あの世から娘を見ていたら②~現世~(完)
 作:無名


あの世から娘の様子を見守っていたら、
娘が憑依されてしまった…!

憑依されてしまった娘を何とか助け出そうとする
父親の運命は…!?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーえ~?ホントですか~?」
憑依された絵美里は嬉しそうに微笑むー。

元々ストレートだった髪型は
”憑依した”修武の趣味かツインテールに変わっていて、
次第に絵美里は”修武の好みの絵美里”に変えられつつあったー。

「うん。ホントホントー。
 笹島さん、前はほらー、うっかりしてることも多かったけど、
 最近、何だかそういうのもなくなって
 頼りになるなぁ~って感じになったしー」

生徒会長の稲田 愛奈子(いなだ まなこ)が、
そう言葉を口にするー。

絵美里は嬉しそうに「えへへー。ありがとうございますー」と、
そう言葉を口にすると、ご機嫌そうに生徒会室の外に出たー。

そしてー、鏡を見つめるー。

「ほらー、”僕が”この身体を使ったほうがー
 完璧な笹島 絵美里になったでしょ?」

得意気にー、鏡の中の絵美里に向かって
語り掛ける絵美里に憑依した修武ー。

ツインテールにした髪を触りながら、
「僕のほうが、この身体を可愛くできるしー、
 僕のほうが、完璧に振る舞えるー ふふー」
と、笑みを浮かべる絵美里ー。

絵美里に憑依した修武は”消息不明”の状態になってしまっているが、
修武にはそんなことは興味がなかったー。

修武から見て、”より上位の身体”を手に入れることができたのだー。
自分の人生など、彼にとってはどうでもいいことなのだー。

「ーーお母さんも安心してるみたいだしー
 何も悪いことはないよー ふふー
 彼氏だって”僕がこの身体を使えば”すぐにできるー」

絵美里になった自分に酔いしれながら、
修武は嬉しそうに、そのまま教室に向かって歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーくそっ!」

あの世で、その様子を見ていた絵美里の父・大輔は
怒りの形相を浮かべていたー。

娘の身体で好き勝手する修武とかいう男が許せなかったー。

がー
自分は死んだ身ー。
すぐに、どうこうすることはできないー。

しかしー
大輔はずっと”その時”が訪れるのを待っていたー。

”あの世”であるこの場所に”迷い込んでくる”生死の境を彷徨う魂ー。

その魂が”現世”に戻される時に、一時的に現世への扉が
開いたのを、大輔は見ているー。

そのチャンスを狙いー、大輔は現世に何とか舞い戻り、
娘の絵美里を救おうとしていたー。

がー、なかなか生死を彷徨う魂があの世にやってくることは
それほど多くなく、絵美里が憑依されてから既に1か月近くが
経過してしまっていたー。

「ーーーー絵美里ー」
早く助けないとー…
そんな不安と焦りが膨らみつつあったその日ーー

ついに、”それ”は起きたー。

「ーあなたはまだ死ぬべき人間じゃありませんー。
 家族が待ってますー。戻って目を覚ましてあげてくださいー」

大輔の担当でもある案内人の美少女・ミズキがそう言葉を口にすると、
”間違って”この世界にやってきたと思われる若い男が頷くー。

そしてーーー

”現世への道”である、穴のようなものが開いたー。

「ーーーーー今だ!」
大輔は、そこに向かって走ったー。

「ーー!!」
この世界に迷い込んだ若い男を案内していたミズキが表情を歪めるー。

「ーーー俺は、娘を助けに行くんだ!」
大輔がそう叫ぶと、
戸惑う若い男を他所に、ミズキは叫んだー。

「ーー今すぐ戻りなさい!
 そんなことをしたらー”掟破り”ー
 あなたは来世もなくなって、この世界にも戻れずー、
 完全な”無”になりますよ!?」

ミズキが珍しく感情的にそう声を荒げると、
大輔は少しだけ考えてから、
笑みを浮かべたー

「それでも構わないー」
とー。

大輔はそう言い放つと
「君はまだ死ぬべき人間じゃないんだろ?」と、
本来、ゲートを通って現世に戻る予定だった若い男に声をかけてー、
その男の手を引っ張るようにして、一緒にゲートへと飛び込んだー

