流行前線(その2)

作:夏目彩香(2003年4月12日初公開)



服を着た美野と裸の美野はサークル棟にある1室にいました。男の熱気で溢れている部屋の中にいる美女が2人。もちろんこの2人は本物の美野では無くて、小瓶の力によって変身した2人なのです。美野の服が1セットしか無いために服を着た美野がもう一人の美野のために服を持ってくることになりました。

服を着た美野は部屋を出ると、美野の家に向かうことにしました。美野の家は行ったことが無くても小瓶の力によって家がどこにあるかは日常的なものとしてとらえることができるのです。グレーのパンプスを鳴らしながら家に向かい始めました。

一方、部屋の中では裸の美野がなにやら始めています。ビデオカメラに新しいテープを入れて録画ボタンを押しました。部屋の中にはバスタオルを巻いた裸の美野がいるだけなのに、何を考えているのでしょうか。

美野はビデオカメラの正面に立つと、バスタオルをゆっくりと剥がしていきます。美野の素肌がビデオカメラのテープに納められて行くのです。これをあとで美野が見たらなんと思うでしょうか。絶対に誰かに見られてはいけないテープを作る必要があったのです。

実はこのモニターを小瓶の中に入った美野に見えるようにしていました。美野はその映像を見ながら、モニターに背を向けて座り直しました。自分じゃない誰かが自分のいやらしいポーズをビデオカメラに納めているのですから当然でしょう。

「こんにちは。桜山美野です。外は桜が満開だけど。私の体も満開ですよ」
バスタオルが全て落ちるとトランクス姿の美野がしゃべり出しました。自分の体を触りながら、「これって何だろう?」なんて可愛い声を出しています。本物の美野はこれを聞きながら耳に手を当てています。

「美野が今いるのは、サークル棟なんだけど。このサークルに入ることに決めました。これからよろしくね!あとで、ちゃんと可愛がってくれたら、美野がご褒美をあげるわ」
この部屋のサークルに決めたって言うけれど、それは直接本人の言葉では無く、これでは強制的に加入させられるも同然です。

「それじゃ、このへんで。バイバイ〜」
偽物の美野がそう言うと停止ボタンを押して録画を停止します。そして、美野が入っている小瓶を手の平に置いて嬉しそうな目つきをしていました。自分が見たことの無い自分の姿を見ているとなんだか恐怖を感じずにはいられなかったのです。

ゆっくりと呼吸をしながら偽物の美野は、男の匂いでいっぱいの部屋に興奮していました。男の時にはただの嫌な匂いにしか感じなかったのに、美野となった今では男の匂いも悪くなかったのです。これも野生の本能なのでしょうか。そして、小瓶の中にいる美野に声をかけます。

「と言うことであなたはうちのサークルに決まったからね。わかってるよね。他のサークルに行くようなことやここに来たくない場合は、さっきのテープをばらまくから」
小瓶の中にいる美野は必死で首を横に振って嫌だという意思を伝えてくるのです。
「まぁ、そうでしょう。女の子が一人もいなくて困っていたのよね」
自分の姿をした人からそう言われるのは何か不思議な感じがしました。
「それと、この小瓶のことはもちろん内緒にしてよね。破った時はただじゃおかないから」

そう言うと裸の美野は小瓶を部室の隅にある冷蔵庫の中に入れました。さっきまで纏っていたバスタオルをまた上半身に掛けて椅子に座ります。体に椅子の冷たい感覚が伝わってくるのですが、なんとなくそれが気持ちいい様子に見えます。そして、さっき図書館で美野が寝ていたような姿でもう一人の美野の帰りを待つのでした。



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