夜の宴
作:夏目彩香(2003年9月10日初公開)
火曜夜8時、テレビの前に釘付けになっている男がいる。この男、8畳位のワンルームに住んでいる典型的な一人暮らし、台所にユニットバスがついていて、それなりの生活はしているらしい。フローリングの部屋には大きなテレビが置いてある。どうやら男の宝物らしい、いつも大切に扱っているのだ。 きれい好きなのか、部屋の中は片づけられており、いつもの時間になったので、きまってテレビの電源を入れたところだ。最近買ったばかりのハードディスクレコーダーによる録画も始まっている。この男にとってはよっぽど大事な番組らしい。 始まった番組はどうやら歌番組のようだった。最近の歌番組は歌よりもトークが中心のよう。登場する歌手によっては男の見る姿勢が違うようだった。支持していない歌手が出てくる時を使って、台所でお茶を沸かしていた。
そうやっている内に、時計はあっと言う間に8時53分を差していた。番組の終了合図が出るや否や、男はテレビのチャンネルをビデオ2に変えてハードディスクレコーダーの編集を始めている。どうやらいらない場面を削除しているようだ。それが終わると、すぐ横にある棚からポリエチレンの透明袋に包まれたDVD+RWを取り出して、ダビングを始めた。男にはよっぽど気に入ってる歌手がいるらしい。 部屋の真ん中にあるテーブルの上には、さっき煎れておいた湯飲みが置かれており、中にはまだたっぷりとお茶が入っていた。ダビングボタンを押したあとで、男はお茶をゆっくりと飲み始めた。一人寂しくいるだけに、部屋の中はシーンとしてお茶をすする音しか聞こえて来ない。 ダビングをしている間、テーブルの上に置いてあるノートパソコンの電源を入れた。完全に起動するまで5分ほど、ゆっくりとお茶を飲みながら、何かを考えながら起動処理が終わるのを待っていた。 パソコンが完全に起動動作を終えると、デスクトップにはさっきの番組に出演していた女性4人組の写真が出てきた。どうやらこの男はこの4人組のファンらしい、男はさっそくダビングが終わった、DVD+RWをパソコンで読み込み始めると、ハードディスクの中に入れてしまった。 この4人組の出演する番組は常にチェックをしているようで、いつも新しい番組を録画してはこうやってデスクトップの壁紙にしているようだ。男は今日の番組の中で気に入ったシーンを画像にして、新しい壁紙として切り替えた。新しい壁紙は4人が歌っている間の写真にするかトークの時に揃った写真にしようか迷ったが、歌っている間の写真に決めたようだ。 この4人組、まだデビューしたばかりで、みんなが高校生の平均年齢20歳のグループ。今日の番組ではみんなでお揃いの白いワンピースを着ていた。20歳とは言っても大人を感じさせる色気のある4人組。 男はデビューする前から気にかけていたので、この4人組のファンクラブに入ってもいるし、メーリングリストを主宰したり、もちろんホームページだって彼女たち1色であった。よくオフ会で集まったりすることもよくあった。もちろん4人組は男の方が人気が高いし、人によって好きなメンバーが違うのも当然だ。 男はパソコンでメールのチェックをしながら、自分のホームページを開いた。掲示板には4人組から直接の書き込みを受けることもある。まさにサポーターのような役割を成しているようだ。 それでも、男はこの4人とは会ったことが無かったし、会うことはさすがに無理だと思っていた。もちろんコンサートやライブで会うと言うことはできるかも知れないが、プライベートな面では無理な話。とにかく、自分にできることを精一杯やるしか無かったのだ。 男はホームページの中に作った4人組のプロフィールページを見ている。4人組の許可をもらって写真付きのページになっているのが個人ページとしては珍しい。それによると、4人組の簡単なプロフィールは下のようになっていることが分かった。
男のページには事細かな情報が書かれており、出演する番組はおろか雑誌や書籍に至るまで書いてあった。掲示板に新しい書き込みが無いことを確認し、新着メールも無いことを確認すると、男はベッドの上に横になりながら少しだけ疲れをとっているようだ。
少し時間が経つと男は徐に立ち上がって、ノートパソコンをまた開いてみた。1通のメールが到着しているのがわかった。開いてみると、4人組のメーリングリストにメールが入っていた。そこには今日の生出演を見に行くとの内容が書かれていた。放送終了後に届いたのは、おかしいなと思ったが、たぶんメールが遅れて届いたのだろう。 発信元は2ヶ月前のオフ会でも会ったことのある奴からだったようだ。どうやら4人で見に行くらしい。男は、ちょっとがっくりしながらも、恨めしそうな顔をしてそのメールを何度も読み返していた。よく読んでみると最後に追伸が書かれているのに気づいた。ずっーと下の方に書いてあったので、見落としていた。