彼はー、そのまま危篤状態から蘇りー、
本来の予定通り、現世へと戻るー。

そしてー、
大輔はーーー

自分の身体がない大輔は幽霊のような状態で
現世へと舞い戻るー。

”ーよしーここまでは予定通りー”

正直、大輔にも”どうなるのか”は、分からなかったー。
死んだ自分が現世に戻って、こういう風に自由に行動できるのかも
分からなかったー。

だが、どうやら幽霊のような状態で自由に行動できるようだー。

大輔は早速、
帰宅しているであろう娘・絵美里の場所へと向かうー。

そしてーー
ネットで注文したのだろうかー。
メイド服姿に着替えて、ニヤニヤしている絵美里を見つけると、
緊張した様子で息を吐き出してからー、
自分の霊体を絵美里の方に向かって突進させたー

「ーーひっ!?」
ビクッと震えて、ニヤニヤしていた絵美里が膝をついて、
口を半開きにしたまま固まるー…

「ーーー!!!」
その”中”では、絵美里に憑依している生徒会副会長の修武が
表情を歪めていたー

「ーお、お前はー…だ、誰だ!?」

絵美里の”中”ー
そこに入って来た父・大輔の姿を見て、
修武は心底驚いた様子を浮かべながら声を上げるー。

「ーーー絵美里の、父親だ!」
大輔がそう叫ぶと、
絵美里の中の精神世界で対峙した二人は
お互いに相手の方を見つめるー。

「ーー笹島さんの父親ー…?
 既に、死んでるはずではー?」
修武の言葉に、大輔は「お前が娘に憑依したのを、あの世で見たー!
だからこうして戻って来たんだ!」と、そう叫ぶー。

「ー…ふ…はははー…
 そんなことがー…」

修武は笑いながら、少しの間、笑みを浮かべると
やがて言葉を続けたー

「ーまぁまぁ、でもね、お父さんー
 僕が”絵美里”をやっていた方が、周囲のみんなは幸せなんですー。

 クラスでも友達は増えましたし、
 成績も上がりましたし、
 生徒会でも頼りにされるようになりましたー

 それにー、お母さんも言うんですー。
 ”最近の絵美里、なんか頼りになるようになったねー”
 ってー

 ふふー
 これってつまりー、僕の方が”笹島 絵美里”の身体を使うのに
 ふさわしいってことじゃないですかね?」

修武の言葉に、
大輔は表情を歪めるー。

「ーーそれに、”お母さん”を一人残して死んだなら尚更、
 これからのお母さんのことを考えてあげないとー。

 僕はー、責任を持って”笹島 絵美里”をやりますー。
 当然お母さんー…絵美里のお母さんのこともちゃんと
 最後まで面倒を見るつもりですし、親孝行もしますー。

 ”元の笹島さん”がドジッ子なのは知ってるでしょう?
 そんな頼りない笹島さんより、僕が笹島さんをやったほうが
 お父さんも安心できると思いますがー、どうでしょう?」

ニヤリと笑みを浮かべる修武ー。

「ーーーー」
大輔は、その言葉を聞き終えると、
「よく分かったー」と、頷くー

そしてーー

「言いたいことは、それだけかー?」
と、鋭い表情・口調で修武を睨みつけたー。

「ーー!」
修武が少しだけ驚くー。

「ーーどんな理由があろうと、娘の人生は娘のものだー
 お前のものでも、俺のものでもないー。
 お前のほうが、確かに成績も、振る舞いも、周囲から
 褒められるのかもしれないー

