Love Step

作:夏目彩香(2002年12月10日初公開)


 

恋愛ってなんなんでしょう。恋愛に至るまでは一体どんな流れがあるものなのか。そんなことを考えていると恋愛ってできなくなるものなんじゃないでしょうか?そう。人にとって恋愛は一体何なのかということを考えてしまうと、恋愛の重みやその意味が無くなったり薄れたりしてしまうのではないでしょうか?今日はそんな風に恋愛に悩む女子高生のお話。

ここは全国的に名の知れている優秀な生徒が多く集まっている共学高校。この高校の校門前で一人の女子高生が誰かを待っているようです。彼女の名前は黛まどか(まゆずみまどか)と言って、ここの高校には入ったばかりの新入生です。桜の花はさすがに終わってしまったけれど、これから暑くなろうとしている小春日和の一日。彼女はいつもよりも早く高校にやってきました。

入学式の時に知り合いになったばかりの友達を待っているのです。それにしても、なぜ校門で待っているのでしょうか。実は、友達同士とは言っても、校門からはまったく正反対のところに住んでいるために、校門の前が一番近い待ち合わせ場所になっているからなのです。

まどかはまだ着慣れていない制服にまだ違和感を感じているのか、そわそわしてなかなか落ち着かない様子で友達を待っています。その場でうろうろしているので誰が見てもイライラして来ているのがわかるのです。

そんないらいらは絶頂に達する前に友達がやってきました。もちろん、まどかと同じ制服を来ています。ここのブレザーはデザイナーのM氏が手がけたとかで人気があるだけにとてもセンスがいいみたい。茶色のジャケットとタイトスカートの組み合わせで、スカートを二人は膝が見えるぐらいの位置まで短く穿いていました。

まどかの友達の名前は正宗瑞奈(まさむねみずな)、同じクラスで席が前後していることから二人は親しくなっていました。もうすぐゴールデンウィークもあるので、その時は何をしようか計画している途中。高校に入って勉強を一生懸命やりたいのはもちろん、チャンスがあれば気に入った男の子と一緒になろうと思っている二人、この二人の好きな男のタイプは似ていたのです。

瑞奈「まどか!ごっめ〜ん」

まどか「瑞奈、おはよ。待ってなかったよ。私もさっき来たところだもの」

二人がこうやって合流すると校舎の方へ歩き出しました。

瑞奈「一本遅れちゃってね。なかなか次のが来ないんだもの」

額にかいた汗をハンカチで拭きながらまどかに話かけます。

まどか「そっか。あっ。そう言えば昨日の宿題やった?あれって問題おかしくない?」

まどかが話題を変えて話し出します。

瑞奈「そうだね。私もそこやった時に変だと思ったんだぁ。電話くれれば良かったのに〜。こんな時携帯あったらいいよねぇ〜。うちは次の日曜日に買ってくれるんだけど……」

携帯電話で話すしぐさをすると、まどかも同意したかのような態度を示します。

まどか「私も親に携帯持ちたいって言ったんだけど、なかなか聞いてくれなくて」

まどかは眉間にしわを寄せながら言いいます。

瑞奈「それって大変だよね。今度まどかの家に行く時に私がまどかのお母さんに言ってあげようか」

この言葉を言ったとたんにまどかの顔が笑顔に変わりました。

まどか「ほんと〜?助かるわぁ〜。何か困ったときがあったら瑞奈に連絡取れるように、なんて言ったら大丈夫かも」

瑞奈「これで二人だけで連絡取れるよね」

こんな話をしているうちに学校に到着。二人は下駄箱の並ぶ玄関へ入っていきました。
まどかが下駄箱から上履きを取り出すと、1通の封筒が一緒に落ちてきました。

瑞奈「これって、もしかして〜ラブレターじゃないの〜?」

まどか「えっ??違うんじゃない?」


瑞奈が素早くその封筒を開封すると、瑞奈の様子がおかしくなりました。

まどか「瑞奈!みずな!ねぇ、どうしちゃたのよ〜」

まどかが瑞奈の体を揺り動かしても目を覚ます気配がありません。

まどか「瑞奈!瑞奈!大丈夫?」

まどかが揺り動かしていると瑞奈の意識は戻りません。

瑞奈「……」

まどか「なんなのこの封筒〜」


こんなことをしているうちにうちのクラスの男子がやってきました。実は彼がこの封筒を入れた張本人なのですが、それもわからないまどかは救いを求めるべく彼に話しかけました。