兄貴と言うのはどうやらこの男のことを差すようで、男はすぐに時計に目をやった。番組の収録が終わってからここに来るのだから、10時過ぎにやって来ることになる。2ヶ月前のオフ会で住所を教えていたので、暇があったら遊びに来いと伝えていたのだ。 とにかく、生収録の様子をすぐに聞くことができるんだから。男ばかりとは言え、男は歓迎する準備を始めた。男の狭い部屋に5人もの人を入れるにはそれなりの時間が必要だ。片づけるのにはまだ時間があるので、男は丁寧に片づけをはじめた。 元からあまり散らかっていないので、男はすぐに部屋の片づけを終えた。時計は10時を指している。さっきの番組が終わった後、すぐにここへ来たとして10時頃なので、あと1時間くらいは余裕を見なければならないだろう。とりあえず、男は自分の好きなお茶を煎れるべく、お湯を沸かして待つことにしたのだ。
時計は11時を指している。待てども待てども男連中はやって来ない。もしやいっぱい食わされただけなのか、男はそう言う風に思うようになっていた。とりあえず男は待っている間、パソコンでメールをチェックし続けていたが、男連中の誰一人からも連絡は無かった。携帯のメールからもやって来ないと言う状態だった。電話番号は知らないので、電話をかけることもできない、どうしたらいいいものかと悩んでいたまさにその時に、玄関のチャイムが鳴らされた。 待ちに待っていた男は、一目散に玄関へと向かった。玄関の前に人のいる気配を感じながら、急いで鍵を開けると、そのままドアを開けた。そして、目の前には白いワンピースを着た4人女性が現れたのだった。もちろん男のよく知っているあのメグ・モエ・アヤ・ユリの4人組だった。 4人組はヒールの高い白い靴を玄関に投げ捨てながら「おじゃましま~す」と高い声を挙げながら、男の部屋に入って行った。男はそれを呆然とした状態で見ていることしかできなくなっていた。なんとか玄関の扉を閉めたが、部屋の中にはメディアの前でしか見ることのできなかった4人の姿がある。 男は玄関に立ちつくしたまま、4人が目の前でお喋りをしている様子を見守ることしかできなくなっていた。さっきまでテレビに出ていたメグ・モエ・アヤ・ユリが自分の部屋に来たのだから当然と言えば当然のことだろう。 男がなかなか部屋の中へ戻ってこないのでメグが声をかけることにした。 メグ「兄……じゃなかった。竹田さん、緊張してないでこっちへ来て下さい。せっかく私たちがここに来たのに、つまらないじゃないですか」 メグはテーブルの前に足をだらしなく広げながら座り、パソコンをいじりながら、男に声をかけた。すると、その一言で男はようやく我を取り戻し、部屋の中へとゆっくりと足を忍ばせながら、入って行くことにしました。 するとメグと同じような格好でパソコンを覗いているモエが竹田に声をかける。 モエ「竹田さん(恥ずかしいな)って私たちと会うのは始めてですよね。掲示板では書かせてもらってたんだけど、いきなり押しかけちゃって」 竹田のベッドの上に座ったアヤは、ワンピースの中に手を入れながら声を出す。 アヤ「メグ姉さんが突然ここに来ようって言うから、私はしょうがなくついて来たけどね」 同じくベッドの上にいて、アヤに寄りかかっているユリは竹田の目を見ながら、話てくれた。 ユリ「竹田さんって、こうやって見てみると格好いいですよね。私って前からどんな人なのか気になっていたんですよ」 4人から声をかけられて竹田の心臓はドキドキものであった。今にも爆発しそうなのは下半身も同じで、竹田のムスコは異常な大きさに膨れあがっていた。 竹田「いきなり人の家にやって来るなんて、驚いちゃって。しかも、初めての出会いが自分の家だなんて、まだ驚いているんだ。何も無い部屋ですが、とりあえずゆっくりして行ってください」 竹田は自分の緊張感を抑えるべく、落ち着いて言うようにした。そして、台所に用意しておいた5人分の湯飲みにお茶を入れ始めたが、いつもと違って腕がガタガタ震えてしまい、うまく急須から湯飲みに入ってくれない。それでも、なんとか5人分のお茶を準備することができた。 竹田「みなさん。お茶大丈夫ですか?」 竹田がそうやって訪ねると4人は口を揃えたかのように「大丈夫」と言った。 テーブルの上に5つの湯飲みが置かれ、4人の中央に挟まれるようにして竹田は座っていた。テーブルを中心にして竹田の左にはメグとモエが、右にはアヤとユリが座っている。竹田にとってはまるで夢の中にいるような光景だった。 