 でもーーー
 この身体は絵美里のものだーお前のものじゃないー」

大輔はそう言うと、修武の胸倉を掴んで、
怒りのままに投げ飛ばしたー

「ぐふっ!」
修武が表情を歪めながら
「ま、待ってくれー」と、そう叫ぶー。

その言葉に、大輔は「ー俺たちは幽霊みたいなもんだからなー
生きてる人間のルールは通用しないぞ」と、そう言い放ちながら
修武に対して、何度も何度も攻撃を加えていくー。

「ーーーーく、くそっ!引っ込んでろよ!おっさん!」
修武は苦しそうにしながら、そう声を上げると大輔に突進してくるー。

「ーーーこの身体から、出て行け!」
大輔が修武との戦いを続けるー。

修武は既に、”憑依”した時に自分自身の身体を失っているー。
絵美里から追い出されることは、修武にとって”死”を意味するー。

「ーー僕が笹島絵美里なんだ!邪魔をするな!」
大輔に追い詰めながらも、そう叫ぶ修武ー

「ーー勝手に娘の身体を奪うな!お前は絵美里じゃない!」
大輔の言葉に、修武は怒りの形相で大輔に向かってくるーーー

がーーー
大輔に攻撃を回避されて、強烈な蹴りを食らわされた修武は、
うめき声を上げてその場に倒れ込んだー。

お互い、既に実体を持たぬ者同士の戦いー。

しかしー…
”精神(こころ)”は、確実に攻撃を受けるたびにダメージを受けていたー

「ーーーー…はぁ…はぁ…」
修武の身体から、煙のようなものが溢れ始めるー

「ーーい…いやだ…僕は消えたくないー!
 女子高生として、おしゃれをして、エロいこともしてー
 たくさん、たくさん、思い出をー」

修武が、”自分が消え始めた”ことに気付いて、
悲痛な叫びをあげると、
修武に近付いてきた大輔は言い放ったー。

「ーー娘を傷つける奴には、容赦はしないー。」

その言葉に、修武は「や…やめてくれ…!」と、弱弱しく叫ぶー。

「ーーーやめないー。娘から、出ていけ」
大輔はそう言い放つと、修武にトドメの攻撃を叩きこんだー

「ーうぎゃああああああああああ!」
悲鳴を上げながら、身体中から煙のようなものを噴き出して消えていく修武ー

「ー僕は…僕はただっ…笹島さんになりたかっただけなのにぃぃぃぃい!」
断末魔のようにそう叫ぶと、修武はそのまま、霧散するようにして消滅したーーー

「はぁ…はぁ…これで絵美里はー」
大輔がそう呟くと同時にー、

「ーーぁ…」
ビクッと震えて、絵美里の部屋が視界に入って来たー。

「ーーー…!」
たった今まで、”身体の中”で2つの霊体が戦っていた状態の絵美里は、
身体がピクピクと痙攣する中、やがてそれが落ち着くと、ゆっくりと立ち上がったー

「ーーーーー…」
戸惑いの表情を浮かべる絵美里ー。

「ーやっぱ、こうなるかー」
絵美里が呟くー。

そうー。
父・大輔は、絵美里の中にいる修武を追い出すために、
絵美里に憑依したー。

その状態で修武を消した今、父・大輔が
絵美里の身体を乗っ取っている状態になってしまったのだー。

「ーーーー…ダメかー」
絵美里から抜け出そうと色々試してみる大輔ー。

がー、絵美里の身体から抜け出すことはできないー。

しかしー

「ーーー大丈夫ー。すぐ、身体を返すからなー」
絵美里は、慌てた様子もなくそう呟くと、
静かにイスに腰かけて、”それ”を待ったー。

絵美里に憑依して、修武を倒せば
”自分が絵美里を乗っ取ってしまう”
それも、予想はしていたー。

でも、大丈夫ー
”こうなっても”きっと、大丈夫だと、大輔は最初から
計算づくだったー。

そしてーー
”それ”はやってきたー

「言ったはずですよー。
 掟破りをすれば、あなたは無になると」

あの世の案内人ーミズキが姿を現すー。

いつものように、冷たい表情で
人間味を感じさせない美少女ー。

「ーーー……分かってるよ」
絵美里の身体のまま、そう呟くと
ミズキはそのまま、絵美里に手をかざしたー。

そうー
現世に強引に戻ろうとした際に、

”「ーー今すぐ戻りなさい!
 そんなことをしたらー”掟破り”ー
 あなたは来世もなくなって、この世界にも戻れずー、
 完全な”無”になりますよ!?」”

