Ubiquitous Systems

作:夏目彩香(2003年3月20日初公開)




前回書いた話の続きについて早くも書ける機会がやってきました。男子学生が取り憑いたという髪の長い女の子と一緒に話をするため、学校のキャンパスの中にあるなるべく目立たない場所へと連れて行くことにしました。色々と考えてみましたが、それならと私の家で話をすることにしました。

私の家に向かうまでは一緒に歩いて行ったのですが、彼女の歩き方はいつも私が見ていたのとは違って、ヒールに慣れていない感じがしました。スッと足を伸ばしていくのがきれいな子なのに、やっぱり男子学生が取り憑いているというのは本当なんだと思いました。

とりあえずは私の家に向かうのが目的だったため、家に着くまではあまり話をしませんでした。それに、彼女は自分の姿を見ながらでれでれとしているようで、話をするような雰囲気に持って行けなかったのが事実です。

家まではあまり信号を渡る機会も無いので、無事に着くことができました。私の家はマンションの13階にあるためにエレベーターに乗って行きます。他の住民に怪しまれないように、なるべく見つからないようにして家の前までたどり着きました。

玄関を開けると私の靴の横に、彼女の紺色のハイヒールが置かれました。乱暴に脱ぐものだから私がちゃんときれいにしましたが、これってしつけの違いなんでしょうね。私の家には昼間は誰もいないので今は大丈夫ですが、家族の誰かがいる場合には注意しなくてはなりませんでした。

とりあえず、私の部屋に彼女を通して、ベッドの上に座ってもらいます。私の部屋の中を見回す彼女のしぐさは、女の子の部屋がいかにも珍しそうな顔をしていました。彼女と話をするために私は冷蔵庫の中からジュースを取りだして、コップに入れて運んできました。

すると、私が私の部屋へ入った時に彼女は私のタンスを覗いていたんです。じっとして欲しいのですが、気になることがいっぱいあるみたいなので、その時は目をつぶってあげました。小さなテーブルを出してそこにコップを置くと、私もベッドに座って彼女と話をする体勢になりました。

真横に座っている彼女を見るととてもきれいな人だというを改めて感じました。ちょっと行動はおかしいにしても、外見はやはり女子大学生なのだから、当然なんでしょう。私も負けていられませんが、さすがに見劣りしちゃいます。彼女の白いフレアスカートが私のベッドの上に乗っている姿がとても絵になるのには驚きました。ようやく私が彼女に話を始めることができるので、気になることを聞き始めました。

私「まずは、名前教えてくれないかな?」
ここまで来たのに私は名前すら聞いていないのに気づいて聞いてみました。
髪の長い女の子「俺の名前?それともこの子の名前?」
やはり彼女は自分のことを俺と呼びます。でも、最近は女でも俺と言うから信用ならないので、もっと確信を持って聞けるように聞いてみます。
私「両方、お願いできる?」
ここでは両方聞きたかったので、両方と言う言葉がでました。
髪の長い女の子「いいよ。俺の名前は杉本隆(すぎもとたかし)、でこの子の名前は……」
そう言いかけると髪の長い女の子は目を細めて神経を集中させます。
髪の長い女の子「わかった。この子は三枝萌(さえぐさもえ)だよ」
私は不思議に思ったので学生証を見せてもらうと、確かに三枝萌と書いてありました。
私「じゃあ、朝見かけたのが杉本隆くんなんだよね」
なぜかお姉ちゃん口調で言いました。
三枝萌(by杉本隆)「そうそう。君もよく見かけるよね。俺もだいたい学校へ行く時間が同じだからさ。じゃあ見られてたってわけか」
彼女は軽く舌を出すとおどけて笑います。その姿がとても可愛くて……
私「私は夏目彩香、とりあえず彩香って呼んでいいよ。よろしくね!」
私は三枝萌に挨拶をしているのか杉本隆に挨拶をしているのか区別ができない錯覚にちょっとだけ陥っていました。

