て来た。

「飯田様!それに心優さん、舞衣さん、あちらでもお買い上げいただき誠にありがとうございます。撮影会は堪能されましたか?」
「心遣いありがとうございます。おかげさまでたっぷりと撮影して来ました」
「紹介したお店の店長はグループの中でも抜群のファッションセンスを持っていますので、コーディネートされるがままにお買い求めされたんじゃないでしょうか?」
「ははは、ご察しの通りです。おかげで、僕にとって今日は明細の山が増えました」

そうやって少し談笑してから、若本店長は航が手に持っている紙袋や紙ケースに向かって細くて白い腕も伸ばし、手を添えて言った。

「飯田様、もし宜しければそちらのお荷物をお預かりましょうか?お疲れもあると思いますし、カフェや喫茶店でご休憩された後に立ち寄っていただければ、スタッフが対応させていただきます」
「では、お言葉に甘えさせてください」
「はい、喜んで承ります」

そう言うと航が手に持っていた紙袋と紙ケースを手渡す。そして、次に向かおうとした三人だったが、航が若本店長にまた声をかけた。

「あのぅ、今の時間、この状況にちょうどいいカフェってありますか?」
「もちろんオススメのカフェございますよ!」

すると若本店長は他の店員に何やら声をかけて、店のことを任せたらしい。

「ちょっとわかりにくい場所にございますので、私が直接ご案内させていただきます」

こうして、若本店長に先導されながら次なる場所へと向かった。

そして、しばらく歩くとモールの端っこのような場所に辿り着いて、ゆったりと寛げそうな居心地のいい空間が広がるカフェに着いた。

「こちらになります」
「わざわざお付き添いいただきありがとうございます」

航は若本店長にお礼の言葉を伝えると、その瞬間、何やら閃いたようで、ここから立ち去ろうとする若本店長に声をかけた。

「若本店長、もしよろしければ?ご一緒するお時間はありませんか?」

「今の時間はお昼休憩として抜けて来たので、ご一緒させてもらえませんか?飯田様御一行の素性も気になりますし、30分だけお話しさせてください」

意気投合すると4人はカフェの中へと入って行った。大きめのソファーと広い木のテーブル、隣の席とは距離もある上に仕切りがあるため、半個室のような空間となっていた。奥に航と心優が向かい合うように座り、心優の隣に舞衣が、そして、航の隣には若本店長が座った。店員さんに注文を伝えると、沈黙を破ったのは航だった。

(つづく)


(あとがき)

しばらくぶりの続編となります。新しい作品を書いたことで、こちらも続きを書けるようになりました。しばらくは2つのさくひんを並行して書いていくようになります。引き続き不定期での公開となりますので、気長にお付き合いください。

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