可愛らしくお茶を飲む4人組、近くで4人を見てみると薄く化粧をしているのもよくわかり、ほのかな香りが漂って来た。 竹田「俺、4人のファンなんですが、突然家を訪れたのはなぜなんです?」 竹田は気分が落ち着いたところで、4人組との話を始めた。こう言う時は、決まって姉役のメグが最初に答える。 メグ「そりゃあ。兄……いや、竹田さんを驚かすために決まってるでしょ。ここにいる私たちのファンの中でも竹田さんって有名な人でしたんで」 メグの答えを聞いている間、竹田は感激のあまりメグが何を言っているのか聞こえて来なかった。 竹田「ごめんなさい。今、聞いてませんでした」 モエ「だからぁ。竹田さんってどんな人なのか私たちも気になってね。どうせだから家まで押しかけちゃいたいと思ったんです」 竹田「でも、どうやって俺の家がわかったんですか?」 ユリ「この前のオフ会の時に竹田さんが教えてくれたじゃない」 ユリの言葉が終わらないうちにアヤが言葉を付け足した。 アヤ「教えてくれたって人がスタジオ見学に来ていて、教えてくれたんです。男4人組の格好いい人たちばかりで」 竹田「格好いいって?そう思う?」 メグ「アヤは趣味が変わってるからね、竹田さんに比べたら及ばない人ばかり」 モエ「とにかく、男4人で竹田さんの家に訪問するよりは私たちが直接良いんじゃないかって提案したんですよ」 ユリ「それで、ここにやって来たってわけです」 竹田「要するに、スタジオ見学に来ていた野郎連中から俺の噂を聞いてここに来たってわけだよね。ようやく、わかったよ」 メグ「そうそう。私たちこう見えても、竹田さんのような人が大好きなんです」 メグにそう言われると竹田は顔を赤らめた。 アヤ「顔赤くしてやんの。可愛いなぁ」 そう言いながら、アヤは竹田に近づいて来て、抱きついてきた。 メグ「あっ。アヤったらずるいわよ。竹田さんは私のモノなんだよ」 すると今度は、メグが竹田を奪った。 モエ「ずるいのはメグ姉さんでしょ」 そう言ってモエは竹田のほっぺたに軽くキスをすると、4人の奪い合いがはじまった。竹田にとってはとてもおいしい絡みではあったが、4人はだんだんと真剣な目つきになってきた。 ユリ「ねぇ。お姉様方、こうなったら竹田さんに選んでもらいましょうよ」 メグ「いいわ。私が一番よね竹田さん」 モエ「私こそ一番よ竹田さん」 アヤ「一番は私だって、竹田さん」 ユリ「兄貴なら、私が一番よね」 ユリが兄貴と言ったとたんに3人の冷たい視線がユリに一気に注がれた。竹田も気になったようだが、それほど気にした様子は見せていない。 竹田「一人だけ選ぶんでしょ。俺は4人とも好きだからなぁ」 4人の目の前では腕を組みながら悩み始める竹田の姿があった。 竹田「そうだ。一人ずつ自己アピールしてくれないかな」 すっかりとうち解けてしまった竹田は、4人組に会って初めて感じた緊張感を無くしていた。一人一人に自分をアピールしてもらうと言う作戦に出たのだ。メグは歌を歌い、モエはダンス、アヤは体操と、自分の得意なものを見せていった。そして、最後に残ったユリは突然着ているワンピースを脱ぎ始め、下着姿になった。そして、一言。 ユリ「竹田さんになら、この中も見せていいわ」 これには周りの3人から冷たい視線を浴びるようになってしまった。急いでワンピースを着直すと、竹田の前に1列になって立ち始めた。 メグ「いい。誰が選ばれても後悔しちゃだめよ」 他の3人も頷いて竹田の答えを待つことにした。
竹田は悩みに悩んでいるようだったが、一人の手をつなぐことに決めた。その相手は、メグだった。 メグ「やっぱりね。私に決まってるじゃない」 そう言うと、突然、玄関チャイムが部屋の中に鳴り響いた。玄関を叩いてくる音も聞こえる。玄関の外からは男の声で「開けなさいよ!」と聞こえてきたのだ。 竹田がしょうがなく扉を開くと、そこには4人の野郎連中が立っていたのだ。この前のオフ会の時も仕切をしていた男が竹田に声をかけて来た。 「ここに4人組の女が来てるわよね」 なよなよした立ち方をしている男の口からは女のような言葉遣いだった。竹田はその言葉を聞いてゆっくりと首を縦に振った。そして、男は玄関にあった4つのハイヒールを見た途端。竹田の家へ押し入るように入って来た。続いて他の3人も入っていく、玄関には男たちの靴も脱ぎ捨てられ玄関は更に雑然とした状態になってしまった。 「あなたたち誰なのよ。私たちの体を返しなさいよ」 部屋の中から男たちの大きな声が聞こえてくる。竹田が部屋の中を見てみると4対4の言い争いが始まっていた。 |
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