まどか「ねぇ。武田くん」

武田は予定していた通りの台詞に顔をちょっとニヤッとさせながら口を開き始めました。

武田「黛さん。どうしたんです?」

まどか「私の下駄箱に入ってた封筒を瑞奈が開けたら、こんなことになって。どうしたらいいのか。。。」

武田「その封筒を見せてくれるかな」

そう言うと武田は封筒の封を一度閉じてから、瑞奈がやったようにまた封を開けました。するとその瞬間から、あれほど元に戻らなかった瑞奈の意識が回復してきました。

まどか「あっ、瑞奈。大丈夫?」

瑞奈「ん?わたしどうしちゃったの?」

まどか「意識を失ってみたい。瑞奈。何があったの?」

瑞奈「私。。。わからない。とりあえず大丈夫なんだけど。。。」

瑞奈は未だに意識がはっきりとしないらしいのです。

武田「正宗さんの意識が回復したみたいでよかったです。僕は先に教室行きますね」

二人にこ言うと武田はこの場から立ち去って行きました。

瑞奈「武田くんが助けてくれたの?」

瑞奈は少し朦朧としながらまどかに聞いてみます。

まどか「そうだよ。」

瑞奈「ふ〜ん。そっか。」

まどか「なんなのよ〜。もしかして、武田くんのこと……」


こう言うと瑞奈の顔が赤く染められます。

瑞奈「ん?いいなぁ〜とは思ってるよ。今はそれだけの感情」

まどか「まぁ、私も悪くは無いと思うから、頭もよくてイケ面だなんてなかなかいないもんね」

瑞奈「まどか。ここにずっといてもしょうがないよね。そろそろ教室行かないとね」


まどかはさっきの謎の封筒がまだあることに気づきました。

まどか「そういえば、この封筒どうする?」

瑞奈に言っても言うことは最初から決まっているようです。

瑞奈「武田くんに見せたら何かわかるんじゃない?」

まどか「そっか。じゃあ教室へ行こう」

こう言って、二人は教室へ行きました。教室に着くと武田が座っている席へと近づきました。武田はいつものようにここで勉強をしています。

まどか「武田くん!」

武田「あっ。黛さんに正宗さん。体は大丈夫になりました?」

瑞奈「うん。大丈夫」

瑞奈はちょっと緊張しながら言葉を続けます。

瑞奈「武田くんに頼みがあるんだけど、この封筒を武田くんに処理してもらいたいんだ〜。私たちがやると何かまた起こりそうで怖いから」

武田「そんな怖いものを僕に渡すなんて、受け取れないよ」

まどか「そこをなんとかしてくれないかなぁ?」

武田「これは、君たちの問題だと思うんだけど」

まどか「そんなこと言わないで、なんとかしてよ!」

瑞奈「武田くん。お・ね・が・い」


瑞奈の口からはとびきり可愛い言葉が出てきました。

武田「まぁ、そこまで言うならなんとかしておくよ。ちょっと調べたらこれがなんなのかもわかるだろうしね。僕ならわかるかも知れない。何かわかれば教えるよ」

武田が封筒を預かると二人は安心して、それぞれ自分の席へ座りました。
前に座っているまどかが後ろを振り返って、まどかの長い髪が瑞奈の机の上にかかりながらいつもの姿勢で瑞奈に話かけます。

まどか「さすがに武田くんよね〜。頼もしいなぁ」

瑞奈「駄目よ。まどか。私が最初に目をつけたんだからね」


そう言うとまどかは悔しそうな表情をみせます。

まどか「う〜ん。武田くんの本心はわからないでしょ〜」

瑞奈「とにかく駄目よ。今日の昼休みにでもまた話してみようかな」

まどか「昼休みは武田くん、どこか違う教室に行ってるみたいだから無理じゃない?」


武田はいつも昼休みになるとどこかへ行ってしまうのです。

瑞奈「そっか。じゃあ放課後だね」

まどか「あのさ〜。瑞奈、今日の授業始まるよ。教科書出して無くて大丈夫?」


まどかの机の上はいつの間にか授業の準備ができていましたが、瑞奈の机には何も載っていなかったのです。

瑞奈「やっば〜い。最初の授業ってあいつでしょ」

やっぱり二人とも普通の女子高生。今日の授業がいよいよ始まるようです。
午前中の授業が終わって、昼休みになりました。この時間の間に昼食を取ったり友達としゃべったりして休むと午後の授業が再開するのです。まどかと瑞奈は二人の席をくっつけてお弁当箱を広げました。

