オレンヂ

作:夏目彩香(2003年7月1日初公開)




ここは地下鉄のプラットホーム。湿度が高く暑い毎日が続いているので、プラットホームの中は蒸し暑さを感じる。直射日光の影響が無いにせよ、換気がうまくいっていないのか地上にあるプラットホームの方が涼しいのではと思うくらいだ。

ここにオレンジ色のHラインスカート、黒のミュール、白い薄目のニット、ピンクのショルダーバック、ブラウンの長い髪に見え隠れするゴールドリングのイヤリングと言った出で立ちの女性が電車を待っていた。

彼女はバッグの中から香水の瓶を取り出すとシュッと体に吹きかけた。オレンジ系の香りがする香水は夏の暑さをかき消してくれるようだった。瓶をバッグの中に戻すと今度はコンパクトとリップスティックを出して、オレンジ色リップを唇にきれいに塗った。

構内のアナウンスが鳴り響き、暗いトンネルから待っていた電車がやって来た。電車の中からおばちゃんが降りてくる中、彼女は履いているミュールを滑らすようにして、電車の中へと入って行った。

彼女は電車の中へと入ると空いている座席を見つけ、スカートの裾を気にしながらその座席に腰を下ろした。ショルダーバッグを太ももの上に置き、きれいな足を揃えて座っていた。この時、空いている座席は少し狭いようで、右隣に座っている大学生くらいの男と密着した形になった。

彼女は大学生くらいの男に密着していても、嫌な顔一つせずに涼しい顔をしていた。右側にいる男は彼女と密着していることで、鼓動を高めているようだった。彼女はバッグの中からコンパクトを取り出すと、自分の顔を眺めると同時に鏡越しにチラッと隣の男の様子を見てみた。男はどうやら彼女に惹かれているようだった。

男は彼女に体を寄せてきては、密着した感覚を楽しんでいる様子。彼女の白く細い右腕の感覚が男の左腕に伝わって来て、暑さを忘れてしまったようだ。こんな楽しい時間は長く続くわけでは無い次の駅で降りなくてはならないようだった。

次の駅のアナウンスが流れると男が席を立ち、ドアの前でドアが開くのを待つことに待っていたのだ。彼女はと言えば相変わらず席に座ったままだった。再びバッグの中からコンパクトを取り出しては自分の顔を眺めていた。

駅に到着すると電車のドアが開く、男が降りてから彼女はすっと席を立ち同じホームへ降り立った。彼女がホームに立った時に男はエスカレーターの前まで来ていた。すると、男は一瞬後ろを振り向き彼女が降りたかどうかを確認していた。

彼女の姿を見ると男は時刻表を見ながら、時間をずらしていたよう。男は彼女と一緒にエスカレーターに乗れるようにわざと時刻表を見ていたのだ。男が前で彼女が後ろ、この時、エスカレーターに乗った彼女は、さっきの男が前にいるのも知らずに独り言を発していたようだった。

男はエスカレーターを上がり改札を通ると、彼女を先に行かせて今度は後ろから彼女について行った。彼女はバッグの中から携帯電話を取り出すと、誰かに電話をかけていた。雰囲気からして、ここで待っている人に電話をしているらしいのだ。

駅の出口番号を確かめて、目的の場所で誰かを待つ彼女、男はその様子をこっそりと眺めている。ゆっくりと後ろをつけて来た。彼女のオレンジ色の魅力に惹かれていたが、なかなか声をかけることができないようだった。

ためらっていたが、男はこのままだと彼女を見失うどころか、もう2度と会えないかも知れないと思った。ここは思い切った行動を起こすしかないと彼女に声をかけることにしたのだ。

周りには人もいなくてちょうどいい、タイミングを見計らって彼女の目の前に立った。すると男は思い切って彼女にアタックをしたのだ。俺とつきあって欲しいというなんともストレートな告白。彼女はオレンジ色の唇を男の唇に重ね軽く舌まで入れてきた。彼女が顔を離してから一言。

「お前、貴子に惚れちゃったよな。俺が代わりにお前の大好きな貴子をやってやるからつきあってもいいぜ。」

男は呆然と彼女の美貌を眺めることしかできなかった。



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