乗り換え試験

作:夏目彩香(2005年8月10日初WEB公開)


 

「こりゃあ、困ったことになったなぁ」

ここはとある製薬ベンチャー企業の社長室。一人頭を抱えるのはここの社長である高村博文(たかむらひろふみ)だった。社長が頭を抱えているのは何も会社の経営が困っているからでは無い、あることのためだった。

実は、二週間前にインターネットを使って秘書の募集を行ったところ応募書類が殺到していた。今は最後に残された社長面接で二人の女性と面接を終えたところだった。


コンコンコン

「失礼します」

社長室に入ってきたのは人事担当の佐々木百合子(ささきゆりこ)だ。社長の席の前に立つと左手にバインダーに挟んだ書類を見ながら社長に話かけた。

「社長。面接の結果はどのようになりましたか?」

社長面接の結果を直接聞きに来たらしい。今回の募集は社長付けの秘書となるので、社長の決定権が絶対である。百合子は面接をした二人にすぐに連絡をするべく社長室にやって来た。

「佐々木さん、面接の結果なんだけど」

百合子にとってもちょっとドキドキしていてた。自分のことでは無いが、一緒に働くことになる人が決まるだけに、誰が内定するかは重要なことだとわかっているからだった。

「実は、まだ誰にするか決めていないんですよ。二人とも甲乙付け難くて、どちらが僕の秘書になってもうまくやってくれそうだし、佐々木さんは誰がいいと思う?」

百合子が社長から逆に聞かれてしまう。それほど社長にとっては難しいことらしい。

「まだですか?私、面接が終わった後にすぐに連絡をすると言ったので、今日の夕方ぐらいまでに決まらないと困るんですけど。それに、これは私が決められるものでも無いですよ。社長」

社長をちょっと叱りつけるような声で百合子は言った。

「それは重々わかってるよ。できるだけ長く続けてもらえる人を選ぼうと思ったんだけど、そのあたりの意志はみんな同じだったし、二人ともいい人だよ。二人とも雇いたいくらい」

百合子は一瞬振り返り、再び身体をひねり社長を正面に見据えた。どうやらちょっとイライラして来ているらしい。

「そんなに余裕のある会社なんですか?そんなことできるわけ無いのが普通でしょう。社長ったら子供じみたことを考えないで下さいよ」

「とにかく、今はこういうことにしよう。今日の結果はすぐには出ないと言うこと。そうだね、金曜日には結論を出すってことを二人に伝えて下さい」

すると百合子は驚いた表情を見せながら、

「四日もかかるんですか?」
と言った。

「初めての秘書だから慎重に選びたいんだって。絶対に金曜日には内定者を決めるから、お願いしますよ」

ちょっと困った表情になりながらも社長の決断に逆らえない。

「わかりました。二人には今すぐ連絡を取って伝えておきます」

「じゃあ、頼んだよ」

上目遣いになった社長の目から何かイヤな予感を百合子は感じたが、

「失礼します」

その一言を残して百合子は社長室を出て行った。

再び部屋の中で一人になった社長は、あることを思いついたらしくデスクの上に置いてある電話に手を伸ばした。内線を回すとすぐに相手が出た。

「高村です。今、時間ありますか?」

電話の向こうからは時間があるとの返事が返っていた。

「じゃあ、例のものを持って社長室まで来て下さい」

受話器を置くと、社長は目をつむりながらある人物が来るのを待っていた。


コンコン

「失礼します」

社長が呼び出した人物が現れた。角張った黒縁の眼鏡からは、落ち着いた目の動きが見える。どうやら社長とは長いつきあいになるらしい。

「社長、用件は何でしょうか?」

社長室に入るなり、すぐそこにある応接セットの椅子に深々と腰を落ち着かせると彼はそう言った。見た目の格好ですぐにわかるのは、スーツの上に白衣を着ていることだ。ベンチャーとは言っても製薬会社だから、見慣れた格好なのだろう。

「市川君。例のものは?」

市川と呼ばれた男。実は社長からの信頼も厚く、この会社の中では開発部門を取り仕切っている。薬品開発の中心人物として設立に関わったメンバーでもあるのがこの市川清吾(いちかわせいご)だった。肩書きは開発室室長となっているが、開発研究にも直接携わっている。

「これが試験段階として使えるものですけど」

そう言って、サプリメントが入ってるような容器を社長に見せた。社長はそれを見ながらニヤリとした。

「ついにそれを使ってみる時が来たか」

わかっていても清吾は驚いた。

「えっ。じゃあ実験を開始するんですか?」

今までいくら実験を開始しようとしても社長からは実験開始を止められていたからだ。

「そういうことだ。うちの会社をはじめたのも、例の薬をつくるためだったわけだし、製品化ができれば多額の資金をすぐに集められるだろう」

社長に続けとばかりに清吾も言葉を続ける。

「調査によると需要はかなり高いようです。夢のような話が実現するとなるとがっかりする人も出てきそうですが、大量生産が不可能なので誰もが手に入るものにはならず、値段が高く販売チャンネルもほとんど無いと言っていいでしょうね」

「そうだよ。とにかく我が社は普通の製薬メーカーとは一線を画す会社にしたいと思っているから、そのためには市川君の研究が重要な位置を占めるのは確かでしょう」

そう言うと、清吾は深々とお辞儀をした。

「ありがとうございます。例の薬は実験段階に入れる状態は整っていましたが、社長から指示があるまでは実験ができずにいました」

「そうか」

その一言を発してからしばらく沈黙した空気が部屋の中に張りつめた。

「実は、実験を始めようと思ったのは、秘書採用のためなんだよ」

さっきまでの張りつめていた空気が一気に緩む。

「はぁ?」

清吾は社長の言葉をすぐに理解ができなかった。

「社長面接で残った三人が互角で比べきれないものだから、僕がその二人の調査をもっと詳しくしてみようと思ってね」

「ということは、社長がこの精神身体離脱剤の実験台になるってことですか?」

社長が実験に参加しようとは意外なことだった。

「二人の私生活を覗き見るにはそれがいいだろう」

それを聞くと清吾はすっかり納得してしまう。

「確かに、そうなりますね」

そして、少し時間をためてから、

「さすが、社長」
と、思わず言ってしまった。

「だから、こうやって市川君を呼んだんです」


社長と清吾の会話が行われている頃、人事担当の百合子は社長面接を行った二人に電話で面接の結果を順に伝えて言った。二人目にも伝え終わるとようやくホッとすることができた。