瑞奈「あれ〜?武田くん、もうどこか行ったの?いなくなったね」

まどか「だから言ったでしょ。こうやって昼休みはずっといないのよ。たぶんどこかで勉強しているんだろうけどね」

瑞奈「武田くんって、結構不思議なところあるよね〜。ずっと勉強しているイメージしかないもの」

まどか「そうだよね〜。なんかつまらないかも。やっぱり瑞奈に譲るわ」

瑞奈「ありがとう。私はそんなところがあっても平気だからね」


ここまで話すと机の上に広げておいたお弁当箱を開けることにしました。

まどか「じゃあ、お弁当箱を開けようよ」

まどか・瑞奈「一斉のせ!」


二人がお弁当箱を開けるとかわいくておいしそうなお弁当が顔を出しました。

まどか「いただきま〜す」

瑞奈「いただ……」


瑞奈はそこまで言うと朝のように意識を失ったみたいです。まどかは気づかないぐらいすぐに意識が戻ってきたようです。

瑞奈「いただきました」

瑞奈の顔から笑顔が消え失せ、いつもとは違った表情をしています。

まどか「瑞奈。いただきましたって。変なこと言わなくてもいいから」

瑞奈は突然席を立つと、まどかに後ろ姿を見せながら「私、トイレ行ってくる」と言って教室を出て行きました。

まどか「もしかして、朝の後遺症がまだあるのかな?体の調子よっぽど悪いみたい」

教室に残されたまどかはそう言うと瑞奈が戻ってくるまで待つことにしました。
瑞奈は廊下を歩きながら、右手を握りしめて喜びの笑顔が浮かんでいるようです。そして、瑞奈の向かった先は、写真部の部室部屋でした。写真部の部室のドアを開けるとそこには武田の姿がありました。武田は机に手錠をかけていてここから逃げ出せないような状態になっていました。

瑞奈「こんにちは、武田くん。瑞奈がやってきました」

瑞奈は武田の姿をおもしろそうに眺めながら口を開きました。

瑞奈「まずは瑞奈のサービスよ」

瑞奈が短いスカートを下着が見えるようにめくると、武田はもがきながら言います。大声は出せないようになっていましたが、武田は力を振り絞るようにして瑞奈に声をかけはじめます。

武田「私の姿でそんなことするのは、やめて!あなた武田くんなんでしょ」

瑞奈「え?武田くんって。変なこと言わないでよ〜。あたしは瑞奈よ。正宗瑞奈」


瑞奈は武田に自分の長い髪をあてながら、不気味な笑みを浮かべていました。

瑞奈「冗談、冗談。。。よくわかったね。さすがに優秀な生徒だけある」

瑞奈の表情はいつもよりもいやらしそうな目つきをしています。

武田「朝の封筒って一体なんだったのよ〜。こうやって私たちを交換することができるものだったの?」

そう問いかけると、瑞奈は武田の目をじっと見つめながら話を続けてきました。

瑞奈「う〜ん。そこまでわかってるなら言うまでもないじゃないか。その通りだよ。封筒には使い方があって、その手順通りにやったら入れ替わることができるんだよ。結構手間がかかるけどね」

武田は何かに取り憑かれたような不安な表情を浮かべています。

武田「じゃあ、あなたはその封筒を使ってまどかと入れ替わろうとしたってこと?」

瑞奈「本当は黛さんがよかったんだけど、君が開けちゃったからしょうがないね。自業自得ってこと」

武田「じゃあ、さっきの封筒は今どうなってるの?」


瑞奈はちょっとためらいながらも口を開き始めました。

瑞奈「そこの机の上にあるよ。やっと、第3段階まで完了したところで最終段階のために残してあるさ」

武田は動けない体を精一杯に動かして瑞奈の目の前まで来て言います。

武田「あと一つってなんなの?それによって私はどうなるの?」

瑞奈は武田の顔を上からなめるようにして言い始めました。

瑞奈「そうだね〜。瑞奈の人格が無くなり僕の人格が新しく植え付けられるよ。完全に無くなるわけでは無いけど、この封筒についての記憶や僕の企みについては完全に無くなってしまうよ。どうなるかはこの僕にもわからないからね」

