やっぱりスカート #07 プリーツ 作:夏目彩香 「お二人がお待ちかねですよ。こちらにどうぞ」 若本(わかもと)店長に案内された飯田航(いいだわたる)は池田心優(いけだみゆう)と白鳥舞衣(しらとりまい)がいる店の奥にある部屋へと案内されていた。部屋とは言っても簡易的な仕切りがあるだけなので、二人の声が聞こえて来そうだが遮音性には優れているようだ。スマホの写真で見る限り、二人はずいぶんと若返っているように見えた。いよいよ対面の時が近づいた。 「お邪魔しま~す」 そう言いながら航は扉を開くと、そこでは思っていた以上の光景が待ち構えていた。 入り口のドアを潜り抜け、廊下のように狭くなっている通路を進んで行くとようやく開かれた空間に辿り着いた。部屋の入り口には靴を置くスペースが設けられており、二人が履いていた靴もキレイに並べて置かれていた。航も自分の靴を脱いでキレイに置き直して中へと入る。部屋の中に入ると中程がベージュのカーテンで仕切られている。目の前にある移動式のハンガーには二人が着ていたものが掛けられていた。そして、カーテンの前にはここの店員である40代後半くらいの年配の女性が立っていた。胸元のネームプレートには須藤(すどう)の文字があり、その上にはチーフの文字が加えられている。 「じゃあ、あとは須藤さん、お願いね」 ここまで航を案内をした若本店長は、須藤チーフに役割を引き継いで部屋から出て行き持ち場へと戻って行った。どうやらここから先は須藤チーフが担当してくれるようだ。カーテンの向こう側には二人が待っているはずだが、騒ぎ声のようなものは聞こえず静まり返っている。 「飯田様、ここからは私(わたくし)、須藤が担当させていただきます。まずは、お二人の今のお姿を見てみたいですよね」 そう言って須藤チーフは航に対して軽く挨拶をしてから、次の流れを教えてくれた。カーテンの中にさっと自分の顔を入れて、どうやら二人に確認を取っていた。 「心の準備もできたそうです。では、カーテンを開けさせていただきます」 須藤チーフはそう言うと、中央にあるヒラヒラとカーテンが靡いて、奥にある空間が広がって行った。まるで撮影スタジオのような空間が現れ、スポットライトに照らされている二人のシルエットが映し出されるのだった。思った以上に眩しく目が慣れるまでは何も見えなかった。目が徐々に慣れて来るとポーズを決めている二人の姿が浮かび上がって来た。航はスマホのカメラを素早く起動し写真に収め、それに呼応するかのように二人はポーズを変えて、次から次へと撮影を続けるのだった。まるで即席の『撮影会』が開かれているようだった。二人で並んだ写真を撮ったかと思いきや、続いては心優だけ、舞衣だけと言う風にこの空間の中で自然と振る舞ってくれた。 「どうやら気に入っていただけたようですね」 須藤チーフは三人の雰囲気が落ち着いた頃を見計らって、一言声をかけると『撮影会』は終了した。 「まずは、当店をお選びくださりありがとうございます。通常はこのようなことはしていないのですが、お二人の熱意に打たれてしまい、夢の実現をお助けできたらと思いました。メインのお召し物に合うように小物は私の方で見立てて用意させていただいたものです」 そう言いながら須藤チーフは一枚の紙とパンフレットのようなものを航に手渡すのだった。 「それでは、お召し物の説明をさせていただきます。お渡しした見積書とパンフレットを参考にしていただけたらと思います。まずは、飯田様にご確認しておきたいのですが、ご予算的には問題無いでしょうか?」 手渡された一枚の紙と言うのは見積書だった。商品名と金額が並べられており、合計金額が表示されているが、航が思ったよりも高めの金額となっているようだったが、ただ心優がすでに気に入ってしまっている表情を見る限り、問題無い金額だった。 「はい、予算的には問題ありませんので、続けてください」 航にとっては元々自分のお金でも無いので、念のため本来の持ち主の顔色をうかがってから答えた。そして、須藤チーフは説明を続ける。 「かしこまりました。それでは、説明させていただきます。今回、お二人のお召し物ですが、私どものお店で長い間、取り扱わせていただいておりますが、一度リニューアルされておりますので、お二人の時代に販売されていたものではありません。当時のお品物は中古でなら入手できるかも知れませんが、お二人とも最新モデルで問題無いとのことでしたので、そのままご用意させていただきました」 こう言って航が手に持っているパンフレットを一枚めくるよう須藤チーフは促して来た。 「この中にお二人の出身高校について説明が出て来ますので参考にしてください。もともとは女子校だったのですが、少子化により共学校に転換となっており、その際にリニューアルされた制服となります。以前もブレザーではあったのですが、どこにでもあるようなスタイルから、有名ブランドが手がけたことも影響したのか出願者数が倍増したそうです」 ここからは須藤さんは衣装に触れながら説明を始めていた。 「清楚で洗練されたデザインが特徴のこの制服ですが、夏服は、白いブラウスに涼しげなグレーのチェック柄プリーツスカートが基本スタイルです。襟元には池田様はリボン、白鳥様はネクタイを選ばれたのですが、暑い季節でも快適に着用できる通気性の良い素材を使っています。スカートは膝丈でして身長に合わせて池田様が55cm、白鳥様が50cmで用意しております」 そこまで言うと心優の口が動き出した。 