なにしろ、面接が終わった時に二人には今日中にも決まると伝えていたから、何を言われるものか冷や冷やしていたのだ。

「そんな顔しちゃって。いつもの百合ちゃんはどこ言ったの?」

そんな風に百合子に声をかけたのは、総務部長でありこの会社のお金を握っている塚本陽子(つかもとようこ)だった。

30代ながらいつもきわどい服装をしているせいか、見た目は若く見える。

「だって、社長ったら今日の面接結果を金曜日まで延ばして欲しいって言うんですよ」

百合子の話を陽子はまた始まったとばかりに聞き始めた。

「まぁ、社長は気分屋だからね。私も長い間つきあって来たけど、わがままな人だから言うとおりにするしかないわね」

あっさりと言い流す。

「そうですか、塚本さんって、社長とつきあい長いんですよね」

すると、陽子は右手の人差し指を立ててあごに軽くあてながら、ちょっとだけ考えて始めた。

「そうね。かれこれ十数年になるわね。大学の友人からの紹介だったけど、まさか一緒に働くなんてその時は思いもしなくて」

若かりし頃の自分を思い出すときの陽子はなぜか普段より若返って見える。

「へぇ〜そうなんだ。もしかしてつきあってたのかなって思ったんですけど」

「ふふ。百合ちゃんったら、そんな風に言うもんじゃ無いわよ」

百合子のそんな言葉にも動じない陽子。

「塚本さんと社長が付き合ってる姿を想像したら、つりあわないかも知れませんね。ちょっと昔の話を聞いたら少し楽になりました」

百合子は肩の荷がようやく下りた様子だ。

「そうよ。社長はああみえてもいい人なんだからね」

すると百合子がその言葉には同意できないようで、顔をしかめながら言う。

「ふ〜ん。私から見るとわがままな中年オヤジにしか……」

そこまで言うと陽子が百合子の口を手で塞いだ。

「そんな大きな声出さないの。言うなら小さな声でいいなさいって。誰かに聞こえていたらあとで地獄を見るわよ」

「大丈夫ですよ。社長に伝わったら、その時に何でもするからって言って許してもらいますもん」

「百合ちゃんったら、調子がいいんだから」

そう言った後で百合子は背中がぞくっとして何か冷たいものを感じ始めていた。背中の中央に寒気を感じたかと思うと、今度は肩の上や腰の辺り、お尻にも寒気を感じ始めていた。

「あっ、何なの?急に寒気がして来ちゃった」

背中から始まった寒気は徐々に全身へと広がり、全身で軽く身震いを起こして収まった。百合子のおかしな動きに陽子も気づいた。

「百合ちゃん。何かあったの?大丈夫?」

陽子は心配そうに百合子の様子を伺っている。

「なんか急に寒気がしちゃって、今まで感じたことの無い感覚で、まるで私の中に何かが入って来たような感覚でした。私の熱をそれが奪ってるらしくって」

「身体の中に?ひどい寒気なの?」

百合子はさっきのことを思い出すのも嫌だったが、寒気の程度を思い出してみる。

「それが……今までに感じたことの無い寒気でした。今は大丈夫みたいですけど、また起きるかと思うとちょっと心配です」

「そっか。百合ちゃん。ここのところ働き過ぎじゃないの?今日はもう引き上げていいわよ。やり残したことは明日以降に延ばしていいから」

百合子のことを気遣って、陽子は彼女を早く休ませることにした。

「わかりました。じゃあ今日は早退させて頂きます」

帰宅の準備を手早く済ませると、百合子は会社を後にした。


会社から電車に乗って約1時間先に、百合子の住んでいるマンションがある。このマンションの5階に百合子は住んでいる。いつものようにエレベーターに乗ると百合子の他には誰も乗っていないのに4階で止まった。4階で人が待っている気配も無い。

「やっぱり、しょうがないわね」

エレベーターは下を指していたので、百合子は仕方なく4階で降りて階段で上がることにした。やはり疲れのせいなのだろうか、一つボタンを押し間違えたようだと心の中で彼女は思った。ヒールの音をカツカツと響かせながら階段を上がっていくと、いつも見慣れている5階の廊下が見えた。家の前で立ち止まるとバッグの中から鍵を取り出し玄関を開けた。

玄関にパンプスを脱ぎ捨てると百合子は妙なことに気づいた。足が自分の意志とは関係無く勝手に動いていた。自分が思うように動かそうとしても動いてくれないので、行きたい所に行けなかった。

「何なの?」

そう言った矢先に今度は今度は腰から下も動かなくなっていた。百合子にとっては感覚が麻痺しているだけならまだしも、勝手に動いてしまう理由は会社で体験した寒気が関わっていること以外、わからなかった。そして、首から下も動かなくなると、彼女はついに気絶をしてしまった。顔だけががくっとうなだれていたが、首から下は自然な動きを見せていた。しかし、さっきまでの百合子の動きとはどうみても違った感じだ。顔がだらんとしながらもどこにもぶつからずに歩けていた。首から上がうなだれたまま部屋の中央に立つと、百合子の顔が正気を取り戻したらしかった。

「これでようやく全身を征服したな。実験のためにゆっくりとやってみたが、自分の意志通りにうまく行く、やはり市川君の開発したものは間違いないか」

会社にいたときのような穏やかな表情とは違う百合子は、まるで初めて見たかのように部屋の中を見渡していた。ベージュで統一された部屋の中は清潔感があふれている。

「ここが佐々木さんの部屋か、なかなか小ぎれいにまとまっているな」

百合子の内面はすっかりエロオヤジになってしまっていた。

「それにしてもさっきは中年オヤジに見られているみたいだったけど、普段から気にしていたことをああやって軽はずみに口に出すんだから、ちょっとお仕置きをしてやらないとな」