と、言われた時に大輔は思ったー。

仮に、絵美里の身体から抜け出せなくなっても大丈夫だとー。
自分は消され、
絵美里の中から自分は強制的に抜けるー。

そうすれば、絵美里は正気を取り戻すだろう、とー。

「ーーー罰を受けるのは、”俺だけ”だよな?」
大輔が確認するー。

ミズキは「そう。あなたが罰を受けるのー
憑依されている娘さんの方は関係ない」と、
淡々と答えるー。

「ーーーー」
大輔は、その言葉を聞いて安堵しながら頷いたー

「ありがとうー」
とー。

「ーー何も。それが規則ですから。例外はありません」
ミズキのそんな言葉と共に、大輔は”消滅”したー。

そしてーー

「ーーー…あ…あれ…わたしー…?」
憑依されていた絵美里は、無事に正気を取り戻したのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー!!!」

大輔が目を覚ますー。

そこはー、
あの世の中継地点ー

元々、大輔が居た場所だー

「ーーあ…あれ…?俺は、消えたはずじゃー?」
大輔がそう言葉を口にすると、
案内人のミズキが冷たい口調で言葉を口にしたー。

「ー何を寝ぼけているんですかー?」

その言葉に、大輔は「でも、俺は罰をー…?」と、
そう言葉を吐き出すー。

罰を受けて消えるー。
そのはずだー。

「ーー何もしてない魂を私情で消すことはできません」
ミズキがそう言い放つー。

「ーで、でも、俺は現世に強引に戻ってー…」
大輔がそう言い返すと、
ミズキは続けるー。

「ー何のことですか?わたしは何も見てませんし、知りませんー。」

「ーー…え」
大輔は、さらに食い下がろうとするも、やがて、
ミズキが”見て見ぬフリをしてくれた”ことを悟ると、
「ありがとうー」と、そう言葉を口にしたー。

「ーーー」
ミズキは表情を変えないまま、
「ーー何のお礼か知りませんが、どういたしまして」と、
淡々と呟くと、そのまま立ち去ろうとするー。

「ーー俺、そろそろ行くよー。
 正気に戻った娘が、ちゃんと立ち直るのを見届けたらー。

 ”この先”にー」

ここは、”この先”への中継地点ー。
大輔はずっと、未練を残し娘の様子を見つめ続けていたー。

だが、今回の件で、
ようやく先に進む決意ができたようだー。

「ーーーー」
その言葉に、ミズキは大輔に背を向けたまま
ほんの少しだけ笑うとー
少しだけ笑ったことに気付かれないように、
いつものように淡々と「そうですかー」と、そう言葉を口にしながら
静かに立ち去って行ったー。

正気に戻ってから、戸惑いながらも日常を取り戻していく絵美里ー。
相変わらずドジだけど、すっかり立ち直った絵美里の姿を
水晶玉で見つめながら、大輔は安堵の表情を浮かべるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最終回でした~~!★

”あの世”が登場するお話を書くときには、
もしも、死んだあとにこんな世界があったら~!
なんて、想像しながら書いてます~笑

何もない…かもしれないですケド、
死んだ人からお話を聞くことはできないので、
もしかしたら、何かあるかもしれないので、
そんな夢(?)を想像しながら、
色々物語の設定を考えています~!!★

毎日のように創作(解体新書様では月1回の掲載デス!)
していると、色々、想像力が豊かになりますネ~笑

今回もお読み下さりありがとうございました~!!

次回皆様にお会いするときには、
すっかり春になってそうですネ~!!