「膝丈スカートを履く日が来るなんて!私の高校時代には、膝丈では無くて膝が隠れるくらいの丈で無地ベースのデザインだったわよね。まぁ、私はそのスカートすら持っていなくてパンツのみで過ごしたから気にしてなかったけどね」 壁一面が鏡になっており心優は自分の全身を眺めながら、一回転させながら言った。すると隣に立つ舞衣も喋り出した。 「このプリーツの立体感、動くたびに柔らかな揺れが堪らないわ。スタイリッシュで端正な見た目もステキで、清楚さと上品さも垣間見えるよね。それにこの膝丈が動きやすくて清潔感を持たせてるみたい。高校の頃も着ていたけど、素材感がとっても良くてプリーツがシワになることも気にしなくていいみたいね」 自分の制服姿を細部まで確認しながら感想を呟いた。 「お二人ともお似合いだと思いますよ。そもそも制服ですので在校生のみに販売しなければならないのですが、人目につくような場所では着用されないことと、フルセットでご購入されることを条件に店長の判断で販売させていただくものです。実在する高校の制服ですので、できればこのまま堂々と外出されるようなことは無いようにお願いしております」 須藤チーフの話を聞き流しながら、二人はまるでプリクラを撮るかのように一緒にポーズを決め、航に写真を撮るように指図していた。 「ここで、もう少し撮影してから別の場所でも写真を撮りたいのですが、よろしいですか?」 「今日はお休みの日ですし、移動する際に全身をこの紺のコートで隠していただき人目のつかない場所であれば問題ありません」 実際のところ販売に問題は無いが、社会的なことを考えて誰にでも販売するわけにはいかないと言うこと、特別な事情を理解してくれたので、今回は販売を許可してくれたのだ。須藤チーフが見立ててくれた制服コーディネートは次の通りだった。 まず、肝心のスカートはグレーにカーキを基調としたチェック柄で膝丈のプリーツスカート、白いシンプルなブラウスシャツがインされており、首元には心優はリボンを揺らし、舞衣はネクタイを締めている。どちらも同じストライプ柄でブルーとエンジで飾られていた。その上に腰のくびれが強調されたカーキ基調のジャケットを羽織っている。スカートからはスラリとした脚線が伸びている。膝下からは紺色のソックスに包まれており、ワンポイントとして校章が入っている。黒の学生用ローファーが清楚な感じを際立たせていた。二人の肌の色に合わせて、心優はやや赤みのある明るいベビーベージュの、舞衣にはやや黄色みのある明るいシアーベージュのストッキングを身につけていた。そして、目に触れる部分ではないものの、アンダーウェアとしてお揃いのピンクのレース柄のブラとショーツをセットで身につけ、ショーツの上には黒の三分丈のアンダースコートでスカートが捲れ上がっても心配する必要は無かった。それに加えて、身につけていないが、付属するものとして紺のロングコートがあり、普段は防寒具として羽織ればいいのだ。 二人は改めて全身を姿見で確認して自撮りをしたり、航に撮ってもらったり、航と一緒に店員さんに撮ってもらったりと、制服姿を楽しんでいたのだが、やはり室内では物足りなかった。暑さの残る時期ではあるが、ロングコートを羽織って店から出ることにした。航はレジで会計を済ませるが、表示された金額に驚くことも無くカードを出していた。そして、対応してくれた若本店長に感謝の言葉を伝えるのだった。 「本日は、厚かましいお願いを聞いていただき、誠にありがとうございました。二人とも気に入ってくれてとっても良かったです」 若本店長は丁寧にお辞儀をして言葉を続けた。 「いえいえ、私どもの方こそ助かりました。入学前の時期に集中して販売して他の月はお店を維持していくのがやっとなので、この時期に少しでも売り上げを出せたので、こちらこそ助かりました。外での撮影を是非ともお楽しみください」 「ありがとうございます、とっても気に入りました」 ロングコートに身を包む二人も若本店長にお礼を言った。ちょっと暑そうだが、外での撮影はそれにも勝ることなので、ちょっとだけ我慢することにした。 「本日はありがとうございました。外で撮影してまた戻られる予定でしょうか?よろしければ、またお立ち寄りいただけませんか?別フロアにある系列店でのお買い物をご案内させていただきたいのです」 そう言いながら、彼女はリーフレットを航に手渡した。それはどうやら系列店のリーフレットらしく、二人に着せてみるのも悪く無い。 「あっ、ありがとうございます。後で二人に聞いてみて、良かったらまた立ち寄らせてください」 「はい、それではまたよろしくお願いいたします。このたびはお買い上げいただきありがとうございました」 そう言って、若本店長と須藤チーフは三人を見送ってくれた。三人はモールの外に出て行き、人工池が広がっている横の公園へと向かい、気が済むまで『撮影会』を続けていた。 (つづく) (あとがき) しばらく間が空いてしまいましたが、なんとか公開できるようになりました。書き上げてから数ヶ月の間はゆっくりと修正だけ進めていました。前回までのお話をもう一度読み直していただくとよろしいかも知れません。次の展開はまだ頭の中をモヤモヤしているだけですので、気長にお待ちいただけたらと思います。引き続き、気長にお付き合いをお願いいたします。 感想・リクエスト等がありましたらX(旧Twitter)の @skyseafar までお送りください。 |