ほっそりとした腕を組みながら、クローゼットとベッドに目をやる。

「ふ〜ん。たしか……社長に伝わったらその時に何でもするからって言って許してもらいますって」

目の前にある姿見の前で百合子が言った時のように言って最後は鏡に向かってウィンクをおまけをつけた。

「そう言ってたよな」

鏡の中の百合子はニヤリとした表情を見せている。ベージュのスーツ姿、フェミニンな裾が不揃いなタイトスカートからは、すらりとした足が格子状のベージュのストッキングに包まれていた。膝が見えるくらいの長さ、足の細さが際だって見えてしまう。

「そのお言葉に甘えて、今日は佐々木さんの楽しみを見せてもらうことにするよ」

鏡の前に立っている彼女は、これから何をしようかと思いを巡らせていた。


一方、その頃会社では、開発室室長である市川清吾が誰にも見つからないように何かを動かしていた。会社の中にある自分の部屋、開発室の中にその物体を入れるとようやく落ち着いたのか、全身の力が抜けてしまったようだ。ここに持ってきた物体に目をやると、何かをやり遂げた充実感を漂わせていた。

「社長がこうなってから、三時間経った。僕の計算だともう少しで再び動き出すはずなんだけど、その通りにいったら薬の量と分離時間の関係は、今ある計算式でほぼ間違えないことになる。今度はさらに持続時間の長いものを開発することだって夢じゃなくなるわけだ」

室長室に籠もると動かない社長を相手にしゃべりだした清吾。第三者的に見ればおかしなことのように見えるだろうが、社長は息だけをしている状態だ。それは飛行機のパイロットがいなくなったような状態で、そのパイロットは今は別の飛行機を動かしているはずなのだ。

「社長がいつ戻って来てもいいように、ここまで運んで来たけれど、思った以上に重たい人だよなぁ。ということは今頃はとっても気持ちのいいことをしているに違いない、この実験に僕も参加してみようかな」

そう独り言をつぶやきながら自分の机に座り次の実験薬を準備しはじめた。


開け放たれたクローゼットの前には百合子が立っていた。百合子と言っても社長が百合子の意識を乗っ取ってしまったため興奮した気持ちを隠せないようだ。さっきからクローゼットの中の衣装を手に取っては体に当てて鏡を見ている。せっかく試着するからには、自分の気に入るものを着てみたいものだと思いながら。

「クローゼットの中を見てみると、佐々木さんってなかなか大胆なものが多いなぁ。普段はあまり注意していなかったけど、なかなか可愛いよ」

ちょうど白いワンピースを体の前に当ててみながら百合子はしゃべった。そして、クローゼットの奥の方に見つけた服がどうやら気に入ったようだ。

「これこれこれ。いいもの見つけたぞ」

百合子が取り出したのは茶色い襟に白い線が2本入ったセーラー服で、胸には百合子の通っていた高校の校章がついている。短めの茶色に赤い格子の入ったチェックのスカートが一緒にかけられていた。百合子の年齢からすると高校を卒業したのも数年前のこと、一人暮らしを始めるようになっても、青春時代の思い出がいっぱい詰まっているようだった。

「よし。これに着替えてみるか」

どうやら百合子はセーラー服に着替えはじめることにしたようだ。セーラー服をベッドの上に載せると、身につけているベージュのスーツに手をつけはじめた。


百合子が社長に乗り移られて部屋にいるその頃、清水有朱(しみずありす)は大学の就職部を訪ねていた。どうやら今日の面接の結果が思わしくないと感じて、大学の就職部に相談を求めに来ていたのだ。面接が終わるといつも訪れていたのでそれが習慣化されてしまっているらしい。