武田の表情が一気に青ざめると半分パニック状態になっていました。

武田「なんでそんなことをするのよ〜。」

瑞奈「僕は小さいときから有名大学へ行くように毎日遊ぶことも許されずに塾ばかり行かされていた。まるで生きていることなんて感じなかったからね」

武田「それで?」

瑞奈「君たちを見ていて、今までの行き方が嫌になったから、君に僕の生活を替わりにやってもらって、僕はその替わりに君の人生をもらおうってね」

武田「それじゃ、酷すぎるじゃない。私を殺す気なの?」


部室の押し殺された空気が武田になった瑞奈の恐怖を更に増しているようです。

瑞奈「殺すんじゃないよ。生きてるさ。ただ君はこれから武田として生きていくんだよ。僕の替わりにね。そして、僕は瑞奈として生きていく」

武田「じゃあ、私は変わっちゃうの?そんなのおかしいよ」

瑞奈「いや。そんなことないね。現に君は僕のことを好きになったみたいだろ。実は、それもこの封筒の影響だったんだよ。僕と瑞奈が将来結婚することになるんだよ」

武田「そんなの嫌だよ〜。私の人生はどうなるの?」

瑞奈「僕だって人生をつぶされてきたからね。これからはもっと自由に生きてくよ」


瑞奈の顔にはこれから起こることをまるで楽しむかのように生き生きとしてきました。

武田「まどか〜。助けて〜」

武田の悲鳴は部室の中にむなしく響くだけでした。

瑞奈「そんなことしても無駄だよ。ここは廊下に音が聞こえないんだから。それに、男が悲鳴をあげたって駄目駄目。じゃあ、この封筒に火をつけちゃうよ」

武田「だめ〜〜!!!」


瑞奈が火をつけると封筒は赤い炎とともに燃えていきました。そうやってさけびながら元瑞奈だった武田の意識が薄くなっていきました。武田になった瑞奈の意識が完全に無くなると瑞奈は一人呟きました。

瑞奈「やった。ついにこの体は僕のものだ」

しばらくすると武田の意識が戻ってきたようです。

武田「あれっ?正宗さん。どうしてここにいるの?それに僕はどうしたのかな。勉強してたはずじゃ」

武田の表情はここで何があったのかまったく記憶が無いようです。

瑞奈「ん?だって。武田くんが呼び出したじゃない」

瑞奈は武田の顔をみつめながらかわいい仕草で言ってみせます。

武田「そんなはずないよ。僕が呼び出したなんて。それに僕って気絶してた?」

瑞奈「うん。たまたまここを通りがかったら武田くんが倒れる音がしたからね。この際だから、私の気持ち伝えます」


瑞奈は武田の目をじっと見つめながら、そう答える。

瑞奈「わたし〜武田くんのことが好きです。だから、つきあってくれませんか?」

武田「えっ?僕のことが好きだって?」


勉強しかしてこなかった武田にとっては恋なんてどうでもいいことだったが、この時はなぜか胸に惹かれるものがあった。

瑞奈「女心は変わりやすいんだから今のうちよ〜。私と武田くんは結ばれる運命なんだから」

武田は渋い表情を浮かべながら、胸ポケットからスケジュール帳を取り出し考え始めました。

武田「う〜ん。次の模試の準備もしなきゃいけないけど。一緒に勉強するならいいよ。そこから始めよう」

瑞奈はその場で軽く飛び上がり、はしゃぎはじめました。

瑞奈「やった!まどかに言ってこなきゃ。じゃね。武田く〜ん」

武田「うん。行ってきて。瑞奈ちゃん。。。ん?」


武田がその言葉を放つと、なんだか目を細めて考え事をしているようです。

瑞奈「ん?ってどうしたの?」

武田は頭の中の記憶を辿っている様子のまま言いました。

武田「瑞奈ってなんか懐かしい感じがするんだけど」

瑞奈「それって気のせいじゃない?これからよろしくね」


そう言って瑞奈は武田のほっぺたに軽く口をつけたのでした。





 

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