私「それで、隆くんだったっけ?いや萌ちゃんかな?どっちがいい?」
混乱状態に陥ってる私は続けて変な質問をしていました。
三枝萌(by杉本隆)「隆でいいよ。くんだなんてくすぐったくて」
彼女の口からは似合わない口調で話をしているだけになんだかおかしな感じがしました。
私「隆かぁ〜。体は萌ちゃんなんだからさ。萌ってのはどう?」
私がそんな風に言うと彼女は頬を赤めます。
三枝萌(by杉本隆)「萌って、確かに萌だけどさぁ。俺なんとなく慣れてなくて」
意外と彼女は照れ屋の様子。どうやら恥ずかしがり屋の彼だったようです。
私「慣れてないんなら、慣れるようにしましょうか。萌ちゃん!」
三枝萌(by杉本隆)「そうだよな。好きで取り憑いたんだから、萌って呼ばれるのに慣れないと駄目だよな」
こうなると私は押せ押せムード。
私「そうよ。そうよ。どうせならどんな人が見ても萌ちゃんだと思わせるのはどう?さっき一緒にいた女の子、萌ちゃんの友達でしょ。その友達にわからないくらいに萌ちゃんになりきるの」
このときは私も少し興奮して言いました。
三枝萌(by杉本隆)「そんなの俺には無理だよ。恥ずかしくってさぁ」
彼女は絶対に駄目だとすっかり心を塞いでいるようでした。
私「じゃあ、なんで萌ちゃんに取り憑いたのよ。せっかくだから、それを生かすべきでしょ」
こうなると私の方が優勢です。なんとかしても前代未聞の実験を始めなくてはならないと思ったからです。
三枝萌(by杉本隆)「この子に取り憑いたのは、たまたま携帯電話でTSアプリってのを誰かが送って来て試してみただけだよ。どうせつまらないものだろうから、信じてなかったけれど、現実にこうなってみると何をしたらいいのかわからなくて」
彼女の顔で勘弁してくださいと言う表情をするものだから、なんだか似合いませんでした。

私「TSアプリ?そんなのがあるの?」
さっき彼女が口にした中にあったわからない言葉を聞いてみました。
三枝萌(by杉本隆)「そうだよ。TSアプリってのが突然メールで送られてきて、サーバから落としたんだけど、それを使うと携帯電話で撮った画像に、写っている人でも物でも動物でも取り憑くことができるって、そんなことが書いてあったよ」
これで私の疑問がまた解決しました。TSアプリによって男子学生は彼女に取り憑いていたのです。
私「とりあえず、さっきのことは置いておいて。元に戻る方法もわかってるんだよね。」
まずは大事なことを聞くことにしました。
三枝萌(by杉本隆)「元に戻る時は、俺の使っている携帯電話に電話をして暗証番号を入れるって説明があったよ。それで自由に戻れるって。ただし、携帯電話のバッテリーが無いと使えないので、無くなったときには充電しなくちゃならないよ。俺の携帯電話が壊れない限り何度でも使えるってことだな」
さっきみせていた表情からは考えられないくらい、彼女は雄弁に答えてくれました。
私「じゃあ、私も考えてた?」
ちょっとどっきりするような質問をしてみると。彼女は顔を縦に振って答えました。
三枝萌(by杉本隆)「うん。彩香の写真も俺の携帯にあるぜ」
私の写真もいつの間にか撮られていたなんて……まぁ、私が実験台にされるのもいいから、ここで条件をつけることを思いつきました。
私「ねぇ。これってどうかな?萌ちゃんのなりきり実験をやってくれたら、私の体に取り憑いて自由に使っていいってのはどう?」
私の考えた条件はきっと隆の心を捕らえるはずだと思って言ってみました。
三枝萌(by杉本隆)「彩香にねぇ。まぁ、この子ほどじゃないけど自由に使っていいって言われると気持ちが楽だからな。じゃあ、やってやってもいいぜ」
やっぱり単純な隆にはこの手が一番。
私「じゃあ、契約成立。まずは萌ちゃんになりきる訓練をしましょうね」
どうやったらいいのかも知らないけれど、とりあえず言ってみました。
三枝萌(by杉本隆)「わかったぜ」
こんなんだと先が思いやられます。
私「わかったぜじゃないでしょ」
そう言われた彼女は目を細めて集中してから口を開きました。
三枝萌(by杉本隆)「わかったわ。彩香」
ちょと色っぽいポーズをとりながらからかうようにして萌が言いました。

こうしてこの後に私の部屋で、隆くんが取り憑いた萌ちゃんと一緒になって、萌ちゃんになりきって萌ちゃんの友達にわからないようにしようという実験を始めることにしたのです。どうやら萌ちゃんの記憶は集中すると読み取れるようなので、やってみることにしたのですが、このあとがまた大変なことの連続だったのを今も思い出します。時間があったら、この続きも書いてみましょう。






 

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