「こんにちは」

就職部の中に有朱の声が響き渡ると、受付にいる男性がそれに気づいて応対した。

「あっ、こんにちは。今日もどこか受けて来たでしょ」

「えっ。そうですか?」

「口に出さなくてもこっちはわかりますよ。今回は浮かない顔なので結果がよくないみたいだけど」

「そうですね。今日は社長面接を受けて来たので、かなり緊張しちゃっていつものような落ち着きを取り戻せませんでした」

「そうですか、最終面接まで進んだってことはほぼ決まりでしょう」

「いいえ。きっと私なんて駄目ですよ。もう一人は経験者だとか言ってました。未経験の私がうまくいくわけが無いと思うんです」

「なぜです?もっと自信を持った方がいいんじゃないかなぁ」

50代半ばと言ったところのこの男性は、穏やかな表情でいつも有朱の労をねぎらってくれる。

「ありがとうございます。いつもお世話になりっぱなしですね」

「結果はいつわかるんです?」

「人事担当の方の話ですと、金曜日になるそうです」

「じゃあその時にまたここに来て、いい結果を伝えて下さい」

「そうしたいですけど、どうなるかわかりません。じゃ、私帰りますね。またよろしくお願いします」

そう言うと有朱は帰宅の途へついた。


さて、話を戻そう。

ベッドの上にはベージュのスーツがセーラー服の上に脱ぎ散らかされていた。下着姿になった百合子は鏡の前で何かを始めていのだ。

「私は佐々木百合子、ささきゆりこ、私はゆりこなの」

目をゆっくりと開けると鏡の中には下着姿の百合子がいた。手を胸の中央に持っていき、黒いブラジャーのホックを外すと小さいながらも形の整った百合子の胸が露わになった。

「私ったら、なんていやらしいのかしら、自分の胸なのにとってもいやらしい気分」

そういいつつ右手では右の、左手では左の乳房をゆっくりと揉みはじめていた。

「あっ……」

快楽のつぼに入るたびに知らずのうちにうわずった声が出てしまう。

「ひゃ……気持ちいい……」

「じゃあ、今度は下の方も攻めるわよ」

そう言うと右手をゆっくりと股間に忍ばせて行く、黒いショーツに手が当たると緊張感が更に沸き上がっていた。

「いよいよね。ここが佐々木さん、いいえ私の大事な場所」

指をゆっくりと滑らせながらショーツの中へと這わせていくと、短く剃られた毛がざらざらとする。

「ここが私の大事な場所ね」

自分の指が奥へ奥へと進んでいくたびに胸の鼓動が高鳴っていった。そして、割れ目に指がかすった時、ぴくんと突然の感覚が百合子を襲った。

「いやん。まだ入口を触っただけなのに」

「どれどれ、すごいわぁ。これが百合子の、女の快感って奴なのね」

右の指先を秘部の中に指をゆっくりと入れていくうちにネバネバとした液体が湧き出てくることに気づく。

「これが私の愛液ね」

そう言うと右手の指をショーツの中から引き出し、口の中へと持っていった。自分の出した液体を嘗めている百合子。

「いつもはこうするわけないよね。こんな姿はちゃんと記録しておかないっとね」

そういいながら携帯電話のカメラで自分撮りをはじめた。

「こうやって私がいやらしい写真をたくさん撮っておくの」

今度はショーツの中に左の指を這わせて、身体の中に一気に二本差し込んだ。

「あっ、ん。いいわ、ここって温かくて締め付けがたまらないわ」

そういいながら指を前進後退させて行き、快楽の泉の中へ陥ってしまったような感覚に浸っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ。社長、実は私って、こんなことが好きだったんです」

「エロオヤジなんて呼んじゃって。ひゃん。本当にごめんなさい」

指が奥まで入っていくたびに、百合子の黒いショーツには白い色が増えていった。そして、気づかぬうちにフローリングの上でぐったりとしてしまった。


どうやら清吾の時間予測は間違いなかったようだ。予定していた時間になると社長の体がゆっくりと起きあがり始めた。

「社長。ようやく戻ってきましたね」

ゆっくりと目を開ける社長に清吾が声をかける。

「うん?私は今まで何をしてたんだ?」

「何を寝ぼけたこと言ってるんですか、佐々木さんの身体に乗り移って来たんじゃないんですか?」

「あっ。そうだったな。セーラー服着る前に戻ってしまったか。……ん〜残念」

社長は目をつぶると着られないままに終わったセーラー服を想像していた。

「セーラー服がどうしたんですか?社長。なんか楽しそうですね」

クローゼットの中から百合子の衣装をとっかえひっかえしていたことが現実の思い出のように蘇って来る。

「あっ、まあな。それにしてもご苦労様。ここまで僕を運んで来たんだろう」

社長は身体を起こしながら、清吾の労をねぎらう。

「重かったですよ。フフフ。それにしても何だか楽しかったみたいですね。待っているのはつらいので、私も実験台になりたいくらいですよ」

「そうか?じゃあ、今度はこうしてみるのはどうだい?」

社長が清吾の耳にこっそりと話すと、清吾は考えるだけでも興奮しはじめていた。


二人が興奮していることなんかは知る由も無い有朱は、一人暮らしをしている女性専用1DKのマンションに到着した。チャコールグレーのリクルートスーツ姿で玄関を開けると、黒のローヒールパンプスを脱いで下駄箱に片づけた。そして、よほど疲れていたのか、そのままの姿でベッドの上に横に軽く横になった。天井を見上げながら、今日の面接を思い出してみる。面接を待っている時に一緒にいた彼女のことが思いだされた。

(あの人と私だったら、結果なんて聞くまでも無いじゃない)

胸の内ではそんなことを考えている有朱だが、本当は少しぐらいは可能性があると思ってるだろう。気を取り直すようにベッドの上から立ち上がると、冷蔵庫の中から水を取りだしてコップに注いだ。それを一気に飲み干すと部屋のインターホンが鳴り響いた。この部屋には外の様子がカメラで見ることのできるので、インターホンを手に取るとマンションの入口の映像も映し出される。

「はい、どなたですか?」

映像の中では見知らぬ女性が立っていた。しかし、どこかで会ったことのあるような女性だ。

「柳沢郁美(やなぎさわいくみ)です。一緒に面接を受けたでしょう、これ持って来たんだけど」

そうマンションの前に立つ女性は、面接を受けたもう一人である郁美だった。面接が始まるまで二人で話をした時、お互いの共通点が多くて遊びに来て下さいなんて盛り上がっていたのだ。そして、郁美が手に持っているボトルワインが見えた。

「とりあえず、上がってください」

そう言うと施錠のボタンを押して郁美の侵入を許した。


郁美が五階に上がって来るまでの少しの時間、有朱は突然の目眩に襲われた。フローリングの上に倒れかけたが、なんとか持ちこたえて玄関へ向かって行く。玄関の扉を開けると家の前に郁美が立っていた。

「いきなり来ちゃいました。驚かせちゃってごめんね」

「いいえ。こちらこそ」

「たまたまこの近くまで来たものだから、思い出して来ちゃいました」

「ここじゃなんですから、上がってください」

郁美はブランドものの白いタイトスカートとグレーのジャケットスーツに身を包んでいた。白いミュールを脱ぎ捨てると、慌てて後ろを振り向ききれいに揃えて見せた。

部屋の中央におかれたテーブルの前に郁美は椅子に座った。テーブルの上には郁美の買って来たボトルワインとおつまみ、それに郁美のグッチのバッグが置いてあった。

「お待たせ」

有朱が台所からワイングラスを持ってくるとゆっくりとテーブルに置いて準備完了。初めて会った二人にしては初対面と言う気がしないようだ。

「あっ、ワインオープナーは?」

「どこにあるかわからなかった」

「そんなことだろうと思って一緒に買って来ちゃった」

「じゃあ、乾杯しましょう」

「乾杯」

チーン

お互いのワイングラスを軽くぶつけると軽快なグラスの音が響き渡った。ワインを一口含んだだけの有朱と、一気に注ぎ込む郁美。二人は旧来の友人のように打ち解けていた。

「今日はお互いお疲れ様でした」

「そうですね。今日は郁美さんに決まりですよね」

「郁美さんじゃなくて、郁美でいいわよ。有朱だって魅力的だと思うわ。この手の職業って結局は社長の好みによるんだから」

「結局、最後はそうなんですよね。一緒に仕事をするんだから能力だけじゃなく人間性も重要だってことは確かです」

「結果が出るのが遅くなるのって、二人のどちらを採用したらいいのか迷ってるって証拠じゃないかしら」

「そうなんですか?」

「最終面接が二人しかいないから、普通は結果がすぐに出るはずよ」

「そうなんだ。私は就職活動が初めてなのでそういうところが全然わかりません」

「まぁ、私の方が年が行っちゃってるからね」

「年が行ってるなんて、そんな風に思わないで下さいよ。見た目だけだと私と一緒にいて違
和感が無いじゃないですか」

「ふ〜ん。じゃあ私も女子大生に見えるってこと?」

「見えますよ。だから自信持って下さいね」

「有朱ったら上手なんだから」

「そう言えば、このワインおいしいですね。私はお酒をあまり飲まないからよくわからないんですけど、とにかくおいしいです。

「そうでしょう。私は一週間に数度は飲んでるからいつもの味にしか感じしてないわ」

「お酒に強いんですね」

「両親が大酒飲みって記憶が見つかったから遺伝子的に同じみたい」

「こうして女二人で飲むのっていいですね」

「そうでしょう。今日はこれから思い切り話をして楽しみましょう

お酒を飲み始めたばかりだと言うのに二人はすでにくつろいだ雰囲気を醸し出していた。そして、これからがもっと楽しみな時間となるのだった。


一方、百合子はと言うと、彼女が意識を取り戻した時、目に見えて来たのは天井だった。ベッドの上にいた。全身は一人で快感に浸ったあとのように疼いていた。このままの状態で足をちょっと動かすと何かに触れたのに気づく、それは百合子の着ていたスーツだった。下着姿のままベッドの上に横たわっていたのだ。

「えっ?いつの間にこんなことになったの?」

ベッドから起きあがるとスーツを手に取る。するとその下には高校時代のセーラー服がくしゃくしゃになって置かれていた。

「なんでここに?」

意識が戻ったばかりの百合子は何がなんだかわからなくなっていた。時計に目をやるとまだ夜になったばかりの時間。会社から帰って来て四時間ぐらいしか経っていなかった。そして、意識がなくなる前のことを徐々に思い出していた。家に帰ったばかりの百合子は自分の身体が勝手に動き出しいつの間にか意識を失っていたということを思い出した。

「これって、もしかして私の中に誰か入って来たのかしら?よくわからないけど、やっぱり疲れてるみたいね」

そう思うとフローリングの上に置かれたバッグの中から携帯電話を取り出して、会社に電話をかけたのだ。


それからしばらくの後、郁美の買ってきたワインボトルの中には赤い液体がもう残っていなかった。ボトルを右手に持ち最後の一滴までグラスに入れようとする郁美。二人の体の中ではほどよいぐらいにアルコールが回っていた。最初のうちは打ち解けていないからなのか、二人の間には会話が少なかった。それよりもどうやって話をしたらいいのかわからない。そんな感じだった。有朱が椅子から立ち上がり、郁美の背後から肩に手をかけて来た。

「社長。ちょっとタイム」

有朱は突然おかしなことを聞いて来た。しかし、郁美は動揺するそぶりすら見せていない。

「じゃあ、一時的に休憩しよう。ちょっと酔いが回って辛いのか?」

まるで、さっきまでの二人の会話とはちょっと違う。

「社長。酔っちゃって体がちょっと辛いんですけど」

「ん?それならベッドの上に横になったらどうなんだい?」

「それにしても、郁美さんの体を動かしているのが社長だなんて全然わからないです」

少し誇張して言ったつもりだが、社長が乗り移った郁美の方はなんだか悪い気では無いようだった。

「いやぁ。それはこっちの台詞じゃないかな。お互いに成りきってしまえば誰にもわからないんじゃないか」

「社長。この薬なんですけど、まだ実験段階です。成りきりにはまだ使えたもんじゃないですよ。体の持ち主の情報はまだ一部しか読み取れないようです。それに効き目は4時間程度しかありません」

開発した清吾にとっては、実験をしているので、こんなことを冷静に感じていたようだった。

「やっぱり市川君が開発者だからね。その辺りのことは身をもって体験したらいいと思うよ」

「それにしても有朱の体ってアルコールに弱すぎです。ちょっと辛すぎますよ」

「郁美の体はこの位じゃまだまだみたいだよ。じゃあ、交換してみようか」

有朱に乗り移った清吾は、はっと気づいた。有朱の体に固執する必要は無いし、社長にもどんな感じなのか体験させるチャンスだと思ったからだ。

「交換ですか?」

「一緒に移れば交換できるだろう」

「あっ。なるほど。じゃあ交換が終わったら、またお互いに成りきって女の快感を体験させて下さい」

「わかってるよ。僕もそろそろやってみようと思ってたから。じゃあ、時計の秒針が十二を指した時に乗り換えよう」

有朱が椅子に座り直すと十二を指すまであと十秒に迫っていた。

「十、九、八、七、六、五、四」

お互いに小さな声でつぶやきながらカウントダウンを始めた。

(三、二、一)

残りの三秒からは中から出ていく準備も必要なのでお互いに心の中で念じていた。そして、秒針が12を指すとテーブルの上を二人の抜け殻が飛び交ったような、そんな雰囲気に包まれていた。


二人の交換が完全に終わるには思ったよりも時間がかかった。最初に動き出したのは郁美の方だ。アルコールに強い体なので回復が早いようだ。目の前に有朱がいるのを確認すると、自分の体をゆっくりと見ていく、すらりとした左腕にはブランドものの時計が身につけられていた。それはさっきまで目の前に見えていた女性が身につけていたもの。乗り換えが成功したらしい。椅子から立ちあがると、化粧台の鏡に目をやった。ダークブラウンの長い髪と、大きく胸元が開かれたブラウス。さっきよりも大人の色気を漂わせているのがとても気にいってしまったようだ。

一方の有朱はぐったりとしたまま目覚めようとしない、アルコールですっかり体の動きが鈍っているがために、体を動かそうとしても思い通りにいかないらしかった。コップに入れた水を郁美が有朱の口を開けて飲ませてあげた。

「有朱。あんたってアルコール弱いのね。十分わかるけどこれくらいで眠っちゃだめだよ」

そう言いながら揺り起こすと、有朱の目がゆっくりと開き始めていた。

「あっ、乗り換えが成功したんだ」

有朱がそう言うと、郁美は何よとばかりに言葉を続けた。

「乗り換えって何?あなたは有朱じゃないの、さっきまでここで赤ワインのボトルを二人で二本も空けてしまったんだからね」

さっきの約束だと、これからはお互いに成りきらなくてはならないはずだった。

「そうだったね。今度は私が有朱。アルコールがとっても気持ち悪くなっちゃった」

有朱になったばかりとは言え、同じ位の量を飲んでもこれほどの差があるとは思ってもいなかった。

「ねぇ、有朱。アルコールで気持ちが悪くなったでしょう。私からそれを直す方法を教えてあげるわ」

形勢逆転した郁美は気持ちよくなって、色々な発想ができていた。

「あのさ。私、有朱のこと好きだよ。女同士だからってエッチなことできないってわけでも無いでしょ」

「ん?もしかして、郁美ってレズなの?」

郁美は人差し指を立てながら、違うっということを表した。

「レズなんかじゃないわ。でも、これが最後の面接よ。薬の効果が切れるまであと2時間弱になったんだからね」

「うん。わかった。郁美の言う通りにしてみるよ」

有朱に乗り移った社長はすっかり主導権を失ってしまった。頭の中がくらくらして何も考えられないからだ。

「有朱ったら。可愛くなってしまったね。まずは、私と同じリップを口元につけてあげる」

そう言うとバッグの中から真紅のリップを取り出して、有朱の口元に載せていく。

「どう?真っ赤なリップよ。お互いに同じリップを塗って、キスでもしてみましょう」

有朱の部屋の中、有朱はまるで赤ちゃんのように抵抗することが無かった。ベッドの上にスーツ姿のまま横になった有朱。その上に同じくスーツ姿のまま郁美が重なって来た。

「有朱ったら、まるで赤ちゃんみたいね」

郁美が有朱を見下ろしている状態。さっきまでとはすっかり形勢逆転している二人だった。

「バブバブ」

と有朱は冗談交じりに言ってみせる。

「駄目だよ。そんなに可愛い声を出すんじゃないの」

「キャハハハ」

有朱は今度は笑いはじめた。酔っぱらって笑い上戸になるというのはよくあること。

「そんなんだから、有朱は可愛いのよ。唇を奪ってあげるわ」

そうすると郁美の唇がゆっくりと有朱の唇にあてがわれて行く。完全に唇同士が重なり合うと、リップの紅さが深みを増して行く。舌を入れ込もうとする郁美だったが、有朱がなかなか抵抗していてうまく行かない。しょうがないので、郁美は有朱の胸に手をやると有朱の口が開き舌を侵入させる事ができた。ディープキスの状態、二人の快感はゆっくりと込み上がって来ていた。


郁美は顔を上げると、服を脱ぎ始めた。自分のジャケットをフローリングの上に脱ぎ捨てて、ブラウスのボタンをゆっくりと外して行く、左右が反対のせいか慣れはいないかと思ったが、ここは体が慣れていた。ブラウスもジャケットの上に脱ぎ捨てると、上はブラジャーだけが残った。胸の形を良く見せてくれる水色のブラジャーだけを残して今度は、有朱の服を脱がしはじめた。

「有朱の服を脱がせてあげるわ。お姉さんに任せてね」

そう言うと、有朱のジャケットをゆっくりと腕から外し、脱がしたものを椅子の上に置いていく、ブラウスのボタンを一つ一つ外しながら、有朱の柔らかい肌を感じていた。

「私よりも白いんじゃないかな」

ブラウスを脱がしながら、郁美が言うと有朱は笑っていた。上半身が同じ格好になったところで、今度は有朱が郁美のブラジャーを取り外す。有朱が背中に手を回してホックを取ったのだ。ホックを取るとパサッとブラジャーが目の上に落ちてきた。郁美のぬくもりが残っているので、目のあたりが仄かに温かく感じる。

「郁美の匂いがするね」

有朱は目の前を遮るのもから微かな香りが漂っているのに気づいていた。

「有朱のブラも取っちゃうわよ」

二人は上半身だけが裸になり、お互いに体を寄せ合ったのだ。

「どっちが大きい?」

抱き合いながら郁美が有朱に言ってきた。胸の大きさでは有朱の方が大きかった。郁美は有朱の乳房と自分の乳房を掴みながら大きさを比べてみる。

「ふ〜ん。有朱の方がちょっと大きいわね。体はすっかり大人のようね」

そう言って有朱の乳首あたりに口を銜えてみせた。

「あっ」

有朱の喘ぎ声が部屋の中に響く。郁美は更にその周りを嘗めていた。

「あん……ん……ひっ……あっ……」

有朱の可愛い喘ぎ声が郁美の動きを加速させる。そして、今度は逆に有朱に自分のものを嘗めさせてみた。

「はぁん……ひゃ……いいわ……あっ……いいね……あん……有朱ったら上手」

郁美も気持ちがよくなって、今度は腰から下の部分が気になりはじめた。チャコールグレーのタイトスカートの脇にあるジッパーを降ろすと腰の辺りが緩くなった。ここから有朱の大事な部分に向けて手を入れていった。指をさするように動かすと、有朱の体が一瞬動いた気がした。

「ねぇ。ここって触ってもらいたくないの?」

指の侵入を一度取りやめて、郁美が有朱に訪ねてみる。

「お姉さま。どうか入れてちょうだい」

そう言うと郁美の指は下着の下に潜り込み、狭い中を進ませた。有朱の縦の割れ目にたどり着くと、有朱の表情は快感に酔っていたようだ。

「あっ……すごい……これが……ん……」

郁美がゆっくりと指をさするだけでも有朱の感じ方は尋常では無かった。とっても気持ちの良さそうな表情を見ると、今度は自分で体験してみたいと思った郁美。有朱のスカートを足から通して脱がすと有朱の脱いだものの上に重ねた。フローリングの上で立ちながら、スカートのホックを取ると、郁美のスカートがばさっとフローリングに落ちていった。

「じゃあ、これからは有朱が私を楽しませて」

そう言いながら、有朱の横に添い寝をするかのように並んで来た。枕の上で横になってお互いの体を抱きつきはじめていた。腰のあたりはいつもの突起物が無いので、腰をつけただけではお互いのものが擦り合わない、手を交互するように組んでお互いに下着の中に指を入れた。すると有朱はアルコールの分解が進んで来たようで、トイレに行きたいと郁美に言った。

「トイレに行きたいの?ここで出しちゃっていいよ」

「ん〜しょうがないわね。早く行って来てね」

せっかくの興奮状態もちょっと醒めてしまったが、有朱がトイレに行っている間は我慢せざるを得なかった。


有朱がトイレに行っている間、悶々とした気持ちを果たすべく一人で続けようと思った矢先、携帯電話の着うたが流れて来た。テーブルの上に置かれた携帯電話、着うたは郁美の携帯電話から流れていたのだ。郁美がしょうがなく携帯電話を手に取ると着信欄には男性の名前が書かれていた。どういう関係かわからなかったが、とにかく電話に出て見た。

「もしもし」

『よっ。元気でやってるか』

向こうからはかなり軽いノリで話かけて来る。

「うん、元気よ」

『今日の面接どうだったかと思って』

「あっ。まだ結果は出てないわ」

(だからこうして本当の最終面接中なんだよ)

『そっか。とにかく決まるといいよな』

「うん。どっちにしても社長が決めることだから」

(社長が気に入ればの話だよなぁ)

『大丈夫。郁美に決まること、信じてるよ』

「ありがとう」

『じゃ、今度の週末に会おうな』

(やっぱり、彼氏か……)

「うん」

なんとかごまかした郁美、電話が終わる頃には有朱がトイレから戻って来ていた。

「市川君、なりきりは一時中断。トイレの中で冷静に考えてみたんだけど……」

こんな状況でトイレの中で考え事をしていたとはさすが社長だ。

「秘書は有朱に決めようかと思う。さっきの感じ方が実に僕とぴったり来るものがあったからね」

郁美の体にいた清吾はさっきの電話のこともあって、何も無く有朱に決まってしまうのは許せなかった。ちょっと機転を利かせて次の提案をしてみた。

「えっ。郁美もなかなかですよ。社長はまだ郁美の快感を味わっていないじゃないですか、ここからはまた逆になりましょうよ。あと1時間くらいしかありませんけど」

社長はすぐにその提案を飲み残りの時間は再び逆の体を支配することになったのだ。


二人はさっきのように体を乗り換えた。郁美に乗り移った社長と、有朱に乗り移った清吾はお互いに裸のままベッドの中でより沿いあった。

「じゃあ、これからも郁美が主導権を握るわね。有朱に比べると経験が豊富みたいで感じ方もずいぶん違いそう」

「そう来なくっちゃ」

まずは、さっきまでの興奮状態に戻すべく、郁美は有朱の唇めがけて攻めて来た。さっきと違って舌を入れてくるのは有朱の方だった。必死に抵抗する郁美のちょっとの隙をついて有朱が舌を絡めて来た。有朱の上に乗っていた郁美は顔をすぐに上げた。

「有朱ったらなんで舌を入れてくるの?」

さっきとは違って今度は郁美が舌を入れてくるのを拒んでいた。

「だって、私はその方が好きなんだもの」

有朱は愛嬌たっぷりに言ってくる。

「じゃあ、こうしてやる」

郁美がそう言うと有朱の下着を素早く脱がせて、割れ目の中に指を入れて来た。有朱の愛液があまり分泌されていない。それでも、有朱は喘ぎ声を上げていた。

「あん……さっきよりも……いいわ……ひゃん……もっと……んんんんんん」

もっとと言った途端に郁美が指を動かす速度が速くなっていた。

「今度は私がお姉さまに」

今度は有朱が郁美の割れ目を開きながら、大きく擦ってみせた。始めはゆっくりでだんだんと速度を上げていった。

「ん……あはん………ひゃんひゃん……あっ……んぁ」

動きが速くなればなるほど快感もこみ上げて来るようだった。二人はお互いの指を中に挿入していった。

「いつもならあるものが無いので、こうするしか無いわね」

お互いに指を入れながらも冷静に判断していた。

「郁美の体もいいでしょ。彼氏がいるから感じるところが育ってる感じ」

有朱が郁美に尋ねると首をゆっくりとふってみせた。

「フフフ。どっちもいい感じ。有朱の体は若さでよかったのかも知れないけど、この体は経験が豊富だよ」

片手は胸をもみながら、片手はお互いの股の間にやっていた。体の中から沸き上がる快感を更に高めようとしてお互いに腰を動かしてみる。

「ハァン……んんんん……ひゃん………」

お互いに喘ぎ声を交互に出していた。

「えっ……ひぃ……あん……そこは……あん……もっと……」

二人の動きは過激になっていき、ついに力尽きてしまった。


次に目が覚めると、二人は元の体に戻っていた。開発室の中で意識を最初に取り戻したのは社長の方だった。続いてすぐに清吾も意識を取り戻した。すぐに次の薬を取り出すと、二人は急いで有朱の家に向かう。このままだと二人の関係がおかしなことになりかねないからだ。有朱の家に到着すると社長は郁美の体に清吾は有朱の体に入り込んだ。

幸い二人は気を失ったままだったので、すぐに起きあがると脱ぎ散らした下着を身につけた。有朱はクローゼットからパジャマを取り出して着込み、郁美はスーツを身につけた。郁美を家に帰さなくてはならなないため、家のてがかりとなるものを見つけて帰ることになった。思ったよりもここから近いところに家があるので、ちょっと無理すれば歩いてでも帰ることができるようだった。

「じゃあ、社長。郁美のことは頼みましたよ」

有朱の声で言われるのはなんとなくおかしかった。

「わかってるって。二人が変な時に目を覚ましてなくてよかったよ」

そう言うと郁美は帰る準備を済ませていた。

「そうだ。夜道に一人で帰すのも落ち着かないので、マンションの入口で待っていてくれませんか?」

「わかった。待ってるから早く来てくれよ」

郁美が白のミュールに足を入れると玄関から出て行くのを見送った。エレベーターに乗り込み1階に到着する。玄関の前に郁美が到着すると、空気がずいぶんと冷たくなっているのに気づく、夏も終わりに近づき秋が訪れようとしていた。郁美の体になっているせいもあってか空気の感じ方まで違うのに今更ながら気がついた。こうやって待っているのも貴重な体験だ。ここに立っているだけでもかなり緊張してしまうからだ。

しばらくするとマンションの中から女性が出て行った。こんなに夜遅いというのにピンクの袖無しワンピース、ヒールの高いピンクのミュールを履いてスタスタと駐車場の方へと歩いて行った。今頃どこへ行くのだろうと郁美が思っていると、車のエンジン音が聞こえて来た。駐車場の中から出てくるとマンションの前に停まった。助手席の窓が開くとさっきの女性が郁美の方を見て来た。

「社長、こっちです」

深夜の住宅街にその女性の声が響いた。

「あっ、まさか」

郁美はそう思いながらも彼女のピンクの小型車に乗り込んだ。

「シートベルト締めましたか?」

背中にかかる長い髪をなびかせながらその女性は郁美に話しかけて来る。

「もうかけてるって」

膝のうえにバッグを載せると準備は完了。どうやら家まで車で送るため清吾は車を持っている女性に乗り換えたらしい、遅れて来たのは着替えに時間がかかったためだと郁美は考えていた。

「じゃあ、行きますよ」

そう言うと郁美の家まで送り出したのだ。


次の日、百合子は社長室に呼び出された。社長に呼びつけられることは今にはじまったことでは無いので、いつものことと思って社長のデスクの前に立っていた。

「社長お呼びでしょうか?」

昨日とは違って白のパンツスーツとピンクのカッターシャツに身をまとった百合子が立っていた。

「昨日の面接のことなんだけど、もう決めたよ」

ちょっとだけもったいぶったような感じで社長はそんなことを言い出した。昨日の予定とは全く違うことだけに百合子は驚いていた。

「そうなんですか。昨日はもっと時間がかかって言ってたじゃないですか」

そういうと社長はふうっとため息をついた。そして、一呼吸おいてから採用者の名前を言った。

「ちょっと疲れたけど、いろいろと調査が終わってね。柳沢さんを秘書に決めたよ」

いずれにせよ百合子にとっては大変な仕事だった。採用の可否を伝えるのはそれなりに辛い時がある。

「そうですか、じゃあ清水さんにはメールでお伝え」

百合子がそこまで言ったときに社長が横やりを入れて来た。

「待った。清水さんだけど、開発室長付けの秘書兼助手にしてみようかと思ったんだ。開発室に女性を入れるのもそろそろいいかと思うし、そのあたりのことが合意できるようだったら採用するって言って欲しい」

意表をつかれたようだったが、結局は二人とも採用にしたいということなのかと百合子は思った。

「わかりました。二人には伝えておきます」

そう言うと百合子は社長室から出て行こうとした。ドアのところで振り返ると

「あっ、佐々木さん。もうすぐ柳沢さんがやってくるはずだから来たらすぐに社長室にお通して下さい」

「わかりました」

社長が自分の仕事を奪ってしまったようでふてくされた声に変わっていた。

百合子が自分の席に戻るや否や郁美が会社にやって来た。社長から直接採用の話を聞いたのかとてもウキウキした雰囲気を放出していた。さわやかな花柄のフレアスカートに襟の立った水色ベースのノースリーブブラウスと言った出で立ち、金色をあしらったパンプスを見るとさわやかな感じを感じずにはいられなかった。

「柳沢さん、おはようございます」

郁美に負けないくらいの笑顔で受け答えをする。

「おはようございます」

郁美はさりげなく挨拶をして来た。

「社長がお待ちです。こちらへどうぞ」

そう言われると郁美は百合子の後をついて行く、いつもとは違った雰囲気で社長室の扉を開ける。郁美が中に入ると百合子の任務は完了。仕事に戻るように指示され、席へと戻った。


その頃、社長室では郁美が内定後初めての挨拶をはじめるところだった。社長の前にすらりと立ちながら、社長に可愛い笑顔を振りまいてくる郁美。

「社長、おはようございます。朝からごくろうさまです」

三十代とは言え貫禄のある声で社長が受け答えする。

「おはよう。これからよろしく頼んだよ」

「はい、お願いします」


社長は椅子をゆっくりと一回転させると、顔の表情をゆっくりと解きはじめた。

「な〜んてね。やっぱり郁美さんの中に入ってるのが社長だと思うと、ちょっと変な感じがします」

実は今日は朝から社長の体には清吾が入り込み、郁美の体には社長が入っていたのだ。お互いの違う人物になることの快感を楽しむためこうやって会うことにしたのだ。

「そうかな。この体がすっかり気にいっちゃってね。今日からさっそく出社してしまおうと思ったんだよ。どうだい今日の格好は男心をくすぐるだろう」

郁美が一回転してみせるとフレアスカートがふわっと浮き上がった。瞬間郁美の下着が社長に見えたのだが、そんなのは全く気にする様子も無かった。

「しばらくは彼女たちを使っての実験を続けなくちゃならないですからね」

目の保養を続けることも必要だと、心の中では思っているがそれは敢えて分かり切ったことなので言わなかった。

「まぁ、それもそうだね。とりあえず室長は出張ということにしてあるし、実験用の薬もまだまだあるからね」

実験用の薬は実験が止められている間にかなりの量をつくることができたので、まだまだ結構な量がある。これを使い気って新しい薬の開発をしたいと思う清吾の思惑も反映されていた。

「そういえば、社長室の防音ってしっかりできていますよね」

社長が思い出したように言った。

「そうだけど、まさか」

郁美の体が自然に抵抗しようとしているような言葉だった。

「そうですよ。さっそく男と女の関係を結びませんか?」

社長になっている清吾はあまりにも直接的なことを言ってくるものだ。

「えっ。どうしようかな」

わざとかわいらしく悩んでみせる郁美。

「自分の姿に抱かれるのは嫌かな?」

社長は自分の魅力を高めるように幾つかポーズを取っていた。

「ん〜。そうじゃないけど、いきなりここでというのは……」

大きなソファーが置いてあるが、この上でやる気なのだろう。

「そっか。まぁ、いいです。社長がその気になってからでいいです」

社長が弱気な言葉を吐いたが、ここでは郁美の方が上だった。

「あなたが社長じゃないの、社長がその気になってるんですから、私は社長の指示に従いますね」

郁美と社長の朝の研修はまだ始まったばかりだった。






 

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